○ 舞う虫が織り成す闇と光との秀逸な対比のレトリック
○ 目の前に黒揚羽舞う朝がありあなたのなにを知ってるだろう
○ 羽虫どもぶぶぶぶぶぶと集まって希望とはその明るさのこと
○ よれよれのシャツを着てきてその日じゅうよれよれのシャツのひとと言われる
○ 鴨川に一番近い自販機のキリンレモンのきれいな背筋
○ この夏も一度しかなく空き瓶は発見次第まっすぐ立てる
○ 立ち直る必要はない 蝋燭のろうへし折れていくのを見てる
○ あすはきょうの続きではなく太陽がアメリカザリガニ色して落ちる
○ ゆるしあうことに焦がれて読みだした本を自分の胸に伏せ置く
○ 殴ることができずにおれは手の甲にただ山脈を作りつづける
○ くれないの京阪特急過ぎてゆきて なんにもしたいことがないんだ
○ 草と風のもつれる秋の底にきて抱き起こすこれは自転車なのか
○ 口笛を吹いて歩けばここに野の来る心地する 果てまで草の
○ ドーナツ化現象のそのドーナツのぱさぱさとしたところに暮らす
○ ああここも袋小路だ爪のなかに入った土のようにしめって
○ マネキンの首から上を棒につけ田んぼに挿している老母たち
○ いつも行くハローワークの職員の笑顔のなかに〈みほん〉の印字
○ 雨という命令形に濡れていく桜通りの待ち人として
○ 思いきってあなたの夢に出たけれどそこでもななめ向かいにすわる
○ ににんがし、にさんがろくと春の日の一段飛ばしでのぼる階段
○ 目撃者を募集している看板の凹凸に沿い流れる光
○ ゆきのひかりもみずのひかりであることの、きさらぎに目をほそめみている
○ 県道を越えてみどりのコンビニへ行く無保険のからだがひとつ
○ 「生きろ」より「死ぬな」のほうがおれらしくすこし厚着をして冬へ行く
○ あかぎれにアロンアルファを塗っている 国道だけが明るい町だ
○ この夏も一度しかなく空き瓶は発見次第まっすぐ立てる
○ 他人から遅れるおれが春先のひかりを受ける着膨れたまま
○ 目撃者を募集している看板の凹凸に沿い流れる光
○ おれだけが裸眼であれば他人事に眼鏡交換パーティー終わる
○ この海にぴったりとした蓋がないように繋いだ手からさびしい
○ 献血の出前バスから黒布の覗くしずかな極東の午後
○ 一語一語をちゃんと区切って話されてなにが大事なことだったのか
○ 電柱のやっぱり硬いことをただ荒れっぱなしの手に触れさせる
○ 満開のなかを歩いて抜けてきたなにも持たない手にも春風
○ リニューアルセールがずっとつづく町 夕日に影をつぎ足しながら
○ しあわせは夜の電車でうたた寝の誰かにもたれかかられること
○ 螺旋階段ひとりだけ逆方向に駆け下りていくあやまりながら
○ 少しずつ月を喰らって逃げている獣のように生きるしかない
○ 生きかたが洟かむように恥ずかしく花の影にも背を向けている
○ 走りながら飲み干す水ののみにくさ いつまでおれはおれなんだろう
○ 情けないほうがおれだよ迷ったら強い言葉を投げてごらんよ
○ 弟がおれをみるとき(何だろう)黒目の黒のそのねばっこさ
○ 丁寧に電話を終えて親指は蜜柑の尻に穴をひろげる
○ 電柱のやっぱり硬いことをただ荒れっぱなしの手に触れさせる
○ へろへろと焼きそばを食う地下二階男五人の二十三時に
○ 職歴に空白はあり空白を縮めて書けばいなくなるひと
○ 三十歳職歴なしと告げたとき面接官のはるかな吐息
○ もうおれはこのひざを手に入れたから猫よあそこの日だまりはやる
○ 行き止まるたびになにかが咲いていてだんだん楽しくなるいきどまり
○ 異性はおろか人に不慣れなおれのため開かれる指相撲大会
○ いま高くはじいたコインのことをもう忘れてとびっきりのサムアップ
○ なんとしてもこの世にとどまろうとしてつぱつぱ喘いでいる蛍光灯
○ 胸を張って出来ると言えることもなくシャツに缶コーヒーまたこぼす
○ のど飴をのどがきれいなのに舐めて二十代最後の二月を終える
○ 恋人はおらず、たぶん童貞。そのことでまたくよくよしたり。
○ 思いきってあなたの夢に出たけれどそこでもななめ向かいにすわる
○ ラブホテルの名前が雑で内装はこのまま知らず死ぬことだろう
○ 唯一の男らしさが浴室の排水口を詰まらせている
○ 相聞歌からほど遠い人里のわけのわからん踊りを見ろよ
○ 三十歳職歴なしと告げたとき面接官のはるかな吐息
○ たぶんこの数分だけの関係で終わるのにおれの長所とか訊くな
○ 関西にドクターペッパーがないということを話して終わる面接
○ なで肩がこっちを責めていかり肩が空ろに笑う面接だった
○ この先はお金の話しかないと気づいて口を急いでなめる
○ さくらでんぶのでんぶは尻じゃないということを覚えて初日が終わる
○ 敵国の王子のようにほほ笑んで歓迎会をやり過ごす
○ 終業はだれにでも来てあかぎれはおれだけにあるインク工場
○ 吐きそうが口癖になる 吐きそうが同僚たちに広がっていく
○ 呼べば応えてくれる仕組みを当然と思うなよ頬に照る街明かり
○ もう堪えきれなくなって駆け込んだ電車のつり革の赤いこと
○ 水を飲むことが憩いになっていて仕事は旅のひとつと思う
○ 二十一の小娘に頭を下げて謝りかたを教えてもらう
○ あかぎれにアロンアルファを塗っている 国道だけが明るい町だ
○ 生命を宿すあなたの手を引いて左京区百万遍交差点
○ 行き止まるたびになにかが咲いていてだんだん楽しくなるいきどまり
○ 春の雨 器用さのない一例にカレー屋でナンちぎりきれない
○ 傘袋、傘より脱げてはるざむの街の路面に溶かされてゆく
○ 「正社員登用あり」と記された求人広告も花まみれ
○ ウォシュレットを取り付けているさびしさは便器に顔を寄せていること
○ 商売と生活をつなぐ道に沿いビル立ち並び、その窓の空
○ ジャム売りや飴売りが来てひきこもる家にもそれなりの春っぽさ
○ パッチワークシティに暮らす人からの手紙や、ばらばらのチェスピース
○ 水際に立ちつくすとき名を呼ばれ振り向くまでがたったひとりだ
○ 目の前に黒揚羽舞う朝がありあなたのなにを知ってるだろう
○ 羽虫どもぶぶぶぶぶぶと集まって希望とはその明るさのこと
○ よれよれのシャツを着てきてその日じゅうよれよれのシャツのひとと言われる
○ 鴨川に一番近い自販機のキリンレモンのきれいな背筋
○ この夏も一度しかなく空き瓶は発見次第まっすぐ立てる
○ 立ち直る必要はない 蝋燭のろうへし折れていくのを見てる
○ あすはきょうの続きではなく太陽がアメリカザリガニ色して落ちる
○ ゆるしあうことに焦がれて読みだした本を自分の胸に伏せ置く
○ 殴ることができずにおれは手の甲にただ山脈を作りつづける
○ くれないの京阪特急過ぎてゆきて なんにもしたいことがないんだ
○ 草と風のもつれる秋の底にきて抱き起こすこれは自転車なのか
○ 口笛を吹いて歩けばここに野の来る心地する 果てまで草の
○ ドーナツ化現象のそのドーナツのぱさぱさとしたところに暮らす
○ ああここも袋小路だ爪のなかに入った土のようにしめって
○ マネキンの首から上を棒につけ田んぼに挿している老母たち
○ いつも行くハローワークの職員の笑顔のなかに〈みほん〉の印字
○ 雨という命令形に濡れていく桜通りの待ち人として
○ 思いきってあなたの夢に出たけれどそこでもななめ向かいにすわる
○ ににんがし、にさんがろくと春の日の一段飛ばしでのぼる階段
○ 目撃者を募集している看板の凹凸に沿い流れる光
○ ゆきのひかりもみずのひかりであることの、きさらぎに目をほそめみている
○ 県道を越えてみどりのコンビニへ行く無保険のからだがひとつ
○ 「生きろ」より「死ぬな」のほうがおれらしくすこし厚着をして冬へ行く
○ あかぎれにアロンアルファを塗っている 国道だけが明るい町だ
○ この夏も一度しかなく空き瓶は発見次第まっすぐ立てる
○ 他人から遅れるおれが春先のひかりを受ける着膨れたまま
○ 目撃者を募集している看板の凹凸に沿い流れる光
○ おれだけが裸眼であれば他人事に眼鏡交換パーティー終わる
○ この海にぴったりとした蓋がないように繋いだ手からさびしい
○ 献血の出前バスから黒布の覗くしずかな極東の午後
○ 一語一語をちゃんと区切って話されてなにが大事なことだったのか
○ 電柱のやっぱり硬いことをただ荒れっぱなしの手に触れさせる
○ 満開のなかを歩いて抜けてきたなにも持たない手にも春風
○ リニューアルセールがずっとつづく町 夕日に影をつぎ足しながら
○ しあわせは夜の電車でうたた寝の誰かにもたれかかられること
○ 螺旋階段ひとりだけ逆方向に駆け下りていくあやまりながら
○ 少しずつ月を喰らって逃げている獣のように生きるしかない
○ 生きかたが洟かむように恥ずかしく花の影にも背を向けている
○ 走りながら飲み干す水ののみにくさ いつまでおれはおれなんだろう
○ 情けないほうがおれだよ迷ったら強い言葉を投げてごらんよ
○ 弟がおれをみるとき(何だろう)黒目の黒のそのねばっこさ
○ 丁寧に電話を終えて親指は蜜柑の尻に穴をひろげる
○ 電柱のやっぱり硬いことをただ荒れっぱなしの手に触れさせる
○ へろへろと焼きそばを食う地下二階男五人の二十三時に
○ 職歴に空白はあり空白を縮めて書けばいなくなるひと
○ 三十歳職歴なしと告げたとき面接官のはるかな吐息
○ もうおれはこのひざを手に入れたから猫よあそこの日だまりはやる
○ 行き止まるたびになにかが咲いていてだんだん楽しくなるいきどまり
○ 異性はおろか人に不慣れなおれのため開かれる指相撲大会
○ いま高くはじいたコインのことをもう忘れてとびっきりのサムアップ
○ なんとしてもこの世にとどまろうとしてつぱつぱ喘いでいる蛍光灯
○ 胸を張って出来ると言えることもなくシャツに缶コーヒーまたこぼす
○ のど飴をのどがきれいなのに舐めて二十代最後の二月を終える
○ 恋人はおらず、たぶん童貞。そのことでまたくよくよしたり。
○ 思いきってあなたの夢に出たけれどそこでもななめ向かいにすわる
○ ラブホテルの名前が雑で内装はこのまま知らず死ぬことだろう
○ 唯一の男らしさが浴室の排水口を詰まらせている
○ 相聞歌からほど遠い人里のわけのわからん踊りを見ろよ
○ 三十歳職歴なしと告げたとき面接官のはるかな吐息
○ たぶんこの数分だけの関係で終わるのにおれの長所とか訊くな
○ 関西にドクターペッパーがないということを話して終わる面接
○ なで肩がこっちを責めていかり肩が空ろに笑う面接だった
○ この先はお金の話しかないと気づいて口を急いでなめる
○ さくらでんぶのでんぶは尻じゃないということを覚えて初日が終わる
○ 敵国の王子のようにほほ笑んで歓迎会をやり過ごす
○ 終業はだれにでも来てあかぎれはおれだけにあるインク工場
○ 吐きそうが口癖になる 吐きそうが同僚たちに広がっていく
○ 呼べば応えてくれる仕組みを当然と思うなよ頬に照る街明かり
○ もう堪えきれなくなって駆け込んだ電車のつり革の赤いこと
○ 水を飲むことが憩いになっていて仕事は旅のひとつと思う
○ 二十一の小娘に頭を下げて謝りかたを教えてもらう
○ あかぎれにアロンアルファを塗っている 国道だけが明るい町だ
○ 生命を宿すあなたの手を引いて左京区百万遍交差点
○ 行き止まるたびになにかが咲いていてだんだん楽しくなるいきどまり
○ 春の雨 器用さのない一例にカレー屋でナンちぎりきれない
○ 傘袋、傘より脱げてはるざむの街の路面に溶かされてゆく
○ 「正社員登用あり」と記された求人広告も花まみれ
○ ウォシュレットを取り付けているさびしさは便器に顔を寄せていること
○ 商売と生活をつなぐ道に沿いビル立ち並び、その窓の空
○ ジャム売りや飴売りが来てひきこもる家にもそれなりの春っぽさ
○ パッチワークシティに暮らす人からの手紙や、ばらばらのチェスピース
○ 水際に立ちつくすとき名を呼ばれ振り向くまでがたったひとりだ