アビダルマ哲学要諦
『アビダンマッタ・サンガハ』
監修 ビク・ボーディ
日本語訳 五島芳樹
はじめに
本書が論じるのは、中世に編纂された仏教哲学概論である「アビダンマッタ・サンガハ」である。この書物は学僧アヌルッダ師の作と伝えられているが、その人物についてはほとんど知られておらず、どこの国の人間だったのか、何世紀頃活躍したのかもわかっていない。だが、その作者の人物像はよくわかっていないにもかかわらず、彼が残した小さな手引書はテーラワーダ仏教で最も影響力のある重要な教科書の1つとなった。この、9つの短い章からなる、印刷ページにして50ページほどの書物の中には、アビダンマと呼ばれるきわめて難解な仏教哲学の骨子が、驚くほど上手にまとめられている。
この書物は、きわめて巧みに哲学大系の要点を把握し、それを理解しやすいような形式にまとめているため、南アジアや東南アジアのテーラワーダ仏教国において、アビダンマ学習の標準的入門書として使われている。これらの国々、特にミャンマーにおいては、アビダンマの研究がきわめて盛んであり、「アビダンマッタ・サンガハ」は仏教の知恵の秘宝を解き明かすために不可欠な鍵と見なされている。