2013年度作品。日本映画。
玄武書房という出版社の営業部に勤める馬締光也(松田龍平)は、真面目すぎて職場で少々浮いている。しかし言葉に対する卓越したセンスを持ち合わせていることが評価され、新しい辞書『大渡海(だいとかい)』の編纂を進める辞書編集部に異動となる。今を生きる辞書を目指している『大渡海(だいとかい)』は見出し語が24万語という大規模なもの。曲者ぞろいの辞書編集部の中で、馬締は作業にのめり込む。ある日、ひょんなことから知り合った女性(宮崎あおい)に一目で恋に落ちた馬締。なんとかして自分の思いを彼女に伝えたいが、なかなかふさわしい言葉が出てこず苦悩する。そんな中、会社の方針が変わり、『大渡海』の完成に暗雲がたちこめる……。
監督は石井裕也。
出演は松田龍平、宮崎あおい ら。
本が好きな人はたいていそうだと思うが、僕は結構辞書が好きである。
今でこそ電子辞書を使っているが、むかしは国語辞典を開いては、知らない単語を調べたり、ぱっと開いたページの言葉を何となく拾い読みをしたりしていた。
言葉を調べるだけで、新しい世界が広がり、知識が広まっていくように感じられ、それがとても楽しくてならなかった。
そんな辞書が、ここまでの労苦の果てに生み出されているものと知り、単純に驚いてしまう。
新しい言葉の採取に始まり、掲載する言葉を決定するための他の辞書との対照調査、語釈の記述、そしてミスがあってはならないだけに、五回にもわたって校訂を行なっている。
地味で地道である分、相当な根気がなくてはできない仕事だろう。しかもそれが十五年にもわたって続くのだ。
本当にしんどい作業だな、とつくづく思う。
それだけに、これほどの苦労の果てに、辞書を生み出している人に、単純に敬意を払いたくなる。
本作の主人公馬締は、そんな辞書作りにはうってつけの人だろう。
馬締は文字通り、まじめでオタクっぽい人でもあり、偏執的なくらいの情熱で、一つのことに打ち込んでいる。その姿勢は本当に尊敬に値するのだ。
そして彼が、本当に言葉が好きな人だな、ということもまた伝わってくる。
その感情がよくわかるだけに、すなおに彼の行動に共感を覚えることができた。
また表情の動きの少ない人だけど、内に情熱を抱え持ってもいるのだ。
辞書に対する情熱は無論のこと、人を好きになるときの純粋さ、一緒に辞書作りをしていた仲間に対する義理堅い行動などは、彼の熱情を感じさせ忘れがたい。
根暗そうに見えるけれど、実に好青年なやつだと思う。
そんな彼の姿に、一人の女性がちゃんと気づいてくれる点が、見ていて微笑ましくもあった。
恋文に関しては、笑ってしまったけれど。
そしてそんな馬締に感化されたように、みんなも一所懸命になって辞書作りに打ち込んでいく姿が心に届く。
チャラい感じがあり、馬締とは合いそうに見えないオダギリジョー演じる先輩や、雑誌から転属になったお高い感のある後輩も、みんな辞書作りに打ち込み、サポートしていく。
そんなチームの姿に、じーんと胸が震えてしまう。
辞書作りという一見地味な本の中にも、熱いドラマと人の感情や思いが眠っているのかもしれない。
そんなドラマと感情と思いが、観客である僕にも鋭く突き刺さってくる一品であった。
評価:★★★★★(満点は★★★★★)