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ゆうわファミリーカウンセリング新潟 (じーじ臨床心理士・赤坂正人)     

こころと暮らしの困りごと・悩みごと相談で、じーじ臨床心理士が新潟市で公園カウンセリングなどを相談、研究しています

桂望実『ボーイズ・ビー』2007・幻冬舎文庫-小学男子と老靴職人の不思議な物語

2025年02月15日 | 小説を読む

 2020年2月のブログです

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 桂望実さんの『ボーイズ・ビー』(2007・幻冬舎文庫)を再読しました。

 面白かったです。

 12歳の男の子と70歳の靴職人との物語。

 男の子は母親を病気でなくしたばかりで、小1の弟の面倒を見ていますが、弟は母親の死がよくわかっていない様子。

 いろいろと心配事が絶えません。

 消防士のお父さんからは、お兄ちゃんだから、弟の面倒を見てやってくれ、と頼まれますが、自分も泣きたい気分を抱えています。

 一方の、70歳の靴職人。

 頑固一徹の職人ですが、年齢のせいか、納得できる靴づくりができなくなってきていて、悩んでいます。

 そんな二人が出会い、子どもの悩みに老靴職人が応じて、さまざまなドタバタ劇が起こります。

 とても楽しいですし、微笑ましいです。

 時には、喧嘩もしたり、仲直りをしたり、じーじと坊やのてんやわんやの冒険談です。

 そして、子どもの願いに周りのおとなも気づいて、おとなも成長します。

 正解はないのですが、わからないことはわからないままで進んでいこう、という物語なのかもしれません。

 読後感はさわやかです。

 いい小説だなあ、と思いました。           (2020.2 記)

     *

 2020年7月の追記です

 当時は気がつきませんでしたが、わからないことはわからないままに、というのは、あいまいさに耐える、という、ネガティブ・ケイパビリティ(負の能力、消極的能力)に通じているようです。       (2020.7 記)

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 2021年1月の追記です

 ネガティブ・ケイパビリティについては、「居心地」さんのブログが、2020年6月に、精神科医で小説家の帚木蓬生さんの『ネガティブ・ケイパビリティ』(2017・朝日新聞出版)という本をていねいにご紹介されていて、とても参考になります。     (2021. 1 記)

 

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加賀乙彦『頭医者』1993・中公文庫-本の帯に、新米精神科医の青春の日々、とあります

2025年02月04日 | 小説を読む

 2021年2月のブログです

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 加賀乙彦さんの『頭医者』(1993・中公文庫)を久しぶりに読みました。

 ひょっとすると20年ぶりくらいかもしれません(加賀さん、ごめんなさい)。

 すごく面白かったです。

 ひさしぶりに声を出して笑ってしまいました。

 T大医学部の精神医学教室が舞台。

 自伝的な小説なので、有名な先生方が仮名で出てくるのですが、なんとなく実名がわかる先生もいて、こんなエピソードがあったのか、と驚かされたりします(土居健郎さんも精神分析家として仮名で登場します)。

 そして、主人公が犯罪学の研究を志すいきさつや刑務所の医官になって研究を続ける様子、さらには、フランスに留学をして勉強を続ける様子がユーモラスに綴られます。

 主人公が直情型で、あちこちで事件が起きて、まるで、昭和の頭医者版の「坊ちゃん」みたいです。

 それだけに、読んでいて面白く、読んだあとは気持ちがスカっとします。

 さすが、精神科医の加賀さんです。

 最後のほうでは、加賀さんの『フランドルの冬』につながる思い出も出てきて、精神科医で小説家の加賀さんの誕生の秘密もわかります。

 ある意味、貴重な小説かもしれません。

 肩のこらない楽しい小説ですので、お薦めです。         (2021.2 記)

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新野剛志『戦うハニー』2019・角川文庫-本の帯に、保育園には、日本のリアルが詰まっている。とあります

2025年01月27日 | 小説を読む

 2021年1月のブログです

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 新野剛志さんの『戦うハニー』(2019・角川文庫)を読みました。

 ちょっと変わった題の本ですが、本の帯には、保育園には、日本のリアルが詰まっている。とあります。

 面白かったです。すごく面白かったです。 

 先日の大雪の雪かきで腰を痛めて、笑うと痛いのですが、ずいぶん、いたたたー、といいながら、笑ってしまいました。

 主人公はある認可外保育園で働くことになった男子保育士。

 保育園の現場には、日本のリアルである、虐待や放任など、問題のあるモンスターな保護者が登場し、そこであたふたしながらも、少しずつ成長をしていきます。

 園長先生のふところの広さに支えられ、同僚の女子保育士らにからかわれながらも、子どもたちと真摯に向き合っていく姿はなかなかいいです。

 子どもたちの切なさや哀しみ、こころの痛みなどは辛いものがありますが、園長先生や保育士たちの頑張りで、少しは元気になります。

 そして、保護者は、こちらはなかなか変われませんが、それがリアルなのでしょう。それでも、保護者の哀しみは伝わるようにはなります。

 決して明るい小説ではありませんが、いろいろと考えさせられます。

 正解はありませんが、悩んで、考えていける気がしてきます。

 いい小説に出会えました。       (2021.1 記)

 

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マイクル・コナリー(古沢嘉通訳)『転落の街』(上・下)2016・講談社文庫-アメリカの警察小説です

2025年01月13日 | 小説を読む

 2018年1月のブログです

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 マイクル・コナリーさんの『転落の街』(上・下)(古沢嘉通訳・2016・講談社文庫)を読みました。

 コナリーさんの小説を読むのはかなり久しぶりでしたが、期待にたがわず、すごく面白くて、一気に読んでしまいました。

 マイクル・コナリーさんといっても、知らない人も多いでしょうが、アメリカの推理小説家で、特に、本書もシリーズになっているロサンゼルス警察のボッシュ刑事が主人公の警察小説が有名ですし、とても面白いです(ちなみに、本書は去年の推理小説のベストテンにも入っています)。

 ボッシュ刑事は人生にいろいろなものを抱えつつ生きている人物で、しかも、警察組織にただ忠誠を誓っているような刑事でもなく、時と場合によっては、彼の信ずる正義のために、どんな敵や組織とも闘います。

 そこが魅力でしょうし、その姿を丁寧に描写しているので、読み応えがあります。

 ボッシュ刑事だけでなく、同僚や犯罪者までもが、本当にこまやかに描写され、読者は正義だけでなく、悪の存在についても考えざるをえません。

 正解はなく、自分で人生や家族、仕事、組織、あるいは、国家などについて考える必要があります(ボッシュ刑事はベトナム戦争帰りの警察官でもあります)。

 決して、単純でなく、複雑なのは、人生も社会も同じでしょう。

 そこをとても大切に描いている警察小説の逸品だと思います。

 機会があれば、読んでみてください。       (2018.1 記)

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 2020年11月の追記です

 アメリカではトランプくんの憎悪と分断の政治がようやく終わりそうですね。

 アメリカ国民の良識が少し見えました。       (2020.11 記)

 

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伊坂幸太郎『サブマリン』2016・講談社-陣内くん、主任家裁調査官になる

2024年12月17日 | 小説を読む

 2017年のブログです

     *   

 伊坂幸太郎さんの『サブマリン』(2016・講談社)を読みました。

 名作『チルドレン』に続く、家裁調査官の陣内くんと武藤くんの物語です。

 2016年3月出版の小説ですが、家裁調査官をやめてしまって情報に疎くなっていたのか、つい最近になってようやく、このすばらしい小説の存在に気がついて、読むことができました。

 おもしろかったです。

 笑ったり、泣いたりで、忙しい小説でした。

 あらすじは書きません。

 書く能力がないせいもありますが(?)、この小説はぜひ、自分でじっくりと味わってほしいと思います。

 いろんな人物が出てきます。

 復讐に燃えていた少年、パソコンでしか世の中が見えなくなっていた少年、その家族、交通事故の加害少年だった青年、主任になったもののマイペースの陣内くん、結婚をして小さな子ども二人の父親になった武藤くん、一見冷めている女性調査官の木更津さん、さらには、盲目の永瀬さん、永瀬さんと結婚をした優子さん、などなど。

 人の憎しみと救い、助けと喜び、罪と罰、善と悪、苦しみと愛、などなど、声高ではないですが、触れられているテーマは深いです。

 家裁調査官、その組織は、じーじには少し窮屈で、在職中はやや息苦しい思いをしていましたが、しかし、この仕事はとても大変ですが、やはり素敵だと思います。

 陣内くんや武藤くんのような自由で自立した調査官が活躍できるようなおおらかな家庭裁判所であってほしいな、と外野からも応援したいなと思います。         (2017 記)

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 2020年12月の追記です

 同じく家裁調査官補ちゃんの活躍を描く柚月裕子さんの『あしたの君へ』(2019・文春文庫)も面白いですよ。       (2020.12 記)

 

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立原正秋『冬のかたみに』1981・新潮文庫-その2・暗い時代を勁く、凛と生きる少年とその後

2024年12月14日 | 小説を読む

 2023年5月のブログです

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 立原正秋さんの『冬のかたみに』(1981・新潮文庫)を久しぶりに読む。

 おそらく6年ぶり。

 日本が朝鮮を併合していた時代、朝鮮の臨済宗の寺で育つ日朝混血の主人公を描く。

 主人公の父親も僧侶であったが、日本人と朝鮮人のはざまで苦悩し、主人公が幼少期に自殺をする。

 主人公は、その後も寺の老師や先達に見守られて、禅の世界の中で精神的な成長をとげる、という物語である、と理解をしていた。

 今も物語の内容はそれでよいと思うのだが、今回、今ごろになって、この物語の底流に、この時代背景としての日本の朝鮮併合や軍国主義、侵略などの問題が大きく横たわっていることに気づかされた。

 小説の中で、主人公の朝鮮人の祖父は日本に協力をした地主として登場し、これが父親の自殺のもととなってしまう。

 また、当時、ベルリンオリンピックで朝鮮の選手がマラソンで優勝をするが、新聞には日の丸をつけた写真が載る。

 さらには、朝鮮から中国に出征をする兵士を朝鮮人の子どもたちが日の丸を振って見送る。

 そして、ある日、突然に、朝鮮人の子どもたちが学校で朝鮮語を話すことを禁止され、日本語が強制される。

 立原さんは声高ではないが、侵略をするものの傲慢さと侵略をされるものの苦しみ、支配するものの驕りと支配されるものの哀しみを時代背景として淡々と描く。

 しかし、今、ロシアのウクライナ侵略を目のあたりにすると、問題の根の深さに思い至る。

 よい小説はおそらくその中に多義的な意味を含んでいると思うが、村上春樹さんの小説と同じで、この小説も多義的で多層的なさまざまな意味合いを内包しているように思える。

 今頃気づくようではかなり遅いと思うが、それでも遅いなりにそういうことが見えてきたことには感謝したいと思う。

 人生を深く掘り下げた、よい小説だと思う。        (2023.5 記)

 

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立原正秋『冬のかたみに』1981・新潮文庫-その1・勁く、凛とした、おとなの小説

2024年12月13日 | 小説を読む

 たぶん2017年のブログです

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 本棚の上に積み重ねられた文庫本の中に、立原正秋さんの『冬のかたみに』(1981・新潮文庫)を見つけたので、ものすごく久しぶりに読んでみました。

 おそらく30代に読んで以来なので、30年ぶりくらいの再読です(立原さん、ごめんなさい)。

 立原さんは、じーじが20代から30代にかけて集中的に読んでいた小説家ですが、今では同年代の人達くらいにしかわからないかもしれません。

 名作『冬の旅』が有名で、じーじは非行少年たちが主人公のこの小説を読んで、結局、家庭裁判所調査官になりました(この小説を読んで調査官になったという人をじーじはほかに2人知っていますので、この小説の影響力はすごいと思います)。

 『冬の旅』もしばらく読んでいませんので、そろそろ再読をしようかな、と思っているのですが、なにせ、昔、何度も読んでいるので、じーじにしてはめずらしく(?)、まだあらすじをぼんやりと覚えており、こちらはもう少ししてから再読をしたいな、と楽しみにしています。

 さて、『冬のかたみに』ですが、やはりよかったです。

 まったく色褪せていません。

 というか、年を取ったことで、ようやくわかってきたことも多くありました。

 立原さんの小説は文章が美しく、力強く、正確な日本語が特徴ですが、この小説では、特に、これらの点が際立っています。

 主人公が幼少期から韓国の禅寺で育ち、禅の世界でよき師匠に出合い、厳しくも温かく見守られて成長し、精神形成をしていくという小説ですので、物語と文章が鮮烈で、凛として、とても美しいです。

 ともすると、私達は、時代に流され、欲に流されがちですが、そんな弱い自分に喝を入れられそうな感じがしました。

 今後もまた読みたい、いい小説でした。        (2017?記)

     *

 2020年11月の追記です

 立原さんの『冬のかたみに』を読むと、一度、韓国のお寺に行ってみたいな、と思うことがあります。

 わが家の美人ちゃんばーばが、韓流ドラマに熱中している(?)今がチャンスかもしれませんが…。        (2020.11 記)

 

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野沢尚『反乱のボヤージュ』2004・集英社文庫-古びた学生寮の取り壊しをめぐる人間模様

2024年12月12日 | 小説を読む

 2021年12月のブログです

     *

 野沢尚さんの『反乱のボヤージュ』(2004・集英社文庫)を読む。

 すごく久しぶり。

 当然、内容は全く忘れていて、若者小説なので、あまり期待しないで読み始めたが(野沢さん、ごめんなさい)、これがすごい面白い。

 じーじの中で、今年のベスト3に入りそう。

 ある大学の、古びた学生寮の取り壊しをめぐる人間模様。

 例によって、あらすじは控えるが、自治会の学生、ノンポリの学生、運動部、応援団、途中から加わる舎監、などなどの中で、主人公の成長が描かれる。

 ノンポリの学生も、みんな、さまざまな事情を抱えていて、それを描く野沢さんの筆はすごい。

 そして、温かい。

 それが単に甘いだけでなく、生きる切実さを伴っているので、深く、哀しい。

 なかなか深い良質の小説だ。

 以前、読んだ時には、ひょっとすると、この深さがよくわからなかったのかもしれない。反省。

 しかし、この年になってでも、こういう良さを味わえたことは幸せだ思う。

 うっかりもののじーじゆえ、こういう読み落としもきっとたくさんあるに違いない。

 謙虚に読書と勉強に励みたい。        (2021.12 記)

 

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あだち充『じんべえ』1997・小学館-血のつながらない娘を育てる中年男子とその娘の微妙な関係を描くおとなのマンガです

2024年12月08日 | 小説を読む

 2024年12月のブログです

     *

 あだち充さんの『じんべえ』(1997・小学館)を久しぶりに読む。

 今年の能登半島地震で崩れた本の山を積み直していると(今もなんと(!)作業継続中です)、下のほうに偶然、見つける。

 1997年の本で、その後、一度、読んだ記憶がかすかにあるが、すごく久しぶり。

 作業を中断して、読んでしまった。

 もともとは、「ビックコミックオリジナル」に連載されたらしい(「ビックコミックオリジナル」は『家栽の人』(知っているかなあ?)を連載していたことがあり、なかなかいいおとなのマンガ雑誌だ)。

 血のつながらない娘を育てる中年男子とその娘を描くおとなのマンガ。

 両者の微妙な心理がとてもうまく、丁寧に描かれていて、感心する。

 下手な小説より、心理描写が繊細で、すごいと思う。

 無理に例えるならば、荻原浩さんの小説をマンガにしたような感じ(荻原さんの小説を知らない人は、何のこっちゃ、と思うだろうが、知っている人はうなづいてくれるかもしれない)。

 中年男子の生きる辛さや哀しみ、優しさ、怒りなどと、少女の淋しさや哀しみ、喜びなどが、あだちさんの美しいマンガで、ユーモラスにうまく描かれる。

 名作だと思う。

 それにしても、あだちさんのマンガは、人間関係が複雑で、優しいが、哀しい物語が多い。

 まさか、売り上げを伸ばすためにあえて複雑な人間関係にしているわけではないのだろうが(多少、そういうこともあるのかもしれない(?)。あだちさん、ごめんなさい)、それにしても物語が哀しすぎる。

 まあ、人生は哀しいものだから(?)…ねぇ。

 こういう表現にしないと描けないものを、あだちさんがなにか人生に感じているのだろうなあ、と思う。

 いずれにしても、マンガではあるが、すごい名作だ。        (2024.12 記)

 

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堀江敏幸『なずな』2014・集英社文庫-生後2か月の赤ちゃんとおじさん男子の楽しい物語です

2024年12月01日 | 小説を読む

 2019年のブログです

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 堀江敏幸さんの『なずな』(2014・集英社文庫)を読みました。

 堀江さんの小説は、今年の夏、北海道にいる時にたくさん読みましたが、この小説はなぜか読みそびれていました(堀江さん、ごめんなさい)。

 なずなちゃん。生後2か月。

 お母さんとお父さんのよんどころのないご事情から、なんと、お父さんのお兄さんである四十路独身のおじさん男子の主人公が一時的に預かることになります。

 預かるったって、生後2か月の赤ちゃん、そのお世話はたいへんです。

 じーじも共働きだったので、子育てのたいへんさは少しだけわかりますが、まず寝不足、そして、悪魔のような赤ちゃんの要求に振り回されます。

 そう、それはまさしく悪魔のよう。

 かわいい顔をして、悪魔のような要求、最初のうちはおとなにも、そして、おそらくは赤ちゃん自身もよくわかっていない要求をします。

 おとなたちはフラフラ、じーじたち夫婦も二人いてもフラフラでした。

 それを、四十路独身男子の主人公が、周囲の応援も得て、頑張ります。

 うーん、頑張るというよりは、だんだんと手の抜き方を覚え、一緒にお昼寝ができるようになります。

 なずなちゃんは健康な赤ちゃん、いっぱいミルクをのみ、いっぱいげっぷをして、いっぱいブリブリブリとうんちをします。

 主人公はそのお世話をしながら、だんだんとなずなちゃんのこまやかな成長に気づき、喜びを感じ、楽しい時間を共有します。

 その過程がていねいに、こまやかに、情感たっぷりに描かれる素敵な小説です。

 読んでいると、なんとなく幸せになれるいい小説です。

 おすすめです。       (2019. 11 記)

 

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池永陽『コンビニ・ララバイ』2005・集英社文庫-「赦し」と「救い」を問う

2024年11月29日 | 小説を読む

 2018年のブログです

     *

 池永陽さんの『コンビニ・ララバイ』(2005・集英社文庫)を読みました。

 いい小説です。

 おとなの小説です。

 実は読んでいる途中で、前に一度読んだことがあるような気がしてきて、既視感も確かに感じたりもしたのですが、しかし、あいかわらず記憶があいまいで(!)、もっとも、このすばらしいラストは本当に新鮮に読めましたので、やはり初めてなのかな、と思ったりしました。

 まあ、大切なことは、1回目か、2回目か、という事実はどうであれ(?)、いずれにせよ、今の64歳のじーじにとって、初めての(あるいは、初めてと同様の)いい小説に出会てよかった、ということが真実だということでいいのではないか、と思っていますが、どうなのでしょうか。

 事実と真実の問題というのは臨床心理学的にも大きな問題だと思うのですが、これを機にじーじもこの問題にチャレンジしていこう(?)と思っています。

 さて、例によって、あらすじはあえて書きません。

 池永ワールドを堪能したい人は本書を購入して、じっくり味わってくださいね。

 ただし、性的な場面も少し出てきますので(なんせ、おとなの小説ですからしかたありません)、20歳未満の人は遠慮してもらったほうがいいかもしれません。 

 さらには、内容や伝えたいことがらがおとなの世界のことなので、精神年齢が20歳、あるいは、30歳、ひょっとすると、40歳以上でないと、しっかりとは理解できない小説かもしれません。

 個人的には、主人公が亡くなった奥さんの言葉に救われる場面がいいなあと思ったのですが、人が精神的に救われるということも臨床心理学的に、さらには、宗教的にも、相当に大きな、難しい問題だろうと思います。

 このあたりは、50歳、60歳になっても、理解できたとはいえませんし、永遠の課題なのでしょう。

 池永ワールドに浸りながら、ゆるりゆるりと考えたいと思います。

 なお、北上次郎さんの解説によれば、本書は「本の雑誌」が選ぶ2002年上半期ベスト1に選ばれたということで、本当に秀作だと思います。        (2018.11 記)

     *

 2024年11月の追記です

 6年前の文章です。

 若気の至りで、なんか挑戦的な雰囲気が漂っていて(?)、今、読んでいて、少し恥ずかしくなりました。

 問題意識は今も変わりません。

 回答は当然、出ていません。

 わからないことに耐えることが大切ですからね(?)。

 わからないことに耐えることは長生きの秘訣かもしれません。        (2024.11 記)

 

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高橋三千綱『九月の空』1978・河出書房新社-剣道に生きる高校男子を爽やかに描く

2024年11月27日 | 小説を読む

 2024年11月のブログです

     *

 高橋三千綱さんの『九月の空』(1978・河出書房新社)を読む。

 上の孫娘が中学校の部活で剣道をやっていて、何か参考になる小説はないかな?と考えていると、高橋さんの『九月の空』を思い出した。

 確か、高校男子が主人公の小説だったな、中学女子の孫娘にお薦めしても大丈夫かな?とチェックをしながら(?)読む。

 高校の剣道部で、ひたすら練習に励む主人公を描いていて、爽やかでいい小説だ。

 ただ、高校男子が主人公だけに、当然(?)、性のテーマも出てくる。

 それほど過激な描写はないが、やはり中学女子には少し早いか?と過保護なじーじ(?)はやや心配になり、お薦めは高校進学後にしようと決断する(?)。

 それにしても、おとなが読むには、とても素敵で爽やかな小説だ。

 高校男子の迷いや戸惑いなどがとてもよく描けていると思う。

 こんな時代があったよな、とおくてだった(?)じーじでも思う。

 男女交際の場面など、とても初々しくて、よい。

 さすが芥川賞受賞作品だ。

 孫娘が高校に入ったら、それとなくその辺に置いておいて、読んでもらえたらいいなあ、と思ったりしているじーじである。      (2024.11 記)

 

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樋口有介『魔女』2004・文春文庫-女性はみんな魔女なのです(?)

2024年11月22日 | 小説を読む

 2018年のブログです

     *   

 またまた有介ワールドにひたってしまいました。

 樋口有介さんの『魔女』(2004・文春文庫)。

 久しぶりの再読です。

 女性はみんな魔女なのだ!という小説です(?)。

 まあ、半分は冗談ですが、半分は真実かもしれません(?)。

 女性は本当に怖いですよ。

 さて、本書、就職浪人中の青年と青年の元彼女の妹とのお話。

 元彼女の死因をめぐって、二人が活躍をします。

 彼女の妹というのが、不登校児なのですが、ある理由があってのことで、それがラストで判明します。

 元彼女は、付き合っていた人物によって、さまざまな印象を抱かせる複雑な性格で、このあたりは映画の「羅生門」を思い出させるような内容です。

 多重性人格と虐待、それも虐待とはまったく無関係のような人物が絡んでいたりしていて、質のいいミステリーが展開します。

 青年と元彼女の妹の淡いラブロマンスも素敵で、まさに有介ワールドが堪能できます。

 ミステリーの謎解きも面白い小説ですが、じーじにはそれよりも、青年の成長や温かさがこころに染み入りました。

 こういう青年時代を送りたかったな、というかすかな反省も伴ないます。

 とてもいい青春小説かもしれません。

 少しだけエッチな場面(?)もありますので、20歳以上の人に読んでもらいたい青春推理小説です。       (2018.11 記)

 

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あだち充『H2』(全34巻)2000・小学館-こちらも青春真っただ中のお話ですよ!

2024年11月19日 | 小説を読む

 2024年11月のブログです

     *

 能登半島地震で崩れたじーじの部屋の本の山の積み直し作業は今も継続中。

 先週は、なんと、あだち充さんの『H2』を発見してしまった。

 なつかしい!

 20年ぶり!

 さっそく、読んでしまう。

 これが名作!

 野球マンガといえば、『タッチ』を連想するが、さらに深化している感じ。

 『タッチ』は三者関係(?)のマンガだったが、こちらは四者関係(?)、と人間関係も成熟を示している(?)。

 ハラハラ、ドキドキ、で年寄りのじーじの心臓にも悪い(?)。

 まさに、青春真っただ中!だ。

 しかも、今回は、脇役への目配りも丁寧で、あだちさんもおとなになったようだ(あだちさん、ごめんなさい)。

 34巻が必要だった理由もわかる。

 主人公の幼なじみのお母さんが亡くなる場面では、じーじは久しぶりに号泣をしてしまった。

 あだちさんのマンガにおなじみの、ユーモアだけではない、生と死、喪失と再生のテーマは健在だ。

 へたな小説より奥が深い世界が展開する。

 こちらも名作として残るのではないだろうか。

 素敵な野球マンガを楽しめて、ごきげんな1週間だった。        (2024.11 記)

 

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池澤夏樹『タマリンドの木』(1999・文春文庫)-おとなの真摯な恋愛を描く小説です

2024年11月18日 | 小説を読む

 2020年11月のブログです

     *

 本棚を眺めていたら、池澤夏樹さんの小説『タマリンドの木』(1999・文春文庫)が目に入ったので、久しぶりに読みました。

 おそらく20年ぶりくらい(池澤さん、ごめんなさい)。

 当然(?)、なかみは忘れていて、またまたどきどきしながら読みました。

 池澤さんにはめずらしく(?)すごい恋愛小説(池澤さん、ふたたびごめんなさい)。

 それもかなり純粋なおとなの恋愛小説です。

 66歳のじーじでもどきどきしながら読みました。

 例によって、あらすじは書きませんが、エンジニアの男性と海外ボランティアの女性の恋。

 一緒に住むことはとても難しい男女の切ない恋物語が、すごく真面目に展開をして、はらはら、どきどきしてしまいます。

 物語のちからはすごいです。

 じーじでも本当にどきどきしてしまいます。

 この男女が、真面目に自分たちのこと、そして、周囲の人たちのことを考えているからこそ、のちからなのでしょう。

 読んでいると、汚れきったじーじのこころも、少しだけピュア(?)になったような錯覚がします。

 それが良質な小説や物語のちから。

 あらためて感じました。

 いい小説が読めて、今日も少しだけ幸せです。        (2020.11 記)

 

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