その記事によると、海南航空は中国4大航空会社の一角を占める。他の航空会社が北京、上海、広州という大都市を拠点としているのに対し、海南航空は中国南部の海南省という田舎(失礼!)が本拠地だ。
1989年創業と歴史も浅いが、爆発的成長を続けてきた。積極的な買収によって、香港エクスプレス、新華航空、山西航空、長安航空などを子会社に。さらには中国内外で不動産事業を展開するほか、経営危機に陥ったドイツ銀行の筆頭株主になるなど、投資を武器に事業を拡大してきた。
投資を支えたのは銀行の融資だ。湯水のように投資を得て、その莫大な資金力で好き放題に買収をくり広げることによって、海南航空は成長した。
なぜ、中国の銀行は海南航空に融資したのだろうか? 同社の投資手腕を評価したから、ではない。中国では、銀行から金を借りるために必要なのは事業計画でも担保でもなく政治力だ。強力な政治家をバックに持っているからこそ、無尽蔵に金が借りられたのだ。
ところが昨年7月、米国亡命中の大富豪、郭文貴が海南航空の問題を暴露した(郭がどんな人物については私の過去のコラムを読んでほしい)。同社のバックにいるのは習近平の右腕・王岐山であること、「白手套」(白手袋。違法マネーをロンダリングする仲介者を意味するスラング)として王岐山の資金源になっていたことを明かした。
このリークをきっかけに海南航空は経営危機に追い込まれていく。というのも、郭文貴のリークは世界的な注目を集めたからだ。中国共産党ですらもみ消しは難しい。
この状況で政治力によって銀行融資を獲得するようなことがあれば、政敵にとっては格好の批判材料となってしまう。いつでも銀行融資が得られるという前提で投資していたのだ。頼みの綱が失われれば、あっという間に資金が枯渇してしまう。
かくして海南航空は、燃料代が払えない、航空機メーカーに代金を支払えないといった異常事態に陥る。買い漁った海外資産を売却してなんとか現金を捻出しようとしたが、資産はすぐに売れるものでない。結局、今にいたるまで資金繰りに苦しむ状況からは脱していない。
郭文貴がまだまだリークの「ネタ」は残っていると公言している点だ。「路徳訪談」において、アリババグループ(ジャック・マーの会社だ)、テンセント、ワンダグループなど、中国を代表する大手企業32社について、今後秘密を公開していくと予告している。
世界的企業へと成長した海南航空ですら、郭文貴のリークに耐えられず、現在の惨状に追い込まれた。今後32社もの大企業がもし同じ運命をたどるなら、もはや1企業の問題を超え、中国経済全体に関わる一大事だ。
経営者にとっては、業績以上に自らの命を不安に思っているだろう。中国で大企業を経営するためには政治との太いパイプが必要だ。いわば全ての大企業家は政商であり、暴かれれば致命傷となる「闇」を持っている。恐るべき情報網を持つ郭文貴がどれだけの事情を把握しているのか、戦々恐々としているわけだ。