「K2に憑かれた男たち」本田靖春 文春文庫1985.7.25(お勧め度:★★★☆☆)
昭和52年(1977年)日本山岳協会隊のK2遠征をテーマにしたルポルタージュである。
カラコルムの帝王と呼ばれる標高8611メートルのK2は、エベレストに次ぐ世界第二位の高峰である。K2のKはカラコルムの頭文字で、2は測量番号を意味する。
地方に住む無名の社会人登山家の集まりである、HKT(日本ヒンズークシュ・カラコルム会議)で、この計画が持ち上がった。この大遠征を行うためには、1億円を上回る資金を調達しなければならないと予想された。HTKでは、到底それだけの募金能力がない。そこで、日山協のお墨付きを得て、K2登山許可取得や資金調達を図ることになる。
彼らにとって、K2を落とすより、社会を落とす方が大事業だった。仕事を棄ててまでヒマラヤの高峰に挑む男達の情熱と、山岳協会の体面、面子へのこだわり・・・等が、遠征以前の問題として、詳しく書かれていて当時の海外遠征を知る上で貴重なものだと思う。
また、実際のアタックにおいても、隊員は全国から集めた「一匹狼」であるため、誰がサミッターになるかという駆け引き、嫉妬、無念さ等が見事に描かれている。中でも、伝説である?森田勝の「第一次アタック隊」を外され、「第二次アタック隊」にされたことで、山を降りてしまう・・・当時の彼を取り巻く状況や「森カツ」の山への情熱・・・などは、登山には素人である著者が、山の技術的な面を別として、大規模遠征隊の中で繰り広げられる人間的なエゴや葛藤を見事に描いていて興味が尽きない。