とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

肺内細菌叢は自己免疫性脊髄炎の発症に関与する

2022-05-08 12:36:36 | 免疫・リウマチ
腸内細菌叢が様々な自己免疫疾患に関与することに関しては多くの研究がなされています。一方肺内細菌叢についてはほとんど研究が進んでいません。この論文で著者らは、ラット自己免疫性脊髄炎モデル(EAEモデル)を用いて、Prevotella melaninogenicaなどの肺内細菌が肺内のeffector T cellを活性化⇒Effector T cellが中枢神経に移動し、microgliaを活性化⇒炎症性サイトカイン産生という経路で脊髄炎を増悪させること、neomycinの肺胞内投与⇒肺内におけるLPS濃度上昇⇒I型インターフェロン反応⇑⇒肺内のeffector T cell 活性化⇓⇒中枢神経におけるmicroglia活性化⇓という経路で脊髄炎を改善させることを報告しました。Neomycinの肺胞内投与は腸内細菌叢を変化させませんでした。キャッチ―な結果であり、免疫学者に新たな研究ネタを提供するということでNatureに掲載されたのだと思いますが、多発性硬化症などのヒト疾患において肺内細菌叢が変化するかどうかは今のところ不明であり、実際に臨床的な意義があるかは今後の検証が必要そうです。 
Hosang L et al., The lung microbiome regulates brain autoimmunity. Nature . 2022 Mar;603(7899):138-144.


正常・病的組織からの線維芽細胞アトラスの作成

2021-05-14 20:01:26 | 免疫・リウマチ
近年多くの組織におけるsingle cell RNA sequencing (scRNA-seq)データが蓄積され、組織特異的な、あるいは疾患特異的な細胞clusterが明らかにされています。この論文で著者らは組織線維芽細胞 (fibroblasts, FB)にもいくつかのsubsetsがあり、病的な状態において特異的に活性化されるFB clustersが存在する可能性を報告しています。
著者らはまず非造血細胞のscRNA-seq datasetsを用いて、16正常組織についてのマウスFB特異的なsingle-cell atlasを作成しました。このatlasを用いて、200以上のdifferentially expressed genes (DEGs)を同定し、10個のFB clustersに分類しました (代表的な発現遺伝子から Pi16+, Col15a1+, Ccl19+, Coch+, Comp+, Cxcl12+, Fbln1+, Bmp4+, Npnt+, Hhip+ clustersと命名)。この中でほぼすべての組織に存在したのがPi16+およびCol15a1+ clustersでした。Pi16+およびCol15a1+ clustersには幹細胞関連遺伝子の発現も認められ、これらのclustersから他のclustersが枝分かれする可能性が示唆されました。著者らはPi16+, Col15a1+ clustersに高発現する遺伝子としてdermatopontin (Dpt)を同定しました (Dpt+Pi16+およびDpt+Col15a1+をuniversal FBと命名しています)。
次に著者らはFBが疾患にどのように関与しているかを検討するために、公開されている病的な13組織からの17のscRNA-seq datasetsを用いてPi16+, Col15a1+, Ccl19+, Cxcl12+, Comp+, Npnt+, Hhip+, Adamdec1+, Cxcl5+, Lrrc15+という10のclustersを同定しました。興味深いことに、Cxcl5+, Adamdec1+, Lrrc15+といったclustersは正常状態の組織では見られず、様々な組織の病的状態特異的に活性化されるFB clustersである可能性が示唆されました。Cxcl5+ clusterは筋損傷早期に現れ、PI3K, TNF, NFκBシグナルで制御されてCcl2, Ccl7を産生します。Adamdec1+ clusterは腸炎で増加し、MAPKの制御のもとにIL11やGrem1を産生します。そしてLrrc15+ clusterは関節炎、皮膚創、線維化、膵管腺癌で増加し、myofibroblastに特徴的なCthrc1, Acta2, Postn and Adam12, collagensなどの遺伝子発現が見られ、TGFβの制御を受けると考えられました。Dpt+Pi16+ FBが最も幹細胞関連遺伝子を発現しており、Dpt+Pi16+ FB→Dpt+Col15a1+ FB→疾患特異的なFBという推移を経る可能性が示唆されました。
同様の現象はヒトにおいても見られました。著者らは3例の膵癌患者の癌組織および周囲の正常組織から得られたサンプルのscRNA-seqを用いて、c3, c8という2つのclusterを同定しました。これらはcancer-assocaited FB (CAFs)およびnormal FBとしてアノテーションされ、マウスuniversal FBの遺伝子発現プロフィールとの類似性から、c8 FBはマウスuniversal FBに該当するものであり、ヒトnormal FB clusterと考えられました。またヒトc3シグネチャーは、マウスのLrrc15+ myofibroblast clusterに濃縮されていることがわかりました。興味深いことに関節リウマチ、間質性肺疾患、潰瘍性大腸炎などのFBシグネチャーも、マウスのLrrc15+ myofibroblast clusterにあたる遺伝子発現パターンを示しました。
最後に著者らは様々な病的FBのデータを統合したFBアトラスを作成しました。このアトラスは6つのclustersが同定され、疾患特異的なパターンを有する可能性が示されました。
ということで、fibroblast biologyともいえるサイエンスが急速に進歩している中で、近い将来疾患特異的なFBを標的とした治療戦略も開発されるのではないかと期待されます。
Buechler, M.B., Pradhan, R.N., Krishnamurty, A.T. et al. Cross-tissue organization of the fibroblast lineage. Nature (2021). 

TNFαの破骨細胞前駆細胞に対する作用はepigenetic statusによって変化する

2021-03-14 11:45:28 | 免疫・リウマチ
関節リウマチ (RA)におけるTNFα阻害療法の有効性、特に関節破壊抑制効果は臨床的に確立されているため、TNFαが破骨細胞分化を促進することは自明だと考えている人が多いかもしれませんし、そのような先入観に沿った結果を報告している論文は山ほどあります。しかしこれはそれほど自明のことではなく、例えばRANKLおよびM-CSF (CSF-1)による骨髄マクロファージから破骨細胞への分化系にTNFαを添加すると多くの場合は抑制的に作用します。このメカニズムについてはこれまでに多くの研究が行われています。例えばBrendan BoyceらはTNFαがTRAF3の活性化を介して細胞内のNF-kappaB p100蓄積を誘導することが破骨細胞分化を抑制する可能性を報告しています(Yao et al., J Clin Invest. 2009 Oct; 119(10): 3024-34)。とはいえTNFαのパラドキシカルな役割については未だ十分に理解されている訳ではありません (破骨細胞愛のない多くの人にとってはどうでも良いことでしょうし・・)。
このような先行研究を知ってか知らずか、本論文の著者らは破骨細胞前駆細胞の種類によるTNFαの作用の違いを報告しています。彼らはまずTNFαがCD14+単球系前駆細胞 (MO)からのRANKL+M-CSFによる破骨細胞分化に抑制的に働くことを確認しています。CD14+ MOをM-CSF存在下で培養すると、RANKおよびM-CSF受容体(CSF-1R)の発現が上昇します。興味深いことに、やはりRANKL+M-CSFの存在下で破骨細胞へと分化するCD14−CD16−CD11c+ myeloid細胞 (CD11c+ per-OC)は、CD14+ MOと比較してRANK発現が高い一方CSF-1Rの発現は低く、RANK promoter領域のH3K4me3修飾が亢進し、アクティブなepigenetic statusになっていると考えられました。またTNFαはCD14+ MOからの破骨細胞分化を抑制するのに対し、CD11c+ pre-OCから破骨細胞の分化には影響しないことも明らかになりました。TNFαのCD14+ MOからの破骨細胞分化抑制作用はTNFR1-IKKβ-NFκB pathwayを介していること、CD14+ MOからの破骨細胞分化の過程でTNFR2の発現上昇が見られ、TNFR2を介するシグナルは破骨細胞分化を促進することが示されました。
さて実際の臨床例ではRA患者末梢血中ではCD14+ MOの割合に変化はなく、CD11c+ pre-OCは有意に減少していましたが、これは組織中にtrapされているためかもしれません。またRA患者のCD14+ MOではRANK, TNFR1のH3K4me3修飾が亢進している一方、TNFR2, CSF1Rでは亢進は見られないなど、正常とは異なったepigenetic statusを示すことも明らかになりました。またTNFαによる破骨細胞分化抑制効果が見られないpopulation (non-responder)も存在することが示されました。Non-responderではCSF1Rの発現が低く、VEGFRの共受容体として作用するNRP1とCSF1Rとが関連することも示唆されました。
最後はグダグダになってしまった感もありますが、epigeneticな修飾の違いがTNFαの作用の違いを説明する可能性があるという点は興味深いと思います。とはいえH3K4me3だけで話しをされてもねー(´・ω・`)
Cecilia Ansalone et al., TNF is a homoeostatic regulator of distinct epigenetically primed human osteoclast precursors. Ann Rheum Dis. 2021 Mar 10;annrheumdis-2020-219262. doi: 10.1136/annrheumdis-2020-219262.

表皮プロテインC受容体が抗リン脂質抗体症候群の病態に関与する

2021-03-12 09:42:27 | 免疫・リウマチ
抗カルジオリピン抗体 (aCL)や抗β2GPI抗体などの抗リン脂質抗体 (aPLs)の出現を特徴とする抗リン脂質抗体症候群 (APS)患者は、臨床的に動・静脈の血栓症、血小板減少症、習慣流産・死産・子宮内胎児死亡などを呈する難病で、原発性APSとともに、全身性エリテマトーデス (SLE)などの自己免疫疾患にしばしば合併することが知られています。APSにおける凝固亢進のメカニズムには不明な点が多く、aPLsがどのような抗原を認識するのかについての理解も進んでいないことが、APS治療法開発が進まない原因となっています。この論文で著者らは、endothelial protein C receptor (EPCR)がaPLsの標的となり、APSの病態に重要な役割を果たすことを明らかにしました。
EPCRは内皮細胞、骨髄細胞、胎盤のtrophoblastなどに発現が見られるCD1d様膜貫通糖タンパクであり、リン脂質と強固に結合します。正常状態ではホスファチジルコリンと結合したEPCRは抗凝固因子であるprotein Cを活性化しますが、EPCRは凝固開始因子tissue factor (TF)によるprotease-activated receptor 2 (PAR2)活性化にも関与し、TLR4の下流でtype I interferon (IFN) responseを誘導することも知られており、抗凝固のみならず凝固亢進、自己免疫反応にも関与する可能性が示されています。
主としてlate endsomeに発現するlysophosphatidic acid (LBPA)はEPCRと反応して複合体 (EPCR-LBPA)を形成することが知られていますが、著者らはaPLsがEPCR-LBPAを認識し、EPCR依存的にendosomeに輸送され、TLR7/8活性化を介してtype I IFN resposnseを誘導して組織炎症、凝固亢進、胎児死亡を誘導すること、そしてB1a細胞活性化によってaPLsの産生を促進することを明らかにしました。抗体によってEPCR-LBPA抑制、あるいは遺伝的にEPCRを欠損させることによりAPSモデルマウスの凝固亢進は抑制されました。またSLEモデルマウスにおけるaPLs産生もEPCR-LBPA抗体によって抑制されました。
これらの結果は、aPLsによるEPCR-LBPAの活性化がAPSのみならずSLEの病態に重要な役割を果たす可能性を示しています。新型コロナウイルス感染症においてもaPLsの出現と凝固亢進が報告されており、この病態におけるEPCR-LBPAの関与にも興味がもたれます。
Nadine Müller-Calleja et al., 
Lipid presentation by the protein C receptor links coagulation with autoimmunity.
Science  12 Mar 2021: Vol. 371, Issue 6534, eabc0956 DOI: 10.1126/science.abc0956

TNF-αは静脈内皮細胞におけるClaudin-11低下を介して静脈からのChloride漏出を誘導する

2021-03-03 23:24:06 | 免疫・リウマチ
この論文で著者らはTNF-αが静脈特異的にChlorideイオンの漏出を促進し、その過程にはTNF-αによる静脈内皮細胞の細胞間tight junctionタンパクClaudin-11の低下が関与していることを明らかにしました。TNF-αの下流ではPanx1 channel活性化→TRPV4 Ca++ channelの活性化が生じ、これがATPの細胞外への放出を誘導します。放出されたATPはendonucleotidease CD39によってadenosineへと加水分解を受け、A2A adenosine受容体の活性化を誘導し、結果として静脈内皮細胞におけるClaudin-11の低下と漏出増加をきたします。著者らはこれが敗血症におけるTNF-αの病態形成メカニズムの一つではないかとしています。
関節リウマチの病態においてもTNF-αによる静脈からのChloride漏出が関与しているのでしょうか?ところでMTXは細胞外adenosineを増加させ、A2A 受容体を活性化することが抗炎症作用に働く可能性が報告されています。A2A 受容体活性化という点ではMTXとTNF-αと共通しているようにも思えるのですが、両者の作用がどのような関係にあるのかは興味深いところです。
Maier-Begandt D et al., A venous-specific purinergic signaling cascade initiated by Pannexin 1 regulates TNFα-induced increases in endothelial permeability. Sci Signal. 2021 Mar 2; 14(672): eaba2940.