「映画『哀愁』とビリケン人形と『蛍の光』/ヴィヴィアン・リー生誕100年」

本日は、
アカデミー主演女優賞を二度獲得した、英国人女優、
Vivien Leigh(ヴィヴィアン・リー、1913-1967)女史の
生誕100年にあたる日である。二度目のオスカー受賞作の
「欲望という名の電車」は原作からしてつまらないものだが、
「風と共に去りぬ」は原作も映画もそれぞれが秀でてる。そして、
たしかに、リー女史以外のスカーレットはありえないとさえ思わせる。
とくにエンディング・スィーンの、ちょっと老けメイクの、
"After all, tomorrow is another day."
(アフタ・オール、トゥモロウ・イズ・アナダ・デイ)
「(拙大意)だって、陽が昇るのは今日だけってわけじゃないんだし」
は、映画史上最上のセリブわしである。それでも、
リー女史が出演した映画でもっとも印象深いのは、モノクロの、
"Waterloo Bridge(ウォータールー・ブリッジ=ワーテルロー橋、邦題=哀愁)"
(1940年製作)である。
当時の二枚目の代表であるロバート・テイラーとの
美男美女の身分違いの悲恋物語、というベタなものだが。

映画は、映画用にアレンジされた「白鳥の湖」の音楽で
クレジットが始まる。次いで、
1939年9月3日、英国政府がナーツィスに応戦すると発表して
第二次世界大戦が始まったというニュースがロンドンの街に流れる。
そして、初老の陸軍大尉のロバート・テイラーが車に乗り込み、
運転手に「ウォータルー橋駅へ」と告げる。が、
「ウォータールー橋で停めてくれ」と言う。車を降りるテイラー。
欄干からテムズ川を眺め、内ポケットからビリケン人形を取り出し、
見つめるテイラー。幸運のお守りとしてリー女史がくれたものである。
そこに、リー女史の声がかぶせられ、
テイラーの顔が若き日の顔に変わり、
四半世紀前の第一次世界大戦時の回想が始まる。
ウォータルー橋にいたテイラーは独軍の空襲に遭い、
仲間たちとはぐれてしまったバレリーナのリー女史と知り合う。
後年、菊田一夫が「君の名は」にパクッた設定である。

親密となった二人はやがて、身分の違いを乗り越えて
結婚の約束をする。が、
ドイツ戦線へ出征したテイラーは負傷し、認識票を紛失をして連絡が途絶え、
本国では戦死したものと伝えられてしまう。
戦況の悪化にともなってリー女史の生活は苦しくなってしまう。
背に腹は替えられず、リー女史はテイラーとの思い出のウォータールー橋でタチンボをする。
リー女史はれっきとした娼婦となってしまうのである。終戦となったある日、
帰還兵めあてにウォータールー橋駅で客を取ろうとするリー女史は、
列車から降りてくる帰還兵の群れの中にテイラーの顔を見つける。
テイラーもリー女史に気づいて歓喜の声をあげる。
ともかくと、喫茶店に入ってまたこれからのことをと
浮かれるテイラーを尻目に、リー女史はとまどいを隠せない。
とりあえず母親に電話をしてくるからとテイラーが席を立つと、
娼婦用の厚い口紅を拭き取る、といった、
リー女史のばつの悪さの極みな演技がみどころでもある。

身分の低い自分を受け入れてくれるテイラーの母(スコットランド貴族)の優しさに、
かえって自分の相応しくなさを痛感させられるリー女史は、
身を引いてロンドンに去っていく。そして、
二人の思い出のウォータールー橋でトラックに身を投げるのだった。
画面はまた初老となったテイラーとビリケン人形に戻る。そして、
スロウ・ワルツ化された思い出の
"Auld Lang Syne(オールド・ラング・ザイン=過ぎ去りしなつかしき昔)"、
(邦題曲=蛍の光)
が被されてジ・エンドとなる。
この「蛍の光」はテイラー扮する大尉の出身地スコットランドの民謡であり、
過ぎ去った時を回顧するものである。この映画では
ワルツになってて、それが映画の軸ともなってるのである。

ロバート・テイラーは赤狩り時代に共産党シンパの映画人の名を売ったとして
ハリウッドで鼻つまみ者となり、50代で肺癌死した。
精神を病んでたリー女史も、結核でやはり50代での死を迎えた。