とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

COVID-19患者BALFのscRNA-seq

2020-05-13 10:06:55 | 新型コロナウイルス(疫学他)
重症な新型コロナウイルスにおいては、いわゆるサイトカインストームのような過剰な免疫反応が生じて臓器障害につながりますが、その真の原因は明らかになっていません。この論文ではCOVID-19患者の気管支肺胞洗浄液(bronchoalveolar lavage  fluid, BALF)中の細胞を用いてsingle cell RNA-seqを行ったというものです。使用したBALFは中等症(moderate)COVID-19の3人、重症(severe/critical)の6人、健康成人3人、そして公共に使用可能なBALFサンプルです。結果のクラスター解析からは、BALF中の細胞は31の異なるクラスターに分類することが可能でした。主な構成細胞はマクロファージ(CD68), 好中球(FCGR3B), 骨髄系樹状細胞 (mDCs) (CD1C, CLEC9A), 形質細胞様樹状細胞  (pDCs) (LILRA4), ナチュラルキラー細胞 (NK) (KLRD1), T細胞(CD3D), B細胞(MS4A1), 形質細胞(IGHG4), 上皮細胞(TPPP3, KRT18)などでした。共通してみられる細胞もありましたが、重症COVID-19患者では中等症患者に比べてマクロファージ、好中球の割合が高く、mDC, pDC, T細胞の割合が低いことがわかりました。次にマクロファージを20のサブクラスターに分類したところ、FABP4はコントロール、中等症患者に、FCN1, SPP1は重症患者で発現亢進していることがわかりました。さらにdifferentially expressed gene (DEG) analysisや gene ontology (GO) analysis and gene set enrichment analysis(GSEA)を行い、group 1から4に分類を行いました。Group 1, 2はM1-like macrophage、group 3はM2-like macrophage, gropu 4はalveolar macrophageに特異的な遺伝子を発現していました。これらの解析から、重症COVID-19患者BALFにおいては炎症性マクロファージの高度な集積が存在することが明らかになりました。T細胞、NK細胞については6つの主要なクラスターに分類され、重症患者ではCD8+ T細胞が少なく、増殖T細胞が多いことがわかりました。またT cell receptorのクローン増殖をsingle cellで解析したところ、中等症患者でZNF683+ CD8+ T細胞が高頻度に見られる一方で重症患者ではばらつきがみられました。


Romosozumabは大腿骨近位部骨折後の骨癒合・機能回復に影響しない

2020-05-13 09:20:48 | 整形外科・手術
m3にこの論文に関する記事が出ていて、はじめは「股関節骨折へのロモゾズマブ、プラセボと有意差見られず 」というようなタイトルだったので、ヽ(*゚O゚)ノ ビックリ!と思って論文を読むと全然違う内容でまたまたヽ(*゚O゚)ノ ビックリ!でした(m3のタイトルはのちに「股関節骨折の術後、ロモソズマブで改善見られず」に変更になりました)。
大腿骨近位部骨折に対して観血的整復内固定術を受けた(ということはおそらく大腿骨転子部骨折がほとんど)患者332人を4群に分け、プラセボ(89人)、romosozumab 70 mg/month(60人), 140 mg/month(93人), 210 mg/month(90人)の投与を行って、その後の骨癒合、TUG(timed “Up & Go”)スコアなどの経過を見たという研究です。術後6週から20週のTUGはプラセボ、romosozumab群に差はなく、股関節のX線撮影連合スコアであるRUSH scoreにも差はありませんでした。有害事象についても心血管イベントを含めて差はありませんでした。
Romosozumabについては骨形成促進作用を有することから骨折治癒促進効果があるのでは、と期待されていましたが、なかなかこういう形で差を出すのは難しそうです。企業側もこのラインでの適応拡大はあきらめたようです。
ということで一番驚いたのはm3のタイトルだったというオチです。