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私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「崖の上のポニョ」

2008-08-09 19:30:05 | 映画(か行)

2008年度作品。日本映画。
崖の上の一軒家に住む5歳の少年・宗介は、ある日、クラゲに乗って家出したさかなの子・ポニョと出会う。アタマをジャムの瓶に突っ込んで困っていたところを、宗介に助けてもらったのだ。宗介のことを好きになるポニョ。宗介もポニョを好きになる。しかし、かつて人間を辞め、海の住人となった父・フジモトによって、ポニョは海の中へと連れ戻されてしまう。
監督は「となりのトトロ」の宮崎駿。
声の出演は奈良柚莉愛。土井洋輝 ら。


スタジオ・ジブリの作品だけあって絵の美しさはさすがだ。
背景は鉛筆で描いてあるせいか、まるで箱庭のような、絵本の中の世界のようなふしぎな味わいがある。キャラの動きも素朴さがあって、独特の印象を生んでいたように思う。

キャラクターが良いのも特長だろう。
殊にポニョの存在はかわいらしく、人間になったときのハチャメチャっぷりは印象的だ。宮崎アニメはキャラが立った人物が多いが、ヒロインという観点で見れば、メイに匹敵するほどの存在感がある。

そのポニョが巻き起こす津波のシーンがこの映画最大のハイライトではないだろうか。
その勢いと恐ろしさは、童話風の絵で描かれているものの迫力満点、見応えは充分である。

しかし物語そのものに目を向けると、個人的にはピンと来なかった。
いちいち細々とあげつらうことはしないが、この物語はほとんどなんでもありの状態になっている。そのあたりが、個人的に腑に落ちず、物語にのめりこめなかったきらいがある。

しかし地球の危機が近づいている中、あくまでポニョのために動こうとした宗介の行動はなかなかおもしろい。こういうシーンを見ると、理屈を放棄した恋愛映画なのだ、と気づかされる。

僕は基本的に、フジマキのような(所ジョージは声優としては不向きだ)理屈人間なので、理屈を放棄したこの作品を高く評価はできそうにない。
いい面はあるが僕の趣味ではない。一言で片付けるならそういうことである。

評価:★★(満点は★★★★★)


制作者の関連作品感想
・宮崎駿監督作
 「となりのトトロ」
・それ以外のスタジオ・ジブリ作品
 「おもひでぽろぽろ」
 「ゲド戦記」

「告発のとき」

2008-07-04 20:29:53 | 映画(か行)

2007年度作品。アメリカ映画。
2004年、ハンクの元に、息子のマイクが軍から姿を消したという不穏なニュースが告げられる。軍人一家に育った息子に限ってあり得ないと思ったハンクは妻を残し、息子を探す。女刑事エミリーの助けで、一歩一歩真実を解き明かしていくのだが、そこには父親の知らない息子の心の闇が隠されていた。
監督は「クラッシュ」のポール・ハギス
出演は「ノーカントリー」のトミー・リー・ジョーンズ。「モンスター」のシャーリーズ・セロン ら。


イラク戦争という状況下で、兵士たちに起きたできごとを描いた社会派ドラマだ。
その問題意識は明確で、イラク戦争のあいだに麻薬漬けになった兵士の現状や、自動車を停止することで敵に狙われることを恐れるあまり一般市民をひき殺すという乱暴さ、戦場という極限下に置かれたためにPTSDになり殺人を犯す兵士たちの姿など、戦争の当事者にとっては目を背けたくなる事実を正面きって描いている。
その問題提起には勇気があると思うし、評価もできる。しかし映画としてこの作品を見たとき、その二点とトミー・リー・ジョーンズの演技以外に印象に残るものは少ないというのも事実だ。

愛する息子が自分の知っている姿と違っているという様や、そのショッキングな事実をあぶりだしても、それがエモーショナルな部分に届いてこない。ほかのエピソードも冗漫で、女刑事と息子の擬似家族的な描写など無駄な部分が目立つ。
またイラク戦争の現実を告発するという問題提起はともかくも、ではどうするのか、という作り手なりの姿勢が見えてこないのが不満だ。

ポール・ハギスが脚本なり監督を務めた「ミリオンダラー・ベイビー」や「クラッシュ」は大好きなだけに本作には期待をしていたのだが、期待していた分落胆も大きくなってしまった。
一言で片付けるなら、この作品は僕の趣味ではない。それが何とも残念でならない、と心の底から思う。

評価:★★(満点は★★★★★)


制作者・出演者の関連作品感想:
・ポール・ハギス監督作
  「クラッシュ」
・ポール・ハギス脚本作
 「007 カジノ・ロワイヤル」
 「父親たちの星条旗」
・トミー・リー・ジョーンズ出演作
 「ノーカントリー」
 「メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬」
・シャーリーズ・セロン出演作
 「スタンドアップ」

「幻影師アイゼンハイム」

2008-06-15 08:47:34 | 映画(か行)

2006年度作品。アメリカ=チェコ映画。
19世紀末ウィーンで、大掛かりな奇術=イリュージョンで人気を誇っていたアイゼンハイムという名の幻術師がいた。ある日彼は舞台の上で、幼なじみのソフィと再会する。今では、皇太子の婚約者となった彼女は、その後ほどなく皇太子邸で謎の死を遂げてしまう。謀殺の噂も沸き立つ一大スキャンダルのさ中アイゼンハイムは、ソフィの幻影を蘇らせるイリュージョンを発表するのだが……
監督はニール・バーガー。
出演は「レッド・ドラゴン」のエドワード・ノートン。「サイドウェイ」のポール・ジアマッティ ら。


よく考えてつくられた物語だ。
オチやアイゼンハイムの仕掛けた罠などは見ていれば容易に想像がついてしまうのは否定しようがない。だがオチがわかっていても、そのストーリー運びの上手さにはうならざるをえなかった。

幻影師という特性を生かし、幻影を操り、王子を錯覚させ、大衆の疑惑をあおっていくというアイゼンハイムの手練手管はほれぼれするほど計算高く、巧妙である。
キャラクターの性質を存分に生かした優れたプロットであると素直に感心するばかりだ。

また個人的にはアイゼンハイムと刑事とのほのかな友情を感じさせるあたりも心に響く。
特にラストでトリックを明かすあたりや、すべての真相を理解した刑事の笑顔などは思わずにやりとしてしまう。

ただ惜しむらくは奇術の描き方がどれも嘘っぽく見えたことだろう。
この映画で登場した奇術がどこまでが実際のものかは知らないが、どれもCGの映像にしか見えず、若干引いてしまう部分があった。

そこが個人的に合わないのだが、トータルで見れば満足の一品である。

評価:★★★★(満点は★★★★★)

「紀元前1万年」

2008-04-30 20:07:11 | 映画(か行)

2008年度作品。アメリカ=ニュージーランド映画。
はるかなる太古の時代。幼いころから惹かれあうデレーとエバレットの村をある日、正体不明の一団が襲う。デレーはさらわれたエバレットを救い出したい一心で、わずかな仲間たちと共に一団のあとを追う。苦難の果てにようやくたどり着いたのは、想像を絶する文明の地だった。
監督は「インデペンデンス・デイ」のローランド・エメリッヒ。
出演は「スカイ・ハイ」のスティーブン・ストレイト。「ストレンジャー・コール」のカミーラ・ベル ら。


いかにもハリウッドらしい映画である。
仲間が集まり、結束して敵に立ち向かうという展開は王道そのもの。そしてラストのヒロインの扱いなどまさにハリウッド的ご都合主義の極みである。

加えてこの映画はハリウッド的な安直さが目立ち、粗が多い。
ストーリー展開では敵が船で逃げたときに、なぜ川沿いに進まずに、砂漠を横断しなければならないのか意味がわからないなど、盛り上げようとするあまり適当な展開が目立つ。
また設定もかなり無茶が多い。あんなクソ暑い土地にマンモスが生きていけるはずなどないだろうし、巨石文明がある土地とその周縁地域の人種と気候の関係性が理に適っていない。

しかしそういった部分に目を瞑ればそれなりには楽しめる。物語は起承転結をきっちり踏んでいてわかりやすいし、基本を抑えているので飽きることもない。また適度にアクションを挿入しているため、それなりに盛り上がりは見られる。

とはいえやはりこの映画は映画館で見るほどではない。無個性で無難なエンタテイメントいう以上のものが感じられない平凡な作品というのが妥当な評価だろう。

評価:★★★(満点は★★★★★)


出演者の関連作品感想
・クリフ・カーティス出演作
 「ダイ・ハード4.0」

「クローバーフィールド/HAKAISHA」

2008-04-06 20:46:20 | 映画(か行)

2008年度作品。アメリカ映画。
合衆国国防省に保管された暗号名”クローバーフィールド事件”を記録した1台のビデオカメラ。それはかつてセントラル・パークと呼ばれていた地域で回収されたものだった。映像の中にはロブという青年の送別会の映像が映っていた。しかしそのパーティの途中、突然地響きが轟き、何ものかがニューヨークを襲い始める。
監督は「ハッピィブルー」のマット・リーヴス。
出演はマイケル・スタール=デヴィッド。マイク・ヴォーゲル ら。


工夫に満ちた一品だ。さながら「ブレアウィッチ・プロジェクト」のようにホームビデオ風の映像を駆使して、臨場感を出していたのが、まず目を引く。
注意が呼びかけられていたように、その映像は酔いやすく、二日酔い気味だった体にはかなり酷だったが、その映画の世界観に合っていたのは確かだろう。

ホームビデオとあって、作品世界の人間たちと同様にパニックを追体験できる臨場感がある。(個人的には自由の女神の頭が降ってきて、みんなが携帯で写真を撮っているのに笑ってしまった。だが、そういう点も臨場感あり、リアリスティックといえるのかもしれない)
911を髣髴とさせる(というかメタファー)恐怖とパニックが映像の端々から伝わってきたのが印象深い。

映画としてはプロットの運び方が実に優れていた。
本作は「ゴジラ」を意識した怪獣映画だが、怪獣登場の緊張感あふれる場面と、ゆるく状況を描写するシーンのタイミングが見事で、終始映画にひきつけられる。多分そろそろこんなシーンがくるのだろうな、という予想がつくことはつくのだが、演出や映像の臨場感のために、そんなくだらないつっこみを忘れさせるものがあった。

映画自体は尻切れトンボで、なぞを多く残したままという点はいささか問題だが(続編を意識しているとしか思えず、あざとい)、リドルストーリーと思えば許容範囲かもしれない。

体調が万全のときに、時間潰しで見るなら、文句なく楽しめる作品だろう。

評価:★★★★(満点は★★★★★)

「君のためなら千回でも」

2008-03-02 16:45:10 | 映画(か行)

2007年度作品。アメリカ映画。
まだ平和だったアフガニスタン。少年時代のアミールとハッサンは強い絆で結ばれていた。アミール12歳の冬。恒例の凧揚げ合戦で優勝したアミールは凧を追っていた途中、ハッサンが街の不良から暴行を受けているのを見てしまう。だが、勇気がなく助けることが出来なかった。以来、気まずさを感じ、アミールはハッサンを遠ざけるようになる。時を同じくして、ソ連軍が侵攻、アミールはアメリカへ亡命する。
監督は「チョコレート」のマーク・フォースター
出演は「ユナイテッド93」のハリド・アブダラ。ホマユーン・エルシャディ ら。


この映画を一言で語るなら、贖罪の物語だ。
主人公は子供のとき、召使の息子である友人がいじめられているのに気付きながら、そこから逃げてしまい、友人と距離を取るようになる。あまつさえは策略で家から追い出すという実に卑劣な行動を取っている。時計のシーンなどは、最悪としか言いようがない。
しかしそれがひどいことであることくらい主人公も知っていたのだろう。だからこそ、アメリカに亡命し恵まれた環境に暮らしていた主人公はもう一度やり直すために、危険を冒してでも前へと進み出そうとしているのだ。その選択はお約束と言えばお約束だが、決して嫌いではない。
その意志的な行動がラストで温かな余韻を生み出してたと僕は思う。
特に、ハザラ人と言わないでください、と義父に主張するところはベタだけどいい話だ、と素直に思うことができた。

しかしこの映画を見ていると人間の運命というものは気紛れなものだな、と思い知らされる。
幼馴染がタリバンになったという真実も運命の変遷を感じさせるが、それ以上に、召使の子供だって父親の選択一つでは抑圧されたアフガンに残る必要だってなかったかもしれない、という点が僕の心に訴えるものがあった。
人間の運命というものは少しの違いで、大きな致命的な差を生むものであるらしい。残酷なものだ。

技術的には構成の上手さが特に光っていたと思う。
名誉を重んじる父の描写が、隠された真実に強い説得力を与えたのが印象深い(逆に言えば、過去に卑劣な行動を取ったからこそ、主人公の父はその後、命を賭けてでも名誉を重んじるようになったのかもしれない、と思った)。
だからこそ、ラストで息子が父の名誉を捨てるような行動を取った点が、際立った印象を与えていた。

物語としてはややきれいにまとまりすぎている感もあるが、優れた出来の作品であることはまちがいないだろう。個人的には好きである。

評価:★★★★(満点は★★★★★)


出演者の関連作品感想
・ハリド・アブダラ出演作
 「ユナイテッド93」

「この道は母へとつづく」

2007-12-24 20:44:18 | 映画(か行)

2005年度作品。ロシア映画。
孤児院で育ったワーニャは、イタリア人の夫婦の養子に出されることが決定する。しかしそんなとき、養子となり孤児院を出て行った友人の母親が、孤児院を尋ねてくる。自分が養子に出されたら、実の母には会えない。そう思ったワーニャは実の母親の手がかりを求めるようになる。
監督はアンドレイ・クラフチューク
出演はコーリャ・スピリドノフ。マリヤ・クズネツォーワ ら。


本作がいい映画であること自体はまちがいない。
孤児の少年がまだ見ぬ母に会いに行くというテーマはすばらしいし、そのために一所懸命で、健気に努力を続けるワーニャの姿には胸に強く訴えかけるものがある。多分、この映画を見ている多くの観客はワーニャを応援したくなるだろうし、映画に登場した大人たち(あるいは大人になる手前の少女)と同じように手を差し伸べたい、という気持ちにもなるだろう。
主人公に共感を覚えるタイプの映画だ、というのは確かだ。

だからラストでああいう着地をするのは致し方ない、と言えば仕方ない。
しかしあまりに大甘なファンタジーに過ぎたため、仕方ないと思いながらも残念でならず、結果的に見終わった後には物足りない、という思いでいっぱいになった。

個人的には貧困をしっかり描いていたことが興味深い。
孤児院での描写や、金を稼ぐための描写、金で売り買いされる孤児、ストリートチルドレンなど、ロシアの一地域で起きている様を、逃げることなくしっかりと描いていることは好印象だった。

評価:★★★(満点は★★★★★)

「君の涙 ドナウに流れ ハンガリー1956」

2007-12-23 16:12:15 | 映画(か行)

2006年度作品。ハンガリー映画。
1956年、ハンガリーでは自由を求める市民の声が上がっていた。水球のオリンピック選手カルチはその自由を求める集会の中で、女子学生のヴィキを目にし恋に落ちる。やがて集会は動乱を呼び、カルチとヴィキはその動乱の中に身を投じることになる。
監督はクリスティナ・ゴダ。
出演はイヴァーン・フェニェー。カタ・ドボー ら。


ハンガリー動乱と、メルボルンオリンピックの水球で起きた、メルボルン流血戦を描いた映画だ。
僕はハンガリー動乱に関する知識はなかったが、それでもそれがどのような形で帰着したかはおおむね想像でき、結果も容易に判断することができる。
しかしそのように結果がわかっていたにもかかわらず、僕はこの映画を充分に楽しむことができたし、見応えもあると感じることができた。それは映像の見せ方と演出が良かったからだろう。
市街での銃撃戦や、戦車での爆撃など、ハリウッド映画を見慣れているものには、こんなものかな、という程度にしか感じないが、演出のせいか、映画を見ている最中、映像世界と一体感を感じることができる。
ラストの水球なども会場の観客と同じように、選手たちに共感することができ、素直にハンガリー側を応援する気分にもなれた。

革命の過程では多くの人物が登場し、それぞれの考えを示していることも興味深い。
体勢に反抗しようとする者もいれば、体制側におもねる者もいるし、我関せずを決め込む者もいる。各人の心情などの描写はきわめてリアルだ。その様がこの映画に深みを与えていたと思う。

主人公とヒロインが安直に恋愛関係に陥る点など、お粗末な点も見られる。最初のソビエト選手の描写もあまりにステロタイプだ。
しかし映画を見ることで、ハンガリーで起きた悲しい事件を追体験することができる、なかなかの力作だと思った。その素材に取り組んだ姿勢を高く評価したい。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)

「クワイエットルームにようこそ」

2007-10-29 19:33:22 | 映画(か行)

2007年度作品。日本映画。
フリーライターの明日香はある日、目を覚ますと、精神病院内のクワイエットルームと呼ばれる白い部屋で、拘束されていた。荷物を届けに来た恋人によると、仕事に行き詰まり睡眠薬を過剰摂取したことが原因だと言う。しばらく閉鎖病棟で暮らすことになった明日香は、そこで奇妙な人たちと出会っていく。
監督は「恋の門」の松尾スズキ。
出演は内田有紀、宮藤官九郎 ら。


原作は特にどうとも思わなかったのだが、映画ではまた違う味が出ていたのが心に残った。
そう感じた最大の点はやはり前半部の笑いにあるだろう。小説でもノリのいい文体で、笑いを意識しているのがわかるが、映像で見ると、受けるインパクトが違ってくる。クドカンのテンションといい、映像でしか表現できないパワーがあって笑い所では素直に笑わせていただいた。

精神病院ということで過剰なキャラが出てくるのとかと思っていたが、キャラのインパクトという点では設定の似ている「サイボーグでも大丈夫」の方が強い。
だが本作は笑いもあるが、どちらかと言うと、リアリティを保っているということも大きいのだろう。アクの強さはあるものの、どれも現実の延長上にいる人物の心の病を描いている、と感じられる。
主人公の内田有紀は、望まずに精神病院に入った女性を好演している。ナチュラルな雰囲気があり、彼女の良さが引き出されている、と思う。もちろん蒼井優も、大竹しのぶも個性的で、存在感を放っていた。

物語は現実を意識した視線があることもあり、ラストでシリアスな展開に向かっている。
そこで描かれていたのは、シンプルに言うなら生きづらさだ。
主人公の女性は離婚しており、新しい恋人ともうまくいっておらず、堕胎の過去を引きずっている。そして元夫の死に捕らわれてしまい、せっかく入った仕事もうまくこなせない。多くのトラウマに絡め取られ、しがらみをうまくさばけず、器用に立ち回ることもできない。
「生きることは重い」というセリフがあったが、女の恋人は彼女の重さを引き受けらず、当人自身もその重さに耐えられなくなっている状況だ。

しかしどのような事情があろうと、人は生きざるをえないものだ。
生きることは重く、耐えられないこともあるかもしれない。そしてラストで示されたように、またクワイエットルームに逆戻りすることになるのかもしれない。
しかしそれでも人は外の世界に踏み出さねばならない。ラストシーンを見て、僕はそう感じた。
その希望とも悲壮とも違う、ふしぎな余韻が胸に残った。なかなか良質な作品である。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)


原作の感想
 松尾スズキ『クワイエットルームにようこそ』

出演者の関連作品感想
・内田有紀出演作
 「監督・ばんざい!」
・宮藤官九郎出演作
 「嫌われ松子の一生」
・蒼井優出演作
 「男たちの大和/YAMATO」
 「虹の女神 Rainbow Song」
 「ハチミツとクローバー」
 「フラガール」
・妻夫木聡出演作
 「憑神」
 「どろろ」

「グッド・シェパード」

2007-10-21 19:55:15 | 映画(か行)

2006年度作品。アメリカ映画。
1961年、キューバ上陸作戦を立案し実行に移したエドワード・ウィルソンだが、情報漏えいにより作戦は失敗する。そのころ、エドワードの家に謎のテープが送られてくる。エドワードはそのテープの解析を依頼する。やがてそこから重大な真実が判明する。
CIA創設期から1961年までを舞台に、ひとりの諜報員と家族の姿を描く。
監督は「ブロンクス物語」のロバート・デ・ニーロ。
出演は「ボーン・アイデンティティ」のマット・デイモン。「トゥームレイダー」のアンジェリーナ・ジョリー ら。


CIA設立に関わった人物が主人公ということもあり、陰謀や策略など、複雑な事情と人間関係から成る重厚なエピソードが展開される。
そしてその過程で浮かび上がってくるのは人を信じることができなかった人間の姿だ。

主人公のエドワードには家族もいるし、愛した女性もいる。だが、家族には秘密を持っているし、愛する人間を信じることができなくなっている。また信頼する人間の殺害に間接的に関わることにもなる。
その誰にも寄りかかれない姿はまさに孤独そのものだ。映画全編に彼の孤独を感じさせる雰囲気がにじみ出ていて、そこはかとない悲しみを感じさせる。

しかしその悲しみに満ちた雰囲気は、強く心に響くまでには至っていない。
それはおそらくプロットが分断されて、視点が分散してしまったためではないか、と思う。家族の話、キューバの情報を漏らした人間の話、エドワードの過去等、いくつかのエピソードがそこではつぎ込まれているが、有機的なつながりに少し欠けていて、散漫な印象になってしまった。
もう少し、エドワードの孤立に視点を集中してくれた方が、個人的には良かったと思う。

題材そのものは重厚そのもので、傑作になってもおかしくないと思ったために、この結果は何とも惜しいとしか言いようがない。 

評価:★★★(満点は★★★★★)


監督・出演者の関連作品感想
・ロバート・デ・ニーロ出演作
 「ハイド・アンド・シーク 暗闇のかくれんぼ」
・マット・デイモン出演作
 「オーシャンズ13」
 「シリアナ」
 「ディパーテッド」
・アンジェリーナ・ジョリー出演作
 「Mr.&Mrs.スミス」

「キングダム 見えざる敵」

2007-10-15 19:26:14 | 映画(か行)

2007年度作品。アメリカ映画。
サウジアラビアのリヤドの外国人居住区で自爆テロが発生する。FBI捜査官のフルーリーは仲間が殺されたと聞き、捜査チームを編成。テロリストを探すため、サウジアラビアへと飛び、極秘捜査を開始する。
監督は「プライド 栄光への絆」のピーター・バーグ。
出演は「Ray/レイ」のジェイミー・フォックス。「アダプテーション」のクリス。クーパー ら。


先日の「太田光の私が総理大臣になったら…秘書田中」の中で、「テロとは戦わない」が議題になっていた。
僕個人の意見としては、(テレビの演出のため極論になっているとはいえ)テロとは戦わないというのはナンセンスだと思っている。どのような理由があろうが、弱者をも標的とするテロは暴力の極みでしかなく、そのような類の暴力は断固否定しなければならない。
ただ現在のアメリカのやり方が根本的にまちがっていることが問題なのだ。ありきたりな意見だが、そんな風に思っている。

この映画では、僕が根本的にまちがっていると思っている、テロとの戦いに向かうアメリカFBIの姿を描いている。
少なくとも映画そのものはおもしろい。冒頭のテロの描写も悲しみを誘うものになっているし、FBIの人間が怒りを覚える姿にも説得力がある。
後半のアクションは手持ちカメラゆえに臨場感がある。FBIが誰一人死なないのはご愛嬌としても、楽しめることはまちがいない。

だがこの映画では、テロリストの姿をほとんど記号としてしか扱っていない。ある意味、それこそテロとの戦いと称する戦争で、アメリカが示した態度を象徴しているとも言える。
大体、仲間を殺されたから、すぐサウジに飛んでテロリストを捕らえようと、報復的行動を取ろうとすること自体が短絡に過ぎるのだ。テロリストがなぜそのような暴力を選択したのか、行動に移す前に一旦立ち止まって考えようともしていない。

そんな中、ラストのセリフが印象的だ。
奴らを皆殺しにしてやる。この言葉をアメリカ人である主人公も、アラビア人の少年も発しているあたりに、暗澹とした思いを抱く。暴力の連鎖はこのようにして生まれるのだろうことを仄めかしており、締めとしては見事だ。
問題はあるものの、そのビターなラストに社会派アクションとしての力強さを見た気がする。

評価:★★★★(満点は★★★★★)


出演者の関連作品感想
・ジェイミー・フォックス出演作
 「ジャーヘッド」
 「ドリームガールズ」
 「マイアミ・バイス」
・クリス・クーパー出演作
 「カポーティ」
 「ジャーヘッド」
 「シリアナ」
・ジェイソン・ベイトマン出演作
 「スモーキン・エース / 暗殺者がいっぱい」

「傷だらけの男たち」

2007-07-10 20:15:42 | 映画(か行)


2006年度作品。香港映画。
ボンは恋人の自殺を機に刑事を辞め、私立探偵となり酒びたりの日々。そんなときボンの元上司チャウの義父が何者かにより撲殺される。犯人の自殺で終わったと見られたこの事件にチャウの妻が疑問を持ち、ボンに捜査を依頼する。
監督は「インファナル・アフェア」シリーズのアンドリュー・ラウとアラン・マック。
出演は「インファナル・アフェア」のトニー・レオン。「ウィンター・ソング」の金城武 ら。


監督はこの作品のメインは何と考えていたのだろう。見終わった後にそんなことを思った。
本作はサスペンス、恋愛、ヒューマンといくつかの要素があり、映画としてはどの要素もうまくまとまっていると思うものの、そのどれもがすべてつっこみ不足であるような気がした。

たとえば、サスペンスの面で言うなら、全体的にいま一つ緊迫感が足りなかったような気がする。
犯人が最初からわかっているのなら、犯人がつかまるかつかまらないかといった攻防で緊迫感を煽るのが普通だろうが、そういったものもなく、かと言ってそれに変わる演出もないため、それほどストーリーに心をひきつけられない。一応、犯人の動機は何なのか、といったところを物語の謎に置いていたらしいが、演出のせいもあって、その謎も非常に物足りないものになっている。

またラヴストーリー的な側面や、ヒューマンドラマという点でも何かが足りない。トニー・レオンの絶望は頭では理解できるけれど、そこには心に訴えかけてくるものがなかった。
「インファナル・アフェア」のときはトニー・レオンからもアンディ・ラウからもそれぞれの苦悩がはっきりと伝わってきた。演出の差だろうとは思うが、同じ監督の仕事なだけに、この致命的とも言うべき違いは残念と言う他ない。

それでも映画単品としてはまとまっているため、つまらないわけではなかった。少なくとも損をしたとまでは思わない。
ただおもしろくなる要素はあっただけに、その要素をもう少し掘り下げてほしかったというのが正直な思いである。

評価:★★★(満点は★★★★★)

「きみにしか聞こえない」

2007-06-18 20:34:52 | 映画(か行)


2007年度作品。日本映画。
人気作家、乙一の『失はれる物語』等に収録の原作を映画化。
友達のいない孤独な少女が拾ったおもちゃの携帯電話が、突然遠く離れた土地に住む青年とつながることから生まれるラブストーリー。
監督は荻島達也。
出演は「神童」の成海璃子。「初恋」の小出恵介 ら。


原作は既読なのだが、それでも充分楽しめるように仕上がっている。

内容は孤独で友達のいない女子高生が声をなくした青年と空想の電話を通し、会話をすることで、心の交流を重ねるというもの。原作以上にラブストーリーの要素が強いと思う。
その主人公だが、友達がなく嫌われるかもしれないと恐れる設定にしては、成海璃子では顔が整いすぎているような気がした。もう少し平凡な顔立ちの子だったら、映画の内容にはまっていただろう。

しかし孤独で学校に適応しきれていない少女が、頭の中の電話とは言え、会話をすることで変化していく過程は丁寧に撮られていて好ましい。
そういった過程を描いていくことで、二人の関係が縮まっていく恋愛要素と、相原リョウという一人の少女が人間としてたくましくなっていく、成長物語としての要素がクローズアップされる。その扱いがうまくて、映画を見ながら思わずうなりたくなるほどであった。

映画全体が優しいトーンで彩られているのも印象深い。
特に青年の最後の手話は、人を思いやる姿に溢れている。それはややきれいすぎる気もしなくはないのだけど、孤独な少女の心を救いたいという心情が伝わり、見ているこちらも暖かい気分に浸ることができる。
見終わった後はきっと誰も優しい余韻に包まれることは請け合いだろう。

評価:★★★★(満点は★★★★★)


制作者・出演者の関連作品感想:
・小出恵介出演作
 「キサラギ」
 「初恋」

・原作者乙一の作品感想
 『失はれる物語』
 『ZOO』

「キサラギ」

2007-06-17 18:00:49 | 映画(か行)


2007年度作品。日本映画。
アイドルの如月ミキが自殺して一年。その一周忌にファンサイトで知り合った五人の男たちが集まった。彼女を追悼する集まりのはずが、徐々に彼女の自殺の真相をめぐるやり取りに発展していく。
監督は「シムソンズ」の佐藤祐市。
出演はTVドラマで活躍の小栗旬。「交渉人 真下正義」のユースケ・サンタマリア ら。


アイドル如月ミキの自殺の真相を巡り、主としてワンセットでくりひろげられる推理劇である。

この脚本が実によく練られている。
ただのファンの集まりと思われていたのが、それぞれの人物の素性が明らかにつれ、徐々に違った様相を帯びてくる。その構成はミステリのひとつの王道とも言えるが、つくり方と見せ方の上手さは見事と言うほかない。しかも伏線が丁寧に張り巡らされていて、その回収の様も丁寧で上手い。
そのプロットの上手さのため、ストーリーにぐいぐい引き込まれていく。
ラストで推論が導かれながら、もうひとひねりある辺りや、無関係に思われていた小栗旬を事件の核心に引っ張っていく辺りは見ていてうならされた。ラストのラストで「推論」というセリフを逆手に取っている辺りも遊びが効いていて悪くない。

加えて笑いの部分もなかなか優れている。「後ろ斜め45度」には素直に笑ってしまった。

如月ミキの造形だけが、やたらつくり物めいて見えたが、「虚像のようだ」といったセリフからしてつくり手側も自覚的なのだろう。
ただプロットで観客を楽しませるのが目的なのだ、多分。
その意志の高さが存分に伝わってくる優れた作品である。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)


制作者・出演者の関連作品感想:
・ユースケ・サンタマリア出演作
 「UDON」
・小出恵介出演作
 「初恋」
・塚地武雅出演作
 「間宮兄弟」
・香川照之出演作
 「嫌われ松子の一生」
 「ゲド戦記」
 「バッシング」
 「花よりもなほ」
 「ゆれる」

「監督・ばんざい!」

2007-06-04 20:25:21 | 映画(か行)


2007年度作品。日本映画。
得意としてきたギャング映画をつくらないと宣言してしまった映画監督のキタノは次回作の構想に悩んでいた。キタノはあらゆるジャンルの映画に挑もうとするが、どれも納得いくものにならず、完成にこぎつけることができなかった。
監督は「HANA-BI」「ソナチネ」の北野武。
出演は北野武。江守徹 ら。


ギャング映画がつくれなくなった北野武が次の映画を模索するという話である。
前半部は日本映画に対する皮肉が見て取れて地味におもしろい。
「ALWAYS 三丁目の夕日」に対すると思われる批判はにやりとさせられる。当時の雰囲気が(僕は知らないけど)リアルに出ている、というか出すぎて若干うつになるくらいだ。
その他にもホラーがコメディにしか見えないと指摘も前々から思っていただけに素直に首肯できるものがある。

そんな風に前半部は茶化しが入っていてまあまあだったのだけど、後半になるにつれて、作品のトーンが変わってくる。
後半部こそ、監督が撮りたかったものなのだろう。そこでは、既存のジャンルを破壊し、物語の構造をとことんまで解体するという行為に取り組んでいる。ストーリー性のつじつまを破壊し、映画的な矛盾を笑いつつ、突き進んでいく様はある意味ではすごい。
ラストで、すべてのキャラを抹殺してしまう辺りも良くも悪くもぶっ飛んでいる。

だがそれがおもしろいかと言えば、はっきり言ってノーだ。いや、おもしろくないとか、つまらないという言葉では飽き足らない。「あえて言おう、カスであると」って言葉が適切だと思える。
見ているこちらとしては内容の意味がわからないし、大して笑えないベタなギャグが連続して出てきて、苦笑も失笑もできず、どう対応していいかわからない。
監督の冒険心には敬意を表明しよう。しかし敬意を表しつつも僕は迷わずこの映画に最低点をつけたい。

評価:★(満点は★★★★★)

制作者・出演者の関連作品感想:
・江守徹 出演作
 「UDON」
 「パプリカ」
・鈴木杏 出演作
 「空中庭園」