
死者の全てが本になり、図書館に収められる世界。その武装司書を殺すため、爆弾を埋め込まれた少年が、ある日手にした「本」の中の姫に恋をする。
第4回スーパーダッシュ小説新人賞大賞受賞作。
少なくとも読みやすい作品とは感じなかった。文章は硬くて、ぎこちなく、そのせいで、最初の内はこの作品にいまひとつ入り込むことはできなかった。
だが、物語が加速してからは引き込まれるように読むことができた。
この小説で優れた部分は、人物の魅力と、人物たちの行動の選択の様だと僕は思う。
特に、コリオ=トニスのラストに至る行動は美しくさえある。そこにあるのは、生きる意味を奪われた人間の、人間らしさを求めるための戦いだ。その姿がラストで鮮やかに浮かび上がってくるところがすばらしい。そしてそれゆえに起こる必然的なラストは、エモーショナルな部分に深く訴えるものがあった。
世界観もわかりやすく、それなりに魅力的で申し分ない。構成もしっかりしているので、物語が盛り上がっているのも見事な限りだ。未来を見通すという設定上、若干疑問の残る点も見られるが気にする程でもないだろう。エンタメとしては申し分ない作品だ。
裏を返せば、それゆえ長く記憶に残ることはないのだろうが、エンタメとは本来そういうものだ。楽しめればそれで充分というやつである。
評価:★★★(満点は★★★★★)