とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

大腿骨頚部骨折に対するセメント型 vs ノンセメント型人工骨頭置換術を比較したRCT

2022-05-08 12:40:47 | 整形外科・手術
大腿骨頚部骨折(関節包内骨折)に対するセメントタイプとノンセメントタイプの人工骨頭置換術を比較したRCT。セメントタイプはノンセメントタイプよりもEQ-5D utility score(0.371 vs 0.315, adjusted difference, 0.055; 95% confidence interval [CI], 0.009 to 0.101; P=0.02)、12カ月までの死亡率(23.9% vs 27.8%, 0.80; 95% CI, 0.62 to 1.05)、人工関節周囲骨折(0.5% vs 2.1%, odds ratio [uncemented vs. cemented], 4.37; 95% CI, 1.19 to 24.00)いずれも優れていた。その他の有害事象に差はなかった。 
Fernandez MA, et al. Cemented or Uncemented Hemiarthroplasty for Intracapsular Hip Fracture. N Engl J Med . 2022 Feb 10;386(6):521-530.


整形外科手術における抗菌薬投与時間はどのくらいが適当か?

2022-05-01 22:47:33 | 整形外科・手術
クリーンな整形外科手術において、抗菌薬投与を術後24時間以内に中止、24~48時間で中止が術後医療関連感染(health care-associated infection)のリスクに影響をするかをクラスターランダム化比較試験で検討した論文です。結果として両群に差はありませんでした。
Nagata K et al., JAMA Netw Open. 2022 Apr 1;5(4):e226095.
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/10.1001/jamanetworkopen.2022.6095 

修復不能な広範囲腱板損傷に対するInSpaceスペーサー挿入術の有効性・安全性

2022-05-01 22:39:10 | 整形外科・手術
【背景】腱板断裂に対して保存的治療が無効であった場合に手術が行われるが、断裂が広範囲で変性が高度な場合には修復不能なことも少なくない。このような例は特に高齢者に多く、疼痛が強くADL障害がある場合でも治療の選択肢が少ないことが問題である。近年このような症例に対する治療法としてInSpace subacromial balloon spacer(Stryker, USA)が開発された。これは生理食塩水で満たされた生体分解性のバルーンスペーサーで、肩峰下に挿入することで上腕骨頭と肩峰との摩擦を減少させることで症状を緩和し、リハビリテーションを促進するというデバイスであり、欧州やアメリカで承認を受けている。今回著者らは英国の24病院が参加したランダム化比較試験によってInSpaceスペーサーとデブリードマンの成績を比較した。
【方法】選択基準は保存療法に抵抗性の有症状の腱板断裂患者で、主治医が手術が必要だが断裂の修復が技術的に不可能と考えられた患者である。変形性肩関節症や神経学的な問題のある患者は除外された。患者はブラインドでコントロール群(肩甲骨下腔の関節鏡視下デブリードマンと断裂していない場合は上腕二頭筋腱切離術)とInSpace群(上記に加えてInSpaceバルーンを肩峰下に挿入)に振り分けられ、皮切の大きさは同じとし、評価は手術やランダム化に関与していなかったスタッフによってのみ実行された。12か月で主要な結果を収集した後、参加者は、自分がどのグループに属していると思うか、または割り当てに気付いていないかどうかを尋ねられた。
 術後のOxford Shoulder Scoreを主要評価項目、Constant Score、前方挙上および外転可動域、WORC index、EQ-5D-5L、患者の自覚的な症状の変化(Participant Global Impression of Change)、鎮痛剤使用、有害事象などを副次評価項目とし、あらかじめ2回の中間解析が計画された。385人の患者が研究参加の適格性が検討され、317人が適格とされた。249人が研究への組み入れを同意したが、手術を希望した患者や術中判断で不適格とされた患者を除いて、最終的には117人の患者がランダム化され、61人がコントロール群、56人がInSpace群に振り分けられた。両群とも、自宅での運動プログラムと少なくとも3回の対面理学療法セッションを含む同じリハビリテーションが提供された。
【結果】平均の断裂サイズはコントロール群で4.3 cm [SD 1.3]、InSpace群で4.2 cm [1.3]であった。主要評価項目である手術12カ月後のOxford Shoulder Scoreは117人中114人(97%)で得られ、両群でベースラインより改善していた。コントロール群で34.3 [SD 11.1]、InSpace群で30.3 [10.9]であり、両群の差は平均-4.2 [95% CI -8.2 to -0.26]であり、有意にコントロール群が良好であった。Constant Score、前方挙上および外転可動域、WORC indexは主要評価項目と一致していた。鎮痛剤使用は両群で差がなかった。2つのグループ間で安全性に明確な違いはなかった(コントロール群の15% InSpace群の20%)。予定されていたサブグループ解析では、両群の平均値のOxford Shoulder Scoreの平均値の差は男性で0.7 [95CI -4.7から6.1]、女性で-10.9[-16.7から-5.1]と女性のInSpace群で不良であった。年齢、断裂サイズとは関連がなかった。
【考察および感想】この研究の結果、関節鏡視下デブリードマンのみの群(コントロール群)においてInSpaceデバイスを使用した関節鏡視下デブリードマン群(InSpace)よりも優れた結果を示すことが中間解析で明らかになった。新しいインプラントやデバイスの開発は医療の推進に重要であるが、早期の導入には慎重でなければならない。しかしながら特に外科的治療の場合にはしっかりとした検証なしに新たな治療法が広く使用されることが少なくない。これまでにInSpaceの良好な成績が報告されているが、これらの結果は企業からの資金が提供された臨床研究であり、その結果の解釈には慎重である必要がある。InSpaceの場合数カ月でバルーンは収縮するため、特に長期間の有効性については不明瞭であった。この研究結果は、新たな技術の導入に際しては十分な検討が必要であることを改めて示したものである。
Subacromial balloon spacer for irreparable rotator cuff tears of the shoulder (START:REACTS): a group-sequential, double-blind, multicentre randomised controlled trial
Andrew Metcalfe et al., Lancet. 2022 Apr 21;S0140-6736(22)00652-3.

人工関節感染手術後の抗菌薬投与は12週間が適切

2021-05-30 08:46:19 | 整形外科・手術
人工股関節または人工膝関節の (菌が検出された)感染症例に対してデブリードマン、1期的再置換、2期的再置換などの外科治療を行った後に抗菌薬投与6週間群、12週間群にランダムに割り付けて、抗菌薬投与終了後2年までフォローした非盲検無作為化対照非劣性試験。結果としては感染の持続が6週間投与群の 35/193 (18.1%) 、12週間投与群の18/191 (9.4%) (risk difference, 8.7 percentage points; 95% confidence interval, 1.8 to 15.6)に認められ、非劣性は証明されなかった (12週間投与のほうが良好な成績であった)。様々なsubgroup解析の結果も12週投与群が良好な成績を示した。
Bernard et al., Antibiotic Therapy for 6 or 12 Weeks for Prosthetic Joint Infection
N Engl J Med. 2021 May 27;384(21):1991-2001. 

一流打者はスピードボールをどうやって打つか?

2021-04-11 17:09:17 | 整形外科・手術
ピッチャープレートからホームベースまでの距離は18.44 mなので、150 km/h以上のボールを投げる投手の場合、単純に計算してもボールが届くまでの距離は0.4秒程度です。心理学者によると、人間は刺激が加わってから反応するまでに、何をするかわかっている場合でも少なくとも0.25秒かかり、どのような動きをするかを決定しなければならない場合には反応時間は2倍になるそうなので、理論的には投手の手を離れてから反応するのでは、ボールを打つのは不可能です。という訳で、一流打者は投手の体幹や腕などの動きである程度ボールが来る場所を予測してバッティング動作を始めているそうです。確かにバドミントンの国際大会などを観ていても、レシーバーはスマッシュが打たれる前に移動を始めているように見えます。最近ではバーチャルリアリティ(VR)を使って3Dアバターの投手が投げる球の種類やコースを瞬時に回答する、というようなトレーニングも行われているようです。もし超一流打者=予測能力が超すごい打者ということだと、能力のかなりの部分は脳の働きに依存するのでしょうかね?このような能力はある程度トレーニングで改善するようですが、年齢とともに脳機能が低下すると、いくら体が強健でも思うようなプレイはできなくなるのかもしれません。将来的には引退すべき時期を見極めるのにVRが用いられるようになるのかもしれませんが、ちょっと夢がない感じもします。
Liam Drew. How athletes hit a fastball. Nature 592, S4-S6 (2021) doi: https://doi.org/10.1038/d41586-021-00816-3
https://www.nature.com/articles/d41586-021-00816-3