チャイコフスキー庵 Tchaikovskian

有性生殖生物の定めなる必要死、高知能生物たるヒトのパッション(音楽・お修辞・エンタメ・苦楽・群・遺伝子)。

「ドイツ人の中のフランス娘オデットとオディール/チャイコフスキーのバレエ『白鳥の湖』」

2010年08月29日 20時34分17秒 | 瓢湖不充分白鳥の湖舞イアーリンク泡沫事件

チャイコフスキー 白鳥の湖


[Sainte Odile et le Lac des cygnes]

Vin d'Alsace(ヴァン・ダルザス)、いわゆるアルザス・ワインを
知り合いからもらった。
はるな愛の走る顔とココリコ遠藤の顔の違いが判らない
拙脳なる私であるからして、味のよしあしが
判るはずもないが、白のリースリング・ワインである。
エチケットを見ると、なんと
Cave d'Obernai(カヴ・ドベルネ)の文字。
Obernai(オベルネ)はフランス語でStrasbourg(ストラスブル)の
南西約20kmにある小さなコミュヌ(町)である。現在は
ワイン産地としてやや知られてるが、その近郊の
Mont Sainte Odile(モン・サントディル=聖オディール山)の頂上に建つ
修道院とその聖オディールの逸話が歴史には刻まれてる。

聖オディール(662-720)は、アルザス公アダルリク(645-689)の
"第一子"としてオベルネに生まれた。父親は
跡継ぎたるべき男児を欲してた。そのうえ、
生まれた女児は目が見えなかった。我が家の恥だからと、
アダルリクは赤子を殺してしまえと命じた。が、
生みの母はひそかに南の地の修道院に我が子をかくまわせた。
この子が12歳のとき、レーゲンスブルクの聖エアハルトは
天使に導かれてその地に赴き,この子を洗礼を施した。
そのときに与えた洗礼名が、
Odile(オディル)だとされてる。ちなみに、この名は、
富や繁栄を意味するドイツ語名のOtto(オットー)からの派生語である。
ドイツ人女性名としては、Ottilia(オティーリア)、Ottilie(オティーリエ)、
などがある。いっぽう、フランス人女性名としては、
Odile(オディル)、Odette(オデット)などがある。つまり、
Odile(オディル)とOdette(オデット)は「同じ」なのである。が、
Odileのほうはidole(偶像)のアナグラムである。

ともあれ、
聖エアハルトの洗礼でアダルリクの盲目の長女は、
12歳にして洗礼を受け、同時に、奇跡的に
目も見えるようになったのである。そして、
五体満足になった以上、たとえ女であっても
父に許してもらえると思い、オディールは
故郷への帰還を果たそうとする。故郷ではすでに
弟が二人生まれてた。オディールは二番めの弟ユーグと連絡を取り、
帰還への計画を練る。そして、実行する。が、
ユーグは父の怒りをかい、殺されてしまう。お話では、
奇跡的にオディールはユーグを生き返らせ、
父はオディールの帰還を許したとされてる。ただし、
父は娘を政略結婚の遊具、否、道具に利用しようとした。
オディールはすでに神に人生を捧げた身である。
父の邪心を断るのである。そしてまた、
父から逃れる旅に出るのである。
ライン川を越え、フライブルクの山中の洞窟に追い詰められる。すると、
またもや奇跡的に岩が落下して、アダルリク一行の行く手を塞いだ。
父は娘を追うことを諦め、引き返す。やがて、
父は病の床に就き、娘は帰還して看病する。そして、
ようやく父は娘を受け入れ、現在オディール山と呼ばれてる
山の頂上の城を修道院にすることを許す。そこで、
オディールはキリスト者として余生を送る。

「奇跡の人」オディールの話は口づてに有名になり、
多くのキリスト教徒が修道院を訪れたという。とくに、
「見えない目が見えるようになった」
ことに、庶民は"神性"を感じるようである。あるとき、
山の麓から山頂の修道院までの間で老人が力尽きて倒れた。
それを聞きつけたオディールが下山してそこに向かうと、
老人は末期の水を授けられることを望んだ。が、
水を持ってなかったオディールは近くの岩を杖で叩いた。すると、
またしても奇跡的に岩間から水が噴き出したのである。
オディールは修道院で死に、遺体は修道院の礼拝堂に現在も安置されてる。
のちにオディールは聖人に列せられた。
聖オディールが生まれて死んだのは現在フランス領のアルザス。
地域的にも、また、鉄鉱石が採れることで資源的にも、
フランスとドイツが覇権を競ってきた紛争地である。現在も、
地域によってはアルマン語、アルザス語が話されてる。一部では
聖人のように認識されてるアルバート・シュヴァイツァーは、
このアルザス生まれのアルザス人である。ともあれ、
「親からの無愛情」「親から命を狙われる」
「親もとから逃れてる」「世継ぎ問題」「政略結婚」
など、チャイコフスキーのバレエ「白鳥の湖」、「眠れる森の美女」、
はたまた最後のオペラ「イヨランタ」と類似した話である。

ときに、
バレエ「白鳥の湖」の主要登場人物は、
とっても奇妙な関係である。なにしろ、
主人公Siegfried(ズィークフリート)王子やそのご学友
Benno(ベノ=Bernhardベアンハルト)・von(フォン)・Sommerstein(ゾマーシュタイン)、
家庭教師Wolfgang(ヴォルフガング)、
Baron(バロン)・von(フォン)・Rothbart(ロートバルト)、
Baron(バロン)・von(フォン)・Stein(シュタイン)、
Freiherr(フライヘル)・von(フォン)・Schwarzfels(シュヴァーツフェルス)、
など、すべてが「ドイツ語名」である。しかるに、
女性主人公のOdetteと、その似非的存在である
Odileの二人だけが、ドイツ語由来の「フランス語名」なのである。ことに、
Odileはドイツ語貴族名Baron von Rothbartの
「娘」という体である。ちなみに、
アダンが作曲したバレエ「ジゼル」の登場人物も、同様に
ドイツ人名の中にBerthe(ベルト)・Giselle(ジゼル)母娘だけが
フランス人名なのである。原作者は、
ライン川に近い、つまり、フランス国境に近いデュッセルドーフ出身で、
後半生をパリで暮らしたハインリヒ・ハイネである。また、
4歳から8歳という、ヒトの脳が作られる重要な年齢に
チャイコフスキーが教えを受けた家庭教師ファニー・デュルバッハの出身地も、
アルザス地方のもう少し南で、スイスやドイツとの国境に近い
モンベリヤールである。それから、チャイコフスキー自身、
母方の祖父はフランスとドイツとのハイブリッドで、
血統的にはロシア6/8、フランス1/8、ドイツ1/8なのである。
この聖女の話をピェーチャ少年はファニーから聞いてたかもしれない。

チャイコフスキーのもうひとつのバレエ音楽「くるみ割り人形」は、
ドイツ人の登場人物の中にフランス人はいない。が、原作は
ドイツ人ETAホフマンの「くるみ割り人形と二十日鼠の王」ではあるが、
台本のもとになってるのは、
そのフランス語版であるアレクサンドル・父・デュマの「ハシバミ割り人形」
なのである。
チャイコフスキーの作品に限らず、西洋のお話には、このように
キリスト教の新旧対立がベイスになってるものが多い。いずれにせよ、
聖オディールは目が見えるようになったことで父から、
家名の恥から政略結婚の道具という対象に変わった。が、
それを最後までつっぱねた修道女であるからして、結局、誰かの
「愛妻と(eyesight)」なることはなかった。
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4 コメント

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Unknown (まき)
2011-08-29 16:30:55
こんにちは。難しかったのでよくわかっていないかもしれませんがすみません。でもドイツの人たちの中にオデットとオディールだけフランス人の名前って不思議でおもしろかったです。私は5才のときから10年間ピアノを習っていますがオーケストラ曲はぜんぜん知りませんでした。今度の夏休みに家族で東京に行ってクラシック音楽のコンサートをはじめて聞きにいってチャイコフスキーの白鳥の湖を聞いてすごく感動してしまいました。それからずっとチャイコフスキーのオーケストラ曲に熱中して毎日YouTubeでいろいろ聞いたり見たりしました。夏期講習で成績が上がったので白鳥の湖の全曲のCDとバレエのDVDを買ってもらえることになりましたがどれにしたらいいかわからなくて迷っています。両方のおすすめを教えて下さい。おねがいします。あと、他にチャイコフスキーで聞いておかなければならない曲といえばやっぱり悲愴でしょうか。
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Unknown (passionbbb)
2011-09-01 23:28:15
>まきさん、
コメント、ありがとうございました。
返しが遅くなってすみません。ではまず、
全曲(+全曲と謡っている謳っている)CDに関しては、

★★★アドヴェンチャーズ・イン・モーション・ピクチャーズ
(デイヴィッド・ロイド=ジョーンズ指揮ニュー・ロンドン管弦楽団)、
★アンセルメ指揮スイス・ロマンド管弦楽団、
★エルムレル指揮コヴェントガーデン王立歌劇場管弦楽団、
小澤征爾指揮ボストン交響楽団、
★★★ゲルギエフ指揮マリインスキー劇場管弦楽団、
サヴァリッシュ指揮フィラデルフィア管弦楽団、
★スヴェトラーノフ指揮ソヴィエト国立交響楽団、
スラットキン指揮セントルイス交響楽団、
★★★ティルソン=トーマス指揮ロンドン交響楽団、
デュトワ指揮モントリオール交響楽団、
★★ドラティ指揮ミネアポリス交響楽団、
★フェドートフ指揮マリインスキー劇場管弦楽団、
プレヴィン指揮ロンドン交響楽団、
★プレトニョフ指揮ロシア国立管弦楽団、
★★ボニング指揮ナショナルフィルハーモニー管弦楽団、
★ランチベリー指揮フィルハーモニア管弦楽団、
★★ロジェストヴェンスキー指揮モスクワ放送交響楽団、

などがありますが、
チャイコフスキーの意図をねじまげたものや
演奏が巧くないものがほとんどです。
ですからお薦めできるものはありません。とくに
三ツ星をつけたものはひどすぎるものです。
小澤征爾指揮ボストン交響楽団のものが
もっともましな演奏です。また、
ロシアものはロシア人にかぎる、とか、
本場ロシアの、とか、ロシアの大地を思わせる、とか、
いう人がいますが、それらは
まったく意味がないものです。

それから、
DVDについては、
そもそもチャイコフスキーが思い描いたとおりの舞台は
初演(も含めて)以来一度たりとも行われたことがありません。
現在はチャイコフスキーの原作をもとにして作り直した
いわゆるプティパ=イワーノフ版というものと、
そこから枝分かれしたものが舞台にあげられています。
初演に考えられていて結局行われなかったものは
今となっては復元することができません。
原典に近づけた、というふれこみのブルメイステル演出版も
勝手に推測し改変しているものです。また、
出ているDVDでは、
チャイコフスキーが書いた曲をすべて使っている舞台は
おそらくひとつもありません。公演でも
まずないでしょう。ですから、
せっかくお尋ねいただいたのに申しわけありませんが、
ネットの「知恵袋」のようなところで
広く呼びかけてみてはいかがでしょう。また、
Youtubeには数分間の断片だけではなく、
一公演まるまる載せているものもあります。
それらを参照してご自身が気に入られたものを買うのが
よろしいのではないかと思います。

最後に、
「悲愴交響曲」についてですが、
これはまぎれもなくチャイコフスキーの集大成、最高傑作です。
チャイコフスキーのあふれそうなほどの感情を
そのありとあらゆる作曲技術・工夫を用いて
この作品に込め、託しています。ですから、
この音楽が性に合わなければチャイコフスキーを聴く意味はありません。

それから、
ピアノを習っているということですので楽譜が読めるのでしょうから、
楽譜を見ながらのほうがチャイコフスキーの音楽の奥深さを
より感じることができると思います。
"IMSLP"というサイトで探せば「白鳥の湖」の全曲の楽譜を
無料で見ることができます。ただし、
このサイトに載せられている楽譜では
第13曲の6番が本来は「As dur(変イ長調)」なのに
「A dur(イ長調)」に替えられたものになっています。
(その調での録音も多くあります)
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Unknown (まき)
2011-09-04 19:25:11
お返事をもらっているのに気づかないでいてお礼を書くのが遅くなってすみません。丁寧な説明を書いてくれてうれしいです。普通とは逆で★がついていてその数が多いほうがだめという意味ですよね。参考にします。映像のほうはYouTubeでさがしたら昔のボリショイ・バレエの公演が全幕アップされてました。またわからなことがあったら教えて下さい。ありがとうございました。
返信する
Unknown (passionbbb)
2011-09-05 00:19:42
>まきさん、
参考になれば幸いです。
おっしゃるとおり、★がついてるほど
話にならない演奏です。
(追記)
★★フィストゥラーリ指揮ロンドン交響楽団、
を記しわすれてました。
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