とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

侵害受容器によるリンパ節機能制御

2020-12-31 08:12:41 | 疼痛
患者さんに関節リウマチの発症時のことを伺うと、身内が亡くなった後など、何らかのストレスを感じたエピソードを語ってくださる方が時々います。またストレスを感じると風邪をひきやすくなる、なんて嘘か眞かの話もあります。このように神経系による免疫の制御というのはよく知られており、一部はコルチコステロイドの分泌が関与するのだと思いますが、この論文ではリンパ節に神経ペプチド産生侵害受容性ニューロンを主とした感覚神経の特異的な支配が見られることを明らかにしています。これらの神経をoptogeneticな手法で活性化するとリンパ球の遺伝子発現が誘導されることも明らかになり、感覚神経による直接的な免疫制御の可能性を示唆する大変興味深い現象です。 
Huang et al., Lymph nodes are innervated by a unique population of sensory neurons with immunomodulatory potential. Cell. 2020 Dec 10;S0092-8674(20)31564-6. 

唐辛子を食べると末梢血造血幹細胞が増えるかも?

2020-12-28 13:01:17 | 疼痛
悪性腫瘍に対する化学療法による造血障害対策として、一般的に自己末梢血幹細胞移植が行われます。これはあらかじめ自らの造血幹細胞(hematopoietic stem cell, HSC)を採取しておいて、化学療法後にこれを移植するというものです。HSCの採取においてHSCを骨髄から末梢血へと動員することが重要で、このために顆粒球増殖因子(granulocyte colony-stimulating factor, G-CSF)やplerixaforなどが用いられます。しかしこれらのみでは十分なHSCが確保できないこともあります。Albert Einstein College of MedicineのPaul Frenetteらのグループが発表したこの論文は、HSCの末梢への動員における侵害受容器(nociceptor)の重要性を明らかにした大変興味深いものです。
彼らはまず骨髄に存在する神経線維の多くがnociceptorであることを明らかにしました。骨髄におけるnociceptorを薬剤でブロックしたり、欠損させたりしてもHSCの数は変わりませんでしたが、G-CSFによる末梢への動員が著しく阻害されました。このようなnociceptorの作用は神経ペプチドであるcalcitonin-gene-related peptide(CGRP)を介していると考えられ、CGRP投与によってG-CSFやplerixaforによるHSCの末梢血への動員は促進されました。CGRPはHSC膜状のcalcitonin receptor-like(CALCRL)やreceptor activity modifying protein(RAMP)1発現を促進し、これらの分子をHSCにおいて欠損させると末梢血への動員が抑制されました。興味深いことに、マウスにnociceptorを活性化するcapsaicin(唐辛子の辛味成分)を豊富に含んだ食餌を与えるとHSCの動員は促進されました。臨床的に応用されればこれらの結果は末梢血造血幹細胞移植をより効率的に行う上で極めて重要な知見であると考えられます。CALCRL-RAMP1の刺激がどのようなメカニズムでHSCの動員を促進するかはわかっておらず今後の検討が必要です。
Gao, X., Zhang, D., Xu, C. et al. Nociceptive nerves regulate haematopoietic stem cell mobilization. Nature (2020). https://doi.org/10.1038/s41586-020-03057-y 

手術中にヒーリングメッセージを流すことで術後疼痛が改善する

2020-12-14 08:17:07 | 疼痛
全身麻酔の導入前から術中、覚醒までイヤホンで20分のメッセージ(+10分の静寂)を繰り返し流すことによって術後24時間までの鎮痛薬(オピオイド)投与量を減少させることができるというRCTの結果です。メッセージの内容は"you can relax and rest, recover and draw strength, because you are safe now, well-protected."とか"The surgery is going well. Surgeon and anesthetist are very satisfied. Everything is going according to plan, very professional, organized, and smooth."などと言ったようなもので、静かな音楽とともに手術の間ずっと流すそうです。外科医の側も聞きながらやったほうが暗示がかかって手術がうまくいったりして(⌒∇⌒)
Nowak et al., Effect of therapeutic suggestions during general anaesthesia on postoperative pain and opioid use: multicentre randomised controlled trial. BMJ 2020;371:m4284

皮膚に存在するTRPV1+ neuronの役割

2020-03-13 18:21:22 | 疼痛
皮膚に存在するTRPV1+ neuronは熱や酸刺激などに反応することが知られている。この論文で著者らはoptogeneticなアプローチを用いてTPRV1+ neuronに対する特異的な刺激(optogenetic stimuliやC. albicansによる刺激)はこのneuronからのCGRPの放出を促し、その結果局所における、Th17 responseを誘導することを明らかにした。IL-17の抗体は乾癬などの皮膚疾患に対する治療薬特異的して用いられているが、本研究の結果はTRPV1+ neuronもまたこれらの疾患の治療標的になる可能性を示している。 
Cell. 2019 Aug 8;178(4):919-932.e14. doi: 10.1016/j.cell.2019.06.022. Epub 2019 Jul 25.
Cutaneous TRPV1+ Neurons Trigger Protective Innate Type 17 Anticipatory Immunity.

シュワン細胞は侵害受容に関与する

2020-03-13 18:11:17 | 疼痛
疼痛などの侵害刺激はミエリン鞘を持たない神経終末によって直接受容されると考えられていますが、この論文で著者らは表皮ー真皮の境界に存在し"extensive processes forming a mesh-like network"を有する特殊なシュワン細胞(PlpYFP+, SOX10+ , and S100b+cells with extensive radial processes into epidermis)が無髄神経(CGRP+, P2RX3+, and TRPV1+ nociceptive fibers)と緊密に連携して侵害刺激の受容に関与することをoptogenesisの手法を用いて明らかにしました。この特異に分化したシュワン細胞を標的にすることにより新たな疼痛コントロールが可能になる可能性があります。 
Science. 2019 Aug 16;365(6454):695-699. doi: 10.1126/science.aax6452.
Specialized cutaneous Schwann cells initiate pain sensation.