不条理み○きー

当面、きまぐれ一言法師です

「聖なる機械」

2005年10月14日 23時47分38秒 | Memories

 電話。
 
 当時は、自由に使うなど以ての外。
 使うときも、厳しく「3分」以内、と決められていたモノである。

 しかも、それは、玄関の目立つ場所の専用の台座の上に鎮座していた。
 こっそり使おうにも、無理な場所である。

 だが、盲点があった。
 それは、分割コンセント。
 父の寝室に電話を持って行けるように、新築の時に付けたモノである。

 その日、夕飯前の時間。
 父は仕事で遅くなる予定で、祖母と母は夕食の準備、弟たちはテレビに見入っている。
 今しかない。

 私は、そっと玄関の電話をコンセントから外し、父の寝室に持ち込む。
 薄暗い部屋の中で、小さくたたんだ紙を取り出して、おそるおそる開く。
 そこには、当時、流行っていた丸文字で電話番号が書かれていた。
 やっと教えてもらった電話番号。

 そっと受話器を上げる。
 チン!
 受話器を上げた時に鳴る小さなベルに、どきっとする。
 慌てて辺りを見渡すが、その位の音で気付かれはしない。

 もう一度、シッカリと電話番号の紙を食い入るように見つめて、ゆっくりとダイヤルを回す。

 ジーッ ッッッッッッ。
 ジーッ ッッッッッッッ。
 ジーッ ッッッッッッッ。

 ダイヤルが戻る時間ももどかしい。
 早くしないと、ご飯の時間になってしまう。
 
 ジーッ ッッッッッ。
 ジーッ ッッッ。

 回し終えて、受話器を耳に当てる。
 さーっと言うホワイトノイズが聞こえる。
 一瞬、繋がっているのかという不安が起こる。
 
 トゥルルルルルルッ

 呼び出し音だ。

 トゥルルルルルルッ
 トゥルルルルルルッ

 2回、3回。
 繋がった安堵が再び、いないのか?という不安に変わる。
 それとも、間違えたか?

 トゥルルルルルルッ
 トゥル・・・カチャッ

 繋がった!

『ハイ、○○です。』
 うぉ!お、お父さんだ!!
 元々バクバクしていた心拍数が、更に跳ね上がる。

「あの、××高校のぷよと申します。
 ええと、○子さん・・・いらっしゃいますか?」

 電話するって、言っといたよね。
 この時間だって、言っといたよね。
『○子? お、ちょっと待ってな。
 おーい!○子ぉ!! 電話ぞぉ!

 ・・・

 はぁ~い。

 居た!

『もしもし?ぷよちゃん?』
「あ、うん!ごめんね、ご飯時に・・・。」

 そこから、何を話したのか覚えていない。

 斯くして、私の女性への『初電話』は、終わったのである。

 時は流れ、携帯が繁茂し、電話はもっと気楽なモノになった。

 それでも、やっぱり「初めての」異性と電話で話すときはドキドキするし、緊張するモノである。

 そんな事を、なにげに思い出して、にやにやしている秋の夜。

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