池袋犬儒派

自称「賢者の樽」から池袋・目白・練馬界隈をうろつくフーテン上がり昭和男の記録

穴倉時間

2020-12-09 11:07:44 | 日記
私はエスカレーターで地下にもぐり、高速道路をくぐって再び地上に出る。
歳末のショッピング街には人があふれている。
「どこか適当な飲食店に入って夕食をとり、それから電車に乗っても遅くない。どうせ妻は接待ミーティングで遅くなると言っていた」そんな気持ちでいたのだが、足はどんどんと前に進む。

五差路を横切って駅方面に向かう。人混みはさらに大きくなる。
ロータリー前で地下道に入る。自由な空間がまったくないほど、人だらけだ。
人と人とのわずかな隙間を泳ぐようにすり抜けていく。
背広姿の若い男が、不機嫌な顔で私の横を通り過ぎた。
その瞬間、私は小さな声を漏らして立ち止まり、後ろを振り返った。
その男が、私の息子の顔写真にそっくりだったのだ。
私は踵を返してその男を追いかけたが、あふれるような人波の中で、すぐに見失った。
ちょうど首筋が痛み、目がかすんでしまったことも災いになった。

実は、二年前から、妻のもとで育った息子のことが気になっていた。
妻の父親は地元で手広く商売をしており、地元の有力者でもあった。妻は、私と離婚して故郷に戻ってから父親の手伝いをやりながら子供を育てた。
その父親と妻が二年前に相次いで他界した。
詳しい事情はわからないが、それと同時に家業も破綻したようだ。

その話を人づてに聞いて以来、息子のことが気になって仕方がない。
もうとうに社会人として働いているはずだが、どうしているのだろう? 一度会ってみたいという気持ちが日に日に高まっていった。
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