しましましっぽ

読んだ本の簡単な粗筋と感想のブログです。

「遠巷説百物語」 京極夏彦 

2022年01月17日 | 読書
「遠巷説百物語」 京極夏彦  角川書店  

昔、あったずもな―。
盛岡藩筆頭家老の密命を受けた宇夫方祥五郎は、市井の動向を探り、噂話を調べていた。
遠野保は隣藩領との国境でもあり交易の要所でもある。
人が集えば、咄が生まれ噺が集まる。 化け物も集まる。
歯黒べったり、礒撫、波山、鬼熊、恙虫、出世螺―。
巷に流れるハナシは、やがて物語になる。
どんとはれ。
   <単行本カバー見返し側より>


「歯黒(はぐろ)べったり」
山の裾野の林の中の鳥居の所に、花嫁姿の人が蹲っている。
振り向くと眼鼻がなく、笑った口は真っ黒だと言う。
10人ほど見ていて、その中に大久保平十郎と言う侍がいた。
その大久保が“狐狸妖怪に出会った腰抜かすなど武門の恥”と誹られて、もう1度出向いて斬り伏せると息巻いていると言う。

「礒撫(いそなで)」
豊作なのに米が出回らない。そんな事態が起きていた。
そんな時、川を遡ろうとしている大きな魚がいるという。

「波山(ばさん)」
娘が姿を消し、数日後に焼かれた姿で戻されるという事件が起きる。
戻される時に、翼で戸を叩くような音が聞こえたと言う。
年を経た鶏が、卵を取られる悔しさから、火を噴いて童を焼くと言う話がある。

「鬼熊(おにくま)」
家よりも大きな熊が出たと言う。
村には雪女を見たと凍えた男が医者の家の前で保護される。

「恙虫(つつがむし)」
疫病だとして、勘定方の屋敷町が閉鎖され、死んだ人は直ぐに運び出され火葬された。
そのあまりの早さは不審しかない。
本当に流行り病なのか。

「出世螺(しゅっせほら)」
深山には法螺貝がある。
海に3千年、里に三千年、山に三千年棲んで、ぼおんと弾けて、天に昇って龍に成ると言う。






宇夫方祥五郎は盛岡藩筆頭家老にして遠野南部家三十二世、南部義晋の命を受け、御譚調掛(おんはなししらべかかり)をしている。
祥五郎と義晋は同じ年で、10歳から10年間側衆として仕える。
義晋が二十歳で当主となった時に、自分の目となり耳となって民草の動向を見極め報告でせよの命を受ける。
公式にはこんな御役はないので、祥五郎は浪士の身となっている。
乙蔵は豪農の倅だが野良仕事を嫌い、あれこれ新しい渡世を始めるがその度に失敗している。
祥五郎に咄を買ってもらう為、定期的に会っている相手だ。
その咄から、物語は展開する。

久し振りの『巷説百物語』は面白かった。
舞台を遠野として、その土地の妖怪伝説と上手に取り入れる。
遠野の土地柄やその時代のことも丁寧に書かれる。
特に良かったのは「波山」。
解決の仕方がとても考えさせられる。
結果が変わらなくても、気持ちの持ちようでその後の心持ちは変わる。
世の中、どうしようもない事があるが、真実が全てと言う事はない。

「恙虫」「出世螺」は続きの話で、かなりスケールの大きなことになるが。
理不尽なことは、どこでも変わらない。
長耳の仲蔵の仕掛けやまとめ方はスッキリしている。最後には又市も登場。
人を殺さないと言う信念も徹底されていて気持ちがいい。
このシリーズ、また続けて欲しい。
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