全世界のEV化は止めようもないムーブメントだが、アメリカはこれを見直すと2018年8月2日米環境保護局(EPA)と米運輸省高速道路交通安全局(NHTSA)が25年までの自動車の燃費基準を撤廃して、21年以降の新基準を策定することを決定。
日経がこれによる影響を報道していた。
同規制はその後、CA州を含む全米10州で導入されてきた。ZEV規制発効28年後の2018年からは、これまでの米国自動車メーカーと日本のビッグ3(トヨタ自動車、日産自動車、ホンダ)に加えて、独ダイムラー、独BMW、独フォルクスワーゲン(VW)、韓国現代自動車・起亜自動車の4グループが規制対象として追加された。規制内容も一段と厳しくなり、純粋なZEVとしての電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)の合計で販売台数の最少2%、一方で過渡的なゼロエミッション車(TZEV)として定義されるプラグインハイブリッド車(PHV)は最大2.5%という枠組みで格段に強化された。以降も、25年まで段階的に一層厳しくなる。
ところが、2018年8月2日、 当然のごとく、世界の自動車各社は電動化政策に対応すべく、PHVとEVを中心に大きな舵を切っている。これまで後れをとっていた欧州勢も大規模投資で巻き返しを始めている。欧州勢にとっては、ZEV規制、NEV規制を考慮しつつ、21年から適用される欧州CO2規制も勘案すれば、あらゆる解決手段で規制をクリアする必要があり、最大の解が電動車になっている。中国の新エネルギー車(NEV)規制は2019年から適用され、NEVの対象車となるのはPHV、EV、FCVの3車種である。この対象車の定義はZEV規制をベンチマークして設定したことが背景にあり、ZEV規制と同一にしている。それだけ、ZEV規制は世界に対して大きな影響を与えて来たことを意味している。
米国ダブルスタンダードへの反旗
オバマ政権下で制定された25年までの自動車の燃費基準を撤廃して、21年以降の新基準を策定することを、米環境保護局(EPA)と米運輸省高速道路交通安全局(NHTSA)が8月2日に発表した(8月3日の日本経済新聞より)。その中で、全米での燃費基準を統一する目的から、米10州が導入しているZEV規制も対象となり、廃止の方向で交渉を進める。
これまで米国自動車業界は、連邦政府と州政府のダブルスタンダードを解消するようトランプ政権に要望してきた。米国ではピックアップトラックや多目的スポーツ車(SUV)など、利幅が大きい大型車の人気が高く、電動化政策の促進は大型車ブームに水を差すからだ。
このような動きは、本年6月上旬にCA州サンディエゴで開催された国際会議「AABC(Advanced Automotive Battery Conference)2018」でも議論された。ZEV規制を制定したカリフォルニア大気資源局(CARB)からのメッセージでは、この反旗に対して強硬に反発していたのが印象的であった。
加えて、日経の指摘することは、ZEV規制を逃れたアメリカの自動車メーカーは、技術の点でドイツや日本に後れをとることになった。1990年の最初のZEV規制発効時点で、日米自動車各社の反応は全く逆であった。すなわち、日本のビッグ3は、この法規がCA州の更なる大気改善になるものと真摯に受け止めた。その結果、間髪を入れずにEV開発のための電池やモーターなど、重要コンポーネントの研究開発を立ち上げたのである。
一方、米国ビッグ3は、発効したZEV規制の撤廃を求め、ロビー活動を通じてCARBへの交渉を迫ったのである。このような活動に米国勢が時間を費やしている間に、日本勢は着々と開発を推し進めた。1997年になると、日本勢は先進電池搭載のEVを世界に先駆け、CA州市場へ送り込んで行った。このような状況がもたらした結論は、日本勢の電動車とそのコンポーネントの研究開発レベルが世界トップになったことであり、これは今現在も優位性をもっている。
更に遡れば、1970年代の排ガス法規であったマスキー法案も同様である。大気浄化のために発効したマスキー法に対しても、日本勢はいち早く課題に取り組み、燃焼制御や排ガス制御の技術開発に取り組んだ。一方の米国勢は、開発コストがかかるなどの理由で本法を無効にするロビー活動を展開した。
その結果、ホンダが世界でいち早くマスキー法をクリアするCVCCエンジンの開発に繋げ、商品化したことで世界から大きな注目を浴びた。結局は米国勢も同法案に対応せざるを得ない状況に追い込まれた。その延長上で日系自動車各社は、低エミッションの技術や燃費性能で世界トップの座に君臨してきた。
すなわち、過去の歴史が証明しているように、社会に対して貢献する合理的な法規は技術革新をもたらし、その具現化された製品がいずれは市場に普及する。そうなると、先行した企業がメリットを受けやすいビジネスモデルが生まれる。逆にフォロワーは、先行企業の製品と同等以上の効能があるか、より低コストの製品に仕上げないとインパクトがなくなってしまう。
トランプ政権が提唱しているダブルスタンダードの撤廃と、それに伴うZEV規制の無効化は、米国自動車業界にとって長期的に見れば産業競争力を阻害することにもなりかねない。
EV化の流れは、もはやアメリカは止める力はない。車の年間購入数も、中国が3千万台に近くなるのに対し、アメリカは1千万台でしかなく、世界的に見てもアメリカの自動車市場は20%しかない。しかもこれからインドや東南アジアの自動車市場が伸びることを考えると、EV車開発を止められない。それを行えばアメリカは、自動車技術でも後進国になる。