我々のように怠惰なド素人集団も、年数を重ねるうちにそれなりに技術は身についてくる。スクラムもパス回しもキックも、下手ではあるがサマになってきた。そうなると、以前はボコボコにされ大差をつけられて負けていたのが、かなり僅差のゲームに持ち込めるようになる。しかし、まだ一度も勝ったことはない。後半の途中までは僅差なのだが、最後に突き放されて負けというのがお決まりのパターンだった。キャプテンとバイスキャプテンが大きな声を出して皆を鼓舞するのだが、他のメンバーはヘトヘトで目が泳いでおり、そこにつけ込まれて失点を重ねていた。
それでも、最後の最後まで持ちこたえたこともあった。そのゲームでは、終盤まで我々のチームが一点差でリードしていたのだ。しかし、敵の最後の猛攻に自陣のゴール前まで押されてマイボールのラインアウト。これは確実にキャッチしなければならない。というのも、あとワンプレーかツープレーで終了の笛が吹かれるはずだったからだ。
ラインアウトというのは、敵と味方がそれぞれ一列に並び、その中にボールを投げて奪い合うというプレーだ。その当時のルールでは、キャッチする選手を横から抱え上げてボールを取りやすくするのは反則とされていたので、完全に投げ手と受け手のタイミング勝負だった。何より、列の何番目に向けてボールを投げるかを相手に悟られてはならない。そのために、投げ手は四つの数字を使ってサインを出すのだが、我々は四つのうちの三番目の数字を当たりにしていた。つまり、たとえば「五三二六」なら「前から二番目に向けて投げるぞ」という意味である。
さて、その最後のラインアウト。超生真面目で知られる我がチームのフッカーが投げ手だったのだが、明らかに緊張で顔がこわばっている。彼はフーッと大きなため息をついた後、サインを出した。
「四四四四」
フォワード全員が「え?」という顔をする中、そのフッカーは実直に四番に向けてボールを投げた。
駄目だ、こりゃ。サインも何もあったものではない。バレバレである。案の定、敵軍に絡まれてボールを奪われ、そのままゴールラインになだれ込まれてトライを許してしまった。そして無情のノーサイドのホイッスル。
帰り道、そのフッカーはずっと下を向いて一言も発しなかった。
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