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私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「ポー川のひかり」

2009-09-08 20:28:48 | 映画(は行)

2006年度作品。イタリア映画。
若い哲学教授が、時代に絶望し、過去を捨て、光あふれるポー川をさかのぼり、岸辺の廃屋に住み始める。そして彼をその風貌から「キリストさん」と呼ぶ、素朴な村人との交流をとおして、生の息吹を蘇らせ、真実を見出してゆく――。
監督はエルマンノ・オルミ。
出演はラズ・デガン、ルーナ・ベンダンディ ら。



この映画は冒頭がすばらしい。
本が釘で床に打ちつけられるという事件から物語が始まるのだが、それが奇妙な犯罪であるだけに、展開はなかなかミステリアスだ。
おかげで物語にすっと入り込むことができ、興味を終始惹きつけられる。

結局、犯人は主人公の大学教授であることがすんなり判明するのだけど、動機がさっぱりわからないため、適度な緊張感があるのも優れた演出だ。
これは単純に構成の上手さだろう。


その大学教授は世捨て人のように、川のほとりの廃屋で暮らすことになる。
近隣の住民から、主人公は「キリストさん」と呼ばれることになるが、実際彼はそこで頼られる存在になっていく。
その交流の過程は心に響くというほどのものはない。だけど穏やかに展開しているためか、いい味が出ている。
結構悪くない映画だな、と思いながらじっくりと楽しむことができた。


と、途中までは良かったのだが、個人的には、ラストの展開がいささか不満である。
主人公が犯罪を犯した動機は、物語としては意味があるけれど、少し弱いし、終わり方も、あれがベターなのはわかるとは言え、もう少し何かあっても良かったんじゃないのって思ってしまう。
一言で言えば物足りない。

そのため後味はいまひとつなのだけど、途中までは優れているし、トータルで見ればいい映画であるということは事実である。
地味ではあるが、つくり手の感性が良い感じに出ている作品と言ったところだ。

評価:★★★(満点は★★★★★)

「フロスト×ニクソン」

2009-04-20 21:01:07 | 映画(は行)

2008年度作品。アメリカ映画。
コメディアン出身のテレビ司会者デビッド・フロストと、ウォーターゲート事件の汚名にまみれた元アメリカ大統領リチャード・ニクソン。このインタビューに全米進出のチャンスを賭けるフロストと、政界復帰への望みを託すニクソンは、テレビカメラの前で熾烈なトークバトルをくりひろげる。
監督は「ビューティフル・マインド」のロン・ハワード。
出演はフランク・ランジェラ、マイケル・シーン ら。


この映画で、もっとも印象的なのは何と言っても、ニクソンの存在感だろう。
ウォーターゲート事件での不法行為を弾劾されて、立場的に追いつめられている側にも関わらず、テレビインタビューの場面になると、逆境にいる人間とは思えないほど、恐ろしく手ごわい。
インタビュアの追及を交わし、情感に訴えるエピソードを挿入することで、巧みに自己弁護を行なう姿は、やはり世界の頂点の地位についただけのことはあると思わせるものがある。
一言で言うなら、老獪なのだ。そこから、一筋縄ではいかないパワータイプの政治家の姿が浮かんでくる様が見事である。

そんなニクソンを相手に、司会者のフロストが苦戦する姿も見応えがある。
老練な政治家相手にうまく切り込むことができないまま、フロストのインタビューは当初、中途半端なままで終わってしまう。それでいて、それを挽回するだけの行動を取っていない、あるいは取れない姿からは、彼の人間性が伝わってくるようで、おもしろい。

そんなフロストが、酔ったニクソンに発破をかけられて発奮する展開はなかなか熱い。
そしてニクソンに追いつめられていたフロストが、ついに逆にニクソンを追いつめるまでに至る過程には少しドキドキした。

しかし、たった一度のミスが、ニクソンを決定的に敗北に追い込む流れは、単純化そして矮小化を行なう、テレビの力を見せつけられるようで、いろいろ考えさせられる。その点も個人的には好印象だ。

正直地味な作品ではあるのだけど、骨太タッチで描かれる静かな心理戦は臨場感に富んでいて、充分楽しい。
じわじわと湧いてくるようなおもしろさが、なかなか忘れがたい一品である。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)


出演者の関連作品感想
・フランク・ランジェラ出演作
 「グッドナイト&グッドラック」
 「スーパーマン リターンズ」
・マイケル・シーン出演作
 「クィーン」
 「ブラッド・ダイヤモンド」

「BOY A」

2009-04-07 21:02:21 | 映画(は行)

2007年度作品。イギリス映画。
24年の生涯のほとんどを一般社会から隔離されて過ごした青年―彼は、新しい名前“ジャック”を選ぶ。生き直そうとする彼をサポートするのは、ソーシャルワーカーのテリー。不安げなジャックにテリーは「過去の君は死んだ」と力強く言い聞かせる。ジャックの新しい職場は運送業。ペアを組んでいるクリスとは日を追うごとに親しくなり、職場にはミシェルという、気になる女性もいた。新しい世界は、何もかもが上手くいっているようだった。しかし偽りの自分でいる事は、ジャックにとって祝福であると同時に苦しみでもあった。
監督は「ダブリン上等!」のジョン・クローリー。
出演はアンドリュー・ガーフィールド。ピーター・ミュラン ら。


たとえばこの映画のように、自分と親しく接してきた人間が、過去に残忍としか言いようのない犯罪を犯したことがわかったとき、自分ならどうするか、どのような感情を覚えるだろうか。
想像力は貧困な方だが、なるべくリアルに考えてみた。

僕の場合で言うなら、多分恐れのような感情を覚えるような気がする。
目の前にいる親しい人間と、過去の事件を重ねることは絶対するだろうし、その人がふとした拍子に豹変して、自分の身に危害を加えることがあるかもしれない、と確実に一度は考えるだろう。そのときに恐怖心を抱くことは絶対に避けられそうにはない。
ただそれを知った後、自分がどう行動するか――避けるか、できる範囲でなら、力になってあげたいと考えるかは、相手の人物の性格と、築いた関係性に左右されるだろう。
ありきたりで、無個性な一般論になってしまうが、それが僕個人のすなおな考えだ。

この映画の主人公ジャックは見ている限りは、悪い性格ではない。幾分ナイーブなところのある、普通の若者だ。適応力もそれなりにあるらしく、新しい職場で良好な関係を築き、女性とも親しくなる。
事件の背景が説明されないことや、気弱そうな少年期の描き方もあって、世間から糾弾されるほどの残忍な殺人犯には到底見えない。もっとも世の殺人犯は大概そう言われるのだけど。

彼はそのナイーブな性格もあって、自分が過去を犯したことを言えず、苦しむことになる。それが実に繊細なタッチで描かれていてなかなかに見応えがある。
そして見ているうちに、彼なりに新しい人生を歩み出そうとしている姿を応援したいという気持ちになってくる。

だが彼の素性がわかると、周囲の人間は手のひらを返したように去っていってしまう。
それは彼が更生されたとしても、犯した罪自体は赦されるものではなく、逃れることができないほど重いものだということを伝えていて、なかなか心が滅入る。
だとすれば、そういうとき、人は、周りはどうすればいいというのだろうか。そんなことをやはりなるべくリアルに考えたくなる。

だがこの映画は、少なくともそのような僕個人の疑問に答えてくれるわけではない。
映画自体はバッドエンドへと着地しているだけでしかないのだ。それがいくらか不満である。

大体、そのエンディングには救いがあるわけでも、何かしらの教訓があるわけでも、悲劇の先に何を見据えればいいかという建設的なものも、感情が揺さぶられるような要素も、何一つとしてないのだ。
あるとすれば、たとえ赦す人が出ても、罪人は所詮どこまでいっても、罪人でしかないのだ、という(風に言っているようにしか見えない)主張くらいだろう。
別にそれが監督の考えなのかもしれない。あるいは悲劇性を強調して、それで満足しているだけなのかもしれない。
だが、それでは、ただ後味が悪いという以上のものなどないではないか?

バッドエンディングが悪いわけではない。だが観客は2時間も主人公に付き合っているのだから情ぐらい湧く。
ならば、製作者はバッドエンディングにする必然くらいは出してほしいと、こっちは思ってしまうということなのだ。

繊細なタッチが心地よく、いい映画である。だがなぜこれで終わらせるのだろうかと、個人的には残念に思う次第だ。

評価:★★★★(満点は★★★★★)


出演者の関連作品感想
・ピーター・ミュラン出演作
 「トゥモロー・ワールド」

「フィッシュストーリー」

2009-03-29 19:44:10 | 映画(は行)

2009年度作品。日本映画。
1975年、最後のレコーディングで「FISH STORY」を放った、早すぎたパンクバンド”逆鱗”。1982年、いつか世界を救うと予言された、気弱な大学生。2009年、シージャックに巻き込まれた、女子高生と、正義の味方になりたかったフェリーのコック。まったく接点のない彼らが、1曲の「FISH STORY」を通してつながり、2012年、地球滅亡の危機を救う。
監督は「アヒルと鴨のコインロッカー」の中村義洋。
出演は伊藤淳史。高良健吾 ら。


伊坂幸太郎の作品には良いものが多いけれど、手放しで絶賛できる作品が少ないように、個人的には思っている。点数で言うなら、5点中、4点の作品が大半だ。
こういうのもなんだが、それは彼の作品に、どこか押しの弱さがあるように感じられるからだ。

だが、僕はそれゆえに伊坂作品をけなそうとしているわけではない。むしろ僕は伊坂幸太郎の作品が大好きだ。
それは、筋立ての巧妙さ、爽やかで小粋なテーストという伊坂特有の雰囲気が、読んでいて心地よいと思うからだろう。
伊坂作品に抱くいくらかの物足りなさも、それで充分に相殺してくれるほどの優れた持ち味だ。

この「フィッシュストーリー」という映画の原作は未読である。
そのため、どの程度、原作をいじったかは知らないのだが、少なくとも伊坂幸太郎らしい味わいの出た映画になっている。

特に筋立ての巧妙さはさすがだ。
バラバラのエピソードがきれいにひとつにつながる過程などは、見ていても感心してしまう。しかも部分部分で微妙にベタのポイントをずらしているところもすばらしいではないか。

そして映画雰囲気に漂うある種の爽やかさも忘れがたいものがあった。
特に出色なのは、パンクバンド逆鱗のパートだろう。
曲が無音であるなぞが明かされるシーンを見たときには、胸にじーんと響くものがあった。ボーカルの青臭さは本当に感動的で、胸を打つものがある。それにラストで、仲間同士で語り合うでたらめなホラ話からは、友情めいたものも感じられる点も見事なものだ。
そこで描かれているのは、青春時代が終わる瞬間、と言ってもいいだろう。なのに、そこには悲観的なものがなく、とことん前向きな明るさがあるところがいい。その清々しさが胸に沁みてくる。

もちろん映画としてのつっこみどころは大量にある。
シージャックとすい星衝突のパートのいくつかは無理があって、もはやつっこんで下さいと言っているようにしか見えてこない。

しかし全体の明るい雰囲気と、上では触れなかったが逆鱗のカッコよさ(やっぱりパンクってすてきだ)、そして彼らのすばらしい歌を聴いているうちに、そういう細かい部分をつっこむのも野暮だな、という気分になってくる。
いろいろ文句を言いたい気持ちはある。だがそれでも僕はこの作品が好きだ。

評価:★★★★(満点は★★★★★)


製作者・出演者の関連作品感想
・原作者伊坂幸太郎の作品
 『アヒルと鴨のコインロッカー』
 『グラスホッパー』
 『死神の精度』
 『重力ピエロ』
 『チルドレン』
 『魔王』
・中村義洋監督作
 「アヒルと鴨のコインロッカー」
・多部未華子出演作
 「夜のピクニック」
・濱田岳出演作
 「アヒルと鴨のコインロッカー」
・森山未來出演作
 「20世紀少年」
 「百万円と苦虫女」

「バンク・ジョブ」

2009-02-16 20:47:59 | 映画(は行)

2008年度作品。イギリス映画。
1971年、イースト・ロンドン。テリーは中古車屋を経営する中年男で借金取りに追い立てられる毎日。そんなある日、浅からぬ付き合いのあったマルティーヌから呼び出され、大金が収められた銀行の地下貸金庫、強盗計画を持ちかけられる。しかしそれは特務機関<MI-5>に属するティムが、スキャンダル写真を奪うために立てた計画だった。
監督は「13デイズ」のロジャー・ドナルドソン。
出演はジェイソン・ステイサム。サフロン・バロウズ ら。


緊迫感にあふれる映画だ。
銀行強盗を行なうというスリリングな設定の中で、ハラハラさせるように見せていく演出はなかなか見事。素直にそのテンポにのめり込んで、楽しむことができる。
主人公たちが、事件を起こしたために、危機に見舞われていくというのはお約束だが、そこに特務機関、警察、政府高官、マフィアと、あらゆる人物を次々と絡ませていくというのは、まったく予想していなかっただけに、非常におもしろい。
ここまでスキャンダルが集まるのはやりすぎでしょう、と皮肉な見方をしてしまうが、エンタテイメントとして、この盛り上げ方は見事だ。

その危機を主人公は、博打としか言いようのない綱渡り的な方法で乗り切っていく。それはかなり危なっかしい計画なのだが、おかげでおもしろくなっているので、これはこれでありだ。

一応「Based on true story」となっているが、多分現実はもう少し地味であるに違いない。そういう点、実話を元に、と書かれると幾分引くのだが、エンタメとして充分に楽しめたのだから、それ以上つっこむのは野暮なのかもしれない。
何も考えずに見れば、文句なしに満足できる一品だ。

評価:★★★★(満点は★★★★★)


出演者の関連作品感想
・サフロン・バロウズ出演作
 「再会の街で」

「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」

2009-02-15 07:51:59 | 映画(は行)

2008年度作品。アメリカ映画。
80歳で生まれ、年をとるごとに若返っていく男ベンジャミン・バトン。生まれてすぐに捨てられた彼をクイニーは無償の愛で育てていく。普通とは言い難い彼は、出会った人々や場所を心に刻み、愛と出会い、愛を失い、生の喜びと死の悲しみに震えながら、壮大な旅を続ける。そんな出会いと別れの中で、人生を大きく変えたのは、生涯思い続けた女性、デイジーだった。
監督は「セブン」のデヴィッド・フィンチャー。
出演はブラッド・ピット。ケイト・ブランシェット ら。


本当にいい小説とは、どこどこがいいと具体的な理屈をつけられないものだ。と、そんな感じのことを(うろ覚え)、宮本輝が津村記久子との対談の中で、話していた。
ああ、なかなかおもしろいこと言うな、とその是非はともかく僕は思ったわけだが、何もそれは小説に限定されるものではなく、映画と置き換えても、成立は可能だろう。

「ベンジャミン・バトン」という作品は、輝の基準を採用するなら、いい作品と断言していい。
見終わった後には、ああ、いい作品だったという手応えがあるし、個人的には好みだという確信がある。だがどこが良かったかを上手く説明できそうにないからだ。

もちろんもっともらしいことを言って、この良さを語ることは可能だ。
まずはその寓話的な世界観だろう。僕はこの映画を見ている間、これは映画というよりも物語って言った方がいいな、とずっと思っていたのだが、その理由は一代記というストーリー形態と、この寓話的な雰囲気に由来している。
歳を取るごとに若返っていくことに、どうしてもある種の悲しさがつきまとうのだが、物語の大きな雰囲気で、悲観的にも楽観的にもならず、淡々と描いていく様が印象深い。

そしてそのような映画世界を多くの俳優陣が支えている。
タラジ・P・ヘンソン演じる母親役は、その大きな母性で捨て子のベンジャミンを育てているが、その大らかさと愛情の深さが画面を通じて伝わってくるのが魅力的だ。
ほかにも、ティルダ・スウィントンもいい味を出している。大人の恋愛と一抹の苦い記憶をベンジャミンに植え付ける、なかなかいいエピソードで個人的には好きだ。海峡横断にもにやりとしてしまう。
また若いベンジャミンをホテルに訪ねた初老のケイト・ブランシェットが、別れ際に見せた、何とも微妙な表情も忘れがたい。その表情によって、恋した相手が若返っていくことに対する、悲しさと苦みに満ちた情景が浮かび上がっている。
もちろん各世代を演じたブラッド・ピットも雰囲気はいい。

と、いい部分をいくつも上げてみたが、これらの美点はすべて、部分的な良さでしかなく、決して全体の良さではない。映画全体には、こんな言葉を超えるようなもっと別の魅力がある。
しかしそれを僕に指摘することはできない。言えることがあるとしたら、ただいい映画なのだ、ということだけだ。
それが少しもどかしくもあるが、ひょっとしたら、この映画に関しては、それですべてが語りつくされたと言えるのかもしれない。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)


そのほかの出演者関連作品感想
・ブラッド・ピット出演作
 「オーシャンズ13」
 「バベル」
 「Mr.&Mrs.スミス」
・ケイト・ブランシェット出演作
 「アイム・ノット・ゼア」
 「あるスキャンダルの覚え書き」
 「インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国」
 「エリザベス」
 「エリザベス:ゴールデン・エイジ」
 「バベル」
・ティルダ・スウィントン出演作
 「サムサッカー」
 「ナルニア国物語 第1章:ライオンと魔女」
 「フィクサー」

「パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド」

2009-02-01 21:21:01 | 映画(は行)

2007年度作品。アメリカ映画。
ウィルとエリザベスは、宿敵であるバルボッサと手を組み、溺死した船乗りが沈む”デイヴィ・ジョーンズ・ロッカー”に囚われのジャック救出の旅に出る。その頃、世界制覇の野望を抱く東インド会社のベケット卿は、デイヴィ・ジョーンズを操り、有力な海賊たちを次々と葬り去っていた。海賊たちに残された道は、9人の”伝説の海賊”を召集し、最後の決戦を挑むこと。だが、鍵を握る9人目の人物こそ、キャプテン・ジャック・スパロウ、その人だったのだ…。
監督は前作同様、ゴア・ヴァービンスキー。
出演はジョニー・デップ。キーラ・ナイトレイ ら。


僕はこの映画を好きになれない。先に結論から書けばそういうことになる。

前二作のファンではないので、大まかな設定以外を忘れていたが、前作を復習したとしても、楽しめたとは思えなかった。
そう感じた最大の理由は、行き当たりばったりとしか見えないプロットにある。何でそういうことになるの?って問いかけたくなる展開が多すぎないだろうか。

一個だけあげるなら、前作で怪物に飲みこまれたジャックがみんなと再会するシーンが納得いかない。
なぜあそこでジャックと再会できたのか→それは海賊の墓場だから、というだけで納得しろとでもいうのだろうか? そこにジャックが来たのは偶然が重なったのさ、で満足しろとでもいうのだろうか? それにカニは何なんだ?
それ以外にもいろいろあるのだけど、何かもう、いちいちあげるのもめんどくさい。
何はともあれ、そういう何となくで済ませてしまうあたりが、僕は気に食わない。たとえおまえの頭は固い、と言われてもだ。

もちろん、この映画にもいい部分はある。
一つはその世界観だし、衣装や小道具は力が入っていて、それだけで物語世界を堪能できるのは事実だ。
ジョニー・デップはやはり雰囲気があるし、ストーンズのファンではないがキース・リチャーズは普通にカッコいい。
コミカルな部分や、アクションシーンも悪くはない。

だけど、それは結局スタイルが整っているというだけの話でしかないのだ。
一作目はそれでも全然いい。二作目もまだ許容できる。だが三作目まで、中身が大味のスタイル重視映画じゃあ(しかも3時間弱)、こっちが困る。これでは、ただの内輪受け映画でしかないじゃないか。いやそうだけど。そうなんだけどさあ…

このシリーズを好きな人が多いことは知っている。けれど、上記の理由により、この映画は僕の中では無し、である。

評価:★(満点は★★★★★)


そのほかのシリーズ作品感想
 「パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト」

出演者の関連作品感想
・ジョニー・デップ出演作
 「スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師」
 「パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト」
 「リバティーン」
・キーラ・ナイトレイ出演作
 「つぐない」
 「パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト」 
 「プライドと偏見」
・ジェフリー・ラッシュ出演作
 「エリザベス」
 「エリザベス:ゴールデン・エイジ」
 「パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト」
 「ミュンヘン」

「ファーゴ」

2009-01-31 15:32:12 | 映画(は行)

1996年度作品。アメリカ映画。
ミネソタ州ファーゴ。借金返済のため妻の偽装誘拐を工作した自動車ディーラーの狙いは、裕福な義父から身代金をせしめること。ところが、役に立たない凸凹コンビに誘拐を依頼したばかりに、思いも寄らぬ方向へと進展していく…。
監督は「バートン・フィンク」のジョエル・コーエン。
出演はフランシス・マクドーマンド。ウィリアム・H・メイシー ら。


殺伐とした殺人が展開される、幾らか陰惨な映画だ。
妻の偽装誘拐を行ない、義父から金を巻き上げるという単純な計画だったのが、保身のため行き当たりばったりに次々と人を殺していくという展開はあまりに悲惨だ。
描写も怖いものが多く、妻の誘拐のため家に押し入るシーンといい、通りすがりの目撃者を殺害するシーンといい、共犯者を手にかけるシーンといい、結構ぞわりとするものがあってそれなりにえぐい。

だがそれでもこの作品は単純に悲惨で、陰惨なだけの映画にはなっていない。それはやはり女性警察官のマージの存在が大きいのだろう。

だがはっきり言って、このマージのパートにはあまりに不要な部分が多いのである(ヤナギダのシーンなどはその最たる例だ)。
彼女のパートを映画に組み込んだのは、殺人犯の非日常と対比するためだとは思うのだが、それは必ずしも効果的とは言いがたい。

だがそれでもこのマージのパートは、無駄が多いながらも、一つのアクセントにはなっていたと思う。
そこからにじみ出る妙なユーモアや生活感には何度もくすりとさせられて(特に女二人に聴取をするシーンは笑える)、陰惨な中にしっかりとした温かさを植えつけている。
いくらか難はあるが、個人的には結構好きな作品だ。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)


製作者・出演者の関連作品感想
・ジョエル&イーサン・コーエン監督作
 「ノーカントリー」
・フランシス・マクドーマンド出演作
 「スタンドアップ」
・ウィリアム・H・メイシー出演作
 「インランド・エンパイア」
 「サンキュー・スモーキング」
 「ボビー」

「ブラインドネス」

2008-12-06 08:29:46 | 映画(は行)

2008年度作品。カナダ=ブラジル=日本映画。
突然目の前が真っ白になり完全に失明する謎の伝染病は、爆発的な勢いで拡がっていた。有効な治療法のない中、政府がとった政策は感染者の強制隔離だった。次々と収容所に集められていく人々。そしてその中にただ一人”見えている”女がいた。夫の身を案じて紛れ込んだ医者の妻だった。
監督は「シティ・オブ・ゴッド」のフェルナンド・メイレレス。
出演は「ハンニバル」のジュリアン・ムーア。『ゾディアック』のマーク・ラファロ ら。


本作は、突如白い光にあふれ、目が見えなくなるという奇病に侵された世界を舞台にした作品だ。盲目になるという奇病が生み出した状況や盲目になった人間を通して、作り手はテーマを訴えている。
そのテーマとは、人間の外面ではなく内面を捉える、ということと僕は受け取った。それにより、人間が抱え持つ正邪の各側面をあぶりだしている。

邪の側面として描かれているのは、人間が持つ野蛮な獣性にあるだろう。
生きていくため、人より何とか優位に立とうと考え、自分だけが得をしたい、と考える。人間としては自然な感情ではあるが、それが食料を独占し、ほかの盲目患者を虐げ、レイプまがいの行動を取るという形で現れると、きわめて醜悪かつ卑劣なだけでしかない。極限下だからこそ、そのような行動を取ってしまう人間の醜さが、不快で実に興味深い。

しかしそのような苦難があるからこそ、人はまた連帯の意識を求めるのだろう。外見が見えないからこそ、内面から相手と向き合いたいと考える。それこそ人間の正の側面だ。
そのラスト近くのシーンと擬似家族の空気は麗しく温かい。我先にみなが進むからこそ、自分たちの周囲との連帯を強めようと考える。
その結論はベタで、薄っぺらく見えるのだが、まっすぐに主張すること自体は悪くはなく、それなりに好感触である。

と、美点を先に並べてみたが、それらの魅力を認めつつも、僕はやはりこの作品を評価はできそうにない。
その原因は、やはり設定に問題があると思うからだ。
人間が盲目になるという感染症を政府が隔離するのは、まあ、いいとしても、恐らく先進国が舞台であるのに、政府はあのような方針を迅速に取るのだろうか、という気がしなくはない。必ず先進国はそのような政策を取ると反対する陣営はあるはずだ。その批判をどのようにかわすのだろう。しかも隔離場所も、現実に考えて幾分無理があるように見えなくはない。根本の設定なだけにもう少し詰めてほしい、と心から思う。
それにラストもご都合主義そのもので、とってつけた感は否めない。その点も悪い印象しか生まなかった。

つまらないわけではないし、テーマに対する姿勢も良い。
だが、もう少しやり方があったのではないか、と個人的には思う次第だ。

評価:★★(満点は★★★★★)


制作者・出演者の関連作品感想
・フェルナンド・メイレレス監督作
 「ナイロビの蜂」
・ジュリアン・ムーア出演作
 「アイム・ノット・ゼア」
 「トゥモロー・ワールド」
・アリス・ブラガ出演作
 「アイ・アム・レジェンド」
・伊勢谷友介出演作
 「嫌われ松子の一生」
 「ハチミツとクローバー」
・木村佳乃出演作
 「監督・ばんざい!」
 「寝ずの番」

「ベティの小さな秘密」

2008-11-22 20:53:58 | 映画(は行)

2006年度作品。フランス映画。
ベティはパパが院長を勤める精神病院の隣にある、大きなお屋敷に住んでいる。でもお姉ちゃんが寄宿学校に行ってからは、おうちの中でひとりぼっち。パパとママは毎晩けんかしているし、たまに会いに行く大好きな犬のナッツは檻のなかで囚われの身。そんなある日、ベティは、パパの病院から抜け出してきた青年イヴォンと出会い、庭の自転車小屋にかくまうことに。
監督は「デルフィーヌの場合」のジャン=ピエール・アメリス。
出演はアルバ=ガイア・クラゲード・ベルージ。ステファヌ・フレイス ら。


主人公である少女ベティを取り巻く状況は幼い彼女にとってはままならないことばかりだ。
姉とは離れ離れになってしまうし、両親はケンカばかりしている。せっかく親しくなった転校生は嫌なヤツで(本当にムカつく)、ときどきえさもやっている犬は処分されかねない状況だ。
どれも幼い彼女だけではどうにもできないことばかりであり、子どもながら生きづらさというべきものが伝わってくる。優しい性質の子だけに、そのつらさはなおさらだろう。

そんなとき、ベティは一人の精神科の患者である若い青年と出会い、彼をかくまおうとする。彼を守ろうとするベティの思いは真摯で温かく、その恋はほのかだ。
だがそれが長続きするわけではないことは観客である僕らには自明である。だからベティが若者と逃亡することもベタと言えばベタな展開と言えるだろう。
だが僕はその展開を見て、否定的な印象を持たなかった。
それはすべて「ベティと呼んで」と言っていた少女が、後半になって「エリザベスと呼んで」と言うようになったことに起因している。

僕は後半の逃亡劇がてっきり現実からの逃避であると思いながら、映画を見ていた。だが一緒に逃げた若者に、そしてラストで親に、「エリザベスと呼んで」と言ったことでその考えを改めた。
ベティ→エリザベスという変遷は、恋愛感情の意味合いもあるが、それと同時に少女から大人として扱ってくれ、という意味合いに響いてくる。要は恋愛の形を借りた、大人になるための通過儀礼と僕は感じられた。
だから青年と犬との逃亡も、現実からの脱却ではなく、自立(もちろん駆け落ちの意味も強いが)の意味合いを持ち合わせているのだと感じた(深読みと言われればそれまでだが)。

もちろん彼女の行動は上手くいくわけはないのだけど、見終わった後には少女が人生のステージを一段上がったという、何とはない手応えが感じられて、爽やかな印象を残す(やっぱ深読み?)。
地味だが、そこそこの佳品であると僕には映った。

評価:★★★(満点は★★★★★)

「ハッピーフライト」

2008-11-21 20:37:51 | 映画(は行)

2008年度作品。日本映画。
副操縦士鈴木はホノルル行きの操縦が機長昇格への最後の試験。しかも当日、試験教官の機長が威圧感バリバリの原田に変更に。一方、このフライトが国際線デビューとなる新人CA斉藤は初の長距離フライト、チーフパーサーが厳しいことで有名な山崎と判明し…。緊張しまくりで、空回りしまくりながらも、それぞれの飛行前の準備は無事に完了。離陸するが……
監督は「スウィングガールズ」の矢口史靖。
出演は「ハッシュ!」の田辺誠一。時任三郎 ら。


監督が矢口史靖ということもあり、映画はコメディタッチで所々のポイントでくすりと笑わせてくれる。ちょっとした間のはずしかたなどにおかしみがあるところが、特にいい。
もちろんコメディなだけに、ねえよ、と言いたくなるようなつくりすぎのシーンもあるのだが、それをつっこむのは野暮というもの。
何より、ありえなさそうに見えるけれど、ひょっとしたらそういうこともあるのかもしれないな、と感じるシーンもあった。

そう感じさせたのは、舞台設定が緻密につくられていることも大きいだろう。
管制室やオペレーションセンター、コクピットの様子などはリアリスティックそのもの。丁寧に構築されているだけに物語世界へと引き込まれるものがあり、ありえなく見えてもそういう事例も過去に本当にあったかもしれない、とときどきだが感じさせてくれる。
これもすべては監督らの綿密なリサーチの賜物だろう。

そして後半でトラブルが発生するが、その情景も取材が行き届いているためか、臨場感にあふれており、緊迫感を味わいながら見ることができる。オチがわかっているのに、そんな風に感じさせるのはすごい。

いくらかとってつけたような部分もあり(綾瀬が泣くあたりのシーンとか)、気に食わない面もあるが、楽しいエンタテイメントに仕上がっている。

評価:★★★★(満点は★★★★★)


出演者の関連作品感想
・田辺誠一出演作
 「ぐるりのこと。」
・綾瀬はるか出演作
 「ICHI」
 「ザ・マジックアワー」
 「HERO」
・吹石一恵出演作
 「手紙」
・田畑智子出演作
 「アフタースクール」
 「花よりもなほ」
 「ブタがいた教室」
・寺島しのぶ出演作
 「単騎、千里を走る。」
・岸部一徳出演作
 「暗いところで待ち合わせ」
 「転々」
 「寝ずの番」
 「HERO」
 「フラガール」

「ブタがいた教室」

2008-11-03 18:06:41 | 映画(は行)

2008年度作品。日本映画。
ブタを飼って育てた後自分たちで食べる。新任教師の星先生は26人の子どもたちにそう告げ、ブタを飼い始める。子どもたちはブタにPちゃんと名づけてブタを育てるが、卒業を控えて、Pちゃんの処遇を巡って大論争が展開される。
監督は「陽気なギャングが地球を回す」の前田哲。
出演は「ジョゼと虎と魚たち」の妻夫木聡。大杉漣 ら。


人は命を食べることで生きている。それは人間の業のようなもので避けることはできないことだろう。実際、肉は美味いと思うし、個人的に刺身は好物だ。
だがその食べ物である家畜のことを、自分が知っていて、それを育てた事実があるならばどうだろう。人はその命を食べることができるのだろうか。
この映画はそのような答えの出ない難しいテーマに取り組んでいる。

だがこの映画が出す答え、というか結末は中盤に達する前には想像がつくようになっている。
なぜならそれはそのように出さざるをえない結論だからだ。一般的に考えてあの状況なら、映画のような選択にならざるをえず、それ以外の選択肢は現実的に言っても厳しいだろう。
しかしそのようなオチがわかったからと言って、本作のおもしろさが減じることはない。
その理由はこの映画の中で、子どもたちが真剣になって考え、結論を出しているのが伝わってくるからだ。

この映画ではPちゃんというブタを食べる派と食べない派から様々な意見が出される。
僕の考えは映画を見る前から決まっていたけれど(僕は食べる派)、双方の意見は、感情論も理性論も含め、どれも傾聴に値する。僕の考えと合わなくともどれもが悩みぬいて口に出された言葉だからだ。
それだけにブタを食べるか悩み、結論を出そうとする子どもたちの姿や、教室の子どもたちが泣くシーンには心を打つものがある。
そして言葉が真剣であるだけに、観客である僕たちも、それについてどう思うか考えをめぐらせることができるのだ。

内容以外としては、子どもたちの演技はすばらしく、監督も子役の素の良さを上手に引き出していると思う。理想に燃える若い教師演じる妻夫木も熱演と言ってもいいすばらしい演技だった。

映画そのものの出来はいくらか疑問もあるが(同じ議論をくりかえしているだけでしかない)、学習映画としてはこれほど良質の作品はない。老若男女を問わずぜひ見るべき映画であろう。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)


出演者の関連作品感想
・妻夫木聡出演作
 「クワイエットルームにようこそ」
 「ザ・マジックアワー」
 「憑神」
 「どろろ」
 「パコと魔法の絵本」
 「闇の子供たち」

「パコと魔法の絵本」

2008-09-26 21:24:28 | 映画(は行)

2008年度作品。日本映画。
とある病院、わがまま放題のクソジジイ大貫は病院中の嫌われ者。そんな大貫がある日パコという名の女の子と出会う。大貫はパコを勘違いでぶってしまうが、翌日になるとパコはケロッとした顔でまた大貫に近付いてくる。実はパコは記憶が1日しかもたない女の子だった。大貫は自分の人生を反省し、パコのために何かしてあげられないかと思い始める。
監督は「嫌われ松子の一生」の中島哲也。
出演は「Shall we ダンス?」の役所広司。アヤカ・ウィルソン ら。


冒頭からテンションの高い映画である。
阿部サダヲのノリノリの演技から病院の奇妙で個性的な面々の登場に至る流れはともかくハイテンション。正直言って、あまりのテンションの高さのため、物語になかなかついていけず、幾分消化不良気味になってしまうきらいすらあった。
しかししばらく見ているうちに、何とかその雰囲気に馴染むことができ、その後は純粋に映画世界を楽しむことができるからふしぎなものである。

この映画は俳優たちのノリもあるかもしれないが、とにかく楽しい空気が流れている(もう少し抑えて演技しても良かったけど)。CGを駆使した世界は美しくカラフルで、コミカルな世界観にさらに拍車をかけている。
このセンスは中島哲也特有のものだろう。

絵本を現実の劇にしようとするファンタジカルな映像には少しほろりとさせられて、じいさんの大貫が少女のために何かしてやりたいという思いも、ツッコミどころはあるし、何より偽善的だが、素直に応援してやることができる。
あざとさはあるが、勢いもあって、それも瑣末なことに思えてくる。

子役のアヤカ・ウィルソンはかわいらしく撮られており(どうでもいいが、役柄のわりに血色が良すぎる)、ほかの俳優たちも持ち味を存分に出している。
いろいろあるが、個人的には好きな作品だ。

評価:★★★★(満点は★★★★★)


制作者・出演者の関連作品感想
・中島哲也監督作
 「嫌われ松子の一生」
・役所広司出演作
 「THE 有頂天ホテル」
 「叫」
 「SAYURI」
 「それでもボクはやってない」
 「バベル」

「ハンコック」

2008-09-06 20:57:12 | 映画(は行)

2008年度作品。アメリカ映画。
ハンコックは悪を退治し、人助けもするが、やりすぎパワーで街が破壊され、市民は大迷惑。でも、本人は「そんなの知らねー」と全く反省する気なし。でも本当は孤独で寂しいハンコックは偶然命を助けたPR万のレイの言葉を受け、生まれ変わることを決意。しかしレイの妻メアリーはこの計画に反対していた。慣れないヒーロースーツを身につけたハンコックの奮闘が始まった。
監督は「キングダム 見えざる敵」のピーター・バーグ。
出演は「メン・イン・ブラック」のウィル・スミス。「モンスター」のシャーリーズ・セロン ら。


力が有り余るゆえ街に損害を出し、皆から嫌われるヒーローが主人公だ。
皆から嫌われるヒーローは以前に見た「ダークナイト」のバットマンや、スパイダーマンに通じるものがある。ただ二人のように苦悩するキャラというわけではなく、酒飲みで嫌われても仕方ないよね、というキャラに仕上げているところがおもしろい。

そこからの展開も嫌われキャラを脱却するために、PRマンの力を借りるという発想が新しくてユニークだな、と思いながら見ていた。監督か脚本家かは知らないがなかなか鮮やかな展開を考えると感心する。

そのおかげで中盤、ハンコックは見事キャラ転換に成功する。さて、そこからどう展開するのだろう。そう思いながら僕は見ていたのだが、予想していた展開とはまったくちがった方向に進み、良い意味で裏切られた。
これにはドキドキしながらストーリーを堪能することができる。

とはいえ、予想外の展開のしわ寄せが後々に現れて、後付設定としか思えない描写がいくつか見られることになる。
特にハンコックの傷が女と呼応するシーンはやりすぎだ。ほかにもはっきり言って引いてしまう部分がまったくないわけではない。

しかしいくつかの面で発想のすき間を縫うような展開を持ち込んでおり、飽きさせることはなかった。
良質のエンタメと言ってもいいであろう。

評価:★★★★(満点は★★★★★)


制作者・出演者の関連作品感想
・ピーター・バーグ監督作
 「キングダム 見えざる敵」
・ピーター・バーグ出演作
 「大いなる陰謀」
 「スモーキン・エース / 暗殺者がいっぱい」
・ウィル・スミス出演作
 「アイ・アム・レジェンド」
・シャーリーズ・セロン出演作
 「告発のとき」
 「スタンドアップ」
・ジェイソン・ベイトマン出演作
 「キングダム 見えざる敵」
 「JUNO ジュノ」
 「スモーキン・エース / 暗殺者がいっぱい」

「パラノイドパーク」

2008-08-07 19:47:19 | 映画(は行)

2007年度作品。アメリカ=フランス映画。
16歳のアレックスははじめたばかりのスケートボードに夢中。今日もお気に入りのスケボーパーク「パラノイドパーク」へ出かけていく。しかし、ふとした偶然から、誤ってひとりの男性を死なせてしまう。
監督は「グッド・ウィル・ハンティング」のガス・ヴァン・サント。
出演はゲイブ・ネヴァンス。テイラー・モンセン ら。


この映画はきわめて地味だ。
スケボー好きの高校生の日常を淡々と積み上げているという内容は下手をすれば退屈になりかねない雰囲気をはらんでいる。実際、似たような感じの「エレファント」や「ラストデイズ」同様、退屈だと見ている最中感じることは何度もあった。

しかしこの映画は「エレファント」同様、その退屈さがたまらなくおもしろい作品でもある。平坦とも見えるムードが見ている間、妙に心地よく感じられる。
その理由は主人公の日常の中に、緊張感がひそんでいるからだろう。その適度に張りつめた雰囲気が物語そのものは引き締める役割を果たしていたと思う。
もちろんその緊張感とは、主人公が過失致死で人を死に追いやったことにあることは言うまでもない。

その事故は普通の日常を送る主人公にとっては明らかな異常事だろう。実際、主人公も、これはやばい、と追い詰められた心情に陥って、軽い鬱のような症状も時折見せている。
しかし主人公の日常は、その異常を前にしても崩れることはない。その描写が本当にリアルだ。
異常が起きても、主人公の日常そのものは表面上、何も変わらず、すべてはその平凡の中に埋没していく。その淡々とした描き方とアプローチはきわめて興味深い限りである。

ただ映画自体、それだけで終わってしまっているのが、少し残念でならなかった。
たとえば、ある種の不気味さが漂っていたり、ストーリーテリングでサスペンスフルにするでもすれば、強烈なパンチとなっていたであろうが、そういったこともなく、映画はただ表層をなぞるだけで終わってしまう。
それは意図的なものというのはよくわかるのだが、個人的な趣味から言うと、もう少し何かがあってもよかったのではないか、と思った。それだけがこの映画の唯一の弱点と個人的には思う。

評価:★★★★(満点は★★★★★)


制作者・出演者の関連作品感想
・ガス・ヴァン・サント監督作
 「ラストデイズ」