とはずがたり

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COVID-19死亡例の病理所見

2020-05-07 17:59:21 | 新型コロナウイルス(疫学他)
COVID-19の、少なくとも重症型の患者においては血管病変が重要な役割を果たしていることが知られています。ドイツのHamburgから出されたこの論文は、連続したCOVID-19死亡例12例に対して死亡後CT(post-mortem CT, PMCT)、病理解剖、各臓器のSARS-CoV-2 RT-PCRを行ったものです。平均死亡時年齢は73歳(IQ range 18.5)、女性は25%でした。全員が何らかの併存症(肥満、冠動脈疾患、COPD、末梢血管障害、糖尿病、神経変性疾患)を有していました。2名は病院外で死亡しCPR不成功、5名はICUでの治療後に死亡、残りの5名は一般病棟で死亡しました。
院外で死亡した患者以外におけるラボデータではLDHの高値、D-dimer高値、CRP抗体、マイルドな血小板減少などの異常が見られました。プロカルシトニン値は正常でした。
PMCTの所見としては両肺に重度の浸潤像が見られましたが、肺気腫など元々の肺疾患を疑わせる所見はありませんでした。
病理解剖の結果、4例では下肢静脈由来と考えられる大きな肺塞栓が認められ、直接の死因と考えられました。その他の3例では両下肢に新鮮な深部静脈血栓が認められました。男性9例中6例で前立腺静脈叢に新鮮な血栓が見られました。12例全てで肺、あるいは肺血管の問題が死亡原因であると考えられました。肺重量は多くの症例で増加しており(正常の2∸3倍以上)、肺には高度のうっ血が見られました。
組織学的には8例にはARDSに合致するびまん性肺胞損傷が見られ、4例では細菌性肺炎を疑わせる顆粒球浸潤が認められました。PCRの結果、SARS–CoV-2 RNAは肺(12例すべて)、咽頭(9例)で高率に見られ、6例ではウイルス血症を認めました。ウイルス血症を示したうち5例ではウイルスRNAが他の臓器(心、肝、腎)で見られ、ウイルス血症の無い患者では他臓器にはウイルスは検出されませんでした。
この結果から、やはりCOVID-19患者重症例においては血管病変が高頻度に生じることが示されました。またウイルス増殖がコントロールできない症例においては全身臓器のウイルス感染が生じることも明らかになりました。これらは今後の治療戦略を考える上で重要な知見であると考えられます。