幽霊は信じない。
この世に生を受けて三十余年になるが、一度も見たことのない物は、とうてい信じられないからだ。
それを、あなたには霊感がないから、等という人もいるが、その言い方も、なんだか自分が鈍感みたいに言われている様で、気に入らない。
しかし、「気」という物はあると感じている。
たとえば、元気いっぱいで活気溢れる人と話していると、何となくこちらまで元気になった様な気がした経験は無 . . . 本文を読む
「まるでスターウォーズで★の中をワープしているシーンみたいだ。」
「このままワープして、二人だけの世界に行けたらいいのにね。」
高速をとばしながら、降り出した雪の中、ふと姫と交したそんな会話を思い出す。
「彼氏ができたら姫って呼ばれるのが夢なの。」
その言葉に習って、君を姫と呼んでいたけれど、君が本当に俺にとっての姫だったのだと気付いたのは、姫と別れて俺が姫のナイトを務められなくなってからの事だった・・・ . . . 本文を読む
(つづき)
それは、これまで嗅いだことのないええ匂いのする場所じゃった。
へいすけは、うっすらと目を開けた。
あたりには、一面に見たこともない花が咲き誇っておった。
『きれいじゃぁ・・・。』
しばらくの間、へいすけは、ぼーっとしたまま、その花畑に見とれておった。
ずっと、みかん山の世話ばっかりで、こんな風にぼーっとして、景色を眺めるのも久し振りの事じゃった。
なーんも考えず、しば . . . 本文を読む
(つづき)
そもそも、その冬は、どことなくおかしかった。
秋のもみじも散らんうちに、ふいに木枯らしが吹いたかとおもうたら、いきなり、もっさりと雪が降った。
かっぱの長老の亀甲占いじゃ、今年の冬は、そう寒くは無かろうと出とったし、じさまも、ことしは木を守る藁は、あまりいらんかも知れんなぁと言うとったもんじゃから、突然の雪には、人もかっぱも大あわてじゃった。
へいすけは、じさまのみかん . . . 本文を読む
むかし、じさまがおった。
そのじさまはな、みかんつくりの名人じゃった。
じさまのみかんは、とおい国までひょうばんで、たいそう高い値でうれたそうじゃ。
おかげで、じさまのみかん畑は年々大きゅうなり、じさまはちっとばかし、楽な暮らしが出来るようになった。
それでもな。
ねっから、働きモンのじさまは、どんなに畑が広うなっても、どんなに沢山の人を雇えるようになっても、必ず、自分の足でみかん . . . 本文を読む
古(いにしえ)より、「輝き」は、邪を払うとされていた。
それゆえ、水晶を始めとした輝石、宝玉の類は、宗教儀式には欠かせぬものであった。
やがて、その希少さ故に高額となり、その「破邪」の効用よりもステータスとしての効用が強くなってしまうのであるが、それでもなお、貴金属店や博物館で、大きな輝く宝飾の類を見れば、なんとなく清々しい感じを受けるのではないだろうか?
また、高価な宝飾には手が出な . . . 本文を読む
さて、新聞を開いてみたものの今日は日曜。
夕刊は来ないので、一度見た朝刊をもう一度読み直す。
さりとて、楽しい話はなく、仕方なく表のラテ欄へ。
うーむ、既に年末の特番ラッシュ。
しかし、たいした番組はないなぁ。
そもそも、クリスマスらしい番組を少しは放送したらどうだ、などと、放送しても見もしない癖にぶつぶついっていると、彼女がキッチンから声をかける。
「ワインを . . . 本文を読む
「うん、これは、クイット草。
こっちは、ひらりの木じゃ!」
今日も、王様は名前を付けています。
それも、もう、ちゃんとした名前のあるものに。
一度、珍しい木々を贈られて、名前を付けたときに
「いや、流石、王様。
素晴しい名前でございます!」
なんて、褒められたものだから。
それからは、有頂天。
次から次に、新しい名前を付けています。
最初は、木や草だけでした . . . 本文を読む
今日は、チコちゃんの初めてのピアノ発表会。
今年、一年生になったのと一緒にピアノを習い始めたチコちゃんは、一番最初に演奏します。
開演のブザーが鳴って、ピアノ教室の先生のご挨拶の後、チコちゃんの名前が呼ばれました。
「森の音楽会 ヤマモト チコちゃん」
会場から、みんなの拍手が沸き起こります。
しかし、チコちゃんは出てきません。
心配そうに見ていたチコちゃんのお父さん、お母さんは . . . 本文を読む
黄昏の京は、異界となる。
特に、京の街に疎い、俺のような東者には。
碁盤の目のごとき辻角は、夕闇迫る中では、どこも同じに見える。
さて、どっちに行ったものやら。
素直に待ち合わせて、一緒に来れば良かった。
「京都は、よう解れへんやろうから・・・。」
「わかるよ、大丈夫。
店の名前だけ、教えてくれれば、先に行って待っている。」
気を遣ってくれた言葉の端に、妙に意地を張る莫迦な俺。
. . . 本文を読む
大将。
このお湯割り。そこに置いてくんないか。
莫迦ぁ言うない。
そのくれぇで、奴が足りるわきゃねぇじゃねえか。
そそそ、その冷えた奴ぁもう下げちまってさ。
あと、おでんの厚揚げと底大根。
わかってるって。
そいつがねぇんじゃぁ、奴も寂しいやね。
だけど、良い奴だったよなぁ。
いつも、そこにすわってさ。
ニコニコしながら、人の話黙って聞いてやがった。
たまにゃ、 . . . 本文を読む
冬の柔らかな日差しが、南面したガラス戸からたっぷりと居間に差し込んでいる。
おばあちゃんは、どてらを羽織り座椅子に座って居間のこたつに入っている。
いや、その「もこもこ」とした様子は、こたつ布団にまみれていると言った方が良いのかもしれない。
あたしは、台所を片付けながら、そんなおばあちゃんの方を見て、思わず涙がこぼれそうになる。
そう、明日になれば、おばあちゃんは、ここを出て行くのだ . . . 本文を読む
「あっ!」
ボクは小さな声で叫び声を上げた。
小学校の運動会。
縦割りの色別対抗全学年リレーの時のこと。
第一走者の久美が、コーナーから直線にはいるところで、足を滑らせて転んだのだ。
久美は一年生。
ボクの妹だ。
少し体格が良い所為もあって、幼稚園の頃からかけっこだけは誰にも負けたことがない。
だから、このリレーにも文句なしに選ばれた。
1学年4クラスのこの学校の運動会で . . . 本文を読む
噂は聞いていた。
彼女とボクの親友が付き合っていると。
有り得ない話ではなかった。
だって、ボクは告白していなかったのだから。
解らなかったのだ。
先に進んで良いのか、このままが良いのか。
気付けなかったのだ。
彼女の本当の心に、自分自身の本当の想いに。
そうしているうちに、気付いてしまった。
噂が本当だったことを。
ボクは、笑って「よかったね。」としか言えなかっ . . . 本文を読む