とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

ハダカデバネズミの発癌抵抗性メカニズム

2022-05-08 10:24:14 | 癌・腫瘍
ハダカデバネズミは強い発癌抵抗性があることが知られていますが、そのメカニズムとしてRIPK3とMLKL遺伝子のフレームシフト変異によるネクロプトーシス誘導機能の喪失が関与する可能性が示されました。
Oka K et al., Resistance to chemical carcinogenesis induction via a dampened inflammatory response in naked mole-rats. Commun Biol. 2022 Mar 30;5(1):287.
  
 
 

肺腺癌の進展・転移の1細胞解析

2022-05-07 23:05:39 | 癌・腫瘍
Kras;Trp53(KP)によって誘導されるマウス肺腺癌モデルを用いて、1細胞解析によって腫瘍の進展から転移までの過程を詳細に解析した研究です。結論としては、1)腫瘍の進展や転移は、" fitness-associated transcriptional programs"によって発生したsubcloneによって生じる 2)腫瘍の進展は腫瘍細胞の可塑性の一時的な増加を伴う 3)腫瘍はステレオタイプの軌道をたどって進化し、追加の発癌性突然変異の導入は、新しい進化の軌道を作成することによって腫瘍の進化の速度を増加させる など興味深い知見が得られました。 
Yang et al., Lineage tracing reveals the phylodynamics, plasticity, and paths of tumor evolution. Cell. 2022 Apr 28;S0092-8674(22)00462-7. 

AIを用いた適格基準拡大の試み

2021-04-11 17:07:24 | 癌・腫瘍
治療薬などの臨床試験では、通常厳密な組み入れ基準(適格基準eligibility criteria)が決められているので、その薬が実際に使われるようになっても、臨床試験の適格基準から外れた患者は治療適応にならないことがしばしばあります。例えばeGFR<30の患者は通常骨粗鬆症の臨床試験から除外されるので、実臨床でそのような患者に対してどのような治療を行うかは悩むところです。この論文では肺小細胞癌に対する過去の臨床研究データを用いて、適格基準を緩和した時にどのような効果が得られるかをAI (Trial Pathfinder)を用いてシミュレートしたというものです。その結果適格とされる患者プールは平均で2倍以上になり、全生存期間のハザード比は平均0.05減少しました。適応を拡大するために臨床試験を行うことについてはお金も時間もかかるので、中々製薬会社も良い顔をしないのですが、このようなアプローチが広がれば、より多くの患者に恩恵がもたらされる可能性がありそうです。 
Liu, R., Rizzo, S., Whipple, S. et al. Evaluating eligibility criteria of oncology trials using real-world data and AI. Nature (2021). https://doi.org/10.1038/s41586-021-03430-5

滑膜肉腫治療法開発に対する新たなアプローチ

2021-01-28 12:56:05 | 癌・腫瘍
骨軟部悪性腫瘍は癌と比べればきわめて頻度が少ないため、癌で行われているようなゲノム情報の蓄積を困難にしています。滑膜肉腫は悪性軟部肉腫の10~20%を占める腫瘍ですが、化学療法やチェックポイント阻害薬などの免疫療法に抵抗性を示すことが多く、予後が悪いことが知られています。またcancer-testis antigens (CTAs)の発現がみられ、これは患者のT細胞によって認識されるのですが、腫瘍自体にはT細胞の浸潤がきわめて低いことが知られています。このことが免疫療法が無効である原因と考えられていますが、そのメカニズムはよくわかっていません。ほとんどの症例で18 番染色体上の SS18 (synovial sarcoma translocation, chromosome 18)遺伝子と X 染色体上の SSX (synovial sarcoma X chromosome breakpoint)遺伝子の転座 t(X; 18)(p11.2; q11.2)が見られ、キメラタンパクSS18-SSXを有するのが特色です。この論文で著者らは12例の滑膜肉腫のsingle cell RNA-sequencing (scRNA-seq)や免疫染色、in situの遺伝子発現プロファイリングなどによって、SS18-SSXが直接的、間接的に細胞周期関連遺伝子を制御し、core oncogenic program遺伝子の発現誘導を介して(多分)T細胞浸潤を抑制していることが示されました。またマクロファージやT細胞が産生するサイトカイン(TNF-α, IFN-γ)が腫瘍に対して抑制的に作用し、HDAC, CDK4/CDK6阻害薬と併用することでT細胞に対する感受性を増加させ、殺腫瘍効果を有することが明らかになりました。
scRNA-seqやin situ遺伝子発現プロファイリングなど、稀少癌に対する研究アプローチを考える上で興味深い研究です。予後が大変悪い腫瘍ですので、このような研究が新たな治療薬開発に繋がれば良いなと思います。
Jerby-Arnon, L., Neftel, C., Shore, M.E. et al. Opposing immune and genetic mechanisms shape oncogenic programs in synovial sarcoma. Nat Med (2021). https://doi.org/10.1038/s41591-020-01212-6

切除不能な叢状神経線維種に対するcabozantinibの有効性

2021-01-16 22:58:18 | 癌・腫瘍
切除不能な叢状神経線維種(plexiform neurofibroma)を有するNeurofibromatosis type 1小児患者に対してMEK阻害薬Selumetinibが有効であるという報告が昨年のNEJMに出ましたが(Gross et al., N Engl J Med. 2020 Apr 9;382(15):1430-1442)、この論文では多種チロシンキナーゼに対する阻害効果を有するcabozantinibのマウスモデルでの有効性、そして第2相臨床試験の結果を示しています。外科切除不能な叢状神経線維種を有する16歳以上の患者にたいしてcabozantinibを投与したところ、19人中8人(42%)でpartial responseを示し、腫瘍サイズの縮小は中央値で15.2%(range, +2.2% to −36.9%)で、進行例は見られなかったとのことです。
Fisher, M.J., Shih, CS., Rhodes, S.D. et al. Cabozantinib for neurofibromatosis type 1–related plexiform neurofibromas: a phase 2 trial. Nat Med 27, 165–173 (2021). https://doi.org/10.1038/s41591-020-01193-6