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セイピースプロジェクトのブログ

【原発】放射性物質の人体への影響について~放射線リスクを考える~

2011年04月13日 | 原発・震災
 内閣府の原子力安全委員会は4月11日、福島第1原発で発生した事故について、最大で1万テラベクレル/hの放射性物質が事故直後に放出されていたとの試算を公表した。これを受け、翌日12日、経済産業省の原子力安全・保安院が、「原子力事故国際評価尺度」(INES)に基づき、今回の事故を最悪の「レベル7」に引き上げるとの報道がなされた。(http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110412-00000004-rbb-sci)1カ月後という遅すぎる評価「引き上げ」は、事故当初から指摘されていたレベル6・7という国際的な評価を追認した形だが、チェルノブイリ事故に対する旧ソ連の過小評価と同様に、事態の深刻性を把握していたのにもかかわらず、「パニック」と「原発批判」を避けるために遂行された、まさしく「国家的犯罪」であるといってよい。
 
 国家的犯罪は、「内部被曝」の隠蔽についても顕著に見られる。4月1日、厚労省は「妊娠中の女性や育児中の母親向けに放射線への心配に答えるパンフレット」と題するものを公表した。(http://bit.ly/fCSjkm)その内容は、驚くほどお粗末なもので、科学的な根拠を全く提示せず、ただ安全性を誇示するだけで「内部被曝」の言葉さえ存在しない。(「内部被曝」に関する基礎知識については、近日中にブログで公開予定。)また、4月10日には、文部科学省が、福島県内の学校に通う児童生徒の年間被曝許容量を従来の基準の20倍である20ミリ・シーベルトとして算定する方針をとると報道された。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110409-OYT1T00912.htm)この基準は、原発労働者の年間の許容被曝量に相当するもので、ましてや放射線感受性の高い子どものことを考えると、もはや常軌を逸する殺人的なものである。

 建前としてではあれ、国民の「生存権」を保障するために存在する厚労省・文科省の「放射線被曝」に関するこのような認識は、実のところ極めて「非科学的」で「犯罪的」なものである。本稿では、放射性物質の人体への影響、すなわち放射線リスクに関する基本的な考え方を整理しておきたい。(食物・水道水などの具体的な基準値等に関しては、正確なデータが公表されておらず、極めて錯綜しているため、今後、専門家の意見を集約しつつ検討していきたい。現実点では、3/20付ドイツ放射線防護協会による提言が極めて有益である。http://icbuw-hiroshima.org/wp-content/uploads/2011/04/322838a309529f3382702b3a6c5441a31.pdf

 放射線による被曝とは、簡単に言うと、放射線のもつ高エネルギーによって生命体を構成する分子結合が切断・破壊されることである。その際、多大な被曝量によって、やけど・嘔吐・脱毛・死などの「急性障害」が現われる。その症状が出る最低の被曝量を「しきい値」という。しかし、「しきい値」は急性障害という確実性の高い症状を引き起こす「確定的影響」を示すものである。ゆえに、政府や保安院などが「ただちに影響はない」と述べたのは「確定的影響」に関してであって、その限りで正しい。しかし、放射線リスクに関するこれまでの研究から明らかになっていることは、たとえその「しきい値」以下であっても放射線による被害が決して生じないということではなく、被曝量が「しきい値」より少なくても被曝量に比例して被害があるということである。(この「確率的影響」に関して、「ヒバクシャ」の健康調査によって、ガンや白血病の発症確率が統計学的に上昇していることが明らかとなっている。)

 事実、米国科学アカデミーの委員会は、2005年に「被曝のリスクは低線量にいたるまで直線的に存在し続け、しきい値はない。最小限の被曝であっても、人類に対して危険を及ぼす可能性がある」と報告している。近藤誠・慶大医学部講師が指摘するように、内部被曝や低線量被曝を過小評価するための計算方法をとる国際放射線防護委員会(ICRP)でさえも、「年間100mSv以下でも被曝線量と発がんリスクが増大する」といういわゆる「直線仮説」を支持しているという。(http://gendai.net/articles/view/syakai/129864)ゆえに、「1年間の被曝量100mSv以下なら安全」という放射線専門家たちの発言は、「専門」という言葉を冠するに値しない。彼らは異端的な「ホルミシス学派」と呼ばれ、「人間には放射線被曝による傷を治す能力がある」「低被曝は細胞を刺激し、かえって健康になる」などと極めて愚かな主張をしている。しかし、放射線による健康被害は、「しきい値」を基準とする「急性障害」のみならず、数カ月あるいは数十年先に現れる「晩発性障害」が存在することがわかっている。低線量被曝は、短期の追跡調査では表れにくくデータがほとんど存在しないものの、「晩発性障害」を引き起こしやすいのである。(秀逸なNHKのドキュメンタリー「汚された大地で ~チェルノブイリ 20年後の真実~」を参照。http://bit.ly/hFjUQL

 小出裕章・京大原子炉実験所助教は、広島・長崎の原爆被爆者データを参照しながら、むしろ低線量被曝ほど被曝の危険度が高くなる傾向があると主張する。(『隠される原子力・核の真実』参照)また、保健物理学の父であり、ICRP委員などを歴任したK・Z・モーガンは、「非常に低線量の被曝では、高線量での被曝に比べて1レムあたりのがん発生率が高くなることを示す信頼性のある証拠すらある」と述べている。(『原子力開発の光と影』参照。また、原発による「低線量被曝」に関する最新の実証的研究は、ジェイ・マーティン・グールド『低線量内部被曝の脅威』に詳しい。)こうした、放射線リスクにかんする「専門的」学説からもわかるように、厚労省の放射線被曝に関するパンフレットがICRPの基準すら満たさず、ただの似非科学である「ホルミシス学派」とほぼ同じレベルにあることがわかる。立て続けに生じている「国家的犯罪」を止めるために、放射線汚染モニターを直ちにすべて公開するのみならず、専門家チームによる放射線被曝に関する正確かつ長期持続的な調査と適切な防護・救護対策、そして放射線の内部被曝・低線量被曝による晩発性障害の周知徹底が早急に求められている。(文責:隅田聡一郎)

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