とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

不顕性感染患者を推定したいっ!

2020-05-24 19:56:20 | 新型コロナウイルス(疫学他)
いい加減自粛にもコロナ論文を読むのにも飽きてきたので、今後どうしたらお気楽な生活が送れるかを色々と模索しているのですが、集団免疫は当分期待できそうにないし、ワクチンは当分先だし、と考えると、①どうすれば発症者を早期に捕捉・隔離できるか?②どうすれば不顕性感染者を同定できるか?という点に尽きるような気がしてきました。
①は要はクラスター対策ですので、発症した段階からさかのぼって濃厚接触者の同定ができるかです。西浦先生たちにずっと頑張ってコロナ探偵をしてもらう訳にもいかないので、アプリ開発なりGPSを使うなりが良いのでは、と素人的には思うのですが、個人情報的な問題を指摘されるとシュンとしちゃいます。
②については全員にPCRやる訳にもいかないので、不顕性感染者が増えたと思われた段階で「stay home再開!」ということになってしまいそうです。そうすると今回の緊急事態宣言のタイミングは早かったのか、遅かったのかという疑問がわいてきました。そこで日本整形外科学会のスライドの録音をするのに飽きたタイミングで小林先生の真似をして東京都のデータを使って添付のようなグラフを作ってみました。
A)は東京都が発表している新規患者を示したものです。
B)はその日から2週間後まで(4月1日なら4月2日~4月15日まで)に発生した新規患者の合計です。このグラフのココロは、新型コロナウイルスに感染してから発症までが2週間と想定して、「まだ診断されていない患者が市中にこのくらいいるだろう」という推定不顕性感染患者数のグラフになります。C)はAとBを重ねたものです。
そうすると、新規患者のピークは4月17日にあるのですが、想定感染患者のピークは少し前にずれて4月7日になります。4月7日とはどういう日だったかというと、何と東京都に緊急事態宣言が出された日ではないですか!!つまり市中に不顕性感染者が最も多くなったであろう絶妙のタイミングで緊急事態宣言を出したということですね。d(>_< )スンバラスイ!!
でもよく考えると本当はもう少し早めに宣言が出ていればもっと早く終息したのでしょうね。例えば花見がどうのこうの言っていた3月21日の連休のあたりから開始していれば、推定不顕性患者数はピークの1/3くらいだったので4月半ばくらいには終息していたかも、と思われます。でも3月21日の新規患者自体は7人なので、このタイミングでは中々皆さん言うことを聞いてくれなかったでしょうね。せめて16→18→41人と上昇気流にあった3月25日くらいに徹底した自粛を呼びかけていれば、というのが今後に生かすべき反省点でしょうか。
教訓:後医は名医 


上海のコホートデータ

2020-05-24 10:16:29 | 新型コロナウイルス(疫学他)
上海のCOVID-19コホートの詳細な解析です。326名から臨床・疫学データを取得し、重症度に応じてasymptomatic(n=5, 発熱、呼吸症状、画像所見ともなし), mild(n=293, 発熱および肺炎の画像所見あり), severe(n=12, 呼吸苦、24-48時間以内の肺炎像増悪あり), critical(n=16, ARDSのため補助換気必要)グループに分類しています。112例についてはシーケンスデータを解析し、9種類のprotein coding regionsにおいて66のsynonymous mutation(アミノ酸置換なし)と103のnonsynonymous mutation(アミノ酸置換あり)を見出しています。ゲノム情報から、ウイルスは大きくclade I, clade IIの2グループに分類されることがわかりました。コホートにはこれら2つが混在していましたが、武漢海鮮市場との明確な接触歴がある6例はclade Iに分類されました。Clade I, IIおよび様々な変異を有するウイルス間で重症度や臨床像などに差はありませんでした。
5例では明らかな臨床像も画像所見も呈さなかったにもかかわらずウイルスの排出が認められました。臨床検査上最も顕著な特徴は、進行性のリンパ球減少でした。CD3+ T細胞に最も影響があり、CD4+, CD8+ T細胞にも同様の傾向を認めました。興味深いのはこのような影響はasymptomatic群も含めてすべてのグループで見られたことです。一方B細胞についてはcriticalグループでのみ減少がありました。重症化するに伴ってCD3 + T細胞は段階的に減少し、CD4+, CD8+ T細胞にも同様の傾向がありましたが、NK細胞にはそのような傾向は見られませんでした。
単変量解析では年齢、入院時のリンパ球数、併存症、性別が最も重症度と関係しており、多変量解析では年齢、リンパ球減少が独立したリスク因子でした。
入院時の血清中サイトカインについては、IL-6, IL-8が最も変化しておりリンパ球数と逆相関を示しました。また発症後6-10日における最高IL-6レベルはcriticalグループで有意に高値でした。16日―20日の最高IL-8レベルも同様でした。
大体のところでこれまでの情報と大きな違いはなさそうですが、ゲノムの変異が症状には関連しないことを明確に示した点、T細胞の変化が無症状群にも見られること、IL-6, IL-8レベルと重症度との関連を示した点などが重要かと思います。