調査員からは一週間後に電話で経過報告があった。
「奥さんの実家が判明しました」
調査員は、中部地方の都市名を言った。
「しかし、実家に戻った様子はないんです」
妻の幼なじみや同級生に当たってみたが、東京の大学に進学した後の彼女を知る人はいなかった。それに、子供がいたら何かの痕跡が残るはずだが、それもない。
「彼女の親御さんは?」
「父親は鬼籍です。母親は生きていますが、痴呆でインタビューは無理ですね。おっしゃったように家は以前は裕福だったようですが、経営していた会社はだいぶ前に身売りしていますし、家族の詳細を知る人は見つかりません。ただ……」
妻の母親は後妻であり、実母ではないそうだ。妻が十二歳の頃、両親は離婚し、翌年に父親が再婚した。妻がなぜ実母についていかず父親のもとに残ったのか、不明である。私立の一貫校に通っていたらしいので、教育環境を変えたくないと考えたのかもしれない。おそらく妻は、この後妻と折り合いが悪かったのではないだろうか。私に「実家とは仲が悪い」と言っていたのは、そのことが原因であろうと想像できた。
「だから、奥さんは、子供を連れて家出した後、実家ではなく前妻さんのところへ戻った可能性があります。今後はそのルートを探ってみます。それに、ちょっと不確かな情報なのですが……」
妻は新興宗教のようなものにはまり込んでいるのではないか、という噂があるらしい。又聞きの又聞きという話なので信憑性は低い。しかし、妻の極端な性格からすれば、十分にありうることだ。
それが本当であれば、息子は洗脳されたか、少なくともそのために何らかの被害をこうむっている可能性が高い。息子はすでに成人になっているはずだが、そのような環境で育てられたのなら、社会性が乏しく生活に苦労しているかもしれない。
そう考えると、すぐにでも息子に救いの手を差し伸べる必要がある。
私は焦りのようなものを感じた。
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