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ゆうわファミリーカウンセリング新潟 (じーじ臨床心理士・赤坂正人)     

こころと暮らしの困りごと・悩みごと相談で、じーじ臨床心理士が新潟市で公園カウンセリングなどをやっています。

立原正秋『夢幻のなか』1976・新潮社-美意識・勁さ・潔さ

2025年05月18日 | 小説を読む

 2023年5月のブログです

     *

 立原正秋さんの随筆集『夢幻のなか』(1976・新潮社)を読む。

 すごく久しぶりの再読。

 本棚の横に積んであった単行本の山の中から発掘した(?)。

 1976年第1刷。貧乏学生だったのに、新刊で買ったらしい。相当、立原さんに熱中していたようだ。

 1976年(昭和51年)といえば、じーじは大学4年生。

 大学生のくせに、授業に出ないでこんな本(立原さん、ごめんなさい。先生方もごめんなさい)を読んでいたわけだ。

 しかし、今、読んでもいい本だ。

 あとがきに、立原正秋さんの3冊目の随筆集とある(1冊目、2冊目は、まだ本の山の中で迷子になっている)。

 立原さんの随筆といえば、読んだことのあるかたはおわかりだろうが、美しいものにはとても優しいが、醜いものや卑怯なものにはとても手厳しいことで印象的だ。

 小説も同じだが、随筆では特にすごい。

 庭や山野の草花には優しく、季節の魚を愛でるが、一方で、文壇の老いた先輩や卑劣な同業者には容赦がない。

 痛快といえば痛快だが、こちらが心配になるくらいやっつける。

 こういう美意識を身につけた作家の文章を読んでしまうと、読者もたいへんだ。

 大学生でこんな作家に出会ってしまい、じーじの美意識にもかなり影響を受けた気がする(その割に、駄文を書いているが…)。

 この随筆にたまに登場する息子さんや娘さんは、当時のじーじと同年代。

 じーじは立原さんに理想の父親像を見ていたのかもしれない。

 読後感のよい随筆集である。     (2023.5 記)

     *

 2024年5月の追記です

 この時、授業をさぼって立原正秋さんの本を読んでいたが、よく考えると貧乏学生だったので教科書は買っていなかった気がする(!)。

 教科書を買わずに、立原さんの新刊書を買っていたわけだ。ひどい学生だねぇ(!)。

 もっとも、裁判所に入ってみると、先輩から、小説をたくさん読むようにと言われたので、まあ正解だったけど…。

 学校の教科書は全然読まなかったけど、人生の教科書をいっぱい読んでいたわけだ。かっこういい!     (2024.5 記)

 

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藤沢周平『三屋清左衛門残日録』1992・文春文庫-老いることと生きること

2025年05月10日 | 小説を読む

 2019年5月のブログです

     *

 藤沢周平さんの『三屋清左衛門残日録』(1992・文春文庫)を再読しました。

 久しぶりでしたが、堪能しました。

 やはりいい小説です。

 この小説も、テレビドラマを観たのがきっかけで読みました。

 嫁役の南果歩さんがとても可愛かったのを覚えています。

 その後、原作を読んだのですが、すばらしい小説で、それがきっかけでじーじは藤沢周平さんの小説をたくさん読むことになりました。

 さて、本書、おとなの小説です。

 おとなというより年寄りの小説かもしれません。

 しかし、物語は結構、現代的で、描かれる主題は、例えば、組織で、あるいは、社会で、生きていく、とはどういうことか、と問いかけてきます。

 そして、そこに、男女のことがらが絡み、人として生きることとは、ということも出てきます。

 出てきますが、当然、正解はなく、様々な生き様が描かれます。

 若い人には少し時間が必要な物語かもしれませんが、青年期後半くらいからなら理解できるのではないでしょうか。そんな小説です。

 周りに流されずに、真摯に生きていきたい、という人にはぴったりの小説ではないかと思います。      (2019.5 記)

 

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立原正秋『冬の旅』1973・新潮文庫-凛とした孤高の青年を描く

2025年05月07日 | 小説を読む

 2019年5月のブログです

     *

 立原正秋さんの『冬の旅』(1973・新潮文庫)を久しぶりに読みました。

 おそらく30代の終わりくらいに再読をして以来、約30年ぶりくらいの再読です。

 とてもいい小説で、記憶力の悪いじーじにしてはめずらしくあらすじを覚えていて、再読が久しぶりになってしまいました。

 本当にいい小説なので、あらすじだけでなく、文章もじっくりと味わうことができるのですが、すごいご無沙汰でもったいないことをしてしまいました。

 今回は、文章を丁寧に味わいながら、ゆっくり、ゆっくりと読みました。

 やはりすごい小説です。

 文章がたびたび胸に迫ってきて、こころを平静に保つのが難しくなることもありました。

 じーじが持っている文庫本は1973年に購入したもの。

 大学1年の時です。

 おそらく高校時代に「冬の旅」のテレビドラマを観て、印象に残っていて、原作を読んだのだと思いますが、当時、ものすごく感動をしたのを覚えています(原作は読売新聞夕刊に1968年から1969年まで連載されたようです)。

 そのころ、じーじは中学校の社会科の先生になりたかったのですが、この小説を読んで、中学校で不良生徒の相手をしたいな、と強く思ったものです。

 結局、いろいろあって、家裁調査官になり、非行少年の相手をすることになったのですが、なぜかわかりませんが、じーじは昔から非行少年に親和感があり、この小説を読んで、その感覚がいっそう強まったように思います。

 官僚や社会的に偉いとされる人より、貧乏や不幸な生い立ちの中で格闘している彼らに共感をしてしまいます。

 自分が貧乏で苦労をしたということがあるのかもしれませんし、自分の中の反体制派の感覚やアウトローの感覚が彼らに親しみを覚えるのかもしれません。

 しかし、ずるい人間を許せないという点では、この小説の主人公と一緒です。

 ずるくない非行少年には優しいですが、ずるい非行少年やずるいおとなは許せません。

 厳しくいえば、結局はおとなになりきれないということなのかもしれませんが…、でも、そういう人生でいいや、と思っています。

 一所懸命に生きつつも、うまくいかない人たち、非行少年もそうでしょうし、病気の人たちもそうでしょう。

 そういう人たちを理解できるおとなでいたいな、とつくづく思います。     (2019.5 記)

     *

 2023年12月の追記です

 立原さんの『随筆・秘すれば花』(1971・新潮社)を読んでいると、この小説の主人公が少年院で知り合って親友となった安という青年が出てきますが、この安が連載中の小説の中で交通事故で亡くなった時に、立原さんの行きつけの飲み屋から追い出されたといいいます。

 安のような善良な男を殺した小説家に酒はのませられない、と言われたらしいのですが、そんなフアンがいる小説が今までにあったでしょうか。

 立原さんは、連載が終わったので、一升壜をさげてあやまりに行くつもりだ、と書かれていますが、そういう立原さんも素敵です。  (2023.12 記)

 

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司馬遼太郎『胡蝶の夢』(1)~(4) 1983・新潮文庫-幕末・維新の「医」を描く

2025年05月01日 | 小説を読む

 2019年3月のブログです

     *

 司馬遼太郎さんの『胡蝶の夢』(1)~(4)(1983・新潮文庫)を再読しました。

 本棚を眺めていたら目にとまって読み始めたのですが、すごく久しぶりで、おそらく十数年ぶりです。

 いい小説なのに、じーじの怠慢で、ご無沙汰しすぎです。

 こういういい小説は、年寄りになったら、もっともっと読んで、こころを豊かにしなくてはいけません。反省です。

 さて、この小説、紹介するのはなかなかたいへんです。

 主人公は幕末の医師松本良順。

 千葉・佐倉のオランダ医学所である順天堂の出身ですが、将軍の医師にまでなります。

 その良順が自らオランダ医学を学ぶために、長崎でオランダの軍医ポンぺから西洋医学を学ぶ学校を作るのですが、この小説はそこで学んだ同僚や後輩たちとの物語ということになりそうです。

 特に、幕府一筋の良順と、佐渡出身で語学に異彩をはなち、後に政府の語学者となる島倉伊之助(司馬凌海)、さらに、阿波藩の医師になり、後に官軍の病院長にまでなるものの、戊辰戦争後にやめてしまう関寛斎の3人の生き様が中心です。

 いずれの人物も一筋縄ではいかない個性派ぞろいですが、それを描く司馬さんの目線は温かさにあふれています。

 松本良順は、幕府の形式主義的な官僚を徹底的に嫌い、たくさんの敵を作ってしまいますが、その正義感からか将軍の信頼は厚い人物です。

 なぜか新選組が好きで、戊辰戦争では会津にまで行って、怪我人の手当てに当たります。

 戊辰戦争では良順の長崎時代の同僚である関寛斎が官軍側の医師として参加し、二人は歴史のいたずらに翻弄されます。

 一方、伊之助は、そういう不幸な状況を手をこまねいて見守るしかありません。

 戦争というものが、大義はどうであれ、いかに残酷なものであるかが描かれますし、犠牲になるのは庶民なんだなと改めて考えさせられます。

 結局、良順は戊辰戦争後に新政府に逮捕され、しかし、後日、政府の医学総監になります。

 伊之助は新政府の外国人医師の通訳をつとめ、オランダ語、英語、ドイツ語、イタリア語などを修め、大学教授にまでなります。

 席寛斎は農民に戻り、なんと北海道の陸別に開拓に入り、日本一の寒さで有名な自然の厳しい土地で開拓の基礎を作ります。

 それぞれの生き方がそれぞれに示されます。 

 どさんこのじーじとしてはやはり北海道に渡った関寛斎の生き方に魅かれますが、しかし、お偉方と喧嘩ばかりしている良順の生き方も大好きです。

 こうしてみると、じーじはやはり昔から反体制派のところがあったんだなとつくづく思ってしまいます。

 どんなふうに生きても人生70~80年。それならば自分に正直に、後悔のないように生きたいなと改めて思います。

 じーじにも勇気をくれる、心地よい、いい小説でした。          (2019.3 記)

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梨木香歩『西の魔女が死んだ』2001・新潮文庫-おばあちゃんの知恵と対話をしながら成長する女の子を描く

2025年04月25日 | 小説を読む

 たぶん2017年のブログです

     *  

 自然の素晴らしさやすごさや厳しさなどをていねいに小説やエッセイに描いていらっしゃる梨木香歩さんの小説、『西の魔女が死んだ』(2001・新潮文庫)をようやく読みました。

 前から気になってはいたのですが、なかなか読めずにいて、ようやく読めました(梨木さん、ごめんなさい)。

 いい小説です。

 いろいろ大切なことが、自然に述べられていて、心地よいです。

 主人公は、友達関係から不登校になった女の子。

 気分転換をかねて、おばあちゃんのうちでしばらく過ごします。

 お父さんやお母さんとは違う価値観、考え方、生活スタイルの中で過ごすうちに、女の子も少しずつ変化します。

 楽しいことや甘いことだけではなく、厳しいことやつらいこと、悲しいことともいっぱい遭遇しますが、少しずつ女の子は強くなっていきます。

 いろんなことが、人によって、読み込める、魅力的な小説だと思います。

 おそらく正解はないのでしょうが、いろいろな学びがありそうです。

 それは人生と同じかもしれません。

 できることなら、どんな人生からもよい学びを得て、ゆとりのある生き方をしていきたいなと思わせられるようないい小説です。

 どんな世代の人にもおすすめですが、特に、多感な思春期の人たちに読んでもらえたらいいのではないかな、と思います。 (2017?記)

 

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逢坂剛『十字路に立つ女』1992・講談社文庫-私立探偵岡坂神策が活躍するハードボイルド小説です

2025年04月01日 | 小説を読む

 2021年2月のブログです

     *

 逢坂剛さんの『十字路に立つ女』(1992・講談社文庫)をかなり久しぶりに読みました。

 すごく面白かったです。

 逢坂さんの小説の紹介は初めてかもしれません。

 実はじーじは昔から逢坂さんのかなりのファンなのですが、年末から読んでいた哲学者の木田元さんがやはり逢坂さんのファンということで、ここのところ、逢坂さんの小説を読み返しています。

 逢坂さんの小説はエンターテインメントで、とても面白いので、熱中してしまうところが玉に瑕です。

 本書もまさにそうで、一日で一気に読んでしまいました(もったいない、もったいない)。

 あらすじは例によってあえて書きませんが、地上げや腎移植、薬物中毒などの問題が、私立探偵というか、スペイン研究家というか、何でも屋の主人公である岡坂神策の周りで進行します。

 今回はスペイン研究の女子学者さんとの恋愛模様もサービスされていて、それはそれは面白い物語が展開します。

 もっとも、中年男子の主人公のこと、周囲の人々の哀しみにも立ち会うことが多く、なかなか切ない場面も多くあります。

 そう、これはかなりおとなの物語です。

 若い人はあと10年くらいしてから読むと、このよさが味わえるかもしれません(?)。

 いずれにしても、なかなか凝った、しかし、いい小説です。

 生きづらくで、モヤモヤしているような時には、とてもいい刺激剤になりそうです。           (2021.2 記) 

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伊岡瞬『いつか、虹の向こうへ』2005・角川書店-元刑事の中年男子と4人の同居人が織りなす少しだけ哀しい物語

2025年03月31日 | 小説を読む

 2021年2月のブログです

     *

 伊岡瞬さんの『いつか、虹の向こうへ』(2005・角川書店)を読みました。

 面白かったです。

 何日か前に、本書の感想文をあるかたのブログで読ませてもらって、面白かったので読みたくなり、たしかあったよな、と思いながら本棚を探してみたら、下のほうにひっそりとありました。

 2005年の本で、貧乏なじーじにはめずらしく単行本、ひょっとすると古本屋さんで購入したのかもしれません。

 なかみは当然(?)、すっかり忘れていて、「いつか、虹の向こうへ」という少し格好良すぎる題名で敬遠をしていたのかもしれません(伊岡さん、ごめんなさい)。

 しかーし、いい小説です。

 一日で一気に読んでしまいました。

 あらすじはあえて書きませんが、登場人物の5人がそれぞれ哀しい過去を抱えながらも、新しい出会いとある事件をきっかけに、少しだけ前を向いて生きることなります。

 人は生きているだけで、悪意はなくても他人を傷つけてしまうかもしれないということ、そういう哀しみをうまく描いています。

 そして、哀しいことに悪意のある者も少なくないことも描きます。

 そこで試されることは何なのか、考えさせられます。

 贖罪、赦し、…。

 重たい課題ですが、希望といえないまでも、前を向ける何かは感じられそうな気がします。

 そういうことを考えたり、思ったり、感じたりできる、いい小説だと思います。           (2021.2 記)

 

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樋口有介『11月そして12月』2009・中公文庫-カメラマン志望男子とマラソン女子との切ない恋愛物語です

2025年03月28日 | 小説を読む

 2023年3月のブログです

     *

 またまた有介ワールドに浸ってしまった。

 樋口有介『11月そして12月』(2009・中公文庫)。

 マラソン女子とカメラマン志望の主人公の切ない恋愛物語。

 青春だなー。

 しかし、有介さんはうまいな、と思う。

 文章も物語も…。

 七十近いじーじが読んでしまうのだから、すごい。

 じーじもこんな恋愛をしてみたかったなあ、と思ってしまう。

 「きみに会ってから、毎日練習をしていた」

 「大人になることを?」

 どう?この会話。すごいでしょう?

 二人の出会いからしてとても素敵だが、それは読んでのお楽しみ。

 物語は、不倫をしていた姉の自殺未遂や父親の浮気発覚などで、家庭内のごたごたに巻き込まれる主人公と、将来を嘱望されていたのに人間関係からマラソンをやめてしまった女の子とのさり気ない恋愛を描く。

 もっとも、有介ワールドだから、深刻なテーマのわりに、雰囲気は暗くなく、姉や父親の困ったちゃんぶりは面白いし、主人公と女の子のつきあいはまどろっこしくて、ういういしくて、楽しい。

 読んでいて楽しいし、読後感もすがすがしい。

 まさに有介ワールドだ。

 いい時間をすごせて幸せな1週間だった。           (2023.3 記)

 

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藤原伊織『ひまわりの祝祭』1997・講談社-ゴッホの「ひまわり」をめぐる哀しくも強い物語

2025年03月25日 | 小説を読む

 2021年3月のブログです

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 藤原伊織さんの『ひまわりの祝祭』(1997・講談社)を久しぶりに読みました。

 おそらく20何年ぶり(藤原さん、ごめんなさい)。

 本棚の横に積み上げてあった本の山の中から発掘(?)しました。

 これがいい小説。

 おとなの哀しみを描きながら、生きることの多少のよさも描いていて、読んでいて心地よいです。

 例によって、あらすじはあえて書きませんが、ゴッホの「ひまわり」という絵をめぐる物語。

 じーじでも、ドキドキ、ハラハラする展開です。

 登場人物がまたなかなか魅力的。

 主人公だけでなく、周囲の人たちも魅力的です。

 そういえば、『海辺のカフカ』のホシノくんのような登場人物も出てきます。

 少しのユーモアと遊びごごろが、物語の哀しみを救っています。

 おとなの小説でしょうね。

 いい小説を再読できて幸せです。          (2021.3 )

 

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佐伯一麦『日和山-佐伯一麦自選短編集』2014・講談社文芸文庫-真摯に生きること

2025年03月21日 | 小説を読む

 2018年のブログです

     *

 先日、佐伯一麦さんの『空にみずうみ』を読んで、とても良かったので、今度は本棚の隅にあった同じく佐伯さんの『日和山-佐伯一麦自選短編集』(2014・講談社文芸文庫)を再読してみました。

 4年ぶりの再読です。

 こちらも良かったです。

 表題作の「日和山」は東日本大震災からまもなくの仙台を舞台に書かれていますが、地震や津波、停電、断水、原発などの不安に慄きながら生活をする普通の人々を書いていて、秀逸です。

 しかも、それらの不安の底に、津波で流される人々を目撃してしまったこころの外傷も冷静に描きこまれていて、佐伯さんの問題意識の鋭さを垣間見せます。

 震災から7年、原発の問題はなかったかのように扱われ、再稼働が横行し、また、今回の地震で停電が大問題になっても、電力会社や政府は責任を取らず、市民に節電を呼びかけるという破廉恥なことを平気でしていて、年寄りや子どもには住みにくい国になろうとしています。

 そんな絶望的な中、アスベストによる喘息を抱えながら、佐伯さんは温かい目で世の中と人々を見つめ、丹念に文章を綴っていて、すごいな、と感心させられます。

 少しでも見習いたいな、と思います。

 なお、他にもとても良い小説が並んでいて、読後感がとてもいいです。

 個人的には、別れた父子の面会交流が描かれた「青葉木菟(あおばずく)」がいいなと思いました。

 3年ぶりに会った小学生の息子の好物を忘れてしまった父親のばつの悪さとそれをかばう息子の健気さを読んでいると、涙が出てきました。

 別れた親子の面会交流が純文学の小説に描かれるのは、まだまだ数少なく、貴重な小説ではないかと思われました。

 またまた良質の小説が読めて、幸せだな、と思います。            (2018. 10 記)

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なだいなだ『れとると』1975・角川文庫-心理療法のすごさを教えられた小説です

2025年03月18日 | 小説を読む

 たぶん2017年のブログです

     * 

 またまた古い本を再読しました。

 なだいなださんの『れとると』(1975・角川文庫)。

 読んだのはたぶんじーじが家庭裁判所で働きはじめた頃、今から40年くらい前のことです。

 当時、じーじと一緒に採用になったのがW大の心理学科を出た優秀な同僚。 

 じーじは四流私大の社会学科しか出ていませんでしたが、彼はそんなじーじにも臨床のことをいろいろと親切に教えくれました。

 じーじたちは、仕事帰りによく駅前の居酒屋でお酒を飲みながら、仕事のことについて熱く議論をしていました(シーナさんじゃないですけど、思えば黄金の日々でした)。

 ある時、じーじが、非行少女の援助をしていて、結婚を考えるくらい真剣に応援したいな、と話したところ、W大くんが、赤坂さん、それは違います、なだいなださんの『れとると』を読むといいですよ、と勧めてくれました。

 さっそく、小説『れとると』を購入して読んでみたところ、そこには心理療法における転移性恋愛の様子がていねいに描かれていて、心理学音痴だったわたしにもよく理解できました。

 それからのじーじは、心理療法や精神医学の勉強をする必要性を強く感じて、河合隼雄さんや土居健郎さんの本などを読み始めました。

 そういう意味で、『れとると』はじーじにとってもとても重要な小説で、それを教えてくれたW大くんには本当に感謝しています。

 心理療法における転移性恋愛の問題は、専門家にも難しい問題で、フロイトさんを含めてさまざまな議論がなされています。

 本書では10歳の不登校の女の子と22歳の視線恐怖の女性の心理療法のお話が、とてもわかりやすく、細やかに描かれていて、心理療法だけでなく、女性をめぐる文学作品としても一流だと思います。

 本書には主人公の精神科医を指導するスーパーヴァイザーが出てきますが、どうも土居健郎さんがモデルのようで、その冷静さや正確さも魅力的です。

 久しぶりに読みかえしてみましたが、今でも色褪せない魅力的な小説だと思います。

 さらにいい仕事をしていきたいな、と強く思いました。           (2017?記)

     *

 ゆうわファミリーカウンセリング新潟(じーじ臨床心理士・赤坂正人・個人開業)のご紹介

 経歴 

 1954年、北海道函館市に生まれ、旭川市で育つ。

 1970年、旭川東高校に進学するも、1年で落ちこぼれる。 

 1973年、某四流私立大学文学部社会学科に入学。新聞配達をしながら、時々、大学に通う。 

 1977年、家庭裁判所調査官補採用試験に合格。浦和家庭裁判所、新潟家庭裁判所、同長岡支部、同新発田支部で司法臨床に従事する。

 1995年頃、調査官でも落ちこぼれ、家族療法学会や日本語臨床研究会、精神分析学会、遊戯療法学会などで学ぶ。 

 2014年、定年間際に放送大学大学院(臨床心理学プログラム・修士課程)を修了。 

 2017年、臨床心理士になり、個人開業をする。

 仕事 個人開業で、心理相談、カウンセリング、心理療法、家族療法、遊戯療法、メールカウンセリング、面会交流の援助などを相談、研究しています。

 所属学会 精神分析学会、遊戯療法学会

 論文「家庭裁判所における別れた親子の試行的面会」(2006・『臨床心理学』)、「家庭裁判所での別れた親子の試行的面会」(2011・『遊戯療法学研究』)ほか 

 住所 新潟市西区

 mail  yuwa0421family@gmail.com  

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佐伯一麦『空にみずうみ』2018・中公文庫-震災4年目の日常をていねいに描く

2025年03月18日 | 小説を読む

 2018年のブログです

     *  

 佐伯一麦さんの『空にみずうみ』(2018・中公文庫)を読みました。

 読売新聞夕刊に2014年6月から2015年5月まで連載されたとのことで、震災4年目の日常生活がていねいに描かれます。

 佐伯さんはじーじより五つ年下の仙台出身の作家さん。

 じーじは、高校生の夫婦を描いた『ア・ルース・ボーイ』(1994・新潮文庫)を読んでファンになり、以来、寡作な佐伯さんの小説を時々、読んできました。

 時々、というのは、小説の主人公が仕事のアスベストで健康を害し、生活に苦しみ、離婚を経験するという流れがじーじには少し辛くて、読めない時期もあり、小説の中で主人公が再婚をしたあたりから、少し穏やかな生活になって、その頃のお話から安心をして読めるようになったといういきさつがあるからです。

 もちろん、本作でも、震災の影はいたるところにあって、決して安穏ではないのですが、主人公夫婦は周囲の友人たちと一緒に落ち着いた生活を送り、その落ち着きが読者のこころの落ち着きをも誘います。

 庭の草花、虫たち、公園の木々、動物、猫や犬、そういったささいなものたちが人々とともに暮らしていることがわかります。

 その「普通」さがとても平凡ゆえに、震災の経験を経ると、それらがとても貴重なものに思われてきます。

 大きな事件は起きませんが、不思議とこころが落ち着く、良質な小説です。

 とくに、人生のいろいろな経験を経てきたやや年配の人たちには頷けるところが多い小説だと思います。

 そして、経験の中で見落としてきたかもしれない「普通」の良さ、大切さを再確認できるかもしれません。

 いい小説が読めて、幸せだな、と思います。           (2018.8 記)

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池澤夏樹『双頭の船』2015・新潮文庫-これまた不思議な、しかし、確たる意思を強く感じる物語です

2025年03月16日 | 小説を読む

 2019年のブログです

     *

 池澤夏樹さんの『双頭の船』(2015・新潮文庫)を読みました。

 この本も旭川の本屋さんで見つけたもの。

 4年遅れの読書となりました。

 おもしろかったです。

 久しぶりにワクワクしながら読み進めました。

 不思議な物語です。

 東日本大震災のあとの東北地方が舞台ですが、おとなの童話のような、しかし、リアルなお話。

 生きているものと死するもの、記憶と追悼、祈りと希望、そして、土への郷愁。

 どれが正解ともいえず、正解がいくつもあるであろう人生のひとコマ、ひとコマを描きます。

 明らかな悪者は出てきませんが、いわゆる民主主義、多数決主義の怖さにも触れます。

 人の幸せとは、と明示はしませんが、考えるきっかけを提示します。

 読後感がとてもいいです。

 なんだか元気の出る、しかし、カラ元気ではない、しっとりと生きていけるようになる本かもしれません。          (2019.8 記)

     *

 2021年10月の追記です

 多数決至上主義の怖さということを考えます。

 多数決はもちろん大切なのですが、もっと重要なのは、話し合いの深化と民意の熟成ではないでしょうか。

 先日、ある町で、鼻出しマスクの議員さんの辞職勧告決議のニュースを観ましたが、十分な話し合いがなされないままに議決だけが急がれた印象を受けました。

 多数決の暴力に通じなければいいのですが…。

 戦争中にもそういうことがあったような気がします。            (2021.10 記) 

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原田マハ『丘の上の賢人-旅屋おかえり』2021・集英社文庫-ちからのあるいい小説です

2025年03月08日 | 小説を読む

 2022年3月のブログです

     *

 原田マハさんの『丘の上の賢人-旅屋おかえり』(2021・集英社文庫)を読む。

 小説、作り話とわかっていて読むが、いい物語で、いつの間にか涙がじわーんとなってしまう。

 じーじはいいかげん枯れはてた年寄りなので、もう水分なんてなくなってしまったかな(?)と思っていたが、不覚にもじわーんと涙が出てきてびっくりする(読んだあと、水分補給をしなければと(?)、あわててビールをたくさん呑んでしまった)。

 冗談はさておき、いい小説である。

 例によって、あらすじはあえて書かないが、依頼者にかわって旅をする主人公がすがすがしい。

 素直で、体当たりの行動が、周りの人々の感情を解きほぐしていく様子がすがすがしい。

 これは小説だ、こんな都合よくいかないだろう、こんなこと実際には起こるわけないだろう、と思いつつも、こころの深いところが温められるというか、癒されるというか…。

 やっぱり、いい小説だ、としかいいようがない。

 ここのところ、いろいろ嫌なことが重なって、こころが少しふさいでいたが、本書を読んで、こころが軽くなった。

 いい小説のちからはやはりすごいな、と再確認をする。

 ちからのある小説に出会えて、幸せだと思う。          (2022.3 記)

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樋口有介『横浜ではまだキスをしない』2018・ハルキ文庫-本の帯に「ザ・青春ミステリーの登場」とあります

2025年02月21日 | 小説を読む

 2018年のブログです

     * 

 樋口有介さんの『横浜ではまだキスをしない』(2018・ハルキ文庫)を読みました。

 すごーく面白かったです。

 久しぶりに有介ワールドを堪能しました。

 じーじは樋口有介さんの小説が大好きですが、世間的にはどうなのでしょう。

 じーじにとっては、村上春樹さんと先日ご紹介をした東直己さん、そして、樋口有介さんの3人が現代日本の小説作家のベスト3ではないかとひそかに思っています。

 3人とも文章がうまいですし、お話は一見、軽妙ですが、なかみはかなり深いです。

 その人間観察、表現、ストーリー、内包している物語、男女のありかた、などなどは、とても読んでいて小気味よい感じがします。

 さて、本書、久しぶりに樋口さんのデビュー作『ぼくと、ぼくらの夏』(第6回サントリーミステリー大賞読者賞受賞作)を思い出させるような男子高校生が主人公の青春推理小説です。

 樋口さんには柚木草平シリーズという私立探偵ものの小説があって、これもとても面白くて、いい小説シリーズですが、それにひけをとらないくらいの推理小説になっていて、あらすじはあえてご紹介しませんが、最後までどきどきしながら読み進められます。

 登場人物は、樋口さんお得意の、それぞれに魅力的な老若男女で、人間観察がなかなか深いです。

 何より読後感がすがすがしいです。

 生きることの哀しみがしみじみと胸にせまっていますが、しかし、生きることはやっぱりいいな、と思わせてくれる、いい小説です。

 若い人だけでなく、中年や老年の人生にややくだびれてきた人にもぜひおすすめの一冊です。        (2018 記)

     *

 2020年6月の追記です

 先日、息子がじーじの本棚から、樋口有介さんの本を何冊か持っていきました。

 息子もファンのようです。

 ちょっとだけ、うれしかったです。         (2020.6 記)

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 2021年夏の追記です

 最初の時に書き忘れたのですが、この小説の重要な登場人物(?)のひとりが幽霊と共存しているネコちゃんで、この彼女(?)がいい味を出しています。

 小説ですからね、許されますよね(?)。

 なかなか存在感のあるかわいいネコちゃんです。

 そういえば、樋口さんの『窓の外は向日葵の畑』(2010・文藝春秋)にも幼なじみのかわいい幽霊が出てきますね。

 樋口さんは若い女性だけでなく、幽霊もお好き(?)なのかもしれません。        (2021.8 記)

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