庄司利音の本棚

庄司利音の作品集
Shoji Rion 詩と物語とイラストと、そして朗読

詩 「 巨人を見た日 」

2017-03-26 14:43:27 | 
詩 「巨人を見た日」



そのとき、ぼくの左手には
なめかけのハッカ飴があって

ぼくが なめていたのかな?
わからないけど、
いや、きっと、ぼくが なめていたんだ

そのハッカ飴が

生温かいベトベトの
ベトベトの
超高性能な
スペクタクルな
メガトンな
そんな
なんでも見えるレンズみたいで
なんだかすごいことが見えるみたいで
だから、ぼくは
ちょっと覗いてみたんだ
向こうのハッカの世界をね

そしたら、
大人たちはトウシューズを履いたマリオネットで
変ホ長調で
タックタック歩いていて

アンモナイトがごうごうと息巻いて走っていて
一匹、二匹、ぜんぶ数えて八百八十八匹!
大きな手が出てきて、アンモナイトでおはじき遊びをしていたよ

街の向こうには赤土山が背比べして
一列にね
立派そうに並んでたけど
強い風が吹いて、赤土ぜんぶが飛んでいって、
またどこかに赤土山ができるんだ

そこには、巨人が一人で住んでいて
さっきの大きな手のやつだ
風が吹くたび、あっちこっちに移動する赤土山に跨って
ひょいひょいってさ

あれって、
なんだったかな?
そう、どこだったかな?

お父さんと・・・

お父さんは手をつないでくれたけど
離れちゃって

お父さんは
ずんずん歩いて行っちゃって


お父さん!!
置いてかないでよ!
ぼくは、ここだよ!

そしたらお父さんは
ぼくが覗いているのに気がついて
にこにこ嬉しそうに大きな口をニ~ッとひらいてさ
コンパスみたいな長い腕を伸ばして
びらびら手を振っているから
ぼくにね
ぼくに手を振っていた
ここにいる、このぼくに

だから、ぼくも手を振った
ぶんぶんと手を振った
ハッカ飴でべたべたの
細っこい手で
お父さんに振り返した

お~い、お~いって呼び合って、
なんだか、わからないけど、うれしかったな
あっちとこっちがね、
あのときは、なんだか、すごくわかった気がしたんだ

お父さんのこと
ぼくのお父さんのこと

遥か遠く
ハッカ飴が融けた世界の
お父さんのこと

そう、ぼくのお父さんは
巨人だった
そうしてぼくに笑いかけていた・・・

ベトベトの
超高性能な
スペクタクルな
メガトンな

ぼくのお父さんは
笑っていた




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