とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

SARS-CoV-2に対する不活化ワクチン

2020-05-17 23:32:31 | 新型コロナウイルス(治療)
個人的にはワクチンの最有力は不活化ワクチンではないかと思っているのですが、この論文は患者から単離したSARS-CoV-2の中でCN2という株を用いて不活化ワクチン(PiCoVacc) を作成したというものです。マウスおよびラットにアジュバントとともに投与したところ、投与1週間目から効率よくIgG抗体の誘導が見られました。都合よいことに、Sタンパクのreceptor binding domainが最も強いimmunogenになっているようで、これはCN2を単離した患者の血清と一致しており、誘導できたIgGは患者の10倍でした。興味深いことに感染予防効果がないNタンパクに対する抗体は1/30程度しか誘導されませんでした。別の株であるCN1に対する中和抗体活性を経時的に見たところ、抗体は1週目から見られ、2週目にブースターをかけた後急上昇し、7週目まで高いタイターが認められました。
次にアカゲザル(Macaca mulatta)に対するワクチン投与の効果を検討しました。0日目、7日目および14日目にPiCoVaccの中用量(1回あたり3 μg)または高用量(1回あたり6 μg)を筋肉内経路で3回免疫したところ、S特異的IgGおよび中和抗体が両ワクチン接種群において、2週目に誘導され、3週目〜12,800および〜50まで上昇し、その力価は、回収されたCOVID-19患者からの血清の力価と類似していました。このサルにワクチン投与から22日目にSARS-CoV-2 CN1株を気管内経路するというチャレンジテストを行ったところ、ウイルス感染に伴う肺炎などの病態は改善し、臓器のウイルス量も中用量で95%以上減少、高用量ではほぼ100%減少されていました。ワクチン投与群にADEは生じませんでした。
ワクチンの有効性には懐疑的だったのですが、このように効率よくRBDに対する抗体が誘導されるのであれば大変期待が持てそうです。なおPiCoVaccを用いたフェーズI、II、IIIの臨床試験、および他のSARS-CoV-2ワクチン候補の臨床試験は、今年後半に開始される予定だそうです。


フランスにおけるCOVID-19のまとめ

2020-05-17 19:49:03 | 新型コロナウイルス(疫学他)
COVID-19の津波はヨーロッパではひとまずの山場を越えて今後の第2波、第3波に向けてデータの検証が行われています。フランスにおけるCOVID-19のこれまでのまとめのような論文が発表されました。5月7日時点で95,210人が入院し、16,386人が亡くなりました。入院患者の平均年齢は68歳で、死亡した方の平均は79歳でした。70歳超の入院が50%で死亡の81.6%がこの年代から発生しています。また入院患者の56.2%、死亡の60.3%が男性です。
軽症例を含めた感染者の実数はわかりませんが、全例が検査されたDiamond Princess号のデータをフランスの病院における積極的サーベイランスと組み合わせてモデルを作成して感染者数などを算出した結果、
①感染者の3.6% (95% CI; 2.1-5.6)が入院になりました。最も低いのは20歳未満の女性で0.2% (95% CI; 0.1-0.2)、最も高いのは80歳超の男性で45.9% (95% CI; 27.2-70.9)でした。
②入院患者の19.0% (95% CI; 18.7-19.4)がICUに入室し、全体で入院患者の18.1% (95% CI; 17.8-18.4)が死亡しました。感染者全体の中での死亡率は0.7% (95% CI; 0.4-1.0)と算出されました。20歳未満では0.001%であるのに対して80歳超では10.1% (95% CI; 6.0-15.6)であり、これは中国からの報告(0.5%, 0.7%)とほぼ同じでした。
③すべての年代で男性は入院リスク (RR 1.25, 95% CI 1.22-1.29)、ICUに入るリスク(RR 1.61, 95% CI; 1.56-1.67)、死亡リスク(RR 1.47, 95% CI; 1.42-1.53)が高いことがわかりました。
④死亡例には入院してすぐに亡くなる方と(平均0.67日、全体の15%)、しばらく入院後に亡くなる方(平均13.2日、全体の85%)の2つのパターンがあり、前者の割合はすべての年代でほぼ一定でした。この理由としては医療機関へのアクセスや併存症などが関係していると考えられました。
⑤ロックダウン前のR0は2.90 (95% CI; 2.80-2.99)だったのが、ロックダウン後には0.67 (95% CI; 0.65-0.68)まで低下しました。
⑥彼らのモデルによると5月11日の時点でフランス人口全体の4.4% (2.8-7.2)が感染したと考えられました。これは献血を用いた抗体検査の3.0%とほぼ一致する結果です。R0を3.0と考えると集団免疫を獲得するには65%のヒトが感染する必要があるので、それには遠く及ばない数字で、今後の第2波、第3波に対する警戒が必要としています。
この数字にはケアハウスのようなところで亡くなった方は含まれていないので、死亡などが過小評価になっている可能性があります。
この研究からロックダウンによる感染予防効果が高かったことが明らかになりました。また彼らのモデルは今後のサーベイランスデータを解釈するうえ、また日本の出口戦略を考える上でも有用と考えられます。

SARS-CoV-2抗体製剤の開発

2020-05-17 09:11:05 | 新型コロナウイルス(治療)
新型コロナウイルスの収束のためには最終的には集団免疫の獲得が必要で、それにはワクチン開発が重要であるとされています。しかしワクチン開発には時間がかかり、ワクチン投与によって必要な免疫能が獲得できるか不確定な面もあります。そのような中でウイルスに対する抗体製剤が治療薬としては有望と考えられております。Crudeな形では、例えば回復期感染患者から得られた血清に治療効果があるという報告も多数出されています(例えばShen et al., JAMA. 2020 Mar 27. doi: 10.1001/jama.2020.4783)。この論文は新型コロナウイルスの受容体ACE2への結合を抑制する抗体開発についての研究です。
SARS-CoV-2 SタンパクのACE2 binding domain(RBD)をbaitにしてCOVID-19患者末梢血から抗体産生細胞(single memory B cell)を単離し、これらのsingle B cellから単離したheavy chain, light chainを用いてRBDに対するIgG1抗体を産生する細胞を作成。結果としてRBDとACE2の結合を強力に抑制する2種の抗体(B38, H4)を獲得。これらはSARS-CoVのRBDには結合せず、SARS-CoV-2特異的な抗原を認識していることが明らかになった。hACE2を発現するトランスジェニックマウスへのSARS-CoV-2感染モデルに投与したところ、ウイルス量の抑制とともに気管支肺炎、間質性肺炎を抑制した。また構造解析によってRBDにおけるB38抗体の結合部位も示した(RBDの38アミノ酸残基が抗体との結合部位で、そのうちheavy chainと21残基、light chaniと15残基が結合)。ということで抗SARS-CoV-2抗体製剤療法が現実のものになりそうです。

整形外科手術再開をめぐる話題

2020-05-17 09:08:32 | 整形外科・手術
COVID-19の蔓延は病院の様々な機能に影響を与えていますが、手術に与えた影響も並々ならないものがあります。整形外科の予定手術は「不要」ではないにしても「不急」のものがほとんどであるため、当院でも整形外科手術は半分近くに絞るという状況が続いていました。もちろんいつまでもそのような状態を続けるわけにはいかないので、徐々にペースを戻していこうとしていますが、どのような手術をいつからどの程度、という判断には難しいものがあります。
 欧米ではロックダウン中は完全に予定手術を中止していた病院も少なくなく、手術再開の時期・方法は大きな課題になっています。University College London HospitalsのSam Oussedikらによるこの論文は、予定手術再開にあたっての条件や注意点を論じていますが、論文中で例として取り上げられている「武漢の病院にで術後早期にCOVID-19を発症した患者では死亡率が20%(整形外科手術以外も含まれます)」とか、「イタリアのGaleazzi Instituteで昨年は0.05%だった整形外科予定手術後の死亡率が今年は0.67%になった」というような事実には驚いてしまいます。手術再開にあたっては、患者のスクリーニング法、手術チームのリスク回避、麻酔の問題、患者入れ替え時間の倍増、病床の問題(多くの病床がCOVID-19専用になっている)、輸血の供給不足、画像検査にかかる時間増、そして何よりどのようにして患者に安心してもらうか、などが課題として挙げられており、問題は山積みで、大変厳しい状況が伝わってきます。今後の第2波、第3波を考えると日本でも十分な対策を練っておくべき事項だろうと思います。 
Bone Joint J. 2020 May 15:1-4. doi: 10.1302/0301-620X.102B7.BJJ-2020-0808.