しましましっぽ

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「ボトムズ」 ジョー・R・ランズデール 

2021年02月15日 | 読書
「ボトムズ」 ジョー・R・ランズデール  早川書房   
 THE BOTTOMS            大槻寿美枝・訳

ハリーは80歳を過ぎたいま、老人ホームで70年近く前の出来事を鮮明に思い出す。
1933年の夏。
11歳のハリーはテキサス州の東部の田舎町マーヴェル・クリークに住んでいた。
4人家族で父ジェイコブ、母メイ・リン、妹トマシーナ(トム)。
家はサビーン川流域の低湿地帯(ボトムズ)の深い森の奥にあった。
森にはゴート・マンと言う怪物が住んでいる伝説があった。しかし、ゴート・マン町までの大きな道“牧師の道(プリチャーズ・ロード)”までは出てこないらしい。
ハリーとトムは森でリスを追っていた時に、何物かの気配を感じ、ゴート・マンを想像して逃げる。
そして見知らぬ川辺で無残の殺された黒人女性の死体を見つける。
ジェイコブや理髪店主であり、治安官でもあった。
まだ黒人差別が強い時代。
マーヴェル・クリークの医師は検死を拒んだため、ジェイコブは検死の為に死体をパール・クリークにある黒人の町の医師ドク・ティンの元に運んで行く。
ハリーも付いて行き、検死を盗み見する。
ジェイコブは新聞記者のカル・フィールズと話し、似たような殺人が過去1年半で3件起こっていると知る。
前の2件も黒人の女性で、記事にしなかったのは読者が黒人の殺人事件には興味を示さないからだと言う。
ハリーは犯人がゴート・マンだと考え、何とか正体を掴もうと考える。






振り返る形での11歳のハリーの1年の物語。
だから、その時の心情や状況をより冷静に見つめて表している。
死体の発見から始まり、周りの大人たちの言動にも注意を払い、世の中に事を知って行く。
ゴート・マンや、その他の伝説の物語も好きで好奇心旺盛。
その時代の様子も良く分かる。
白人と黒人の差別がまだまだ激しいときだが、考えると問題は、まだその頃を変わっていないのではないか。
なぜ差別をするのか。
ハリーにはそんな気持ちはない。両親にも。
途中から登場して、インパクトのある性格のハリーの祖母ジェーン。
ジェーンが言っていたが、両親からの受け継ぐ思いが大きいのかも知れない。
子どもの頃に植え付けられた思いは、変える事が難しいのだろう。
ジェーンは自分の子どもたちがカリフォルニアに行くから、この地に戻って来たと言う。
テキサス州東部は洪水、西部、北部は旱魃の被害を受ける。
ああ、『怒りの葡萄』の時代なのだと気が付く。厳しい時代。
黒人、白人と言うだけでなく、多様な人達は存在する社会。
それは昔から同じなのだ。
それが暮らす事を難しくする社会であってはならないのだが。
人間はなかなか進歩しない。

殺人事件もあって、ロバート・R・マキャモンの「少年時代」を思い出す。
どちらも面白い。 
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