もう30年も前のことですが、現在松本歯科大学の教授としてご活躍されている宇田川信之先生は、昭和大学歯学部生化学教室の大学院生時代に肺胞マクロファージが間質細胞株のST2細胞と共存培養することによって破骨細胞へと分化することを報告なさいました(Proc Natl Acad Sci U S A. 1990 Sep;87(18):7260-4)。この論文は破骨細胞がマクロファージ由来だということを決定づけた記念碑的な論文として、破骨細胞業界(?)では超有名なものです。
さてこのような古い話を持ち出したのは、今回コロンビア大学のKamal M. Khannaらが、肺に存在する2種類の組織マクロファージの異なった役割を報告したからです。肺に存在するマクロファージは肺胞マクロファージ(alveolar macrophage, AM)と間質内マクロファージ(interstitial macrophage, IM)に大別されることが知られています。IMはさらにいくつかのsubpopulationに分かれますが、彼らはそのうちCD169(+)CD11c(-)のマクロファージが気管内気道およびその周囲の神経に接して存在することを明らかにしました(nerve- and airway-associated macrophage, NAM)。NAMはケモカイン受容体Cx3cr1を発現し、形態的にもAMとは異なって細長く、突起を有する細胞です。発現遺伝子をAMと比較したところ、NAMはAMとは異なりRetnla (resistin-like molecule alpha/FIZZ1)、 C1q、Il10、他のM2 macrophage関連遺伝子、そしてBmp2などを発現していました。またそのオリジンがyolk sac macrophageであり、転写因子PU.1を発現すること、そしてその増殖がGM-CSFではなくCSF-1(M-CSF)依存的であることも明らかになりました。興味深いことに、インフルエンザウイルスを肺に感染させた際に、AMを欠損したマウスではウイルス増殖が促進しますが、NAMを欠損してもウイルス増殖には変化がなく、一方でNAMを欠損したマウスでは局所の炎症が亢進していました。これはNAMが産生するIL-10が抗炎症作用を有するためであると考えられました。またTLR3を刺激するpolyinosinic:polycytidylic acid [poly(I:C)] の投与によってNAMの著明な増殖が見られることも示されました。本研究から、肺マクロファージにはウイルスなどの病原体増殖抑制に作用するもの(AM)と、局所炎症の制御に関与するもの(NAM)が存在する可能性が示されました。この論文ではNAM増殖や活性化における神経の役割については触れられていないので、今後の研究が期待されます。
さて初めの話に戻りますが、破骨細胞に分化するマクロファージはCSF-1依存性であったことを考えると、AMではなく、少量採取されたNAMだったのかもしれません。破骨細胞オタク以外にとってはどうでも良い話かもしれませんが(笑)