はいどうもどうもこんにちは。さて,今年になって,
という本がドカンと出まして,ビックリしたわけですが,これを機に日本の精神医学・精神分析史上の大巨人である土居先生の出版を眺めてみたい,基本的に,年代順に,という欲望が出てまいりまして,ならやりましょうということで,土居WORKSをみていきたいと思うわけです。
ちなみに上記の書籍については,
■土居健郎著『臨床精神医学の方法』を読む--Gabbardの演習林-心理療法・精神医療の雑記帳
http://d.hatena.ne.jp/gabbard/20090305/p1
激烈に素晴らしい力の入ったレヴューを書かれておられますので,ぜひご覧になると良いと思います。
で,まあ僕はと言いますと,一冊を深くというよりは,広く浅くを常々モットー,というよりは広く浅く以外は不可能,というのはまあさておいて,コンテクスト主義だあと嘯きながら,嘘吹きながら,土居WORKSのコンテクストを理解していきたいとこう思うわけですね。というか,この特集に関しては,実はいろんな人からサジェスチョンを戴いてまして,それをあたかも自分が考えたように,今から書いていきたいと思うわけですよ。
じゃまあ早速ですが,
■1952年
精神分析への手引―理論と実際 (1952年)ローレンス・キュービー 土居 健郎 日本教文社 1952売り上げランキング : by G-Tools
記念すべき出版処女作は翻訳でした。ローレンス・キュビーですね。分析の隠れ身という言葉を作った人です。ちなみに土居先生とキュビーの縁を作ったのは,内村祐之先生,だそうです。内村先生はご存じ,お父さんはキリスト教思想家の内村鑑三です。キュビーとはドイツ時代に交流があったとのことです。この本,読んだことないんですが,もし読んだことある方おられましたら,何かとお教えください。
で,書き下ろし処女作はといいますと,
■1956年
現代心理学体系〈第10〉精神分析 (1956年)松本 金寿(編) 土居健郎(著)
共立出版 1956売り上げランキング : by G-Tools
へーという感じかもしれませんが,これは後に,
として,リイシューされてます。僕もこちらで読みました。
まあこの本,文庫本で320頁くらいなんですが……最高傑作はだいたい処女作であるという仮説(psy-pub談)に違わず,すごい本です。率直にいって,これ一冊書いてそれでもってキャリア終了でも,十分に歴史に名が残ると思います。ただまあ土居先生の場合,すごいのは,これを凌駕するような著作が後にも出てくるところでして,まさに大巨人たるゆえんですね。というか処女作から大巨人全開でマジスゴすぎる。
私見ですが,土居先生のキャリアのなかで,だけでなく,精神分析に関する日本の書籍のなかで,絶対的な1冊であると思われます。日本で書かれた精神分析の唯一冊を選べ,と言われたら,まよわず,これでしょうね。もちろん他にすごいのもありますけどね。
なにがすごいのかなあと言いますと,概説ということを差し引いても,専門用語が最小限,ジャーゴンフリーな書きっぷり,に加えて,徹底的に咀嚼して,自分の理解したことを書き,理解してないことは書かない,疑問は疑問として書く,疑問について答えられることはなるべく答える,という,丁寧さ・誠実さ,ではないかと思いますね。自身の症例も出したりしてて,難解ではないですけど,本当に中身が濃いです。
これを書かれた当時は,土居先生は36歳,まさに気鋭も気鋭,というか斯界においては若手も若手の時期だと思いますが,それだけに,大上段からご高説,ではなく,ある種,精神分析への疑いすら持ちながら,丁寧に理解を進めていくという感じで,土居先生が精神分析を理解していく過程をそのまま読めるというところが魅力かなと思います。
いま「精神分析への疑いすら持ちながら」と書いたんですけど,土居先生は,精神分析の巨人でもありますが,精神医学それも精神科臨床における巨人でもありまして,そういう意味で,精神分析を捉えている,という節が上掲書にもすでにみられるわけですが,あくまで臨床がメイン,という信念でしょうか,
■1961年
上掲書が精神分析理論の概説書であるとすれば,これは精神分析的精神療法ひいては精神療法の概説書,ということになりましょうか。今も,力動的心理療法に関する基本中の基本として,読まれ続けているというのもすごいですね。最良のテキストのひとつとして,非常に力のある本だと思います。
臨床を中心として,というテーマを持ちながら,精神分析からサイコセラピーを考えるのが本書とすれば,
■1965年
精神分析と精神病理 (1965年)土居 健郎医学書院 1965売り上げランキング : 1148624 by G-Tools
精神病理学あるいは精神医学と精神分析の接点を考えるのが,この本でしょうか。この本に先立って,「神経質の精神病理―特に「とらわれ」の精神力学について(1959)」と「「自分」と「甘え」の精神病理(1960)」というキャリアを代表する論文をものにされてますが(『土居健郎選集〈1〉精神病理の力学』所収),ある種,いちばん狙っていたところなのかもしれませんね,すなわち,精神病理学ないし精神医学の領域に精神分析でもって踏み込む,という意味で。それはもちろん精神分析の自己主張というよりは,精神科臨床の発展を願って,だと思います。
で,さらに,精神科臨床そのものに踏み込むぞ,ということで,
■1967年
精神療法の臨床と指導 (1967年)土居 健郎 医学書院 1967売り上げランキング : 1365751 by G-Tools
精神療法を志す人だけでなく,広く精神科臨床に携わる人のために,ということで,実に21の症例満載の一書です。これは『土居健郎選集〈4〉精神療法の臨床』としてもでてます。冒頭に漱石の『硝子戸の中』を引用して,諸注意を述べた後は,症例検討一直線の直球の本です。
この本,東大精神科の精神療法演習をもとにした,とのことで,土居先生は1971年に東大精神科の教授になっておられますが,それ以前から,東大で演習をやっていたのですね(いわゆる土居ゼミ)。土居先生をつれてきて演習をやるようにいったのは秋元波留夫先生で,当時の教室は台弘先生が率いていた……ということだそうです。
この後,
■1967年
脳と意識的経験の統一 (1967年)Sir John Eccles 土居 健郎 吉田 哲雄 医学書院 1967売り上げランキング : 1401631 by G-Tools
■1969年
神経症と創造性 (1969年)ローレンス・キュビー土居 健郎 みすず書房 1969-09-30売り上げランキング : 561968 by G-Tools
と翻訳が続き,
■1969年
漱石の心的世界 (1969年)土居 健郎至文堂 1969売り上げランキング : 921082 by G-Tools
と余技も見せつつ(といいつつこれはこれで余技ではないんですが),ここまですべてオリジナルというのがすごいですが,もうこれでキャリアが終わっても,なんら恥じることがないどころか,歴史的大偉業といえるのですが,そこは大巨人,実はここからがスゴイ,ということで,こっそり本文中にキーワードをいくつか混ぜといたのですが,常人ならこれが爛熟の果実というところを,果実はまた種でもあるというところで,次回に続くといいたいところですが,ひとつだけ,まとめておきたいなと思うのは,初期からの一貫した姿勢,ということで,それは,
臨床は人間理解の場であるべし
ということだと思います。したがって,精神分析史上の巨人でありますが,精神分析を宣伝・喧伝するというよりは,臨床は人間を理解する場であるということを実現するために精神分析を用いる,という一貫したスタンスこそ,その著作の普遍の魂――形而上ではなく,実際に本が生き残っているという意味で――を今に伝えるのではないかと思うわけです。
ということで,次回に続く!
臨床精神医学の方法土居 健郎岩崎学術出版社 2009-02売り上げランキング : 27735 by G-Tools |
という本がドカンと出まして,ビックリしたわけですが,これを機に日本の精神医学・精神分析史上の大巨人である土居先生の出版を眺めてみたい,基本的に,年代順に,という欲望が出てまいりまして,ならやりましょうということで,土居WORKSをみていきたいと思うわけです。
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精神分析への手引―理論と実際 (1952年)ローレンス・キュービー 土居 健郎 日本教文社 1952売り上げランキング : by G-Tools
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で,書き下ろし処女作はといいますと,
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現代心理学体系〈第10〉精神分析 (1956年)松本 金寿(編) 土居健郎(著)
共立出版 1956売り上げランキング : by G-Tools
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精神分析 (講談社学術文庫)土居 健郎講談社 1988-11売り上げランキング : 97814 by G-Tools |
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まあこの本,文庫本で320頁くらいなんですが……最高傑作はだいたい処女作であるという仮説(psy-pub談)に違わず,すごい本です。率直にいって,これ一冊書いてそれでもってキャリア終了でも,十分に歴史に名が残ると思います。ただまあ土居先生の場合,すごいのは,これを凌駕するような著作が後にも出てくるところでして,まさに大巨人たるゆえんですね。というか処女作から大巨人全開でマジスゴすぎる。
私見ですが,土居先生のキャリアのなかで,だけでなく,精神分析に関する日本の書籍のなかで,絶対的な1冊であると思われます。日本で書かれた精神分析の唯一冊を選べ,と言われたら,まよわず,これでしょうね。もちろん他にすごいのもありますけどね。
なにがすごいのかなあと言いますと,概説ということを差し引いても,専門用語が最小限,ジャーゴンフリーな書きっぷり,に加えて,徹底的に咀嚼して,自分の理解したことを書き,理解してないことは書かない,疑問は疑問として書く,疑問について答えられることはなるべく答える,という,丁寧さ・誠実さ,ではないかと思いますね。自身の症例も出したりしてて,難解ではないですけど,本当に中身が濃いです。
これを書かれた当時は,土居先生は36歳,まさに気鋭も気鋭,というか斯界においては若手も若手の時期だと思いますが,それだけに,大上段からご高説,ではなく,ある種,精神分析への疑いすら持ちながら,丁寧に理解を進めていくという感じで,土居先生が精神分析を理解していく過程をそのまま読めるというところが魅力かなと思います。
いま「精神分析への疑いすら持ちながら」と書いたんですけど,土居先生は,精神分析の巨人でもありますが,精神医学それも精神科臨床における巨人でもありまして,そういう意味で,精神分析を捉えている,という節が上掲書にもすでにみられるわけですが,あくまで臨床がメイン,という信念でしょうか,
■1961年
精神療法と精神分析土居 健郎金子書房 1961-09売り上げランキング : 216921 by G-Tools |
上掲書が精神分析理論の概説書であるとすれば,これは精神分析的精神療法ひいては精神療法の概説書,ということになりましょうか。今も,力動的心理療法に関する基本中の基本として,読まれ続けているというのもすごいですね。最良のテキストのひとつとして,非常に力のある本だと思います。
臨床を中心として,というテーマを持ちながら,精神分析からサイコセラピーを考えるのが本書とすれば,
■1965年
精神分析と精神病理 (1965年)土居 健郎医学書院 1965売り上げランキング : 1148624 by G-Tools
精神病理学あるいは精神医学と精神分析の接点を考えるのが,この本でしょうか。この本に先立って,「神経質の精神病理―特に「とらわれ」の精神力学について(1959)」と「「自分」と「甘え」の精神病理(1960)」というキャリアを代表する論文をものにされてますが(『土居健郎選集〈1〉精神病理の力学』所収),ある種,いちばん狙っていたところなのかもしれませんね,すなわち,精神病理学ないし精神医学の領域に精神分析でもって踏み込む,という意味で。それはもちろん精神分析の自己主張というよりは,精神科臨床の発展を願って,だと思います。
で,さらに,精神科臨床そのものに踏み込むぞ,ということで,
■1967年
精神療法の臨床と指導 (1967年)土居 健郎 医学書院 1967売り上げランキング : 1365751 by G-Tools
精神療法を志す人だけでなく,広く精神科臨床に携わる人のために,ということで,実に21の症例満載の一書です。これは『土居健郎選集〈4〉精神療法の臨床』としてもでてます。冒頭に漱石の『硝子戸の中』を引用して,諸注意を述べた後は,症例検討一直線の直球の本です。
この本,東大精神科の精神療法演習をもとにした,とのことで,土居先生は1971年に東大精神科の教授になっておられますが,それ以前から,東大で演習をやっていたのですね(いわゆる土居ゼミ)。土居先生をつれてきて演習をやるようにいったのは秋元波留夫先生で,当時の教室は台弘先生が率いていた……ということだそうです。
この後,
■1967年
脳と意識的経験の統一 (1967年)Sir John Eccles 土居 健郎 吉田 哲雄 医学書院 1967売り上げランキング : 1401631 by G-Tools
■1969年
神経症と創造性 (1969年)ローレンス・キュビー土居 健郎 みすず書房 1969-09-30売り上げランキング : 561968 by G-Tools
と翻訳が続き,
■1969年
漱石の心的世界 (1969年)土居 健郎至文堂 1969売り上げランキング : 921082 by G-Tools
と余技も見せつつ(といいつつこれはこれで余技ではないんですが),ここまですべてオリジナルというのがすごいですが,もうこれでキャリアが終わっても,なんら恥じることがないどころか,歴史的大偉業といえるのですが,そこは大巨人,実はここからがスゴイ,ということで,こっそり本文中にキーワードをいくつか混ぜといたのですが,常人ならこれが爛熟の果実というところを,果実はまた種でもあるというところで,次回に続くといいたいところですが,ひとつだけ,まとめておきたいなと思うのは,初期からの一貫した姿勢,ということで,それは,
臨床は人間理解の場であるべし
ということだと思います。したがって,精神分析史上の巨人でありますが,精神分析を宣伝・喧伝するというよりは,臨床は人間を理解する場であるということを実現するために精神分析を用いる,という一貫したスタンスこそ,その著作の普遍の魂――形而上ではなく,実際に本が生き残っているという意味で――を今に伝えるのではないかと思うわけです。
ということで,次回に続く!
拙レビューに対して過分なご紹介をいただきありがとうございました。汗顔の至りです。
私も若い臨床家と話す機会がありますが、彼らは流行りの名前ばかり追いかけることに執心しているようで、土居先生のお仕事のようなすばらしい古典を読まなくなってきているようですし、そのことをとても残念に思っておりました。そういう点で、今回のpsypubさんの企画はとても良いものだと感じましたし、大変印象深く読ませていただきました。
また後半があるのですね。期待しております。
あと身勝手なお願いですが、そのうち「装丁ベスト(&ワースト)テン」なんてエントリーあげてくださるとうれしく思います。本の中身はともかく、装丁がかっちょいい本とかっこわるい本を選んで紹介するというのはどうでしょう。なお個人的にはみすず書房と創元社の装丁が好みです。
では今後ともよろしくお願いします。
はじめまして。すごいHNですよね!
>今回気づくのが遅れて申し訳ありません
こちらこそ勝手に紹介しておきながら,挨拶もなくスミマセンでした。
件の記事は,本当感服しました。他にも,フィッツジェラルドとか……格調高い記事の連発に唸ります。お忙しいのでしょうが,更新楽しみにしております。
土居特集はGabbardさんには失笑モノかと思いますが……噴飯モノでない限りはひとつ生暖かい視線でご笑覧くださいませ。
>>そのうち「装丁ベスト(&ワースト)テン」
かつては,洋書の装丁ネタは時どきやってたのですが,
http://blog.goo.ne.jp/psy-pub/e/63b3a257ab0d491b825005d51de51d21
そういえば和書はやってないですね。
基本的に,悪口・毒舌が下手なので(芸がない)苦手で,ゆえにベストテンはどっかでやってみたいですね。