和州独案内あるいは野菜大全

第一回奈良観光ソムリエであり、野菜のソムリエ(笑)でもある者の備忘録のようなもの。文章力をつける為の練習帳に

ゴボウとカルドン

2009年10月18日 | 野菜大全
 ゴボウはキク科の多年生植物です。これを食用にするのは日本の他には数える程の国しかないそうで、確かにこんなものを最初に良く食べようとしたなと思うものです。
 しかし、西洋ゴボウとも呼ばれるサルシフィ(あるいはスコルツォネーラとも言う)を西洋で食べている事を考えると左程珍しい事とも思えません。ましてや木の根っこを食べている等という誤解があったのはおかしな話です。尤も、サルシフィを食用とするのは、今でこそヨーロッパからアジアに広がってはいるらしいが、依然としてメジャーな野菜とは言いがたいのは違いない。
 サルシフィ、スコルツォネーラはスペイン南部の地中海沿岸が原産で、カキのような味がする為に別名ベジタブルオイスターとも呼ばれる。和名にはバラモンジン(婆羅門参)といういかにも海外から薬用に渡ってきた事をうかがわせる名前がついています。スコルツォネーラscorzoneraは黒い毒蛇の意でスペインやイタリアでそう呼ばれる。黒く細長い見た目や、切るとすぐににじみ出るアクといい、黒い毒蛇とは言いえて妙ですが、だったら何故食べた?とツッコミを入れたくなります。
 というかサルシフィーの話をしたい訳ではなく、ゴボウとカルドンの話なのですが、一般的にゴボウと対比されるのはやはりサルシフィーの方であるのは間違いありません。でもそれでは面白くないのでカルドンな訳で、カルドンとの奇妙な共通点を見つけたからなのです。

 カルドンcardoonカルドcardoはキク科の多年草で地中海沿岸が原産、アーティチョークの近縁種であるといえばすぐ分かると思います。花が比較的に小さいのとトゲが激しいのを除けばまんまアーティチョークです。葉は肉厚で薄緑色のザラリとした触感があり、繊維質が多く食用に適するとは思えない感じです。
 
  
                          カルドンかアーティチョークか、もう誰も分からない

 六、七月頃に二m近く茎を伸ばして花を着け、葉も80cm程に大きく茂りますが、花と共に夏枯れをして全体が枯れ込みます。そして秋冬に向けて新しい葉がまた展開するという生活史を自然の状態では繰り返しています。
 アーティチョークは花のガク片や花底部を食しますが、カルドンはその葉っぱや茎を利用します。この葉の柔らかい部分を、そのままレモン水につけてアクを抜き利用することもありますが、それよりも興味深いものがあります。
 カルドン ゴッボ ディ ニッツアcardon gobbo di nizzaは「ニッツアの猫背のカルドン」という意味で、特定の品種というよりは、特別な栽培方法によって出来た、特徴ある姿を語った名前です。
 このカルドン ゴッボは四、五月に種を蒔き、腰高に成長したものを九月頃に掘り上げて、新しい畝床に移植をするのですが、その畝床で斜めに定植をしてその上から軽い土をかける栽培法を採ります。いわゆるふかし軟白栽培によって、エグ味を和らげ茎葉の繊維を柔らかくする効果を狙っているのでしょう。わざと斜めに植えるので茎が曲がってしまいます。その姿を猫背あるいはせむしと言う意味のゴッボと呼んでいるのです。何故斜めに植えつけるのか詳しくは分かりませんが、旨みや栄養価を高める可能性があり経験的に斜めに植える方法に行き着いたのだと思われます。
 こうして栽培されたカルドンゴッボはイタリア北部のピエモンテ州の郷土料理バーニャカウーダには欠かせない食材として珍重されているといいます。ニッツアはピエモンテ州の基礎自治体(地区や集落のようなもの)であるコムーネのうちの一つで、ニッツアモンフェッラートのこと。これをフランスのニースと誤解しているものが巷では大半ですし、自分もそう思っていましたが、ここではコムーネの方が意味が通ります。他のコムーネに同じピエモンテ州のキエリやアスティ(ワインで有名)のカルドが知られます。

 ここまででゴボウとの関係にピンと来た人は相当な野菜通でしょう、ゴッボとゴボウ・ごんぼが似ているとかいうのは勘弁してください。
 
 さてゴボウはゴボウでも、一風変わった栽培をするのが堀川ごぼうです。京都の歴史を凝縮したこれぞ京野菜といえるものですが、栽培方法が特徴的なのであって品種はごく一般的な「滝野川」なので、京野菜の認定が遅れたとも言います。
 堀川ごぼうの歴史は、太閤秀吉が建てた聚楽第が豊臣家の没落と共に壊され、その堀も周辺の庶民のゴミ捨て場として次第に埋められていった中で、偶然見つけられたのが始まりだと云い、これ程野菜の歴史・由来が生き生きと語られる野菜も珍しいと思います。
 その由来をなぞるように、堀川ゴボウの栽培方法は十月の上旬に播種し、冬越ししたものを翌年の六月頃に掘り上げます。それを60cm程に切りそろえて改植するのですが、その時の植え付け角度が「斜め15度で南向きに」植えつけなければいけないといいます。角度が浅すぎても深すぎても良いものが出来ず、その上に敷き藁を厚く敷いて乾燥を防ぎます。
 そうすると十一月頃から太く肥大した、中が空洞の堀川ごぼうが出来上がるということです。おわかりいただけたでしょうか?以上が堀川ごぼうの特徴で、わざわざ斜めに植えつけると言うカルドンゴッボとの奇妙な共通点でもあります。

 カルドンゴッボの軟白栽培は、ベルギーのブリュッセル国立植物園の園芸師ブレジエによって偶然に編み出された、ウィットルーフチコリーの栽培法を応用したものではないでしょうか?1830年代にブレジエが始めたチコリの軟白栽培は、彼が死ぬまで彼ともう一人を除いては知り得ぬ門外不出の技術として守られましたが、彼の死から30年後の1860年代には、ベルギー人ボーレによってイタリアに渡り、ラディッキオタルディーヴォの軟白栽培が行なわれるようになります。その後、カルドの軟白も試みられたと考えてみましたが微妙ですね。
 よーし来年はカルドンゴッボも作ってみるか(まーた言ってるよ) 堀川ゴボウには挑戦するつもりで、既にほんの少しですが種を蒔きました。  
 
 基本的にこういう種は国内で取り扱っておらず、ネットで海外からの直接取り寄せか代理店を利用する事になります。カルドンに限らず珍しい野菜を作りたいという人は多いと思いますが、元袋を独自に小分けにして販売しているところは概してかなり割高ですので、せめて海外の元袋のまま販売するところを選ぶほうが良いかとは思います。 
  

 
 

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