心理学の本(仮題)

【職場に】心理学書編集研究会(略称:心編研)による臨床心理学・精神医学関連書籍のブックレヴュー【内緒♪】

インタールード――事例研究について徹底的に考えまくる,六月病という名のエントリPART3

2007-06-20 13:40:43 | 特集・シリーズ
さてさて現在展開中の事例研究に関するエントリ,ここらで一息つきまして,今日はちょっと脱線シチャオウカナ? かと思ってる次第。

で,イキナリですが,心理学の起源,やれアリストレレスやらデカンショやら何やらいいますけどね,まあそれはもちろんそういう面は多々あるんですが,そんならジャン・アンリ・ファーブルも入れてくれようと思ってるのがこの私なんであります。

生物学史上の巨人ファーブルは,行動科学史上の偉人であり,傑出した観察人なのであります。ゆえに入れてほしいのです。入れろだぁ? コノヤロウ,お前が入れろや! というわけで,エエ,じゃあ入れますよト。そのうえで,心理学を学ぼうとするならファーブル読めと,勝手に主張させて頂こうと思います。

ファーブルといえば昆虫,昆虫といえばファーブル,それがなんで心理学よ? オーケー,もっとももっともごもっともまんなかもっこり館ヒロシ,でありますが,いやいやダーウィンの登場以降,地球上の生物われら皆きょうだいということがわかりまして,それは生物学が単に生物学にとどまらないということであります。

つまり比較行動(動物)学,最近では比較認知科学,でいうところの「比較」という視点に支柱を与えたのが進化論であることは皆さんご存知と思いますが,比較行動学の御三家,フリッシュ,ティンバーゲン,ローレンツはもとより,マターナル・ディプリベーションのハーロウやらすべてのエソロジスト,そいつらの源流は誰なんだぞなもし,といわれれば,それはダーウィン,なんていうと話はそこで終わるわけですが,待て待てーい,ある種ダーウィンを凌駕する徹底した行動科学者ファーブルを,忘れて頂きたくはないわけです。

ちなみに,ファーブルとダーウィンはだいたい同時代人,まあファーブルのほうが20歳くらい年下なんですけど,実は進化論つうのはダーウィンのお祖父さんが言い出したことっていうのは有名な話ですが,ファーブルやダーウィンの時代の科学者の議論の的でもあったわけです。ちなみにファーブルは反☆進化論でした。閑話休題。

それでファーブルといえば昆虫記,でありまして全10巻,生前は全くといっていいほど売れなかったそうですが,これは論文ではありません。じゃあノンフィクション小説かというと,まあそうはいえなくもないけど,あえていえば「記述」としかいいようがない。主観がどうした科学がどうした,そんなんチッこいよ! こっから科学もできれば小説もできる「素材」なんでありまして,ファーブル昆虫記という記述はそういう意味では極上の素材,これぞまさに19世紀的サイエンスの最大の魅力であります。

そして『症例マドレーヌ』の最大の魅力は「記述」なんでありまして,その記述を支えるのは観察しかないわけで,徹底的に見るということ,われわれ忘れがちなんじゃあございませんこと?

観察といっても,ガラス越しの観察なんかじゃあございません,見る・聞く・触る・嗅ぐ・味わう,五感を総動員した観察,それこそが参与観察,フィールドワークの真骨頂でありまして,それらを元にした「記述」にこそわれわれが学ぶことが隠されているのだと,そう思えて仕方ないんですよ。観察者の中立性? 中立を保って本質を見失うなんてナーンセンス。本質はそんなセコイものじゃありませんことよ。

ウン,これくらいでいいかな? ということで,ひとりヨガりに口実をでっち上げたところで,今日は昆虫記,紹介させて頂こうかと思います。恐縮です!

完訳 ファーブル昆虫記---集英社

全10巻を完訳するという進行中の偉業,原本1巻が上下2巻で訳されています。現在5巻上までが刊行されました。そしてとにかくこの美しい装丁を見ていただきたいのです。


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ジャン=アンリ・ファーブル 奥本 大三郎

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ハフーン。これぞ全世界人類の宝! 

ま,あとは僕の思い入れを語らせてもらおうかと思いますが,何を隠そう,僕の初めての読書感想文(小学一年生)は他ならぬ「昆虫記」でありました。フンコロガシのやつね。まあ自主的に選んだというよりは,担任のモリオカ先生に無理矢理押し付けられたというほうが正確ですが,そして,メデタク入選し,子ども心になんか承服致しかねる複雑な心持ちであったことはさておいて。

昆虫記といえばフンコロガシすなわちスカラベ,これホントいい話でして,フンコロガシが牧場から自分の巣に帰るまでの苦行・苦難をあますことなく観察し記述したという,もうほんと感服ですね。横取りしようとする悪いやつが現れたり,溝にはまったり,ハラハラドキドキの手に汗握る一大スペクタクル。巣での食事をずっと見てるという執念には,舌を渦巻状に巻いてウウウッというしかないです。

個人的に好きなのは,ギョウレツケムシの話。ギョウレツケムシってのは,細い糸を吐き出しながらその上を何十匹で文字通り行列するニクイあんちくしょうで,天気予報もしてくれるカワイイヤツなんですが,ある日,鉢の縁にギョウレツケムシの行列の先頭が乗りかかるという僥倖(!)に出くわしたファーブルさん,早速,それを鉢の上をグルグル回るように仕向けるわけですね。要は先頭のやつが一周した時点で最後尾のやつの出す糸の上に乗せちゃうわけですよ。すると,ミニマルミュージックよろしく鉢の縁を糸出しながらグルグル行列する,数日間グルグル回って去っていくのですが,その後,しっかりその糸の長さを計測するファーブル先生……という話なんですが,なんともいえない妙なおかしみがあって,幼少のころからのお気に入りですね。

まあファーブルというと,結構ロマンティックな側面が強調されがちだけど,元は数学専攻というのもあり,モカン・タンドン先生じこみの解剖学やら対照試験やら,冷静ないわゆる科学的視点も持ち合わせており,というかそれを持ち合わせているからこそ,従来,誰も注目しなかった昆虫の行動の面白さを「発見」することができたのだと思います。

ファーブルの発見した数々の法則は,現在でも通用するものもあれば通用しないものもある,しかし重要なのは法則ではなく,そう,Attitude。対象に肉薄しつつ対象から離れる,この二律背反をアウフヘーベンするのが知性というものでありますし,観察というものの本質なんであろうと思います。

…………

まあ脱線としつつも,観察について若干は触れられた気がするので,それはそれでよし(いいのか)。次回は,科学研究における事例研究の位置づけと観察者要因(観測問題)について書きたいと思います……が,いささかこれはちょっと気が重いなあ。

●関連エントリ
【事例研究】革新的な発明・発見には常に先行者が存在する【症例研究】
【次回予告】事例研究について徹底的に考えまくる,六月病という名のエントリ
プレイと解釈――事例研究について徹底的に考えまくる,六月病という名のエントリPART1
兄と弟――事例研究について徹底的に考えまくる,六月病という名のエントリPART2
特殊と普遍――事例研究について徹底的に考えまくる,六月病という名のエントリPART4
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