[佐佐木幸綱選]
○ 百歳過ぎてなほ息災に過ごしゐる仕合せさへもときに忘るる (茅ヶ崎市)若林禎子
「仕合せさへもときに忘るる」が如き境地に身を置く事こそは〈至高の幸福〉でありましょうが、何はともあれ、御年・百一歳にして尚且つ、斯くの如き完成度の高い一首を詠み得る事に対しては、評者の私としても敬服せざるを得ません。
○ はっきりとイエスとノーの言える子に育てたことを反省してる (三郷市)木村義煕
私たち日本人は、ややもすれば「イエスとノーの区別をはっきりと口に出して言えないのが、私たち日本人の最大の欠点である。これからの子供は、国際社会で活躍して米弗紙幣をたんまりと稼ぎ、母国日本の経済復興に寄与しなければならないのであるから、こうした点に就いては、よくよく注意しなければなりません」などという事を、平気で言ったりするのである。
だが、自分たちの娘が、現実に「私は、お父さんやお母さんの〈下の世話〉などは、決して、決してするつもりはありませんから、お父さんもお母さんも、ヨイヨイになる前に介護施設に行ってね!」などと、あからさまに言ったりしたら、「こんな娘に育ててしまったのは、我が人生での数多い失敗の中の一つであった。大いに反省しなければならない」などと言うのでありましょう。
[反歌] 是と非との違ひ黙して知事殿は落し所を覗つて居り 鳥羽省三
○ ゆるすこと教えてくれた夏でした晴れのち雷雨夕方に虹 (富山市)松田梨子
松田姉妹のお姉さんの梨子さんは、この夏休み中に、例えば、失恋などの手痛い人生経験をして、少しは成長したのかも知れません。
「晴れのち雷雨夕方に虹」という下の句は、作者本人としては「意味深な十四音」との思いでの表現ではありましょうが、こんな悪戯をするようでは、彼女もまだまだである。
○ 半袖のセーラー服はもう今日でおしまいさよなら中3の夏 (富山市)松田わこ
久方ぶりの〈松田短歌姉妹の揃い踏み〉であるが、この姉妹対決の結末に就いては、明らかに妹の松田わこさんに軍杯を揚げざるを得ません。
本作は、〈馬場あき子選〉の入選作でもある。
夜来の颱風にひとりはぐれた白い雲が
気のとほくなるほど澄みに澄んだ
かぐはしい大気の空をながれていく
太陽の燃えかがやく野の景観に
それがおほきく落す静かな翳は
……さよなら……さようなら……
……さよなら……さようなら……
いちいちさう頷く眼差のやうに
一筋ひかる街道をよこぎり
あざやかな暗緑の水田の面を移り
ちひさく動く行人をおひ越して
しづかにしづかに村落の屋根屋根や
樹上にかげり
……さよなら……さようなら……
……さよなら……さようなら……
ずつとこの会釈をつづけながら
やがて優しくわが視野を遠ざかる (伊東静雄作『夏の終り』)
○ あおむしはきれいなちょうちょになりました保育所の小さな虫かごの中 (横浜市)有田佐智
童話的な内容の一首であるから、上の句の〈ひらがな書き〉や〈蝶々〉を「ちょうちょ」とした点なども効果的であり好感が持てる。
○ 二十番札所は阿波の鶴林寺庭にでっかき鶴の像立つ (富士吉田市)萱沼勝由
作者の富士吉田市にお住まいの萱沼勝由さんは、頼まれもしないのにわざわざ徳島くんだりまで足を運び、「二十番札所は阿波の鶴林寺」の観光案内(参詣案内)をしているみたいであるが、本作は、「庭にでっかき鶴の像立つ」という実感と感動を伴った下の句を置くことに依って、単なる観光案内、参詣案内に堕する事から救われている。
○ 今日の船乗らねば座間味に足止めと緊張はしる朝の食堂 (所沢市)鈴木高志
沖縄県は「座間味」島の「緊張はしる朝の食堂」で、本作の作者・鈴木高志さんは、〈冷やし沖縄蕎麦〉を食べているのでありましょうか?
座間味島の食堂「ヘルシー食彩・たんぽぽ」には、前掲〈冷やし沖縄蕎麦〉の他に、〈ヘルシー弁当〉や〈手作りコロッケ〉なども有り、いずれも格安価格で食べられますから、次回ご来島の節は宜しくご賞味下さい。
○ 上京して困った時は両さんに相談せよと子を送り出す (太宰府市)野上伊都子
「上京して困った時」の「相談」相手として、「両さん」と具体的な名前(愛称)を上げた点が、本作を駄作の位置から掬い上げているのでありましょう。
ところで、その「両さん」の「両」とは、どんな氏名の略称でありましょうか?
「良さん」や「遼さん」ならまだしも、苗字にでも名前にでも「両」なんて一字が付くような人物には、寡聞にして私は、これまでにたったの一度も出会ったことがありません。
○ そーっとねひざのかさぶたはがしたらゆうやけみたいな色をしてたよ (熊谷市)茂出木雪穂
「そーっと」「はがし」てみた「ひざのかさぶた」が「ゆうやけみたいな色をしてたよ」とは、まさしく実感の伴った、素晴らしい表現である。
松田姉妹や室文子さんの〈ビックライバル〉登場!
お三方とも、これからは決して、決して油断がなりませんぞ!
○ せたけより長い紙にかきましたかきぞめ大会はじめてのおうぼ (大阪市)吉田新宝
仲秋の今になって「かきぞめ大会」とは、大阪市にお住まいの吉田新宝さんよ!あんたはんはボケちゃってんのとちゃう!
[反歌] 背丈より長い紙なら〈条幅〉で半分こすれば〈半切〉と謂ふ 鳥羽珍宝
○ 百歳過ぎてなほ息災に過ごしゐる仕合せさへもときに忘るる (茅ヶ崎市)若林禎子
「仕合せさへもときに忘るる」が如き境地に身を置く事こそは〈至高の幸福〉でありましょうが、何はともあれ、御年・百一歳にして尚且つ、斯くの如き完成度の高い一首を詠み得る事に対しては、評者の私としても敬服せざるを得ません。
○ はっきりとイエスとノーの言える子に育てたことを反省してる (三郷市)木村義煕
私たち日本人は、ややもすれば「イエスとノーの区別をはっきりと口に出して言えないのが、私たち日本人の最大の欠点である。これからの子供は、国際社会で活躍して米弗紙幣をたんまりと稼ぎ、母国日本の経済復興に寄与しなければならないのであるから、こうした点に就いては、よくよく注意しなければなりません」などという事を、平気で言ったりするのである。
だが、自分たちの娘が、現実に「私は、お父さんやお母さんの〈下の世話〉などは、決して、決してするつもりはありませんから、お父さんもお母さんも、ヨイヨイになる前に介護施設に行ってね!」などと、あからさまに言ったりしたら、「こんな娘に育ててしまったのは、我が人生での数多い失敗の中の一つであった。大いに反省しなければならない」などと言うのでありましょう。
[反歌] 是と非との違ひ黙して知事殿は落し所を覗つて居り 鳥羽省三
○ ゆるすこと教えてくれた夏でした晴れのち雷雨夕方に虹 (富山市)松田梨子
松田姉妹のお姉さんの梨子さんは、この夏休み中に、例えば、失恋などの手痛い人生経験をして、少しは成長したのかも知れません。
「晴れのち雷雨夕方に虹」という下の句は、作者本人としては「意味深な十四音」との思いでの表現ではありましょうが、こんな悪戯をするようでは、彼女もまだまだである。
○ 半袖のセーラー服はもう今日でおしまいさよなら中3の夏 (富山市)松田わこ
久方ぶりの〈松田短歌姉妹の揃い踏み〉であるが、この姉妹対決の結末に就いては、明らかに妹の松田わこさんに軍杯を揚げざるを得ません。
本作は、〈馬場あき子選〉の入選作でもある。
夜来の颱風にひとりはぐれた白い雲が
気のとほくなるほど澄みに澄んだ
かぐはしい大気の空をながれていく
太陽の燃えかがやく野の景観に
それがおほきく落す静かな翳は
……さよなら……さようなら……
……さよなら……さようなら……
いちいちさう頷く眼差のやうに
一筋ひかる街道をよこぎり
あざやかな暗緑の水田の面を移り
ちひさく動く行人をおひ越して
しづかにしづかに村落の屋根屋根や
樹上にかげり
……さよなら……さようなら……
……さよなら……さようなら……
ずつとこの会釈をつづけながら
やがて優しくわが視野を遠ざかる (伊東静雄作『夏の終り』)
○ あおむしはきれいなちょうちょになりました保育所の小さな虫かごの中 (横浜市)有田佐智
童話的な内容の一首であるから、上の句の〈ひらがな書き〉や〈蝶々〉を「ちょうちょ」とした点なども効果的であり好感が持てる。
○ 二十番札所は阿波の鶴林寺庭にでっかき鶴の像立つ (富士吉田市)萱沼勝由
作者の富士吉田市にお住まいの萱沼勝由さんは、頼まれもしないのにわざわざ徳島くんだりまで足を運び、「二十番札所は阿波の鶴林寺」の観光案内(参詣案内)をしているみたいであるが、本作は、「庭にでっかき鶴の像立つ」という実感と感動を伴った下の句を置くことに依って、単なる観光案内、参詣案内に堕する事から救われている。
○ 今日の船乗らねば座間味に足止めと緊張はしる朝の食堂 (所沢市)鈴木高志
沖縄県は「座間味」島の「緊張はしる朝の食堂」で、本作の作者・鈴木高志さんは、〈冷やし沖縄蕎麦〉を食べているのでありましょうか?
座間味島の食堂「ヘルシー食彩・たんぽぽ」には、前掲〈冷やし沖縄蕎麦〉の他に、〈ヘルシー弁当〉や〈手作りコロッケ〉なども有り、いずれも格安価格で食べられますから、次回ご来島の節は宜しくご賞味下さい。
○ 上京して困った時は両さんに相談せよと子を送り出す (太宰府市)野上伊都子
「上京して困った時」の「相談」相手として、「両さん」と具体的な名前(愛称)を上げた点が、本作を駄作の位置から掬い上げているのでありましょう。
ところで、その「両さん」の「両」とは、どんな氏名の略称でありましょうか?
「良さん」や「遼さん」ならまだしも、苗字にでも名前にでも「両」なんて一字が付くような人物には、寡聞にして私は、これまでにたったの一度も出会ったことがありません。
○ そーっとねひざのかさぶたはがしたらゆうやけみたいな色をしてたよ (熊谷市)茂出木雪穂
「そーっと」「はがし」てみた「ひざのかさぶた」が「ゆうやけみたいな色をしてたよ」とは、まさしく実感の伴った、素晴らしい表現である。
松田姉妹や室文子さんの〈ビックライバル〉登場!
お三方とも、これからは決して、決して油断がなりませんぞ!
○ せたけより長い紙にかきましたかきぞめ大会はじめてのおうぼ (大阪市)吉田新宝
仲秋の今になって「かきぞめ大会」とは、大阪市にお住まいの吉田新宝さんよ!あんたはんはボケちゃってんのとちゃう!
[反歌] 背丈より長い紙なら〈条幅〉で半分こすれば〈半切〉と謂ふ 鳥羽珍宝