臆病なビーズ刺繍

 臆病なビーズ刺繍にありにしも
 糸目ほつれて今朝の薔薇薔薇

「白い花」(丸山薫全集より)

2017年10月02日 | 読詩ノート
  白い花

    春の朝
    電車が郊外の水路に沿つて走るとき
    むかふ岸の籬から一本の木がのびて
    枝に白い花をいつぱいにつけてゐる
    なんといふ花だらう
    木蓮に肖て 見たこともない白い花
    花の影は水底にも映つてゐて
    そこをとほる私の心を一時 晴れやかにする
    まるで死別した人に遭つて談笑してゐるやうな
    しづかな明るい気持にする
    それは決してこの世を厭離せず
    たのしく肯定させるのだ

 『泪した神』より



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