(去年の取材時にアップしましたが、通信掲載版もアップします)
昨春、西脇市の農産物直売所「北はりま旬菜館」でお客さんが取り囲んで筍談義の中心となった「高嶋のたけのこ」。
この産地を調査してきました。
お話を伺ったのは、高嶋のたけのこ生産者、北田さんです。
明治中頃、山本宇ノ介さんが京都から竹を5本買い、荷車引いて一日かけて帰ってきました。この5本を元に増やしてきたのがきっかけです。
竹林は約3ヘクタール、十戸ばかりの方が所有されています。昔は市場にも出荷していましたが、現在は4件が直売所等に出荷しているだけで、他は自家用のようです。
筍の作業は冬の竹林づくりが最も大切です。竹の根は毎年広がっていくので、手入れをしないと土中に根が張りすぎ、土中が詰まってしまい、筍は小さく形も悪くなります。そのため、竹林では毎年、110センチくらいずつ、土を上に載せます。
毎年少しずつというのが大切であり、一度に積むと土中で竹になってしまうとのこと。毎年の作業が必要なんですね。
盛る土は、夏の間の草や落ち葉など田山の有機物と竹林の一部の土を掘って、筍を生育させる区画に土を移動します。
土をとってしまった区画は竹も根も掃除してしまうこととなりますが、また周辺から根が伸びてきますので、数年後はその区画で収穫できます。
年月をかけて土が竹林内をぐるぐる回っているのです。養分も、筍を出荷して外に出て行く分だけ、外から田の草などの有機物が供給されていて、まさに資源循環された世界です。
土づくりのほか、竹の管理も大切です。手入れされた竹林は竹と竹の間が広く、適度に本数管理されています。
「傘をさして歩くことができる」というのはよく言ったもので、筍にじゃまにならず、土に日が適度に当たり、作業性も良い間隔です。
また、生えている竹も「親竹(おやだけ)」と言い、周辺に他の竹は増やさず大切に管理され、何年間も筍を産みます。
北田さんの園では親竹に生えた年が刻まれており、これを目安に数年から十年程度の間に更新が行われています。
更新は一定の年月が経った親竹周辺で、目に留まった筍をそのまま大きくされ、4メートルくらいになった6月頃、大きく左右に振られます。振られた若い竹はまだ強度ができていないためか先が折れます。
一定の高さで先が折れるとその上には伸びず、枝を張ることとなります。こうすると雪や風に倒れなくなるということでした。伝統の知恵ですね。
30年位前は共同の加工場が設置され、ゆでたけのこを缶詰(一斗缶)や瓶詰めにし、市内の飲食業や市場で出荷されていたそうです。現在でも一部の家庭で缶詰加工が残っているようです。
(取材後にページに掲載しましたが、通信用をアップします)
たけのこ栽培は10月に米づくりを終えた後、11月から冬の間、家族で山の手入れ作業を行い、5月まで収穫を行うという、年間の作業が米づくりと相性が良いようです。北田さんも「子供の頃、鍬もって家族総出で土を動かした。」そうです。
お話を伺ったあと、園に行って収穫方法を見せていただきました。美しく手入れされた竹林の一部にひび割れた地面があり、北田さんが「ココに1本、出かけてます」と。
これだ!
これがテレビで見た筍収穫のお決まりの光景です。でも実際に見ると起伏や枯葉もあり、結構わかりづらいものです。
「(筍先端の)葉が見えれば、どの方向に生えるか、わかりますよ。方向がわかれば、地中の姿や根の位置もわかるので、傷をつけずに収穫できます。」
北田さんは地面の割れたところを丁寧に鍬で掘り始められます。
しばらく掘ってみるが、あれ?出てこない。。。?・・と思った瞬間、地中から黄色い葉先が見えてきました。てっきり地面にひび割れができているものだから筍はすぐそこのところにきているのかと思いましたが、10センチも深いところにありました。
丁寧に周辺の土を取り払われると、特別の鍬の登場です。なんと刃が1メートルもある特注。これはテレビでも見た事無い。「もう少し長いものが欲しいのですけどね。」と北田さん。こんな鍬、いったいどんな使い方をするのかと思えば、テコの原理で掘り起こさます。
根の位置をしっかり確認してこの特注鍬で「グサッ。グイグイ・・・ぽこっ。」とまさに匠の技です。
30センチくらいでしょうか。「この筍は土のまだまだ土の中で大きくなるけど、食べるにはこのくらいが美味しい。」というサイズだそうです。
掘った後の穴には鶏糞ひしゃく2杯の「お礼」を入れて綺麗に埋め戻します。説明いただきながらですが堀始めから20分くらいかかったでしょうか、この手間による対価として考えると、かなりサービス価格でないかと思います。
高嶋のたけのこは白く太く美しいたけのこです。
たけのこは日に当たると皮に色が出るとともに、地上に出た筍としては動物に食べられないようにアクを発生させるのですが、日に当たる前に掘り出す高嶋のたけのこはエグ味も無く、柔らかくいただけます。
私も旬菜館で買ったり職場の方からいただいて食べましたが、太い部分も「束がほぐれる」といった感じです。「アクが少ないのでヌカがいらない」というのも納得。筍の刺身は苦手なので、軽めの水煮でいただきましたが、香り高く歯切れ良く、当然ヌカの臭いも無いので塩も醤油も無くおいしくいただけました。「この竹林からこのようなすばらしい筍が出来る。この先人の残した財産をなんとか次世代につなぎたい。」と北田さんお二人。高嶋のたけのこが新しい動きを見せ始めました。