とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

APOE4はBBBの破綻を誘導することでアルツハイマー病の発症に関与する

2020-05-04 19:24:19 | 神経科学・脳科学
アポリポタンパクE(ApoE)は肝臓のみならず中枢神経内においてアストロサイトにより産生され、中枢神経系における脂質運搬などの関与していることが知られています。ApoEのバリアントとしてはAPOE2, APOE3, APOE4が主なものですが、1990年代前半に、家族性アルツハイマー病患者でAPOE4の頻度が高く、APOE4のホモ接合体>ヘテロ接合体>なしの順にアルツハイマー病が若年化するというgene dosage effectが存在することが明らかになって以来注目されています。これまでAPOE4がどのようなメカニズムでアルツハイマー病のリスクを高めるかについてはよくわかってませんでしたが、この論文で著者らはAPOE4遺伝子のホモ接合体保有者は、認知機能正常な時点でも、hippocampus(海馬)およびparahippocampal gyrus(海馬傍回)においてblood brain barrier(BBB)の破綻が見られることをdynamic contrast-enhanced MRIを用いて明らかにしました。このようなBBBの破綻はその後の認知機能の急速な低下と関係しており、βアミロイドやtauの蓄積とは独立して生じていました。一方でAPO3保有者ではこのような破綻は認められませんでした。APOE4ホモ接合体保有者の脳脊髄液においてはpericyte(脳血管周皮細胞)の傷害を示唆する可溶型platelet-derived growth factor receptor β(sPDGFRβ)が上昇しており、これはpericyteや血管上皮細胞におけるcyclophillin A(CypA)やmatrix metalloproteinase-9(MMP-9)発現上昇によるものであると考えられました。APOE4保有者においてはBBBの破綻が認知機能低下に関与している一方、最も多いAPOE3ではそのような現象がみられないことから、アルツハイマー病の発症には様々な要因が関係していることが考えられます。またCypAやMMP-3が治療標的になる可能性も示唆する極めて興味深い報告です。
Montagne, A., Nation, D.A., Sagare, A.P. et al. APOE4 leads to blood–brain barrier dysfunction predicting cognitive decline. Nature (2020). https://doi.org/10.1038/s41586-020-2247-3

集団免疫の確立とSARS-CoV-2のサブタイプ

2020-05-04 10:46:56 | 新型コロナウイルス(疫学他)

田中栄
10分前 · 




今回の新型コロナウイルス感染の広がりや重症度は国によっても大きく異なりますし、日本の中でも地域によって異なっているという特徴がありますが、その真の理由はよくわかっていません。京都大学の上久保 靖彦先生と吉備国際大学の髙橋 淳先生は、これまでの日本における感染・重症パターンを詳細に解析し、SARS-CoV-2の感染頻度、重症度を算出する数式を考案されましたので紹介させていただきます。
 都道府県別発生報告を詳細に解析したところ、SARS-CoV-2の感染が拡大する前に小さなピークが存在する場所としない場所が存在することがわかりました。小さな流行を生じたウイルスをtype S(sakigake)、その後のepidemicの主因ウイルスをtype K(kakeru)と命名し、これらの感染パターンを解析しました。日本ではRT-PCR検査数が少ないため、「RT-PCR検査の陽性率」が有病率を反映すると考えてその後の解析を行っています。200以上の検査を行った都道府県にしぼって解析を行った結果、type Sによるpre-epidemicを経験したと考えられる都道府県ではcase fatality rate(CFR=死亡患者/感染患者)が低いことが明らかになりました。つまりtype Sによる集団免疫がある程度確立していた場所ではtype Kの重症化が抑制できた可能性を示唆しています。
 その後SARS-CoV-2の流行は再燃しましたが、この時のウイルスはtype K由来でありながら、欧米での流行から元々のtype Kに対する淘汰を経たものであると考えられました(type G, global)。例えば愛知ではハワイからの帰国者からtype Gのアウトブレークが生じましたが、そのCFRは8.9%と高値で、元々のtype Kよりは劇症である可能性が示されています。Type Kのピークがあった地域ではtype Gのピークは抑えられる傾向があり、逆にtype Kの流行が見られなかった地域では将来的にtype Gのepidemicが発生する可能性があると考えられます。またRT-PCRの陽性率の差がtype Sへの曝露による集団免疫率の差を示している可能性についても数理的解析から明らかにしています。
 さて3月29日の段階ではRT-PCR陽性だった1647名中640名が外国人でした。日本人におけるPCR陽性率から算出すると日本人の中では791万人、外国人の503万人が陽性という計算になり、外国人のRo=3.99と非常に伝染性の高いサブクラスターを形成していたことになります。
 このようにtype S, K, Gにどの程度感染し、免疫を持っているかが集団免疫の程度を決定します。そこでRT-PCRを用いずにその頻度を算定するために、surrogate indicatorを用いたrisk scoreの算出方法を考案しました。このrisk scoreはSARS-CoV-2の有病率と正の相関を有していました(Spearman correlation coefficient ρ = 0.415)。一方type S, K, Gの死亡率が異なることから、risk scoreと重症度の相関は高いものではなかったため、type別の死亡率を計算しました。その結果、興味深いことにtype Sへの感染曝露はtype G感染の重症度を高めることが明らかになり、これはantibody-dependent enhancement(ADE)によるものであると考えられました。このようなファクターを加味してSARS-CoV-2がどのように重症な肺炎ウイルスになったかを説明する数式(Kami-Atsushi equation)が作成されました。この数式からtype Gの死亡率がtype S曝露後type Kに曝露されていない場合に急上昇することが示され、type KおよびGへの曝露者(y, z)におけるtype Gへの曝露の割合[z/(y+z), G-score]はCFRと強く相関していました。
 Type S, K, Gというタイプは流行の時間・場所の違いによって定義されたものですが、このタイプ分類はウイルスの遺伝子変異とも合致することも示されています。さらにこの式を用いてヨーロッパ各国でCOVID-19の死亡率が異なる理由を説明できること、そしてアメリカにおけるCOVID-19の死亡率予測が可能であることも示されています。
 私は専門ではないので、論文内容をきちんと理解しているわけではありませんが、このように実態に基づく数理モデルを構築し、感染頻度や重症度を予測しようという試みは、今後の制限の緩和、そして第2波、第3波に対する対策を構築するうえで非常に重要と考えられます。
Kamikubo, Y., & Takahashi, A. (2020). Paradoxical dynamics of SARS-CoV-2 by herd immunity and antibody-dependent enhancement. Cambridge Open Engage. doi:10.33774/coe-2020-fsnb3