ただ生きるのではなく、よく生きる

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もつれを解くコツ   『一日一言  人生日記』

2017-08-22 18:21:01 | 人生の生き方
芭蕉が行脚の途次、美濃に通りかかり長良川で鵜飼を見物したことがあった。このとき、
芭蕉は鵜匠が鵜の縄をたくみにさばくのにひどく感心し、そのもつれさせないコツといった
ものを尋ねた。すると鵜匠のいうには、「まずもつれていない縄を、しっかりともつれさせない
ようにしておく、次に少しもつれた縄を直す。その次にはかなりもつれた縄を直す、そうすると、
最もひどくもつれている縄がおのずから解けるようになるものだ」と答えたそうで、芭蕉は
これに感じ入り「よろずに、この心はあるべく」と門人にも語ったという。物事の争いごとを
解決するにはこのこきゅうでなければならないと思ったのであろう。

一方このように鵜匠によってあやつられる鵜の方にも、なかなか感心なところがある。
漁が終わると、大てい一舟で十二羽いるその鵜はふなばたへ上がってくるが、それが
先輩・後輩の順に勢揃いするのだから妙である。

へさきにいちばん年長の鵜がとまり、以下年輩純にならぶので、その晩のはたらきによって
順序が狂うことはない。もし、若い鵜で、その晩抜群の漁で多くのアユを吐き出して
巧妙手柄顔に、へさきの方へとまろうとすればたちまち激しい制裁が周りから加えられる。
これに反し、ろくな稼ぎもなかったが、年長の鵜はよちよちしながらも、何の妨害もなく
へさきへとまれる。全くきびしくも麗しい長幼の序のとれた鵜の世界ではある。

おもしろうてやがてかなしき鵜船哉   芭蕉

この芭蕉の句は、鵜船の漁の終わったところを詠んだものであろうが、おそらく老いた鵜が
へさきの最先端にあって、若い鵜から敬意を表されている勢揃いに、ジーンと来るものを
感じて読んだものかもしれない。

─『一日一言 人生日記』 古谷綱武 編  光文書院より

■長幼の序:出典:デジタル大辞泉
《「孟子」滕文公上から》年長者と年少者との間にある秩序。子供は大人を敬い、
大人は子供を慈しむというあり方。→五倫