その日が来た。
約束の時間は午前七時である。私は六時過ぎには西口公園広場に到着し、広場が見下ろせる二十四時間営業のファミリーレストランに入り、窓側の席で公園をチラチラ見ながらコーヒーを飲んだ。
七時少し前に、それらしき男が現れ、やや大きめのバッグを公園の端に置き、そこに腰を下ろした。すぐに、公園で張り込んでいた調査員から、私に電話が入った。
「それらしい男が、いま公園にいます」
「ああ、私もファミレスから確認した」
「でも、ちょっと……人違いの可能性もあるので、お声がけの時は慎重になさってください」
「人違い?」
「背格好や服装は調査結果と合致しているのですが、顔が……とても三十前後の男とは思えないですね。やつれているし、白髪も目立ってますし」
短いとはいえ、ホームレス生活は相当な精神的負担となったのであろう。
「わかった。あとは任せてくれ。ご苦労さん」
私は、化粧室に入って鏡を見ながら服装を直した。白髪頭をなでつけ、眼鏡をメタルフレームから黒縁に変えた。
店を出て公園広場へ向かった。通勤客は足早に駅に向かい、ホームレスも大半は早い者勝ちの物品争奪に出ているらしく姿が見えない。そんな中、息子とおぼしき男は、首をだらりと折って、うなだれるように下を凝視していた。
私は、最初、少し距離をおいてその男を一周し、新聞を広げて読むフリをしながら、チラチラと男の横顔を見た。たしかに、報告書の情報と異なっている点がいくつかあるが、息子と判断して間違いなさそうに思えた。
このまま、横から声をかけるという手もあるが、反射的に反対方向へ逃げ出す可能性がある。調査員が一度街中でそれらしい人物に声をかけたところ、大急ぎで走り去ったという報告があったからだ。やはり正面から近づき、至近距離で深々とお辞儀をするというのが一番よさそうだ。
私は歩道を横切り、男の真正面に立った。だが、それなりに距離がある。私は通行人の間を縫いながら、少しずつ男に近づいた。驚いたことに、耳の奥で足音が反響した。そのエコーは一歩ずつ大きくなる。
距離が十分に縮まってとき、男が不意に顔を上げた。
そして、私と視線が合った。