とはずがたり

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トシリズマブが重症COVID-19に有効

2020-05-03 23:43:57 | 新型コロナウイルス(治療)
COVID-19の重症型では免疫反応の暴走が起こるとともに様々な炎症性サイトカインの産生が高まり、いわゆるサイトカインストームという状態を引き起こしますが、この状態において炎症性サイトカインであるIL-6シグナルが重要な役割を果たすと考えられています。今回抗可溶型IL-6受容体抗体tocilizumab(TCZ)の重症COVID-19患者に対する効果が報告されました。
研究対象は56.8±16.5歳(25―88歳)の21名の患者です。17名がsevere、4名がcriticalな状態でした(severeの基準は①respiratory rate ≥30 breaths per 1 min,②SpO2 ≤ 93% while breathing room air, ③PaO2/FiO2 ≤ 300 mm Hgのいずれかを満たすもの、criticalは①respiratory failure, which requiring mechanical ventilation; ②shock; ③combined with other organ failure, need to be admitted to the ICUのいずれかを満たすものです)。全例で熱発が見られ、リンパ球は85%(17例)で減少しており、CRPは全例で上昇していました(平均75.06 ± 66.80 mg/L)。また全例で血中IL-6(153.44 ± 296.63 pg/mL)あるいはリンパ球でのIL-6発現上昇が見られました。すべての症例に対してスタンダード治療(lopinavir/ritonavirやINF-αの投与、ステロイド投与、酸素投与など)が行われ、TCZの投与は、初回4–8 mg/kg body weight(推奨は400 mg 点滴静注射最大で800 mgまで)で、反応が乏しかった患者には、12時間後に再度同量を投与。投与回数は最大で2回で、1回の用量は800mg以下としました。
TCZ投与によって熱発は投与初日に速やかに正常化し、CRP値も16/19名で5日以内に正常化しました。血中IL-6値に有意な変化はありませんでした。19/21例でCTにおける肺の所見は消失し、2名でも改善が見られました。最終的に全例が退院となり、ウイルスも検出されなくなりました。
このデータからは、重症患者で血中IL-6高値を示す患者に対してはTCZが極めて有効であると考えられます。抗リウマチ薬として使用されているTCZがCOVID-19に対しても有効というのは興味深い結果ですが、この結果からもIL-6をはじめとしたサイトカインストームがCOVID-19の病態形成に重要な役割を果たしていることが示唆されます。
Xu X et al., Effective treatment of severe COVID-19 patients with tocilizumab.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2020 Apr 29. pii: 202005615. doi: 10.1073/pnas.2005615117.