とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

人工関節感染手術後の抗菌薬投与は12週間が適切

2021-05-30 08:46:19 | 整形外科・手術
人工股関節または人工膝関節の (菌が検出された)感染症例に対してデブリードマン、1期的再置換、2期的再置換などの外科治療を行った後に抗菌薬投与6週間群、12週間群にランダムに割り付けて、抗菌薬投与終了後2年までフォローした非盲検無作為化対照非劣性試験。結果としては感染の持続が6週間投与群の 35/193 (18.1%) 、12週間投与群の18/191 (9.4%) (risk difference, 8.7 percentage points; 95% confidence interval, 1.8 to 15.6)に認められ、非劣性は証明されなかった (12週間投与のほうが良好な成績であった)。様々なsubgroup解析の結果も12週投与群が良好な成績を示した。
Bernard et al., Antibiotic Therapy for 6 or 12 Weeks for Prosthetic Joint Infection
N Engl J Med. 2021 May 27;384(21):1991-2001. 

COVID-19患者における自己抗体

2021-05-26 16:55:38 | 新型コロナウイルス(疫学他)
まだまだ多くの犠牲者が出ている中で不謹慎とは思いつつも、COVID-19パンデミックの中で様々なtechnologyの開発が進んでいることには感動していまいます。COVID-19患者、特に重症患者では様々な自己抗体が出現することが知られています。例えば抗リン脂質抗体症候群で見られる抗カルジオリピン抗体が出現することが報告されており、COVID-19患者における凝固異常との関係性が指摘されています。この論文で著者らはRapid Extracellular Antigen Profiline (REAP)というバーコードをつけた2770のヒト細胞外タンパを酵母の表面に発現させ、抗原-抗体反応をシーケンスデータとして定量する方法を開発し、COVID-19患者に出現する自己抗体を網羅的に解析しました。その結果、健常者と比較してCOVID-19患者では高いREAP score(自己反応性)を示すこと、特に重症患者では高値を示すことが分かりました。COVID-19患者のREAP scoreはSLE患者より高値でしたが、自己免疫性多内分泌腺症候群 1型 (APS-1, APECED)患者よりは低値でした。
次に著者らは重症COVID-19患者で高いREAP scoreを示す自己抗体に注目しました。このような自己抗体としてはlymphocyte function/activation, leukocyte trafficking, type I, III interferon response, type II immunity, acute phase responseに関係するものが含まれました。以前重症化との関連が報告された抗IFN-I抗体は入院患者の5.2%に認められました。
In vitroの解析から、これらの自己抗体の多くは機能性であることが分かりました。例えばGM-CSFやCXCL1に対する自己抗体はこれらのシグナルを抑制することが示されました。また抗IFN-I抗体を有する患者では抗体を有さない患者よりも平均ウイルス量が高いことがわかりました。
自己抗体の機能をさらに検討するためにヒトACE2を発現するtransgenic mice (K18-hACE2)を用いた検討を行いました。このマウスに抗IFN-α/β受容体抗体を投与すると、易感染性となり、感染の重症化が見られました。抗体投与マウスでは単球の誘導や成熟、炎症性マクロファージ分化、活性型NK細胞、CD4+, CD8+, γδT細胞などが減少しており、感染初期のIFN-I活性化が感染防御に重要であることが明らかになりました。またIL-18, IL-1β, IL-21, GM-CSFに対する抗体の投与も感染を重症化させることが分かりました。
最後にtissue-associated autoantibodiesについて検討したところ、ある種の分子 (NXPH1, PCSK1, SLC2A10, DCD)に対する自己抗体がCOVID-19の重症化マーカーであるD-dimer, CRP, lactateと相関することが明らかになりました。また視床下部に高い発現が見られるorexin受容体HCRTR2に対する自己抗体が10人の患者で見られ、Glasgow Coma Scaleの異常低値との間に負の関係があることもわかりました。
今後COVID-19と自己抗体との関係について更に多くの知見が蓄積することで、予後予測なども可能になるのではないかと期待をいだかせる研究です。
Wang, E.Y., Mao, T., Klein, J. et al. Diverse Functional Autoantibodies in Patients with COVID-19. Nature (2021).

正常・病的組織からの線維芽細胞アトラスの作成

2021-05-14 20:01:26 | 免疫・リウマチ
近年多くの組織におけるsingle cell RNA sequencing (scRNA-seq)データが蓄積され、組織特異的な、あるいは疾患特異的な細胞clusterが明らかにされています。この論文で著者らは組織線維芽細胞 (fibroblasts, FB)にもいくつかのsubsetsがあり、病的な状態において特異的に活性化されるFB clustersが存在する可能性を報告しています。
著者らはまず非造血細胞のscRNA-seq datasetsを用いて、16正常組織についてのマウスFB特異的なsingle-cell atlasを作成しました。このatlasを用いて、200以上のdifferentially expressed genes (DEGs)を同定し、10個のFB clustersに分類しました (代表的な発現遺伝子から Pi16+, Col15a1+, Ccl19+, Coch+, Comp+, Cxcl12+, Fbln1+, Bmp4+, Npnt+, Hhip+ clustersと命名)。この中でほぼすべての組織に存在したのがPi16+およびCol15a1+ clustersでした。Pi16+およびCol15a1+ clustersには幹細胞関連遺伝子の発現も認められ、これらのclustersから他のclustersが枝分かれする可能性が示唆されました。著者らはPi16+, Col15a1+ clustersに高発現する遺伝子としてdermatopontin (Dpt)を同定しました (Dpt+Pi16+およびDpt+Col15a1+をuniversal FBと命名しています)。
次に著者らはFBが疾患にどのように関与しているかを検討するために、公開されている病的な13組織からの17のscRNA-seq datasetsを用いてPi16+, Col15a1+, Ccl19+, Cxcl12+, Comp+, Npnt+, Hhip+, Adamdec1+, Cxcl5+, Lrrc15+という10のclustersを同定しました。興味深いことに、Cxcl5+, Adamdec1+, Lrrc15+といったclustersは正常状態の組織では見られず、様々な組織の病的状態特異的に活性化されるFB clustersである可能性が示唆されました。Cxcl5+ clusterは筋損傷早期に現れ、PI3K, TNF, NFκBシグナルで制御されてCcl2, Ccl7を産生します。Adamdec1+ clusterは腸炎で増加し、MAPKの制御のもとにIL11やGrem1を産生します。そしてLrrc15+ clusterは関節炎、皮膚創、線維化、膵管腺癌で増加し、myofibroblastに特徴的なCthrc1, Acta2, Postn and Adam12, collagensなどの遺伝子発現が見られ、TGFβの制御を受けると考えられました。Dpt+Pi16+ FBが最も幹細胞関連遺伝子を発現しており、Dpt+Pi16+ FB→Dpt+Col15a1+ FB→疾患特異的なFBという推移を経る可能性が示唆されました。
同様の現象はヒトにおいても見られました。著者らは3例の膵癌患者の癌組織および周囲の正常組織から得られたサンプルのscRNA-seqを用いて、c3, c8という2つのclusterを同定しました。これらはcancer-assocaited FB (CAFs)およびnormal FBとしてアノテーションされ、マウスuniversal FBの遺伝子発現プロフィールとの類似性から、c8 FBはマウスuniversal FBに該当するものであり、ヒトnormal FB clusterと考えられました。またヒトc3シグネチャーは、マウスのLrrc15+ myofibroblast clusterに濃縮されていることがわかりました。興味深いことに関節リウマチ、間質性肺疾患、潰瘍性大腸炎などのFBシグネチャーも、マウスのLrrc15+ myofibroblast clusterにあたる遺伝子発現パターンを示しました。
最後に著者らは様々な病的FBのデータを統合したFBアトラスを作成しました。このアトラスは6つのclustersが同定され、疾患特異的なパターンを有する可能性が示されました。
ということで、fibroblast biologyともいえるサイエンスが急速に進歩している中で、近い将来疾患特異的なFBを標的とした治療戦略も開発されるのではないかと期待されます。
Buechler, M.B., Pradhan, R.N., Krishnamurty, A.T. et al. Cross-tissue organization of the fibroblast lineage. Nature (2021).