庄司利音の本棚

庄司利音の作品集
Shoji Rion 詩と物語とイラストと、そして朗読

詩 「透明なハーモニカ」

2016-09-22 15:06:39 | 
          透明なハーモニカ

あのとき ぼくは
ハーモニカを吹きながら 歩いていた

緑の草が いっぱい 伸びていたんだよ

薄紫の小さな花が咲いていて
だから ぼくは 避けたんだ

乾いた音が 聞こえたよ

地面が飛び出て ぼくの体は 殴られた

茶色い土が ぼくの耳をふさいだけれど
ぼくの胸には 聞こえたよ
ぼくが吹いてた ハーモニカの音

あのとき ぼくが見たものは
コップ一杯分の 白い雲

片足が 木切れのように
雲へ向かって カポッと 飛んでいった

あぁ、ぼくの片足だ

あれは・・・
ぼくの片足だった

今でも 空を浮いている
二度と 戻ってこないんだ・・・

小さな花は 泣いてたよ
小さい花が 泣いていた

花のせいじゃ ないんだよ
花は そこに咲いていただけ

地面のせいでもないんだよ
地面はそこに あっただけ

ぼくのハーモニカは ほんとはね
ぼくにだけしか 見えなかった

春風のように 透き通った ハーモニカ!

その和音は ぼくの呼吸といっしょになって
ぼくの両手の中から ガラス細工の ミツバチのように 飛び立ったよ

ぼくのハーモニカはね
今は 小さな花の隣にいるんだ

見えないけれど
でもいつか、誰かが気が付いてくれるよ

ぼくのハーモニカと、ぼくが吹いてた呼吸の音に

あの小さな花の香りがね
道案内をして手伝ってくれるだろうから

そうしてね
そのとき、地面はじっと黙って見守ってくれるんだ

いつか、きっと、そうなんだ

あのときぼくは、ハーモニカを吹きながら歩いていたんだよ

ぼくの笑い声が、空を谷のように広げてね
その後を追って 風が ぴゅるるっと 吹き抜けるような
ぼくは、そんな呼吸を吹いていたんだ

あのときぼくは

生きていたから!


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