超芸術と摩損

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日本人たった5000人のアフリカ大陸に「タフな中国人」100万人

2010-07-19 17:19:03 | 週刊誌から
無法地帯に「中華飯店」 スラム街で博打の胴元! 「アワビ密輸」探知犬を暗殺!? 日本人たった5000人のアフリカ大陸に「タフな中国人」100万人

 W杯開催中の南アフリカに住む日本人は約1300人。サハラ砂漠以南のアフリカ全域でも約5000人に過ぎない。が、中国人は200倍の100万人! 彼らは一体、何の用あって過酷な大陸に日々暮らすのか。驚くべき実態を以下にお届けすることにしよう。

 世界中からW杯目当ての観光客が押し寄せる南アフリカの玄関口、ヨハネスブルク。380万の人口を擁するこの大都市に大規模な「華人街」が現れたのは、ごく最近のことである。
 サハラ以南の、いわゆる「ブラックアフリカ」を取材して回り、『ルポ 資源大陸アフリカ』を上梓したジャーナリストの白戸圭一氏は、白人政権が退いて南ア初の黒人大統領が誕生する前年の93年夏から8カ月、ヨハネスブルクに住んでいたが、「市中心部から東へ約5㌔のところにあるブルマ湖は、当時は白人の富裕層が休日になると釣りに出かける静かな保養地でした。けれど、04年に現地を訪ね、その変貌ぶりに驚いたものです」
 と、白戸氏は語る。
「湖に近い、500㍍ほどの通りの両側に建つ、かつて白人が住んだコンドミニアムは、漢字と英語が併記された看板で埋めつくされ、1階に中華料理店や雑貨屋、床屋などがずらりと軒を並べている。2階から上のベランダには洗濯物が盛大にひるがえり、通りの先には中国人経営の巨大なショッピングモールまであって、すっかりチャイナタウンに様変わりしていました」
 シリルデーンというその街は現在、南ア最大の華人街で、白戸氏によると、
「南アでは今や、どんな小さな街にも中国人がいて、国内全体で40万人もの中国人が住んでいるとされています。ただ、これは統計上の数字なので、不法入国者まで含めると、もっと多いかも知れません。南アの人口は4900万人で、旧宗主国である英国の旅券保持者が25万人ですから、40万という数字の凄さがわかるでしょう」
 黒人政権が樹立した94年当時、600人ほどだった在留邦人は現在、倍増したとはいえわずか1300人。他方、中国人は1年に推計2万人ずつ増えているというから凄まじい。
 一体、彼らはなぜそこにいるのだろうか。
 中国のアフリカ進出は近年、目覚しいものがある。理由は明快。1つは資源が眠っているから。もう1つはビジネスチャンスあり、と見ているからだ。だから「人民」は移り住む。
 地域大国・南アの場合、中国人は特に卸売業の分野で存在感を見せているそうで、朝日新聞元中東アフリカ総局長のジャーナリスト、松本仁一氏によれば、
「数年前に私が本にするため取材した時、ヨハネスブルクには中国人経営の卸売センターが8カ所もできていました。W杯の会場となる市東部のエリスパークに隣接した『チャイナシティー』に、市西部の『ドラゴンシティl』、市中央部の『アジアシティー』といった具合です。それぞれには衣料品や玩具、家電製品、台所用品などを安値で扱う店が何十、何百と入っており、国内の白人、黒人のみならず、はるばるガボンやナイジェリアからもバイヤーが買い付けに来ていましたね」
 中国人店主は親戚から金を借りて南アに渡り、本国から船便で大量に届く商品を“薄利多売”でさばいていたそうで、
「たとえばインド人の店では中古でも1000円するジーンズを、新品で800円という値で売ったりしていました。これなら成功するわけです」(松本氏)
 かくして商売を軌道に乗せる者が現れれば、それを頼りに同郷人がやってくる。すると彼らを目当てに中華料理店が開かれ、次に食材屋が始まって:::といった按配で、華僑社会は拡大の一途。今では、
「売春を生業にする中国人女性も南アには少なからずいるほどです」(白戸氏)

 だが、いいことばかりではもちろんない。中国人の増加に伴って彼らを狙った犯罪も多発。何しろそこは世界に知られた“犯罪激発国家”南アである。
「中国人はアフリカ入大衆が商売相手で、治安が悪い下町にでも店を出す。年中無休で働くから、人通りの少ない日曜日も店を開ける。税金対策のため銀行を使わず、現金決済する。だから店には金がある――。そう見られているせいで、中国人の商店は次々と襲われ、私が取材した当時も、1年に20人以上が殺害されていました」
 とは松本氏。立て続けに20人もの邦人が殺されれば、日本なら連日連夜の大報道となるに違いない。が、
「たとえば私が取材に訪れた雑貨屋の店主は、頭を撃ち抜かれて死んだ妻の亡霊が出るんだ、と言いながら、ベニヤで仕切った店の奥の狭い空間を寝室にして、店を開け続けていましたね。有り金を強奪され、借金を返すには働くしかないんだと、休み返上で商売していたのを憶えています」
 いや、たくましいと言うしかあるまいが、たくましいのは中国人の真骨項。彼らはそうやって被害者に甘んじているばかりでなく、南アでそれ相応に“悪さ”も働いているのだった。
「アワビの密輸です」
 と、松本氏が続ける。
「南アの大西洋岸は荒磯で、アワビがよく育つ場所でした。これを中国人が乱獲し、本国に密輸する犯罪に手を染めたのです。アワビは成長が遅く、殻が小さい個体は捕獲してはいけないとの規則もあったのですが、中国マフィアはお構いなし。洗いざらい獲ってしまうため、対策を講じた南ア当局が“アワビ探知犬”の導入に踏み切りました」
 その効果はてき面で、アワビ犬ことボーダーコリーは空港などでブツを嗅ぎ当て次々と摘発。1年間で20億円相当の密輸を阻止した犬もいたそうな。
「これは中国マフィアにとって痛手だったようで、当局によると彼らはアワビ犬殺害に100万円の懸賞金をかけたということでした。なのでアワビ犬が摘発に出動する時は、シェパードが“身辺警護”のため同行していたくらいです」
 他方、先の白戸氏が目を瞠ったのは、中国人が黒人相手に博打を仕切っていた光景で、
「ヨハネスブルク郊外のソウェトでは、中国人がビンゴゲームに似た賭けごとの胴元をしていたのです」
 と、白戸氏は言う。ソウェトとは、アバルトへイト(人種隔離政策)時代の有名な黒人居住区で、今では観光スポットにもなっているが、低所得者層が多数住む、紛うかたなきスラムである。
「そこへ取材に行く際には、とにかく気をつけろと注意されました。中国人は黒人から金を巻き上げていると思われていて、評判が悪い。中国人と日本人は区別がつかないから、何をされるかわからないぞ、と」
 日本のヤクザも眉をひそめるようなスラムで、長く抑圧され、今なお富の分配に与れずにいる黒人相手に金を巻き上げるその根性、天晴れとほめていいものか。
 しかし、広いアフリカを見渡せば、政治体制や治安に問題を抱える国はゴマンとあるのが現実だ。そして、騒乱や危険や抑圧が社会に渦巻くアフリカだからこそ、中国の出る幕がある……というのが、これまた現実なのである。

 中国がアフリカに進出する大きな動機が地下資源の獲得にあることは、前にも触れた。わかりやすいその一例がスーダンにある。
「アフリカでは過去、欧米の企業が経済権益をがっちり押さえていました。原油の埋蔵が確認されたスーダンでも同様でしたが、01年の同時多発テロ以降、アルカイダの一大拠点であるスーダンから欧米企業が撤退。その間隙をついて入り込んだのが中国でした」
 日本貿易振興機構アジア経済研究所の平野克己・地域研究センター長は、そう解説する。先の白戸氏が自著で紹介したところによると、スーダンでは中国石油天然ガス集団公司が合弁会社をつくって20もの鉱区で石油を掘り、中国人労働者が大勢働いているという。
 酷暑の乾燥帯とあって体力の消耗は激しい。ために彼らはプリン、ケーキ、チョコレートなどを皿に山と盛って食べながら、12時間交代で作業に従事しているそうである。
「ここで問題は、スーダン政府軍がダルフール地方で反政府勢力を虐殺していること。中国に石油を売って得た金で、スーダン政府は中国から武器を買っている。つまり中国が人権弾圧を支える構図があるわけですね。しかし、中国はいかに国際社会から非難されようと、まずは石油が大事。実際、国連でスーダンに停戦監視団を送ろうとの提案がなされた時も、中国は拒否権をちらつかせ、反発する姿勢を見せました」(平野氏)
 爆発的に経済規模が膨らみ、増えるばかりの石油需要。これを満たすには委細構わず、というわけだ。
 松本氏の著書『アフリカ・レポート』によると、中国人の中にはスーダンで闇の中華料理底を開き、同胞の労働者にイスラム教の国ではご法度の酒や豚肉料理を供する者もあるという。
 彼らは役人に賄賂を使い、わずかな期間で利益を上げ、せっせと本国に送金する。スーダンの大衆は中国人と、それを許す自国政府に不信の念を日々、募らせる――。
 アフリカ南西部、アンゴラでも中国のふるまいは問題を起している。こちらも地下に膨大な石油が眠るとあって、内戦が終結するや中国が急接近。空港建設や道路、鉄道網の修復などを中国の国営企業が手がけ、将来的に20万人が住む都市の造成まで行っているが、
「技術者から労働者まで、すべて中国人が占め、地元には雇用を生んでいません。だから、アンゴラの人々の反感を買っているんです」
 と松本氏。飽くなき中国の欲望は今しも、アフリカを猛烈な勢いで“侵食”している最中なのである。
 白戸氏は言う。
「中央アフリカ共和国には一応、政府が存在しています。が、全土を実効支配していません。そんな国の首都にも中華料理庄がありました。南部のジャングルに、木材を伐採して中国に輸出する拠点があるせいで、中国人技術者が首都にやってくるからです。最も驚いたのはソマリアの首都モガディシオでの体験で、武装勢力が町を支配する無法国家であるため、コーディネーターから『日本人が長逗留していると、武装勢力に情報が漏れ、誘拐される危険がある』と言われた私は、大急ぎで取材を開始。携帯電話会社があると聞いて、その本社を訪ねたのですけれど……」
 そこで目にしたものに、白戸氏は思わず腰を抜かしそうになったそうである。

「なんと端末の前で8人の中国人技術者が働いているではありませんか。あちらは目を丸くしていましたが、むしろピックリしたのはこちらの方です。まさか無政府国家の首都で中国人が携帯会社の技術指導まで行っているとは、思いもしませんでしたから」(白戸氏)
 ここまでくれば、もはや中国の独壇場というしかないだろう。「アフリカ全土に住む中国人は100万人にのぼると見られている」(前出・平野氏)そうで、アフリカの政治経済が専門の大林稔・龍谷大学教授は、こう指摘する。
「テロや誘拐などの危険を伴う国や地域で、仮に商機があったとします。しかし、欧米や日本では、政府であれ民間であれ、安全確保のため現地の軍や武装勢力に袖の下を渡してまで進出するなど、到底考えられません。世論の批判は目に見えているからです。人民を抑圧する非民主国家に対しても同様で、欧米や日本は投資ができない。その点、中国には何の足かせもありません。さらに言えば、中国の政府系企業には透明性が求められていませんから、何だって思い通りにやれるわけです」
 アフリカ進出は、中国の一大国家プロジェクトに位置づけられている、と言うのは平野氏で、
「中国の胡錦濤国家主席は4回もアフリカを訪問し、計18カ国に足を運んでいますが、毎回、企業関係者を特別機の定員一杯、200人も同乗させて行くわけですよ。そしてトップセールスで商談をまとめてしまう。そんな体力は他の国にはないでしょう。実際、日本は小泉首相がアフリカを訪問した際も企業関係者は同行させておらず、概して働きかけは弱い。アフリカでのプレゼンスは完全に低下しています」
 白戸氏も同じく、中国と日本の“体力差”を感じている1人である。
「中国人は、北京大や清華大といった一流大を出た連中が、寝袋ひとつ、虫除けスプレーひとつで高原地帯やジャングルに派遣され、携帯電話のアンテナ敷設をやらされていたりします。私が2度目にソマリアに行った時、戦闘が激化したため国連機に乗って辛くも脱出したのですが、ホテルにいた中国人にどうするのかと尋ねたら、『戦闘が収まるまで生き延びろと本国から命令があった』と言う。日本の人権感覚では考えられないことですが、彼らに胆力があるのは確か。その点、日本人は行きも帰りもビジネスクラス。現地では空調の効いたホテルに宿泊、というのが基本です。だから日本は中国に押されっぱなし。それは、豊かだという証しでもあるのでしょうけれど……」
 これを幸せと言うべきなのか、どうなのか。タフで無遠慮な中華パワーの席捲を許す国際社会。その構図がアフリカにもあることは、疑いのない事実のようだ。

週刊新潮2010年7月8日号
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