ただ生きるのではなく、よく生きる

自然の法則をとらえ、善(よ)く生きるために役に立つ情報を探して考えてみる

人を憎むも自分、人をゆるすも自分

2017-06-11 17:52:01 | 知恵の情報
3年前、末期のがんを病んでホスピスに入院されたある女性のことを、私は、
いつも思い出します。

彼女は死をとても恐れていました、。お話をうかがってみると、死んでいくこと
自体を怖がっているのではなく、大きな悔いを残して人生を終わらざるをえない
ことに心を苦しめられておられるようでした。

彼女は夫に裏切られ、大変な苦労を背負ってきたとかで、夫と別居して久しく、
ホスピスへの入院も自分一人で決断して何一つ知らせていませんでした。
夫にだいなしにされたという恨みの日々を送ってきた彼女が、ホスピスで
幾日かを過ごし、迫り来る死を目前にして、そんな自分自身に怯えていたのです。

私は彼女にこう申しました。
「ご主人が変わってくれるのを望むには、もう、あまり時間がなようですね。けれど、
あなたが回心をしてご主人への思いをすっかり変えてしまうことはまだできるかも
しれませんね」

と。「回心」とは、方向を失っている人生に新たな価値観を手にいれることです。
人生のありかたがそれによっておおきな転換をとげる、いわば全人間的な変革
です。ふたたび悪を行なわないと心を入れ換える「改心」とは違うものです。

さて、彼女はしばらく悩んでいましたが、ついに夫にいまの自分の居場所を
知らせました。何年ぶりかでホスピスで再会した夫に、彼女は、「会いにきてくれて
ありがとう」と「何も知らせなくてごめんなさい」とのことばを伝えたのです。
頑なであった夫の態度は見る間に変わっていきました。

この夫婦のあいだに残された時間はわずかでしたが、二人は互いにゆるし
合う夫婦となれたのです。ゆるすことで彼女の魂は救われ、平安のなかに死を
むかえることができました。

いさかいやわだかまりを残したまま生を終えることほど、死にゆく者の心の
平安を脅かすものはありません。その精神的な苦痛は想像するよりはるかに
耐え難いものです。たとえ死の間際にあっても、和解をし、心残りをなくすことが
できれば、安らかなこころで人は死を迎えいれることができます。

─『続 生き方上手』日野原重明 ユーリーグ株式会社より

{注}参考
かいしん【改心】
今までのことを反省し、心を改め正すこと。 「 -を誓う」 「非行少年を-させる」

えしん【回心】
〘仏〙①心を改めて、仏道にはいること。改心。
   ②小乗の信仰を改めて、大乗を信ずること。
   ③浄土真宗で、自力の信仰を改めて他力を信ずること。

かいしん【回心】
あるきっかけで、従来の生き方を悔い改め、新しい信仰に目覚めること。
宗教的思想や態度に劇的な変化が生じ、それまでの分裂・葛藤状況が解消し、
統合された新たな自我が生まれる体験。 「一七歳の時に-しキリスト教徒になった」
〔「えしん」と読めば、邪心を改めて仏の正道に帰依するという意味〕

─大辞林 第三版の解説より

■日野原氏によって「回心」の意味を新たに知った。回心へ自分の心を向ける
ことは、悟りへの道に通じる。

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