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セイピースプロジェクトのブログ

「避難権」シリーズvol.2 自主避難者の住居問題

2012年02月19日 | 原発・震災
1.はじめに
 福島第一原発事故から間もなく1年が経とうとしています。今なお原発から放出され続ける多量の放射能は、福島県浜通り・中通りを中心に深刻な放射能汚染をもたらし、区域内避難・自主避難合わせて約5万7千人もの方々が福島県外での避難生活を余儀なくされています。特に、政府が指定した避難区域外から県外に避難した自主避難者の多くは、公的な支援からも抜け落ち、非常に不安定な生活を強いられています。

 とりわけ、この間焦眉の課題として挙げられるのは、自主避難者の「住居」をめぐる問題です。多くの自主避難者は、普遍的な人権として当然に認められるべき「居住権」がきわめて不十分にしか保障されず、いつ生活の要である「住居」を失うからも分からぬ状況での生活を余儀なくされています。もっとも、最低限の「居住権」が保障されない状況は何も自主避難者に限った問題ではなく、自主避難者個人の問題としてではなく日本の社会全体の問題であると捉える必要があります。ここでは、喫緊の課題となりつつある避難者の住居問題について、「居住権」の喪失状態をもたらした日本の住宅政策と絡めつつ、論じていきたいと思います。

2.日本の住宅問題
 そもそも戦後日本の住宅政策は、日本の高度経済成長を支える経済政策の一環として位置付けられ、低所得者向けの公営住宅の建設は二の次とされてきた歴史があります。それは2007年度までの低所得者向けの公営住宅の建設が219万戸に留まっているのに対し、中高所得者向けの公庫融資住宅の建設が1951万戸に達していることからも計り知ることができます。

 1980年代に始まる新自由主義改革以降はその傾向が更に強まり、日本の住宅政策における「公」の役割は一層切り縮められることになります。住宅分野が民間に開放される一方、公営住宅などの公共賃貸住宅の建設は減少の一途を辿り、公営住宅の応募倍率は全国的に非常に高率になっています。とりわけ、東京都は石原都知事就任以降、都営住宅の新規建設をストップしており、2004年度の都営住宅の応募倍率は28.5倍というきわめて高い値となっています。本来、低所得者のセーフティネットとなるべき公営住宅が全くその機能を果たさず、むしろ低所得者に申し込みを躊躇させるような高い「壁」となって立ち現れているのです。

 また、新自由主義改革によって強力に推し進められた住宅分野の民間への開放は、住居のセーフティネットから抜け落ちた低所得者に対する「貧困ビジネス」の蔓延をもたらしました。敷金・礼金ゼロを謳う「ゼロゼロ物件」や生活保護受給者を主な対象とする民間宿泊所などは、劣悪な住環境に加え、わずか数日の家賃滞納で部屋の鍵を交換するなど、入居者の「居住権」をないがしろにする行為が平然と行われています。日本においては、「居住権」がきわめて限られた形でしか保障されていないことが、以上からも分かると思います。


3.自主避難者がおかれる状況

 では、自主避難者は現在どのような状況に置かれているのでしょうか。現在、東京都内に避難する自主避難者の居住状況は、①都営住宅などの公営住宅②自治体が民間住宅を借り上げた「民間借り上げ住宅」③純粋な民間住宅(家賃扶助などがある場合も)④その他(支援団体の施設や親戚・知人の家、実家など)に大別することができます。現在は自治体の一定の援助もあり、比較的低額で公的な住宅に居住することは一応可能ですが、あくまでも期限付きの「例外措置」であり、数も決して十分とは言えません。例えば、都営住宅などは最大2年間の居住が認められていますが、数ヵ月ごとに契約を更新する必要があり、いつ「住居」を失ってもおかしくありません。

 また、政府による事故収束宣言と軌を一にするかのように、多くの自治体で避難者の新規受け入れや住宅の提供を停止するなど、自主避難者をめぐる住居問題は深刻さの度合いを増しつつあります。一旦、「住居」を失った自主避難者が公的な住宅に再入居することは非常に困難であり、「ゼロゼロ物件」などの「貧困ビジネス」に頼るか、福島へ帰るか、という非常に重い選択を強いられることになります。生活の要である「住居」の見通しが立たないことは、新たに福島からの避難を考えている方々の決断を躊躇させる大きな要因にもなりえます。


4.まとめ

 以上、見てきた通り、自主避難者はきわめて不安定な住居の下での生活を強いられています。多くの自治体や支援団体が支援を打ち切る中で、自主避難者の「居住権」が今後一層危機にさらされるのは時間の問題です。しかし、自主避難者の住居問題に対する問題提起は、これまで全く不十分であったと言わざるを得ません。放射線のリスクを主張し、福島からの避難を呼びかける取り組みはあっても、勇気を持って避難した自主避難者が避難先で直面する問題にまで目を向け、その解決を目指す取り組みは、一部を除いてほとんど存在しなかったのが現状です。

 「はじめに」でも述べたように、住居問題は自主避難者固有の問題ではなく、この日本社会全体に通低する問題です。住宅を始めとする公的な社会保障が脆弱な日本においては、低所得者など、本来優先して生活を保障されるべき人々の生活がないがしろにされる現状があります。自主避難者の住居問題は、そのような日本社会の歪みの一つの現れとして見ることができます。自主避難者の問題を個別の問題としてではなく、社会全体の問題として捉え、その解決を国や自治体に対し求めていくことこそが、「避難権」ひいては日本社会全体での「生存権」確立のために必要とされている取り組みではないでしょうか。

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