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私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

『戦う司書と恋する爆弾』 山形石雄

2006-06-30 23:35:51 | 小説(ライトノベル)


死者の全てが本になり、図書館に収められる世界。その武装司書を殺すため、爆弾を埋め込まれた少年が、ある日手にした「本」の中の姫に恋をする。
第4回スーパーダッシュ小説新人賞大賞受賞作。


少なくとも読みやすい作品とは感じなかった。文章は硬くて、ぎこちなく、そのせいで、最初の内はこの作品にいまひとつ入り込むことはできなかった。
だが、物語が加速してからは引き込まれるように読むことができた。

この小説で優れた部分は、人物の魅力と、人物たちの行動の選択の様だと僕は思う。
特に、コリオ=トニスのラストに至る行動は美しくさえある。そこにあるのは、生きる意味を奪われた人間の、人間らしさを求めるための戦いだ。その姿がラストで鮮やかに浮かび上がってくるところがすばらしい。そしてそれゆえに起こる必然的なラストは、エモーショナルな部分に深く訴えるものがあった。

世界観もわかりやすく、それなりに魅力的で申し分ない。構成もしっかりしているので、物語が盛り上がっているのも見事な限りだ。未来を見通すという設定上、若干疑問の残る点も見られるが気にする程でもないだろう。エンタメとしては申し分ない作品だ。
裏を返せば、それゆえ長く記憶に残ることはないのだろうが、エンタメとは本来そういうものだ。楽しめればそれで充分というやつである。

評価:★★★(満点は★★★★★)

『クビツリハイスクール 戯言使いの弟子』 西尾維新

2006-06-16 21:45:13 | 小説(ライトノベル)


人気作家、西尾維新の「戯言シリーズ」第3弾。
人類最強の請負人、哀川潤から舞い込んだ依頼に従い、澄百合学園こと首吊高校に潜入した戯言使い。そこで殺戮のバトルに巻き込まれることに。


シリーズ3作目だが、いろんな意味で、前2作に比べたら質としては落ちている。

今更な気もするけど、設定は今までにも増して荒唐無稽だ。キャラ小説としても若干どころか、相当に弱い。紫木と玖渚の類似性に関する箇所もかなりとってつけた感があって浮いている。登場人物の心理描写や、行動選択も、ストーリーの流れ上動かされたみたいなところがあって、個人的には結構違和感ありまくりだ。
その他、いろいろと、欠点というか、気に入らない点を上げようと思えばいくらでも上げることができる。

でも僕はこの作品は嫌いじゃない。
ストーリーは二転三転して面白いし、荒唐無稽な中にしっかりとした構成が見て取れる。トリックも恐らく今迄で一番まともで、オーソドックスと言ったらそれまでだけど、僕は割に好みである。
それに何と言っても、このシリーズの世界観やノリが存分に出ていて、作者の遊びが出ている様子が伝わってくる。

多分この作品から読み始めたら、全くもって評価しなかっただろう。けれど、このシリーズに慣れ親しみ始めている僕としては心地よいものすら感じられた。

評価:★★★★(満点は★★★★★)

『クビシメロマンチスト 人間失格・零崎人識』 西尾維新

2006-06-07 23:13:03 | 小説(ライトノベル)


人気作家、西尾維新の「戯言シリーズ」第2弾。
京都に戻ってきた戯言使い・いーちゃんは葵井巫女子たちと日常を送る一方、連続殺人鬼、零崎人識とも遭遇する。そしてやがていくつかの事件が訪れる。


やられた。
この作品を語るのはその一言で僕の中では充分である。とにかく完全にやられてしまった。実にすばらしい作品だ。

前作を読んでから一年以上経過しているが、「クビキリサイクル」の時はよくできたキャラ小説という以上の印象を受けなかった。
もちろんキャラ小説の良さは当然のように本作にも引き継がれている。葵井巫女子や零崎人識なんかはその典型だろう。この二人は最高である。特に巫女子のあの比喩は僕も一度は使ってみたいくらいだ。

でも今回はキャラ小説というだけにはとどまらないような気がする。うまく言えないのだが、この中では虚無が描かれているのだ。
「甘えるな」にしろ、「例えばあたしを殺してみろ。安心しろ、それでも世界は何も動かないよ」にしろ、もう確かにその通りなんだけど、その言葉にあるのは圧倒的なくらいの突き放しだ。
大体、いーちゃんにしたって周りとの間に、ATフィールド全開ってくらいの壁がある。最初から他人と理解しあうという幻想を拒んでいるのだ。これを虚無的と言わずして何と言おう。

しかしそれが逆に心地良かったりするから不思議だ。
この物語の中の世界観は壊れてしまっているわけで、その壊れっぷりに読んでいる最中は打ちのめされることもある。でも同時に共感だって湧いてくるのだ。
多分、その壊れ方が現実に僕が住んでいる世界の鏡でもあるのだから、と僕は思う。

謎解きや、トリックと心理を語る叙述方法に疑問符はつくけれど、この作品の本当に目を向けるべき点はそんなところにはないと思う。とにかく圧倒的なエンターテイメントであると同時に、新しい感覚を感じさせるその世界観を楽しみ、浸ればいい。
僕はこの作品を読んで本当に打ちのめされた。1作目で読むのをやめないで良かったと本当に思う。
これからも西尾維新に注目していきたいと心から思った。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)

『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』 桜庭一樹

2006-03-31 22:01:45 | 小説(ライトノベル)


「GOSICK」の桜庭一樹による新境地、青春暗黒ミステリー。


ひと言で言うならば、僕の好みの完全直球ど真ん中って感じの作品であった。

本書はライトノベルなのだが、話自体は全くもってライトではない。どしょっぱつで主要登場人物が死ぬし、親からの虐待が描かれているからだ。しかしその暗さを抱えていても、ついでに言うと、ラストが完全にわかっていても、本書は一気に読ませるだけの力があった。
それはただ一点のテーマのために、ムダを省いたシンプルなストーリー展開による所が大きい。
しかし個人的にはそれ以上に、主人公である少女二人の痛々しいくらいの逼迫感に一気読みさせるだけの魅力があったのだと思う。
二人ともまだ大人というには幼く、過酷な現実を乗り越え、運命を切り開く力をもっているわけではない。実弾を持たない彼女たちは、やわで頼りないと知りつつも、砂糖菓子の弾丸を撃ち続けることしかできないのだ。
その無力感の痛々しさと、悲しさと、苦しさと、せつなさこそがこの作品の最大の輝きであるように僕は思った。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)