とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

持久運動における筋代謝制御にIL-13が関与する

2020-05-05 16:08:54 | 骨代謝・骨粗鬆症
運動には多くの利点があり、中でも種々の慢性疾患に対しては良好な治療的効果を示すことが知られています。変形性膝関節症では運動療法を凌駕する薬物はほとんどないほどです。筋収縮による代謝活動の増加は多くの組織やシグナル経路を変化させてエネルギーおよび酸素の需要に対応します。例えば持続的な運動によってエネルギーが必要になった場合には、必要なエネルギー供給は解糖系→クエン酸経路(TCAサイクル)すなわち糖→脂肪酸をエネルギー源にする経路へのスイッチの切り替えによって達成されます。しかしこのようなスイッチの切り替えがどのようなメカニズムで生じているのかは十分にわかっていません。この論文で著者らは持久運動がマウス筋肉中の主たるインターロイキン13(IL-13)供給細胞である2型自然リンパ球(ILC2)の増殖を介してIL-13の血中レベルを上昇させることを明らかにしました。IL-13欠損マウスは持久運動能が低下していますが、これはIL-13が持久運動に伴う筋におけるミトコンドリアネットワークや脂肪酸酸化に関与する遺伝子発現誘導に関与しているためであることがわかりました。IL-13は受容体IL-13Rα1を介して骨格筋に作用し、Stat3を活性化し、核内受容体およびミトコンドリア制御因子であるERRα, ERRγを介して運動による代謝プログラム制御に関与していました。また筋におけるIL-13レベルを増加させることで持久運動に類似した代謝経路が活性化され、糖代謝も改善することが明らかになりました。
これらの結果から、IL-13およびその産生を高めるILC2細胞は運動による代謝改善の重要なプレイヤーであると考えられます。今後ドーピング検査にIL-13測定も必要になるかもしれません。

新型コロナウイルスのプロフィール

2020-05-05 15:58:22 | 新型コロナウイルス(疫学他)
David Cyranoskiによる良質なreview
①SARS-CoV-2はコウモリ由来である可能性が高いが、spike proteinに関してはセンザンコウのウイルスが最も近く、長期間をかけて今のような形質を有するウイルスへと進化した可能性が高い 
②SARS-CoVとは異なりSARS-CoV-2は肺に感染する前に上気道に感染し、そこで増殖して唾液などにウイルスを排出することが不顕性感染者からの感染拡大につながっている 
③SARS-CoV-2のspike proteinの細胞側受容体ACE2への結合能はSARS-CoVの10-20倍強い 
④ウイルス結合後の細胞内への侵入に際して必要なspike proteinの開裂に細胞に豊富に存在するfurinを用い(SARS-CoVにはfurin切断サイトが欠損している)、furinが気道の細胞に豊富に存在するためにSARS-CoVよりも感染力が高く、肺に感染が広がるリスクが100-1000倍になっていると考えられる 
④遺伝子修復メカニズムを有するためゲノムが極めて安定であり変異をほとんど起こさず、したがって弱毒化する可能性が低いことなどを説明しています。
そして「風邪を起こすコロナウイルスであるOC43も1889-90年のパンデミック時には100万人を超える犠牲者を出し、その後人間はOC43と共生するようになった。このようなシナリオがSARS-CoV-2についても当てはまるかもしれない」と締めくくっています。SARS-CoV-2のユニークな特徴についての理解が深まり、このコロナウイルス禍がどのような結末を迎えるのかについて示唆を与えてくれます。

西川伸一先生のメッセージ

2020-05-05 12:14:24 | その他
下記のリンクは私が最も尊敬するサイエンティストである西川伸一先生のメッセージです。是非お読みください。
今回の感染症の最大の恐ろしさは「人と人のつながりを分断する」という点です。欧米ではロックダウンというような厳しい政策を取っている国も多く、わが国も含めて人と人との接触を極力抑えようという戦略がとられています。感染症(疫病)対策の大原則が「早期発見(診断)、早期隔離」であることから、これはやむを得ない方針であったと思います。しかし人と人のつながりを分断することによって、我々が社会でこれまでに培ってきた多くの有形・無形の財産を失ってしまうことになるのではないかと危惧しています。