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私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「シャッター・アイランド」

2010-04-19 20:56:10 | 映画(さ行)

2009年度作品。アメリカ映画。
1954年9月、ボストンのはるか沖合に浮かぶ孤島“シャッター アイランド”。精神を患った犯罪者を収容するアッシュクリフ病院で、鍵のかかった病室から女性患者が煙のように消える。捜査のため、この孤島に降り立った連邦保安官のテディと新しい相棒のチャック。だが島内に女性患者の姿はなく、島外へ脱出した形跡も見あたらない。いったい彼女は、どこへ行ったのか? 唯一の手掛かりは、彼女が部屋に残した1枚の紙切れ。そこには、「4の法則」と題した暗号が記されていた…。(シャッター アイランド - goo 映画より)
監督は「タクシー・ドライバー」のマーティン・スコセッシ。
出演はレオナルド・ディカプリオ、マーク・ラファロ ら。



この映画には謎がある。

そんなことを予告編の段階から、この映画はバンバンと公表していた。
映画の前にも、言動や視線、手の動きに注意しろ、とか、この映画の結末を人に話すな、とか、いちいち丁寧に教えてくれる。

そこまで言われると、観客であるこっちも、謎に対して身構えて見ざるをえない。
おかげで、冒頭の船のシーンの段階で、ネタの大枠について予想がついてしまう。
そして、ベン・キングズレーの最初の方のセリフで、その予想が正しいことを確信する。

おかげで二時間半の物語はそれ以降、自分の予想が合っているかどうかの、確認作業に終始されることになってしまった。
それはそれで結構おもしろかったのだが、初見の物語の楽しみ方としては、あまりよろしいものでない。少なくとも興がそがれる。

物語において予備知識は、必要最低限にしておいた方が良い、ということだろう。
もうこれは宣伝の方法が悪い。


個人的には、こんな風に謎解きを、映画の売りとして、前面に持ってくるのはまちがいだったと思う。
確かに謎解きも、この映画の楽しめるポイントと思うが、僕個人は、この映画の最大の魅力は、主人公が見る景色のゆらぎにこそ、あると思ったからだ。

冒頭からフラッシュバックなどを使い、物語の雰囲気は不穏なものとなっている。
主人公を取り巻く雰囲気は狂気に満ちていて、落ち着かない雰囲気があり、個人的には惹かれる。

主人公の罪悪感も印象的で、人の心のもろさを感じさせるあたりは好きだ。
「モンスターとして生きるか、善人として死ぬか」という主人公のラストの言葉が、その心のもろさと罪悪感を強く印象づける。
あのときの主人公は正気を取り戻していたのだろう。
だからこそ、罪を受け入れ、自分なりの結末をつけた姿が、どこか悲しげである。
そしてその主人公の姿こそ、この映画の優れた部分だと思うのだ。


というわけで、個人的には、不満半分、満足半分といったところだ。
だが好きか嫌いかの二者択一で言うなら、好きな作品である。

評価:★★★(満点は★★★★★)



製作者・出演者の関連作品感想
・マーティン・スコセッシ監督作
 「グッドフェローズ」
 「ディパーテッド」

・レオナルド・ディカプリオ出演作
 「ディパーテッド」
 「ブラッド・ダイヤモンド」
 「レボリューショナリー・ロード 燃え尽きるまで」
 「ワールド・オブ・ライズ」
・マーク・ラファロ出演作
 「かいじゅうたちのいるところ」
 「ブラインドネス」
・ベン・キングズレー出演作
 「オリバー・ツイスト」
 「ラッキーナンバー7」

「シャーロック・ホームズ」

2010-03-17 20:38:31 | 映画(さ行)

2009年度作品。アメリカ映画。
あらゆる悪がはびこる、19世紀末のロンドン。不気味な儀式を思わせる手口で、若い女性が次々と殺害される怪事件が勃発する。名探偵シャーロック・ホームズはたちまち犯人を突き止め、邪悪な黒魔術を操るブラックウッド卿を捕まえる。だが彼は、処刑されても自分は復活する、とホームズに宣言。やがて予言通り、死刑に処されたブラックウッドが、墓場から甦ってしまう。前代未聞の大事件に人々がパニックに陥る中、ホームズだけは史上最大の謎に挑めることに胸を躍らせていた…。(シャーロック・ホームズ - goo 映画より)
監督は「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」のガイ・リッチー。
出演はロバート・ダウニー・Jr.、ジュード・ロウ ら。



シャーロック・ホームズに対して、僕が持っているイメージは、クールな皮肉屋と言ったところである。
ついでに言うと、ワトソンのイメージは好奇心旺盛なインテリで、損な役回りといったところか。
シャーロック・ホームズシリーズはだいぶ前に2冊しか読んだことがないので、断定的なことも言えないのだけど、勝手にそんなことを思っている。


ガイ・リッチーのつくった映画は、そのイメージからはずいぶん離れたキャラだ。

家にこもりきって、実験を行なうような変人という意味ではイメージ通りなのだけど、変に行動的で、アクションもこなすところは、新しい造形だと思う。わりに好印象だ。
しかもホームズが無駄に強い。どれだけ身体能力があるんだろう、と思うレベルのすごさだ。一般に流布しているホームズ像とのギャップには、少し笑ってしまう。

ただどうでもいいことではあるのだけど、ホームズは一体どこできたえているのだろう、と軽く疑問に思ってしまう。
家に引きこもっているようなタイプなのに、きたえる場所はあるのだろうか。拳闘なんかは、実戦を意識したトレーニングをしていないと、本番では勝てないと思うのだけど、大丈夫なのだろうか。
多分そういう細かいところをつっこんではいけないのだろうけれど、軽く引っかかってしまう。


そして、そういう細かいところにも現われているかもしれないのだけど、本作のつくりは結構粗いと、僕は思うのだ。
たとえば川沿いの工場のシーン。これが少しばかりごちゃついている。
なぜブラックウッド卿があのタイミングで現われたのか、わからないし(罠とは言っても無理があると思うのだが)、そのほかにもわかりにくい面があった。
つっこんではいけないのは知っているけれど、部分部分で説明不足だなと感じる点もなくはない。


しかしいくつかの伏線を効果的に描いていて、それなりに楽しめることはまちがいない。
アクションも豊富だし、キャラクターもそれぞれ個性が出ていて、見ている分には飽きない。
一言で言えば、エンタテイメントに徹しているのだ。

ラストシーンのあざとさには軽く引いてしまったが、全体的に見れば、つくりこまれていて、それなりに楽しめる作品に仕上がっている。
絶賛するほどではないが、時間が余ったときに見る分には申し分ない作品だろう。

評価:★★★(満点は★★★★★)



出演者の関連作品感想
・ロバート・ダウニー・Jr.出演作
 「グッドナイト&グッドラック」
・ジュード・ロウ出演作
 「マイ・ブルーベリー・ナイツ」
・レイチェル・マクアダムス出演作
 「消されたヘッドライン」

「しあわせの隠れ場所」

2010-03-07 20:28:47 | 映画(さ行)
2010年度作品。アメリカ映画。
夫と子供たちと裕福に暮らすアンは、寒い真冬の夜、Tシャツ一枚で街を歩く黒人の少年、マイケルと出会う。アンは身寄りのないマイケルを憐れに思い家族として迎えるが、家や豊かな食事に感謝するマイケルから、幸せとは何かを教えられていく。やがて、マイケルはアメリカン・フットボールの選手として頭角を表すようになり…。(しあわせの隠れ場所 - goo 映画より)
監督は「オールド・ルーキー」のジョン・リー・ハンコック。
出演はサンドラ・ブロック、ティム・マッグロウ ら。



引っかかるものに欠けた映画だと思う。
だが少なくともいい話であり、鑑賞後の印象は良い。それが率直な感想だ。


本作は実話を元にして描かれているらしい。どこまでが脚色かはわからないが、スラムの黒人少年を白人一家が扶養し、やがて黒人少年はプロのアメフト選手になるという、メインの流れは事実なのだろう。

スラム街に住んでいた青年に住む場所を提供し、養子として彼を全面的にバックアップする。
そんな行動を選択する、サンドラ・ブロック演じる母親は実に潔く、見てて小気味いい(多分アカデミー賞にノミネートされたのはこの気風のよさによるものだろう)。
そのほかにも夫や子どもたちも、黒人少年のために動こうとする様はさわやかだ。
黒人少年を扶養する一家の姿は、ともかく善意にあふれているのだ。
正直、いろんな意味できれいすぎる点が引っかかることは否定しない。実話だと言われたら、ああそうなんだ、と思うしかないところも、どうもな、という気もしなくはない。
でも鑑賞後の印象がさわやかなので、それをつっこんでも仕様がないかな、という気分にさせられる。

その後黒人少年は才能を開花させ、成功をつかむこととなる。
その過程には、家族の確かなサポートがあることが伝わり、なかなかすばらしい。
そしてそれらのシーンを見ていると、黒人少年が家族たちから受け入れられているんだな、ということが感じられ、しみじみとした気分になることができる。


トータルで見れば、地味な作品とは思うのだけど、家族のきずなを感じることができて、暖かい。
その暖かさが心に残る一品だ。

評価:★★★(満点は★★★★★)



出演者の関連作品感想
・サンドラ・ブロック出演作
 「クラッシュ」

「ずっとあなたを愛してる」

2010-01-28 19:47:59 | 映画(さ行)

2008年度作品。フランス=ドイツ映画。
15年の刑期を終えたジュリエットは妹レアの家庭に身を寄せる。義姉への不信感を抱くレアの夫リュックはぎこちないが、彼の老父や2人の養女は屈託なくジュリエットを迎え入れるのだった。2週間に1度警察に出頭しながら就職先を探すジュリエットの心は深く閉ざされたままだ。愛する息子を自ら手に掛けた理由を裁判でも決して語ることはなかった姉。その心に近づきたい一心でレアは誠心誠意向き合おうとする。(ずっとあなたを愛してる - goo 映画より)
監督は作家のフィリップ・クローデル。
出演はクリスティン・スコット・トーマス、エルザ・ジルベルスタイン ら。



殺人を犯した姉と、その妹の話だ。

いままで刑務所で服役していた姉のジュリエット、その理由は、自分の息子を手にかけたからだ、ということは前半のうちに明らかにされる(というか映画のチラシに書いてある)。
しかしなぜ母親が実の息子を殺さなければいけなかったかという、肝心の動機はわからない。

というか最後まで具体的な理由は、懇切丁寧に説明されるのではなく、ほのめかす程度にしか語られない(それでも充分全体像はつかめるけれど)。
それは殺人の動機自体は、この映画においての最重要項目ではないからだろう。
この映画のポイントは、犯罪者である女性が、社会に受け入れられ、新しい人生を始めるという一点にあるからだ。


実際ジュリエットは子殺しという理由で、周囲から冷たい視線を向けられる。
秘書として雇ってもらおうと訪れた先では、にべもなく追い返されるし、妹の夫はジュリエットのことを信頼していない。
そういう理由もあるし、世間からかくれていきたいと思っているのか、ジュリエット自身、周りと積極的に打ち解けようとはしていない。

だが妹の家族と暮らし、妹の同僚や親友たちと接するうちに、ジュリエットの心はほぐれていく。
彼女が本当は誠実で、おとなしく、暴力を起こすような人間ではないと理解され、受け入れられていくのだ。そして彼女も心を開いていく。
そういった過程は見ていても、あったかく、ほんのりと優しい雰囲気に満ちている。
ジュリエットを包む周囲の愛情を画面越しから感じることができ、それが心地よい。


彼女の殺人動機だって、同情に値するものだし、彼女なりにかなり苦しんでいたのだろう、というのが伝わり、切ない気分にさせられる。
周りに頼ることができなかった、ジュリエットの当時の事情もよくわかるだけに、犯罪を行なわざるをえなかった彼女の心情を考えると、何とも悲しい。
それだけに、ラストの方には、幸福になれるかもしれない、という予感が漂っていて、それがしんしんと胸に響いてならない。

マイナーな作品だが、実に美しい余韻に満ちた一品である。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)

「戦場でワルツを」

2010-01-14 20:36:55 | 映画(さ行)

2008年度作品。イスラエル=ドイツ=フランス=アメリカ=フィンランド=スイス=ベルギー=オーストラリア映画。
2006年のイスラエル。映画監督のアリは、友人のボアズから26匹の犬に追いかけられる悪夢の話を打ち明けられる。若い頃に従軍したレバノン戦争の後遺症だとボアズは言うが、アリにはなぜか当時の記憶がない。不思議に思ったアリは、かつての戦友らを訪ね歩き、自分がその時何をしていたかを探る旅に出る。やがてアリは、ベイルートを占拠した際に起きた「住民虐殺事件」の日、自分がそこにいたことを知る…。(戦場でワルツを - goo 映画より)
監督はアリ・フォルマン。



いかにもアート系の映画だな、というのが第一印象である。

トーンが淡々としていてまったりとしているし、会話の間はどことなく思わせぶり。そしてつくり手は、画面の中に流れる雰囲気を大事にしているように感じる。
それをアート系映画的と言うべきか、反論はあるだろうけれど、ともかく僕はそう感じる。
本作はアニメーションではあるけれど、基本的には実写にしても違和感がないくらいに、リアリズムに徹してつくられているので、よけいそう感じるのかもしれない。

それはそれで味があることは確かだとは思う。けど、本作の場合は、それがゆえに、少し淡々としすぎている。
内容自体は別に悪くないし、つまらなくもない。だけど、映画に流れる淡々としたトーンのために、ちょっと退屈に映った。
まあ趣味の問題と言われればそれまでだけど。


何かケチをつけているみたいだが、訴えているテーマ性自体は、非常にすばらしい。
特にラストの映像の使い方は効果的だ。

多分ただあの映像を見せられただけでは、残酷だと思っても強く心に残ることはなかったかもしれない。
それは映画の中のセリフではないが、カメラを通して見るため、リアリティがどうしても損なわれるからだ。

しかし本編をアニメにすることで、映像の生々しさがより際立つものになってきている。
そのあたりの演出は、一発ネタではあるけれど、鮮やかな発想だ。

そのラストの映像にあるのは、人間の、生々しいほどリアルな死である。
それは現実に虐殺が行なわれたという確かな証だ。

そのことを強く訴えるラストシーンには社会的な使命感にあふれている。
つくり手の誠意と心意気が伝わってくるようだ。


物語そのものは、個人的にはあまり評価しない。
しかしつくり手の社会正義を貫こうとする思いが伝わってきて、そのあたりは印象深い。
戦争というものの残酷さについて、思いを致すことができる、そんな作品だ。

評価:★★★(満点は★★★★★)

「スペル」

2009-11-11 20:38:56 | 映画(さ行)

2009年度作品。アメリカ映画。
銀行のローンデスクで働くクリスティンは、支店長に認められたいと願い、不動産ローンの延長を願いにきたガーナッシュという老婆の申し出を拒絶する。すると老婆は態度を豹変。激怒し、クリスティンに襲い掛かるも、警備員に取り押さえられ、その場を追いやられる。だがその晩、再び老婆はクリスティンに襲い掛かるのだった。
監督は「スパイダーマン」のサム・ライミ。
出演はアリソン・ローマン、ジャスティン・ロング ら。



恐怖と笑いは似ていると、ホラー映画を見ているとときどき感じる。
観客をこわがらせようとして、演出をおどろおどろしいものにすればするほど、幽霊なり怪物なりの動きが常軌を逸して、コミカルなものになってくるからだ。
「呪怨」シリーズなんかはそのいい例だろう。


本作「スペル」もその例外ではない。
主人公を襲う老婆は確かに性質の悪いキャラクターであるし、監督も彼女の恐ろしさを描こうとやっきになっているのはわかる。
だがその動きはあまりにツッコミどころが多い。そのためこわいというのとはちょっと違うと思った。

実際老婆の動きはぶっ飛んでいる。
刺されたナイフを吐き出したり、頭を砕かれれば目玉がポコンと飛び出たり、主人公に向けて口から何かを吐き出したり、入れ歯のない状態で噛みつこうともする。
そういったシーンのいくつかは気持ち悪く、こわそうにも見えるのだけど、よくよく見てみると、あまりにもバカバカしい。そのためホラーなのに幾度となく笑ってしまった。
この点こそ、この映画における最大の美点だろう。


ストーリー自体はうまくまとまっている。いくらか単調な部分はあるけれど、退屈だと感じることはない。
アホらしくて、ツッコミどころが満載で、それゆえに存分に楽しめる。
まさに愛すべきB級映画といったところだ。

評価:★★★(満点は★★★★★)



出演者の関連作品感想
・ジャスティン・ロング出演作
 「ダイ・ハード4.0」

「縞模様のパジャマの少年」

2009-11-02 21:22:05 | 映画(さ行)

2008年度作品。イギリス=アメリカ映画。
第二次大戦下のドイツ、8歳のブルーノはナチス将校である父親の昇進により、殺風景な土地に越してくる。ある日、ブルーノは有刺鉄線のフェンスで囲まれた奇妙な”農場”を見つける。そのフェンスの向こう側に、ブルーノと同じ歳のシュムールという、日中でもなぜか縞模様のパジャマを着た少年がいた。
監督は「ブラス!」のマーク・ハーマン。
出演はエイサ・バターフィールド、ジャック・スキャンロン ら。



見る前に自分が想像していた以上に、本作は心を揺さぶられる物語であった。
あるいは、あまりの重さに衝撃を受けた、と言った方が表現としては正確なのかもしれない。
その理由はもちろんのことだが、ラストにすべての理由がある。


本作を見る前に、得ていた予備知識はそんなに多くない。
ナチス将校の父親の赴任先で、少年はある農場を見つける。そこに行ってはだめだと諭す母の忠告を破り、農場に向かった少年はそこで縞模様の服を着た男の子と出会う。そんな程度だ。
そういう内容を聞いて僕は、少年同士の交流が、戦争という時代背景で崩れていく話だと思っていた。
実際、途中まではその流れで進んでいく。

その過程での少年の描き方はなかなか良い。
無垢ゆえに無知な少年の姿や、ユダヤ人に対する暴力を目の当たりにしてショックを受けている様子、相手の少年がユダヤ人とわかり、距離のとり方に悩む様子、そして大人の将校がこわくて、友人を裏切る姿(この心理的な負い目が、非常に大きな悲劇を生む)などが個人的には好きだ。
どの場面からも、少年の心理がよく伝わってきて、印象的である。


だがそんな物語のトーンは、ラスト20分で僕の想像していたものとまったく違う方向へと進んでいく。
あえて多くは語らないけれど、この展開は正直言って、ショッキングだった。見終わった後で僕はだいぶ長い間、打ちのめされてしまった。
それだけの重たさがこの作品にはある。

だがそのショッキングで重たいラストゆえに、非常に心に訴える作品になりえているのだ。

ありきたりだけど、戦争というのは悲惨だと、心の底から思ってしまう。それは取り返しのつかないくらいに悲劇的で残酷で無残なことなのだ、と。
そして、なぜこうも、殺す者と殺される者とが峻別されなければいけないのだろう、殺される理由があまりにも理不尽じゃないか、と悲しくなってしまう。
生と死を分かつラインは本当に恐ろしくあいまいなものでしかない。
そしてそれゆえに、戦争は憎むべき存在なのだと再認識させてくれる。


ともあれ、ラストのインパクトが強烈で、いろんなことを考えずにはいられない作品である。
万人受けはしないかもしれないが、僕はこの作品を高く評価したい。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)

「3時10分、決断のとき」

2009-10-27 20:34:48 | 映画(さ行)

2007年度作品。アメリカ映画。
牧場主のダン・エヴァンスは干ばつで借金が重なり、生活が苦しくなる一方。そんなある日、悪名高いベン・ウェイド一味が駅馬車を襲っているのを目撃する。その後、ダンが借金のことで、地主の元に向かった町でウェイドと再会。ウェイドはそこで保安官たちに捕まる。ウェイドを裁判所へ連行するため、3時10分発ユマ行きの列車の出る駅へと向かう。ダンはその護送役に名乗りを上げる。
1957年作品の『決断の3時10分』をリメイク。
監督は「ウォーク・ザ・ライン/君につづく道」のジェームズ・マンゴールド。
出演はラッセル・クロウ、クリスチャン・ベイル ら。



一言で語るなら、非常におもしろい作品であった。
そう思った理由は銃撃戦がすさまじかったということもあるし、プロットにメリハリがあるという点等、いろいろある。
だが基本的にはラッセル・クロウとクリスチャン・ベイルの二人の存在感に負うところ大だと思う。


特にラッセル・クロウ演じるベン・ウェイドがすばらしい。こいつがまたとんでもない悪党なのである。
彼はちょっと話してみると、非常にいい人のように見える。愛想はよいし、人の心をゆさぶるような言葉も口にして、相手に感銘を残すこともある。
だがそれはあくまで表面的な部分でしかない。相手の裏をかいて出し抜くこともあるし、人を殺すときには何のためらいもない。
彼は非情という言葉が似合う外道なのだ。そのふてぶてしいまでの存在感は強烈である。

個人的には、かくしていたナイフで見張りを殺すところが気に入っている。
そのシーンを見ると、彼は本当に抜け目がなくて、一筋縄ではいかない男だな、とつくづく思ってしまう。


そんな悪党がクリスチャン・ベイル演じる牧場主と奇妙な共闘関係を結ぶところがおもしろい。
彼らは対立する敵同士なのだけど、自分の命を守るためという利害さえ合えば手を組むことも辞さない。
そうしていくうちにラッセル・クロウ演じる悪党が、相手の牧場主の男気を認めていく様が何とも言えず良いのである。これぞ男の世界と言えるだろう。

だから最後に自らラッセル・クロウが列車に乗り込むシーンが男らしくて、ちょっとカッコいいのだ。
それは最後までプライドを大事にした相手に対する、彼なりの敬意なのだろう。その姿が気高くもあり、非常に胸に迫る。

男の生き様や、かっこよさなど、男の世界ってやつをまざまざと見せ付けられる。非常にすばらしい一品だ。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)



制作者・出演者の関連作品感想
・ジェームズ・マンゴールド監督作
 「ウォーク・ザ・ライン 君につづく道」
・ラッセル・クロウ出演作
 「アメリカン・ギャングスター」
 「消されたヘッドライン」
 「ワールド・オブ・ライズ」
・クリスチャン・ベイル出演作
 「アイム・ノット・ゼア」
 「ダークナイト」
 「プレステージ」


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「しんぼる」

2009-09-16 20:13:19 | 映画(さ行)

2009年度作品。日本映画。
メキシコのとある町。プロレスラーのエスカルゴマンはいつもと変わらぬ朝を迎えていた。しかしその日、妻は夫であるエスカルゴマンがいつもとは少し様子が違うことを感じていた。一方奇妙な水玉のパジャマを着た男は、目を覚ますと四方を白い壁に囲まれた部屋に閉じ込められていた。
監督は「大日本人」の松本人志。
出演は松本人志 ら。



いろいろ迷ったが、この映画は基本的には失敗作だと、僕は結論づけたい。
その理由はいろいろあるけれど、端的に言うなら、一つのアイデアをあまりに長く引っ張りすぎたことが原因だと、僕個人は思っている。


映画はメキシコ人レスラーの話と、なぞの白い部屋に閉じ込められてた男の話が並行して語られる。
松ちゃん演じる白い部屋のパートの方は、ちょっとふしぎな展開があって、そこそこおもしろそうだな、と最初は思うことができる。

だが、基本的に物語がどこに進んでいくのかがさっぱりわからないため、物語に距離を置いて見てしまいがちになった。おかげで、エピソードにうまく入り込むことができない。
せめてこの映画はどういう方向で進んで行きますよ、っていうのを漠然とでもいいから示してほしかった、と個人的には思う。

大体、松ちゃんのパートは変化が少ないような気がするのである。
部屋を脱出するというのが、そのパートのコンセプトなんだろうけれど、基本的に同じことを、バリエーションを変えて見せているだけなので、途中から飽きてしまう。

ある程度の変化を起こすためにか、一応ギャグは入っており、そのうちのいくつかは確かに笑えるのだけど、いくつかは完全に滑っているため、軽く引いてしまう。
おかげで元々入り込めなかった物語に、よけい入り込めなくなってしまうのだ。

それに松ちゃん演じる男はちょっと叫びすぎじゃないの、なんて思ってしまう。
白い部屋で、単調な展開で、変化が乏しい場面が続くっていう状況なのに、唯一の登場人物に叫ばれてしまっては、見ているこっちはたまったもんじゃない。
正直いらいらして仕様がないのである。

僕の意見のいくつか偏りがあることは否めないけど、とにかく不満は多いのだ。


だがそうは言っても、松ちゃんが部屋を脱出する辺りから、さすがに映画はおもしろくなっていく。
松ちゃんのパートと、メキシコ人のパートがつながったシーンはあまりにシュールすぎて笑ってしまった。

ラストの展開も発想としてはおもしろい。
個人的な解釈を書くのは不毛と思うんで、抽象的に書くが、彼は神に選ばれた男なんだろう、という気がする。
神はサイコロをふらない、と言った科学者がいたけれど、彼はサイコロをふることを義務付けられた存在なんだろうな、と「実践」のパートを見てて思った。

しかし最初に戻るが、そのワンアイデアに、本作はあまりに頼りすぎていると僕は思うのだ。
少なくともそのネタのために、ここまで引っ張るのもどうよ、って思わなくはない。
もっと見せ方を工夫できたのではないだろうか、って気もするし、そもそもの話、設定に結構無理もあった。


監督のネームバリューはあるから多分客は入ると思うし、このネタをおもしろいと思う人はいるだろう。
しかし僕はこの作品を評価はしない。というか、今回の作品はどうも合わなかった。
いい面もあるけれど、残念ながら、最終的にはそれがすべてである。

評価:★(満点は★★★★★)



製作者・出演者の関連作品感想
・松本人志監督作
 「大日本人」

「サマーウォーズ」

2009-08-10 20:30:38 | 映画(さ行)

2009年度作品。日本映画。
高校2年の夏休み、天才的な数学力を持ちながらも内気な性格の小磯健二は、憧れの先輩、夏希にアルバイトを頼まれる。二人が辿りついた先は、長野にある彼女の田舎。そこにいたのは総勢27人の大家族。夏希の曾祖母・栄は、室町時代から続く戦国一家・陣内(じんのうち)家の当主であり、一族を束ねる大黒柱だ。栄の誕生日を祝うために集った、個性豊かな「ご親戚」の面々。そこで健二は突然、夏希から「フィアンセのフリをして」と頼まれてしまう。
監督は「時をかける少女」の細田守。
声の出演は神木隆之介、桜庭ななみ ら。



この映画の何がおもしろいかは理解できる。
だがこの映画をおもしろいと言い切ることはできそうにない。
それが映画を見終わった後の率直な感想である。

本作はおもしろくなりそうな要素が、たくさん盛り込まれている。
小さなできごとから始まった物語が、世界を救うというスケールの大きな話に発展する様は単純にワクワクできそうだし、アクシデントは頻発して飽きさせない。張った伏線もきれいに消化されているのも見事だし、アクションシーンも充実している。
登場人物は多いけれど、キャラ付けはそれぞれしっかりできているし、主要キャラにはちゃんと見せ場も用意されている。いくつかのシーンは笑えるし、映像も特にOZのところはきれいだ。
冷静に見て、いい面は多い。

だけどなぜだろう。僕はこの物語に入りきれなかった。
楽しめないわけじゃないけれど、それほどでは、と思ってしまう。

細田守の前作、『時をかける少女』がべらぼうにおもしろかったので、期待しすぎたのだろうか。
理由を考えているが、自分でもよくわからない。
この言葉をなるべく使いたくはなかったが、一言で言えば、合わないのである。
最終的には、個人の感性の問題としか言いようがない。


もちろん、この映画のすべてが悪いわけではない。
上記のように、いい要素はたくさんあるので、そこそこは楽しめるし、ラストに至るまでの流れはなかなかカタルシスを得られる。
特に家族全員での花札以降の流れはいい。最後の最後はじーんと胸に響く。

個人的にはあまり評価はできそうにない。だが楽しめる人には楽しめるのだろう。
それだけの美点を備えた作品であるということだけは、まちがいない。

評価:★★★(満点は★★★★★)



製作者の関連作品感想
・細田守監督作品
 「時をかける少女」

「サンシャイン・クリーニング」

2009-08-04 21:20:05 | 映画(さ行)

2009年度作品。アメリカ映画。
高校時代はチアリーダーでアイドルだった姉・ローズ。30代の今はシングルマザーで仕事はハウスキーパー。妹・ノラはいまだに父親と同居、バイト先はクビに。何事もうまくいかない姉妹に、転機は突如として訪れた――。恋人から「大金が稼げる」と聞いたローズは、ノラを誘って事件現場をクリーニングする清掃業を始める。その名も”サンシャイン・クリーニング”。人生にぶきっちょな家族が、新しいビジネスで生活を立て直そうとする。
監督は「シルヴィア」のクリスティン・ジェフズ。
出演はエイミー・アダムス、エミリー・ブラント ら。



映画の内容を一言で語るなら、姉妹の映画である。
姉はシングルマザーで、むかしの男と不倫を続けている。妹はバイトをクビになってプーだ。
そういう姉妹の映画――あんまり使いたくない言葉だが、世間的に見るなら、姉妹は(父も含め)負け組の部類に入る。

姉は鏡の前に立ち、「You are strong. You are winner.」とか自分に言い聞かせているけれど、そう言い聞かせている時点で、彼女自身、そんな風に自分を信じ切れていないことを示しているようなものだ。


そういう何をやるにもうまくいかない家族の姿をコミカルに描いているので、それなりにはおもしろい。
だが、ふうん、という程度の関心しか呼び起こさなかった。

その理由がなぜかはうまく言えないけれど、多分、引っかかるものの少ないからだと思う。
見ていて飽きるということはないのだけど、このシーンが良かったとか、そういうのは特になく、訴えるポイントには乏しい。個人の嗜好もあるとは思うけれど、全体的にどうもパンチが弱いように見える。


だがそうは言ってもこの映画には、いいなと思う面ももちろんあるのである。
それは先に触れた、コミカルな雰囲気に依るところが大きい。
テンポよく見せてくれるので、集中力は切れないし、コミカルなので人生に上手くいかず、失敗続きの姿を描いていながら、暗い雰囲気はない。
そのあたりの演出力はさすがだ。

それに失敗続きの姉妹の姿を、優しい視線で描いているのも良かったと思う。
人によく見られたいとか、もうちょっとマシな人間になりたいとか、金を得たいとか、そういう誰もが持つ感情を抱え生きながら、報われることのない普通の人たちを、突き放すでもなく描いている。
その描き方の暖かさは印象深い。そしてそれゆえに、さわやかな一品に仕上がっている。

何かが足りない感は否めない。だが映画自体の雰囲気はすてきな作品である。

評価:★★★(満点は★★★★★)


出演者の関連作品感想
・エイミー・アダムス出演作
 「ダウト ~あるカトリック学校で~」
・アラン・アーキン出演作
 「リトル・ミス・サンシャイン」

「千と千尋の神隠し」

2009-06-06 08:24:28 | 映画(さ行)

2001年度作品。日本映画。
わがままで無気力、どこにでもいるような現代っ子の千尋は、引越しの途中で、不思議な町に迷い込む。謎の少年ハクに手引きされ、八百万の神様たちが入浴しに来る「油屋」で「千」と呼ばれながら働くことになった千尋。さまざまな体験や冒険をとおして、少女は「生きる力」を取り戻していく…。
監督は宮崎駿。
声の出演は柊瑠美。入野自由 ら。

   
金曜ロードショーで見る。

いまさらいちいち言うことでもないのだけど、この作品はすばらしい作品だ。

シュールで豊かなイマジネーションに溢れた世界観は楽しいし、所々に散りばめられた叙情も忘れがたい。
ストーリーもダイナミズムに富んでいて、見応えがあり、いくつかの場面では笑いも誘う。
エンタメとしては一級品だ。

そして本作の最大の見所、千尋の成長の描き方が鮮やかなのである。
実際「ぐずで、甘ったれで、泣き虫な」少女が、湯屋での生活を通して、一人でしっかりと、誰かのために動こうとする姿は、感動的だ。
個人的には、樋の上を走って駆け抜けるシーンや、ハクに苦団子を食べさせるシーンなんかが好きだ。そこからは千尋の成長した姿が垣間見えて印象的である。

本作は宮崎駿のベストではない。だが下手な映画よりも、よほど優れた作品だと僕個人は思っている。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)


そのほかのスタジオジブリ作品感想
 「おもひでぽろぽろ」
 「崖の上のポニョ」
 「ゲド戦記」
 「となりのトトロ」

「重力ピエロ」

2009-04-28 20:18:56 | 映画(さ行)

2008年度作品。日本映画。
遺伝子研究をする兄・泉水と、自分がピカソの生まれ変わりだと思っている弟・春。そして、優しい父と美しい母。この家族には、過去に辛い出来事があった。その記憶を抱えて兄弟が大人になった頃、事件は始まる。謎の連続放火事件と、火事を予見するような謎の落書きの出現。落書きと遺伝子暗号の奇妙なリンク。春を付け回す謎の美女と、突然街に帰ってきた男。すべての謎が解けたとき、24年前から今へと繋がる家族の謎が明らかになる。
監督は「ランドリー」の森淳一。
出演は加瀬亮、岡田将生 ら。


『重力ピエロ』という小説は著者本人が述べていることだけど、何てことはない小説だ。
ミステリとして見れば、なぞは早い段階でわかってしまうし、メインプロットも弱い。
それでも『重力ピエロ』をおもしろいと思えるのは、構成が上手く見せ方が優れていることと、小道具の使い方(特にピエロ)などのプラスアルファの要素が心に響くからだ。

原作と比較するのはどうかとも思うけれど、映画版の「重力ピエロ」にはそのプラスアルファの要素が少ないように、僕には感じられた。
見せ方は工夫されていると思うけれど、映画としての良さはあまり出ていない気がする。たとえば映像美が良いとか、役者同士のやり取りから生まれる雰囲気が良いとか、そういうのは少ない。原作を持ち出したくはないけれど、ピエロの使い方も何か足りない。
一言で言うならひっかかるものが乏しい。

そういうこともあってか、どうしても骨格の弱いメインプロットにばかり、目がいってしまうことになるのだ。
おかげでつまらないとまではいかなくても、退屈な印象を受けてしまう。

それでもこの映画は、メインの筋以外でまったくいい部分がないわけではない。
その一つは家族の描き方にあるだろう。特にラスト、嘘をつくとき、あごに手を当てるというシーンがすばらしかった。そこからは血を越えた親子の情愛を感じさせるものがあって、印象的だ。
確かに遺伝によって、親から子へと伝えられる要素は多いのかもしれない。しかし絆というものは、家族という単位がつくりだした環境の中からしか生まれえないということを、そのシーンは教えてくれる。

総じて言えば、映画版「重力ピエロ」は結構微妙な映画である。好きな人もいるかもしれないが、僕はあまり評価しない。
それでも、その家族の描き方だけは賞賛に値する、と僕は思う次第だ。

評価:★★(満点は★★★★★)


原作者、伊坂幸太郎作品感想
 『アヒルと鴨のコインロッカー』
 『グラスホッパー』
 『死神の精度』
 『重力ピエロ』
 『チルドレン』
 『魔王』

出演者の関連作品感想
・加瀬亮出演作
 「アヒルと鴨のコインロッカー」
 「硫黄島からの手紙」
 「ぐるりのこと。」
 「叫」
 「スカイ・クロラ」
 「ストロベリーショートケイクス」
 「それでもボクはやってない」
 「パコと魔法の絵本」
 「ハチミツとクローバー」
・岡田将生出演作
 「天然コケッコー」
・小日向文世出演作
 「UDON」
 「それでもボクはやってない」
 「虹の女神 Rainbow Song」
 「20世紀少年」
 「ハッピーフライト」
 「HERO」

「スラムドッグ$ミリオネア」

2009-04-19 19:43:23 | 映画(さ行)

2008年度作品。イギリス映画。
少年ジャマールは、警察に逮捕された。理由は、世界最大のクイズショー「クイズ$ミリオネア」に出演し、あと1問正解を出せば番組史上最高額2000万ルピーを獲得できるところまで勝ち抜いたからだ。ジャマールは、学校にも行ったことがないスラム育ちの孤児。一体、彼はどうやってすべての答えを知り得たのか?
監督は「トレインスポッティング」のダニー・ボイル。
出演はデーヴ・パテル、マドゥル・ミッタル ら。


はっきり言ってラストは徹底的にベタである。
大体、あと一問で最高賞金を獲得できる青年が不正を疑われて逮捕されるという展開や、幼いころに初恋の人と生き別れているという設定を聞けば、過程はともかく、ラストがどんな着地を決めるかなんて容易にわかってしまう。
だが、僕はそれゆえに、この映画がダメだと言いたいわけではない。
この映画はそれゆえに、エンタテイメントらしい安定したおもしろさがあると言いたいのだ。

この映画は冒頭から僕の心を惹きつけてやまない。
特にスラム街の描写などは見事だ。そこにはいかにもインドらしい、猥雑な街の風景が描かれている。
そこを駆け抜ける少年たちの描写のいきいきしていること。それだけで、すんなりと物語世界に入り込めるのが印象的だ。

主人公は孤児になった後、生きるために盗みなどを重ねるが、その描写も良くも悪くも、発展途上当時の国にふさわしい現実が描かれていて、興味深い。ああいうのを見ると、インドに行くときは注意したくなってくる。
しかし社会的にどうのこうのというのを訴えるよりも、むしろ監督はエンタテイメントに比重を置いているようにも見える。その姿勢も僕には好感が持てた。

それゆえに、難しく考えすぎることなく、主人公の波乱万丈の人生と、純情な主人公の行動を楽しみ、主人公を応援することができるのだ。
いくらかつっこみたい部分もあるが、おもしろさ自体はそれによって損なわれていない。

それだけ映画世界に浸り、主人公に寄り添って見ていたこともあり、ベタなラストに少しだけ感動してしまった。
インド映画にふさわしい最後のダンスや音楽の使い方も含め、良質のエンタテイメントとなっている。僕は結構好きだ。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)


原作の感想
 ヴィカス・スワラップ『ぼくと1ルピーの神様』

「スペース・カウボーイ」

2009-04-05 19:37:46 | 映画(さ行)

2000年度作品。アメリカ映画。
かつて空軍の英雄的存在だったフランク。今では引退している彼の元にNASAから緊急要請が入る。故障した通信衛星の修理方法を教えてくれというのだ。しかしフランクには苦い過去があった。当時、優秀なテスト・パイロットチーム"チーム・ダイダロス"のメンバーだった彼は、アメリカ初の宇宙飛行士として宇宙へ飛び立つはずだった。だが土壇場になってNASAの権限でその夢を断念させられたのだ。40年前の屈辱を晴らすべく、自ら宇宙へ行くことを条件に仕事を引き受けるフランク。さらに、かつてのメンバーも一緒に行けるように働きかけ、こうして伝説のチームは再結成されるが…。
監督はクリント・イーストウッド
出演はクリント・イーストウッド、トミー・リー・ジョーンズ ら。


この映画の中心にいるのは、老年と言ってもいいような年齢の人物ばかりである。
だが映画に出てくる彼らに、老いという言葉は感じられない。とにかく元気いっぱいで、行動に若さがあるのだ。

たとえば、主人公フランクは若造のときと同じように、仲間かつライバルと張り合ったり、殴り合いのケンカだってしている。ほかの人物の中には、年老いても女好きのやつもいるし、ときには恋だってする。
そして若いときに見た夢を、老いてなお忘れられないままでいる。そのために彼らはタフにがんばることになる。
彼らの行動の根っこにあるのは、年齢というものを越えた、生き方に対する張り合いのようなものだ、と僕には見える。多分、僕なんかより彼らの方が感性的に若い。それがうらやましくもある。

個人的には、ホークが月に向かって、衛星を飛ばすところが好きだ。
その行動にはもちろん使命感もあるだろう。だけど、それと同時に、夢を見ることや、生きていくことに対して真摯に向き合った末の行動とも見えてくる。
ともかくも彼らの老いを感じさせない姿は、かっこよすぎるくらいにかっこよくて、見ていて非常に好ましい。

そのほかには、個性派俳優たちの存在感、ストーリーの緩急等に見ごたえがあり、充分に楽しめる。
プロット中にはつっこみどころが、(大きいのから小さいのまで含めて)いくらかあり、ときどき引いて見てしまうところもあるが、それをいちいちあげつらって仕様があるまい。
単純に老いた男たちの、勢いのある行動を堪能すればいいのだ。
イーストウッドの作品としては、中くらいの出来だが、それでもなかなかの佳品である。

評価:★★★★(満点は★★★★★)


制作者・出演者の関連作品感想
・クリント・イーストウッド監督作
 「硫黄島からの手紙」
 「チェンジリング」
 「父親たちの星条旗」
・トミー・リー・ジョーンズ出演作
 「告発のとき」
 「ノーカントリー」
 「メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬」
・ドナルド・サザーランド出演作
 「再会の街で」
 「プライドと偏見」
・ジェームズ・クロムウェル出演作
 「クィーン」
・マーシャ・ゲイ・ハーデン出演作
 「イントゥ・ザ・ワイルド」
 「ミスト」