とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

緊急事態宣言解除に向けて思うこと

2020-05-23 18:41:26 | 新型コロナウイルス(疫学他)
新型コロナウイルスも全国の新規感染者が20人を割りそうで、東京は数日前から一桁が続いています。この感染症のやっかいな特徴は無症状・未発症の感染者(不顕性感染者)がウイルスを排出して感染を広げてしまう点ですが、自宅待機期間が長かったことを考えると、おそらく感染を広げる可能性のある不顕性感染者数もかなり減っていると考えられます(だからこそ発症者が減っているのですから)。根拠はありませんが、多めに見積もって新規感染者の100倍程度不顕性感染者がいるとしても、全国で2000人前後、東京でせいぜい500人くらい(そんなにいないと思いますが)。つまり東京(人口1300万人)だと2万人に1人以下程度でしょう。未だにPCR検査を増やせと主張する方もいるようですが、症状のある方にはほぼ検査できている現状を考えると、検査増の目的は「市中の不顕性感染者の洗い出し」と考えられます。しかし常識的にPCRの感度・特異度を考えれば、いくら検査をしても2万人に1人の不顕性感染者の洗い出しは不可能ということがわかるでしょう。検査会社に利益相反があるのなら別ですが、PCRを広く無症状者に行う意味は全くありません。ゼロです。ヌルです。
それではこの状況を踏まえて今後どうすべきかですが、とにかく発症者のearly detectionに全力投球すべきでしょう。つまりわが国が元々とってきたクラスター対策に帰ることです。具体的には①発症者を可及的早期に診断して隔離する(入院させる)。もちろん有症状者のPCR検査は必須です。②感染者の濃厚接触者をpick upして自主的(場合によっては強制的)隔離を要請する、ということです。感染から発症まで2週間くらいかかることを考えれば、接触者を検出するアプリの開発が重要になりそうです。
手洗いや咳エチケットなどは是非レガシーとして残すべきかと思いますが、厳しい対人接触制限はしなくて良いだろう(すべきではない)、というのが私の意見です。2万人に1人の不顕性感染者との接触を防ぐために残りの19,999人との接触も制限するというのはあまりに非効率です。
難しい問題は海外との往来です。世界的に見ると、まだまだ感染は収まっていませんので、海外から今までの勢いでヒトが入ってくるとオーバーシュートの可能性がまだ高いでしょう。海外との行き来をどのように緩めていくかについては私もいい考えがありません。世界的に流行が収まるのを待つしかないのでしょうか。。(;´д`)
以上、間近に迫った緊急事態宣言解除に向けての感想です。 

パンデミック時の手術のトリアージ

2020-05-23 13:43:06 | 新型コロナウイルス(治療)
COVID-19が猛威をふるったNew Yorkにおいて医療機関は甚大な影響を受けました。PPEや人工呼吸器、ICU病床などが圧倒的に不足する中で、Columbia University Irving Medical Centerでは手術を90%削減し、手術室をICUとして運用することによってICU病床を2倍に増加させました。手術についてはトリアージが行われましたが、その際の基準として、
①患者に危害を与えずに手術をどれだけ遅らせることができるかで:24時間以内(緊急)、1~2日以内(緊急)、3~7日以内(準緊急)に分類
②人員(外科医、麻酔科医、看護師)、技術(人工呼吸器、透析装置)、消耗品(PPE、血液製剤)、術後リソース(ICUベッド)について、リソース強度分類(resource-intensity classification, RIC)を用いて予想される消費量を低、中、または高に分類し、全体的なリソースの消費量をクラスI(最も単純なもの)からクラスIV-B(最もリソースを必要とするもの)に分類しました。例えば同じ癌の手術でも多くのリソースが必要なものは後回しにされたそうです。
パンデミックがピークだった時期には、病院の審査委員会が設置され、緊急と分類された患者は直接手術室に運ばれましたが、準緊急症例(例えば、内固定を必要とする骨折や、神経学的症状の悪化を伴うヘルニア)は委員会によって評価され、臨床的緊急性とRICを考慮して(つまり緊急度ーRICマトリックスのどこに位置するかを考慮して)手術を受ける患者が承認されました。
状況は改善しているようですが、未だに手術室は完全に元通りにはなっておらず、長大になった手術待ち患者リストにどのように対応していくかは、今後の大きな課題になっています。今回トリアージに用いた「緊急度ーRICマトリックス」は、今後平時における手術優先度の決定にも役立つかもしれないとしています。 
Argenziano et al., Surgery Scheduling in a Crisis, NEJM DOI: 10.1056/NEJMc2017424