臆病なビーズ刺繍

 臆病なビーズ刺繍にありにしも
 糸目ほつれて今朝の薔薇薔薇

「穂村弘第一歌集『シンジケート』編(其の2)

2017年12月04日 | 〈近現代短歌集の鑑賞〉萬夜萬冊
○  九官鳥しゃべらぬ朝にダイレクトメール凍って届く二月     穂村弘

 いくらお喋りで律義者の「九官鳥」とは言え、口を引き裂かれようが、米沢牛の霜降り肉を一万トンも目の前に積まれようが、一年に一度や二度くらいは、「絶対にしゃべらないぞ!」「あの生意気なホムホム相手には、口が裂けてもしゃべってなんかやるもんか!」などと覚悟を決める場合がありますから、件の「九官鳥」の怠慢行為自体は決して責められません。 
 問題は、その朝に限って、「ダイレクトメール」が「凍って届」いたことである。
 作者のホムホムも、当然ご承知のことと思われますが、季節が「二月」ですから、ままあることではありますが、貴殿宛の「ダイレクトメール」が「凍って届」」いた責任は、一に媒介業者の郵便局もしくはクロネコヤマトにありましょう。
 だが、つい先日、耳にした話によりますと、昨今に於いては、ダイレクトメール代行業者なる、新手の中間媒介業者が業界に現れ出て、件の業者どもは、〈くろねこDМ便〉や〈Uメール〉などと結託して儲け仕事を企んでいる、とのことでありますから、事の責任の一端は、そこいら辺に存在するかも知れません。
 とは言え、悲憤慷慨の余り、見ず知らずの業者に手当たり次第にクレームをつけても逆襲されるかも知れませんから、事前に、よくよく調査して、事に当たらなければなりませんよ!
 再読してみるに、本作の趣旨は、ただ単に「二月という季節は、あのお喋りの九官鳥が口を閉じて黙る程にも、砂子屋書房からのダイレクトメールが固く凍って届く程にも厳寒の季節なのだ」と言いたいだけのことなのかもしれません。
 伝書鳩ならまだしも、南蛮渡来の九官鳥とダイレクトメールのミスマッチ的な取り合わせがホムホム的で面白い。

「穂村弘第一歌集『シンジケート』編(其の1)

2017年12月04日 | 〈近現代短歌集の鑑賞〉萬夜萬冊
○  停止中のエスカレーター降りるたび声たててふたり笑う一月   穂村弘

 歌い出しに「停止中のエスカレーター降りるたび」とあるが、そもそもの話をすれば、〈使って安心〉の三菱電機や日立製作所製造のそれにだろうが、彼の〈悪名高い〉シンドラー社製造のそれにだろうが、選りも選って、彼ら(もしくは、彼と彼女)「ふたり」が、一体全体、どんな理由で以て、「停止中」の「エスカレーター」なんぞに乗ってしまったのか、という点に就いて、評者の私としては、先ずを以ての問題としなければなりません。
 件の二人は、その時その場で、拠ん所ない事情があって慌てていたのかも知れません。
 だが、類い希なる理性を以て知られる評者の私としては、作中の三句目の末尾に用いられている、風体怪しい名詞「たび」の存在を無視して、この傑作の論評に係るわけには行きません。
 手元に在る国語辞典『新明解国語辞典』(第五版)の解説によりますと、「たび」とは、{ときは(いつも)」という意味で使われ、その用例としては「見るたび」と記されていますが、こうした我が国語の常用語・基礎的語とも言うべき語の使用に就いては、他人ならともかくとして、他ならぬ私の場合は、敢えて『新明解国語辞典』なんぞのお世話にならなくても宜しいのである。
 即ち、上掲の三句目の末尾の名詞「たび」が、「ときは(いつも)」という意味であり、「見るたび」などという表現に使うことが許されるならば、「乗るたび」「降りるたび」、或いは、「死ぬたび」「生きるたび」「セックスするたび」などという表現にも使うことが許されましょう。
 したがって、作中の「ふたり」は、「停止中のエスカレーター」に、一度ならぬ二度も三度も百度も千度も乗っていたのであり、乗ってはみたものの擦っても叩いても動くはずはありませんから、そのたびごとに、慌てて「降り」なければならないハメに陥っていたのでありましょう。
 私の生活周辺の出来事を見回してみても、そうしたことはままあることでありますから、そのこと自体はそれほど問題視しなければならないことではありません。
 だが、私が問題にしなければならないと思うのは、「停止中のエスカレーター」から慌てて「降り」てからの、彼ら「ふたり」の不届き極まりない態度なのである。
 何と驚いたことに、彼ら「ふたり」は、揃いも揃って、自分たち「ふたり」の不注意が原因で乗ってしまった「故障中のエスカレーター」から「降り」た後に、「声たてて笑う」などという、前代未聞の不届き千万の行為をしでかしてしまったんですよ。
 しかも、揃いも揃って「ふたり」してですよ!、しかも、年の初めの「一月」からですよ!
 かかる事態こそは、絶対に見過ごすことが出来ない行為。
 即ち、アベノミクス顔負けの破廉恥行為、重大な責任転嫁ではありませんか!
 私、鳥羽省三は、今後一切、彼ら「ふたり」を、なかんずく、その首謀者たるホムホムを人間として認めるわけには行きませんから、その点に就いては、本ブログの愛読者の方々も、宜しくご承知おき下さいませ!