[高野公彦選]
○ おいしいねと一言だけを息子言いサンマの骨の標本残る (横須賀市)矢田紀子
「サンマ」が鯵や鰯や鰹や鱚や太刀魚や飛魚や鰈や鰤や魳や鮲などの他の大衆魚と比較して格別に美味しい訳はありませんし、私自身も秋刀魚を美味しいと思って食べたことはありません。
それなのにも関わらず、秋の味覚と言えば「サンマ」であり、「今年の秋刀魚の水揚げ量は例年に比べて少ない」とか、「秋刀魚が東北や関東にあまり来なくなったのは、沿岸の海水温度が上がったためであろう」などと大騒ぎをするのは、如何なる理由があってのことなのでありましょうか?
最近の子供たちは、私たち昭和生まれの大人たちと比較して「サンマ」を食べる機会が少なく、かつ、美味しい副食とは思っていないものと判断される。
しかしながら、本作の作者・矢田紀子さんのご子息は、ご両親の躾けの宜しきを得て、「サンマ」食べて「『おいしいね』と一言だけ」を言い残して、勉強部屋に引き籠もってしまわれたのでありましょうか?
その後に残された「サンマの骨の標本」は、向かい家の三毛猫タマに遣ろうとしても、最近の飼い猫は「サンマの骨」なんか食べませんから、どうしようもありません。
○ パレードの笑顔の男子メダリストかがんで口にリップ塗りたり (東京都)松本知子
女性という種族はこれだから油断がなりません。
本作の作者・松本知子さんは、過日銀座で行われた、リオデジャネイロオリンピックのメダリスト「パレード」を見物していて、いつ早く、「笑顔の男子」の「メダリスト」が「かがんで口にリップ塗る」様を目にしたのでありましょう。
「パレード」当日のあの暑さの中を車上に居て、並み居る見物客に愛嬌を振り撒いていれば、あの〈卓球愛ちゃん〉だって誰だって、唇が乾いてしまい「リップ」の一つや二つぐらいは塗りたくなりますよ!
[反歌] 柔道の銅メダリストの薫さんが結婚したつて噂が立つた 鳥羽省三
○ 熊でなきことを他人にしらせんとせきばらいする茸取りなり (摂津市)内山豊子
摂津市にお住まいの内山豊子さんと言えば、朝日歌壇の入選者席の常連中の常連であり、その上、最高齢者の一人でありましょう。
その彼女の過去の入選作中で、今になっても私の記憶の中に残っいるのは、過ぐる2013年5月6日の朝日歌壇に掲載された「なぜお酒のませなかったかくやみつつ父のさいごをいまだに想う」である。
その頃の彼女は、老老介護の末にお亡くなりになられたご尊父様に思い出にひたって居られて、春の花見にさえも出掛けれらないほどにも元気を失くしておられたのでありましょうが、あれから三年余りの歳月を閲した今日、そのご高齢者の彼女が「熊でなきことを他人にしらせんとせきばらい」しながらも「茸取り」をなさるなんて、私としてはとても想像だにし得なかった快事であり、怪事でもありましょう。
いくら皺苦茶のお婆さんでも、一目見れば、人間なのか熊なのかぐらいの判断はつきましょう。
○ ジェット機の噴流熱くかぎろえば天に揺れいる基地の月かも (三沢市)遠藤知夫
折からの「満月」を宇宙基地に見立てての一首でありましょうが、評者の私にとつては、本作は文意不明瞭な凡作である。
○ 終はりたる銀木犀の花の香が「燃やせるごみ」の袋に匂ふ (坂戸市)納谷香代子
「人は死んで名を残し、虎は死んで皮残す」とは、よく言ったものでありますが、「終はりたる銀木犀の花」は、強烈な「香」りを残しますから、例えそれが「『燃やせるごみ』の袋」の中に入っていたとしても、ぷーんと似おって来ますよね、埼玉県は坂戸市にお住まいの納谷香代子よ!
[反歌] 終わりたる彼との苦い思ひ出を指輪外した薬指が知る 鳥羽省三
○ きのうまで日陰をさがして歩いてた今朝は日なたをさがして歩く (小山市)山本綾子
ありふれた事柄ながらも、作者なりの発見を披瀝した一首である。
[反歌] 昨日までアッパッパ着て歩いてた今朝はマントを纏つて歩く 鳥羽省三
○ はじめての混浴ですねと妻恥じらう老々介護のふたりの湯船 (福岡市)倉ノ前松
本作の作者のお名前は「倉ノ前松」とおっしゃいますが、それで居て性別は男性なのである。
[反歌] 初めての交接ですねと言ひけむや今は老々介護のふたり 鳥羽省三
○ 栗剥くも栗を食むのも一人きり去年は向かいに君が居たのに (三島市)渕野里子
短歌作品中に「君」という第二人称単数を表す言葉が使われていると、私は、作者の「吾」と作中の「君」との関係を高校時代の同級生かと誤解してしまうのでありますが、本作に於ける「君」は、どうやら、昨年の秋までご息災であった、本作の作者・渕野里子さんのご主人様とお見受け致しました。
[反歌] 栗剥けば君を思ほゆ栗食めば又も思ほゆ吾は独り身 鳥羽省三
○ 料理屋の裏でゴミ出す見習いの指に巻かれた包帯二つ (川崎市)小島 敦
昨今に於いては、「料理屋」などという業種は死語同然になりましたが、本作の作者・小島敦さんは、平然としてそんな言葉を口になさって居られる。
以て、彼の年齢を、少なくても八十代と私は推測しているのである。
○ いいにおいきんもくせいで思い出すじいちゃんそろそろたん生日だな (吹田市)松井愛美
いくら小学生でも「誕生日」は漢字でしっかりと書かなければなりません。それにも関わらず、中途半端に「たん生日」なんて書くもんだから、小学生に甘い高野公彦先生は、すっかり騙されてしまったのではありませんか?
[反歌] いい匂ひ真鱈の一夜干し思ひ出す加齢臭好きの小学五年 鳥羽省三
○ おいしいねと一言だけを息子言いサンマの骨の標本残る (横須賀市)矢田紀子
「サンマ」が鯵や鰯や鰹や鱚や太刀魚や飛魚や鰈や鰤や魳や鮲などの他の大衆魚と比較して格別に美味しい訳はありませんし、私自身も秋刀魚を美味しいと思って食べたことはありません。
それなのにも関わらず、秋の味覚と言えば「サンマ」であり、「今年の秋刀魚の水揚げ量は例年に比べて少ない」とか、「秋刀魚が東北や関東にあまり来なくなったのは、沿岸の海水温度が上がったためであろう」などと大騒ぎをするのは、如何なる理由があってのことなのでありましょうか?
最近の子供たちは、私たち昭和生まれの大人たちと比較して「サンマ」を食べる機会が少なく、かつ、美味しい副食とは思っていないものと判断される。
しかしながら、本作の作者・矢田紀子さんのご子息は、ご両親の躾けの宜しきを得て、「サンマ」食べて「『おいしいね』と一言だけ」を言い残して、勉強部屋に引き籠もってしまわれたのでありましょうか?
その後に残された「サンマの骨の標本」は、向かい家の三毛猫タマに遣ろうとしても、最近の飼い猫は「サンマの骨」なんか食べませんから、どうしようもありません。
○ パレードの笑顔の男子メダリストかがんで口にリップ塗りたり (東京都)松本知子
女性という種族はこれだから油断がなりません。
本作の作者・松本知子さんは、過日銀座で行われた、リオデジャネイロオリンピックのメダリスト「パレード」を見物していて、いつ早く、「笑顔の男子」の「メダリスト」が「かがんで口にリップ塗る」様を目にしたのでありましょう。
「パレード」当日のあの暑さの中を車上に居て、並み居る見物客に愛嬌を振り撒いていれば、あの〈卓球愛ちゃん〉だって誰だって、唇が乾いてしまい「リップ」の一つや二つぐらいは塗りたくなりますよ!
[反歌] 柔道の銅メダリストの薫さんが結婚したつて噂が立つた 鳥羽省三
○ 熊でなきことを他人にしらせんとせきばらいする茸取りなり (摂津市)内山豊子
摂津市にお住まいの内山豊子さんと言えば、朝日歌壇の入選者席の常連中の常連であり、その上、最高齢者の一人でありましょう。
その彼女の過去の入選作中で、今になっても私の記憶の中に残っいるのは、過ぐる2013年5月6日の朝日歌壇に掲載された「なぜお酒のませなかったかくやみつつ父のさいごをいまだに想う」である。
その頃の彼女は、老老介護の末にお亡くなりになられたご尊父様に思い出にひたって居られて、春の花見にさえも出掛けれらないほどにも元気を失くしておられたのでありましょうが、あれから三年余りの歳月を閲した今日、そのご高齢者の彼女が「熊でなきことを他人にしらせんとせきばらい」しながらも「茸取り」をなさるなんて、私としてはとても想像だにし得なかった快事であり、怪事でもありましょう。
いくら皺苦茶のお婆さんでも、一目見れば、人間なのか熊なのかぐらいの判断はつきましょう。
○ ジェット機の噴流熱くかぎろえば天に揺れいる基地の月かも (三沢市)遠藤知夫
折からの「満月」を宇宙基地に見立てての一首でありましょうが、評者の私にとつては、本作は文意不明瞭な凡作である。
○ 終はりたる銀木犀の花の香が「燃やせるごみ」の袋に匂ふ (坂戸市)納谷香代子
「人は死んで名を残し、虎は死んで皮残す」とは、よく言ったものでありますが、「終はりたる銀木犀の花」は、強烈な「香」りを残しますから、例えそれが「『燃やせるごみ』の袋」の中に入っていたとしても、ぷーんと似おって来ますよね、埼玉県は坂戸市にお住まいの納谷香代子よ!
[反歌] 終わりたる彼との苦い思ひ出を指輪外した薬指が知る 鳥羽省三
○ きのうまで日陰をさがして歩いてた今朝は日なたをさがして歩く (小山市)山本綾子
ありふれた事柄ながらも、作者なりの発見を披瀝した一首である。
[反歌] 昨日までアッパッパ着て歩いてた今朝はマントを纏つて歩く 鳥羽省三
○ はじめての混浴ですねと妻恥じらう老々介護のふたりの湯船 (福岡市)倉ノ前松
本作の作者のお名前は「倉ノ前松」とおっしゃいますが、それで居て性別は男性なのである。
[反歌] 初めての交接ですねと言ひけむや今は老々介護のふたり 鳥羽省三
○ 栗剥くも栗を食むのも一人きり去年は向かいに君が居たのに (三島市)渕野里子
短歌作品中に「君」という第二人称単数を表す言葉が使われていると、私は、作者の「吾」と作中の「君」との関係を高校時代の同級生かと誤解してしまうのでありますが、本作に於ける「君」は、どうやら、昨年の秋までご息災であった、本作の作者・渕野里子さんのご主人様とお見受け致しました。
[反歌] 栗剥けば君を思ほゆ栗食めば又も思ほゆ吾は独り身 鳥羽省三
○ 料理屋の裏でゴミ出す見習いの指に巻かれた包帯二つ (川崎市)小島 敦
昨今に於いては、「料理屋」などという業種は死語同然になりましたが、本作の作者・小島敦さんは、平然としてそんな言葉を口になさって居られる。
以て、彼の年齢を、少なくても八十代と私は推測しているのである。
○ いいにおいきんもくせいで思い出すじいちゃんそろそろたん生日だな (吹田市)松井愛美
いくら小学生でも「誕生日」は漢字でしっかりと書かなければなりません。それにも関わらず、中途半端に「たん生日」なんて書くもんだから、小学生に甘い高野公彦先生は、すっかり騙されてしまったのではありませんか?
[反歌] いい匂ひ真鱈の一夜干し思ひ出す加齢臭好きの小学五年 鳥羽省三